捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#3

 三日月学園。関東地方の中央区に存在していて、関東地方唯一の学園であり、今、俺のいる学園の名前だ。

 この学園はこの日本国内でも10校しかない、元素使いだけが通うことを許された、元素使い専門の学園。

 後は、東北地方に3校、中部地方に2校、近畿地方に2校、そして、九州地方に2校だ。

 

 他の学園のことはよく知らんが、とにかくこの三日月学園はデカい。

 それもそのはずだろう。なんせ、この広い関東地方に元素使い専門の学園はこの学園一つしかないのだから。その上、他の地方の学園に通ってはいけない、などの決まりもないため、もちろん他地方からもここに通う生徒が来る。

 

 つまり、人がとても多い……

 

 今の世界人口は55億人だ。そのうちの約7割が元素使いとされている。まぁ、数で言うと、約38億人もの人が元素使いとされている。

 

 日本の人口は約1億人。その中でも元素使いなのは約7000万人。そして、その7000万人のうち、高校生以下は約3500万人もいるのだ。

 

 考えてみてほしい。中学では元素使い専門の学園、学校は存在しない。つまり、俺が今いる学園と、残りの9校の全10校しかないのだ。もちろん人が多くなるとは当たり前だと言えよう。

 

 それでも、元素使いの全員が全員、元素使い専門の学園に通えるとは限らない。もちろん入試というものが存在し、そこで将来有望な元素使いになると認めてもらえた者だけが入学を許可される。

 入学を許可されるのは約1000人。三学年合わせると、約3000人。つまり、10校とも1000人を合格させ、三学年で3000人もの生徒がいたたとしても、元素使い専門の学園に通えるのは3500万人中、たったの3万人。極わずかなのだ。

 

 俺が今ここにいるということは、その入試を合格した、という訳なのだが……俺はあの入試内容は気に食わないものだった。まぁ今それを言っても全くもって意味は無い。

 

 今言った通り、ここに通えるのは極わずかだと言ったが、それでも3000人もの生徒がここに、この学園の敷地に集まっているのだ。人が多いと思っても普通だろう。それも、俺のように大人数で群れることが、そして、人が多いところが嫌いな者からするとなおのことだ。

 

 

 

 水戸に手を引かれ、入学式に間に合うように学園に到着し、無事入学式を行えたのは良かったのだが………

 

 ヒソヒソヒソ……ヒソヒソヒソ

 ヒソヒソヒソ……ヒソヒソヒソ

「なぜこうなる……」

 今は入学式が終わり、自分のクラスの教室にいる。クラスはA~Jの10クラスあり、一クラス100人もの生徒がいる。ちなみに俺はJクラスだ。

 100人もの生徒が教室の中にいるのだ。当然うるさくなってもおかしくはない。

 肩と肩がぶつかり、『ごめんね?』『お、おう』。などとなることも当然あるだろう。そして、そこから恋が芽生え……なんてこともあるかもしれない。

 

 だがしかし……

「なんだよこの状況……ハァ~」

 今俺のクラスの中は、そんな状態にはなっていなかった。当然うるさくなる?肩と肩がぶつかり合う?とんでもない!

 100もの生徒がいるのに、聞こえるのはヒソヒソ…ヒソヒソと何を言っているのか分からないほどの小さな声。

 肩と肩がぶつかり合うどころか、俺の座っている席の周りには、ある一人以外おらず、他の生徒は俺とは距離を取っている。

 

「ねぇ、八神くん。なんでこんな状況になってるの?」

「ほぼお前の所為だろーが!!!」

『まぁ、女性対してあの態度。やっぱりさっきあの女性が言っていたことは本当の事だったんだわ』(女の声)

『あんな可愛い女性を……アイツ、同じ男として許せん!』(男の声)

『それに加えあの目付き……』(男と女の声)

 そんな声が聞こえてくる。ていうか、さっきまでは何言っていたのかさえわからなかったのに、なんで今回は聞こえるんだよ!

 

「ハァ~、初日から最悪だ……凛に友達作るって言ったのに、それどころか、逆にめちゃくちゃ避けられてるじゃねーか…てか、目付きはほっとけよ。俺も気にしてるんだから……」

「まぁまぁ、これからだよ八神くん」

「だから、ほぼお前の……ハァ」

 今俺の横にいるのは水色の髪をツインテールにしている、水戸水菜。

 あれから手を繋いだまま学校まで来た後すぐ、逃げるようにそこで別れたのだが、クラスに来てみると水戸もいたのだ。

 それだけで終わってくれてたら、運命、だなんて思ってたかもしれないが、この女は俺にあって早々とんでもないことを言ってきたのだ。

 

『あーー、八神くん!なんで私のこと捨ててどっか行ったのよ!私もあれは初めてで、恥ずかしかったけど我慢してたんだから!それなのに、何も言わず逃げる事ないじゃない!』

