捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#4

「そう言やさ~、八神はどこら辺に住んでるんだ?」

「なんだよ、急に……突拍子もねぇ」

「いや、気になってな」

 今俺の隣を歩いているのは、今日、知りあ……じゃなかった。友達になった、御子柴陽。

「気になるか?普通」

 こんな俺でも、これまで、友達がいたこともあったにはあったが、そいつがどこに住んでいるかなど気になったとこはなかった。

 その上、俺がどこに住んでるのかも話したこともない。

「いや、なるだろ!遊びに行ったりすることもあるだろうしな!」

「ふ~ん…俺は気になったことなかったしな。それに友達だからといって教えたらダメだろ。個人情報なんだから」

「………………」

 俺がそう言うと、御子柴は立ち止まり間抜けな顔でこちらを見ていた。なぜそんな顔をするのかよく分からないが、多分俺の発言の所為だろう。というか、それしかない。

「おい!勝手に立ち止まるな!置いてくぞ?」

 御子柴の頭に軽めのチョップをかまし、また歩き出す。

「ちょっ、ちょっと待てよ!八神、お前それはなんでも捻くれすぎだろ?家の場所が個人情報って…………いや、個人情報か?」

 家の場所は立派な個人情報だ。細かく言えば、名前ですら個人情報。まぁ、そんなことを言い出したら、この世界は誰かしらの個人情報だらけになるだろう。

「何一人でブツブツ言ってんの?とりあえず、俺の家の場所を知りたきゃ、お前の家の場所も教えろ。俺だけ個人情報を流すのはなんか嫌だからな。」

 もし、個人情報を聞かれた場合、教えないのが一番だが……言ってもいい場合もある。それは何か…簡単なことだ。今俺が言ったように、相手の個人情報、正確にはこちらが教える個人情報と同等の個人情報を要求すること。

 もし相手がその要求を渋れば、こちらの個人情報は悪いように使われるかもしれない為教えないのが吉だろう。

 

 だが……

「なんだよ~!そんなに俺の家の場所が気になるのか~!そりゃそうだよな!友達だもんな!でもさ、それくらいはっきり言えばいいのによ。ほんと八神は捻くれてるよな。」

「………………」

 このバカは、どう捉えたらこんな考えに至ったのだろうか。そこが不思議でならない。

 友達とはそうなのか?俺がおかしいのか?てか、今捻くれてるのは関係ないだろ!

 

 よし仕切り直しだ。

 もし、相手が、こちらに要求する個人情報と同等の個人情報を教えるという要求を渋った場合、こちらの個人情報を教える悪いように使われるかもしれない為、教えないのが吉だろう。

 だが……

「どうしたんだよ?あー、俺の家ね。俺ん家は西3番地区なんだよ。」

「……俺の家は中央5番地区だ」

 このように何のためらいもなく、要求を飲み込んだ場合、その場合は教えてもいいだろう。本当なら、それが本当なのか確実性を高めてからの方がいいんだろうが……御子柴は大丈夫だろう。

 

「中央5番地区ってこの近くじゃねーか。いいなぁ~。歩きか?」

「まぁな。歩きで30分程だ。御子柴は西3番地区だろ?どうやって…………あーー、寮か。」

「そうなんだよ。流石に毎日片道3時間以上もかけて通うのは嫌だしな。」

 関東に一つしかない元素使い専門の学園だ。それは当然遠いところから来る人がいるのは当たり前だ。つまり、寮があっても当たり前なのだろう。というか、無かったら逆におかしい

「また、八神ん家に遊びに行かしてくれよ!」

「……またな」

「おう!」

 あぶないあぶない……反射で断りそうになった。

 少しづつ、これにも慣れていかないとな。どれだけ人を簡単に信じることが出来ないと言っても、友達のことくらい少しは信じないとな……

 

 

 それからはたわいもない事を話しながら帰った。元素のことや、家族のこと。将来のことや、その他もろもろ。

 まぁ喋っていたのはほとんど御子柴で、俺はそれに対し相づちを打っていただけだったのだが……

 

 それでもなんというか、楽しかった。

 御子柴だから、変な気を使わなくてもよかったと言うのが大きいのだろうが、それでも楽しかった。

(ちょっとは御子柴の事、信頼してるってことなのか?)

 もちろんまだ疑っているし、完全には信頼しきっている訳では無いのだろう。それでも、これだけで俺からすると充分な成長だ。

 

「じゃあな!八神!また明日!」

「おう」

 御子柴は俺が角を曲がるまで元気に笑顔で手を振り続けていた。

 御子柴のその元気のおかげなのかはわからないが、こんなにも長くトラウマを思い出さないで済んだのは、今日な初めてだった。

 

 

 

 

 

 

「たでーま。って誰もいないか。凛もまだ学校だろうしな」

 俺は入学式だけで、授業がなかった。入学式の後、教室で少しばかり時間を過ごしたがた、それでも今時刻は昼の2時。

 こんな時間に、今日から普通に授業を受ける凛が帰ってるわけがない。

「転校初日からフル授業とは……」

 俺なら仮病でも使って早退していた可能性がある。まぁ、兄妹と言っても血は繋がってないし、凛はしっかりしてるから、そんなことはしないだろう。

 