『な、ちょっ、何言ってんの!?』

 ズサーーーー(界人からみんなが離れる音)

 

 まぁそんな事があり今の状況が成り立っている。

 

「ねぇ、八神くん。私たち友達なんだから、次は勝手に逃げたりしないでよ。私、あれから迷ったんだから。それにしても、同じクラスなんて、運命かもね、私たち!可愛い私と運命だなんて、嬉しいでしょ、八神くん!」

 最初からそう説明して欲しかったものだ……まぁ別にいいんだけどさ。終わったことだし、友達作ると言っても一人二人で充分だし。

「あーー、はいはい。ごめんごめん、悪かった悪かった。」

「ちょっ、なんでそんな適当なの!?」

「あー、可愛い可愛い。嬉しい嬉しい」

 それにしても、運命ね……水戸との出会いは、いい運命と言うより、悪い方の運命な気がしてきた……

「なっ!?か、かわっ……嬉しい……そんな正直に言われると照れるよ。」

 そんなことを考えていると、何故か急に水戸は顔を赤くし、もじもじし始めたのだ。

 もちろん、俺の適当に軽く流した、何気ない言葉の所為なのだが。言った事すら覚えてないので、自分の所為だと分からなくても当然だろう。

「なに急にもじもじしてんの?トイレ?我慢は体に悪いぞ?顔も赤いし、風邪か?」

 俺は熱があるかどうか確かめるため、水戸のおデコに手を当て、熱を測る。

 なんと言うか、風邪の時とは違う熱のように感じたのだが、とりあえず熱かった。

「あつっ!?水戸、大丈夫か?熱いぞ?これ結構な熱だぞ?風邪ひいてるなら早く保健室に……」

 そう言っている間にも、どんどん顔は赤くなり、熱が増していく。

(おいおい大丈夫かよ)

 

 だが当の本人はさっきからピクリとも動かず、声すら出ていない。

「おーーい、大丈夫か?水戸!おい」

「ぁ、ぁ」

「あ?」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ」

「うおっ!?……っておい、水戸!?」

 ピクリとも動かなかった水戸の体を揺すっていると水戸は急に変な奇声をあげながらどっかに走り去ってしまった。

「なんだよ、ほんとに。それに、にゃーって……変なやつ」

 

 水戸がどこかに走り去ってしまったため本当の意味で一人になってしまった。別に一人が嫌いという訳では無い。むしろ好きなほうなのだが、それでも一人でこの視線をやり過ごすのなかなかしんどい……

「ハァ~……結構精神的にくるな、別いいんだけどさ…」

 そんなことをブツブツを言っていると、一人の男子生徒が近づいてくる。まぁ俺には関係ないことなので気にしないことにした。

「よう。随分とアツアツだったじゃん。」

 その男子生徒は俺の横に止まり、誰かに話しかけた。もちろん、俺に話しかけてくれた、なんてことは思わない。今のこの状況で俺に話しかけてくるやつなどいないだろう。

「おーーい、聞いてるか?」

 俺の後ろかどこかは分からないが、近くにいる生徒は俺同じで話しかけられるわけがないと思っているのか、それともただの無視かは分からないが、男はめげずに話しかけていた。

「おーーーいってば!無視すんなよ!おい!」

(おいおい、流石にここまで言われればわかるだろ……無視してやるなよ。誰か知らないけど)

「おい!今さっき、水色の髪をツインテールにした可愛い女子と話していた、寝癖のついている黒髪の目付きの鋭いお前だよ!俺が話しかけてるのは」

 

 流石にここまで無視されると思ってなかったのか、男の口調は最初より激しくなり、声も大きくなっていた。まぁ流石に、ここまで無視されれば誰でもそうなるだろう。俺から話しかけることはあまり無いが、もしそんなことになれば、俺でもそーなるだろう。

 

(水色の髪をツインテールにしている女子と話していて、寝癖ついてる黒髪の目付きの鋭いやつ、早く反応してやれよ。てかしろよ。)

 

 ん?

 そこであることに気づく。

 水色の髪をツインテールにしている女子ってのは、水戸の事だろう。

 その女子とさっきまで話していて、寝癖ついてる黒髪。目付きの鋭い男といえば……

(もしかして俺か?)