「ハァ~……何もしてないけど、疲れた。」

 そう一人でブツブツと独り言を言いながらリビングのドアを開ける。一人になるとどうしても独り言が増えてしまう。

「んな事より、腹減ったな。なんか飯でも……」

「にいさーーーーーーーーーーーーん!!!」

「なっ、凛!?なんで?てか、ちょっとまっ…グフゥッ!!!」

 リビングのドアを開けた瞬間、凛の声が聞こえた。その事を疑問に思い前を向くとこちらに突進してくる妹の姿が目に入った。

 しかし、気づいた時にはもう遅く、止めることが出来ず、凛の突進攻撃を許してしまう。そのお陰でお腹にとてつもない衝撃が走り、その勢いのまま吹っ飛ばされ、倒れてしまう。

 

「兄さん、兄さん、兄さん、兄さん!会いたかったです!スンスン……ハァ~兄さんの匂い……落ち着く。……?兄さんだけの匂いじゃない…………一人は匂い的に男。でも、もう一つは……女?」

 怖い怖い、怖いよ!

 なぜ匂いで、性別が分かるのだろうか。その上俺が今日関わった人数まで言い当てる。これは普通のことなのか?

「え、えっと、凛……とりあえず、ただいま。で、何でいんの?まだ学校のはずだろ?」

 とりあえず、今の凛はあぶない。目のハイライトが消えてるし、話題を変えないとこのままでは死人が出てしまう。

「はい!おかえりなさい、兄さん!学校は早退してきました。兄さんが半日で帰ってくるのに、私だけ一日というのは嫌だったので。それに、兄さんにおかえりと言ってもらえるのもいいなぁと思ったのですが、やはりここは兄さんを嫁、じゃなかった。妹としてお出迎えしたかったので!」

 まさか凛が早退するとは……どうやら先程俺が考えていたことは、フラグになっていたらしい。にしても見事なフラグ回収だった。

 他にも変な単語が聞こえてきたが、それについては触れないでおこう。うん、それがいい。

 

 でも良かった。なんとか話題を変えられたようだ。凛の目にも輝きが戻っているし……

「それで、兄さん。学校はどうでした?男の方は友達になれたしたか?もし、兄さんの事を傷つけたのなら、殺しに行かないといけないので。ついでに、この女の方も教えてください。殺します」

 どうやら、話題は変えられなかったらしい……目の輝きは一瞬でなくなり、それはもう闇が宿ってるのではないかと思えるほど真っ暗だった。

「いや、待て待て!落ち着け、凛。学校は普通だった。なんで男と女ってわかったのかはもう聞かないが、その男の方は良い奴だ……と思う。友達になった。女の方は……………………えっと」

 水戸は俺のなんなのだろうか?友達のような……知り合い?

「そうですか。男の方は白でしたか。なら殺さなくていいですね。それで、その女はどこですか?殺しに行ってきます。」

「待て待て待て待て!落ち着けってば!女の方は…………別になんでもねぇよ」

「何でもないわけないです!兄さんの服から女の匂いがします!」

「えっと、だから……そう!入学式!隣が女子だったんだよ。人多いし、ちょっと肩とか触れてしまってたかもだから、その時匂いが付いたんだろうな……」

 すまん水戸。こう言うしかお前を救う方法は無かったんだ。

 俺は心の底で、水戸の事を友達として見ることを決めた。結構話していたし、水戸も俺と友達になりたいと言っていたし、大丈夫だろう。

「そうですか……ならしょうがないですね。」

「そ、そうだよ。しょうがない。……落ち着いたか?」

「はい!すみません。取り乱してしまい……でも、もし兄さんに近づいてくる女がいたらすぐに私に言ってくださいね?殺しに行きますので!」

「お、おう……わかった。でも、凛?殺すとかそう言うのは……」

「す・ぐ・に!言ってくださいね?絶対ですよ?」

「は、はい……」

 ガクガクガクガクガク……

「どうしました?兄さん。震えてますよ?」

「な、なんでもないでしゅ……」

「?そうですか?ならいいんですが……」

「………………」

 俺は心の底で、水戸の事は何があっても凛に漏らさないと誓った。

(ファフリーズ買わないとな……)

 

 俺は明日の学校終わりにファフリーズを買いに行くことを決めた後、落ち着いた凛と今日あったことなどを簡単に話した。

 もちろん、水戸の事は話していない。教室であったことも。

 じゃないと。明日の朝、98名が死亡したというニュースが流れる可能性があったからだ……

 

 

 その後は何事もなく、時間はすぎた……

「じゃあ、兄さん。おやすみなさい!」

「あぁおやすみ」

 そして、いつものように一緒に階段を上がり、それぞれの部屋の前で寝る前の挨拶を交わし、部屋に入る。

 いつもならベッドにすぐ寝転んだりはしないのだが、今日は色々あり疲れたのか、ベッドへと吸い込まれるように身体を倒し寝転んだ。

「今日は色々あったな……家に帰ってからの方な濃いかった気はするが……それでも、初日で友達が一人…じゃなくて、二人。俺にしては頑張ったな。フゥ~明日からも頑張りますか……少しづつ、前に進んで、いか…………な……い…と…………な…………Zzzzzz……」

 

 

 その日初めて悪夢にうなされなかった。




捻くれ者の学園生活#4 どうでしたでしょうか
なかなか話が前に進まずちょっともどかしいですが、慌てず一話一話確実に進めていこうと思いますので、よろしくです!

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