 そう思い、ゆっくりとその男の方へ顔を向けていく。間違っていたら恥ずかしいじゃ済まないが、それはその時だ。

「え、えっと。もしかして……俺のことか?」

「お前以外に誰がいるんだよ」

 その男は、やっと話しかけられたことにホッとしたのだろう。声は最初の優しいものへと戻っていた。

「あーー、すまん。俺友達いないから話しかけられると思わなかった。それにこんな状況だしな。」

 そう言い、あたりを見渡す。この生徒が話しかけてきてくれたおかげなのかは分からないが、最初よりかはマシになっている気はする。それでもみんな俺を避けているのがわかる。

 男も俺と一緒に教室を見渡したが、興味が無いのかすぐに見渡すのをやめ、俺に視線を向けてくる。

「この状況だからこそ、お前の近くには誰もいなんだから、話しかけられたらわかるだろ?それに、俺は噂や見た目で人を判断したりしねー質なんだよ。自分の目で見たことしか信じないんでな。」

 

 男はそう笑顔で言う。そんな奴、今どき数えるくらいしかいないだろう。もし、沢山いたとしても、こいつのように、胸を張ってその事を言えるやつは少ないと思う。言えたとしても、実際に行動できるやつなんて本当に極わずかだ。

 

「そうかい。でも俺は人を簡単に信じたりしない。だから、お前の言っていることが本当だとは信じれないな。」

「お前、捻くれてるんだな。信じれないなら、信じてもらえるように行動するだけだ。だから俺と友達になってくれよ。」

 何でそこから、友達になりたいということになるのかよく分からない。分からないのは多分俺が捻くれてるのもあるが、人を信じることが出来ないのが大きいのだろう。

 友達になったとしても、結局は離れていく。裏切られる。その考えが俺の頭の中でグルグルと回っている。

 

(友達……か作るつもりで来たのに何ビビってんだよ…裏切られたりするのはもう慣れてるだろ。凛とも約束した、頑張ると。前に進むと。そんなことは裏切られた時に考えればいい。ただそれだけ)

 

「捻くれてるってのは余計だ。……八神界人だ。よろしく…」

 これは帰ったら妹に報告、もとい、自慢しないといけなくなった。

「ッ!!!おう!よろしく、八神!俺は御子柴陽(みこしばあたる)だ。」

 男、いや、御子柴は俺の言葉に一瞬驚いたが、すぐ笑顔になり、俺の手を取りブンブン振り回しながら自己紹介をしてきた。

「お、おい!やめろ!振り回すな!」

「お、おう。すまん。これから宜しくな!」

「ハァ~」

 

 まったく…俺は変なやつと知り合うのが上手いらしい……

 自分の事を可愛いと自覚しているナルシストのどこか抜けている水色ツイテールの水戸水菜。

 良い奴なんだろうが、テンションの高い、馬鹿そうな御子柴陽。

 

 これからもっと増えるかもしれないし、このままかもしれない。逆に減るかもしれない。そんなことは分からない。

 

 それでも……ほんとに

「退屈しなさそうだな……」

 

「なんか言ったか?」

「いや、別に」

 

 学園生活1日目。

 一応友達ができた。

 

(まぁ、悪くない一日目だ。)

 そんなことを思っていると、教室のドアが開き、先生らしき人が入ってくる。

 先生は入ってくると、生徒に座るように指示しみんなを座らせる。

 

「それじゃ、今日はこれで終わりだが、授業は明日から始まる。遅れないよつに。それと、明日の朝、自己紹介してもらうから。何言うか決めておくように。私の名前もその時言うとしよう。では解散!」

 

 先生がそう言い、教室から出ていくと、周りは一気にうるさくなり始める。しかし、俺はそんなことはお構い無しにあることを考えていた。

 それは……自己紹介、だ。短すぎても長すぎても目立つ。変なことを言っても目立つ。どうすれば、目立たない自己紹介を出来るか必死に考えていた。

 

「八神~。帰ろうぜ?」

「お、おう」

 

 だがこの時、俺は忘れていたのだ。どんな自己紹介をしようと、もう、手遅れだと。今の時点で目立ちに目立ちまくっていると。

 

 

 

「てか、水戸は結局どこいったんだ?…………別にいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、保健室

「大丈夫?水戸さん」

「は、はい大丈夫です。ちょっと熱があるだけですので」

 あれから私は保健室に逃げ込んできた。なんで保健室?と思ったが、なぜか頭に保健室という文字が浮かんだのだ。

 

 まだ心臓がバグバク言っている。八神くんの手の感触がまだ残っている。八神くんが言ったことが頭から離れない。八神くんの…………

 

 なんでこんな状況になっているんだろう。最初はただ、優しい捻くれ者。一緒にいれば退屈しなさそう。と思っただけ。

 確かに、助けに入ってくれたときは素直にカッコイイと思った。その後も優しかったし。いい人だなと思った。話していると面白いし、退屈しなかった。それに、私が可愛いと言うだけで近づいてくる男達のような気持ち悪い視線もない。

 

 顔もカッコいいほうだろう。本人は目のことをマイナスに捉えていたが、あの目も私からするとカッコよく思える。

「ッ~~~!」

 

 八神くんの事を頭から追い出そうとすればするほど、八神くんのことを考えてしまう。

「ほんと、どうしちゃんだろ、私……早く元通りにならないと」

『可愛い可愛い』

「ッ~!」

『嬉しい嬉しい』

「ッ~~~~!」

『水戸、大丈夫か?(おデコに手を当てる)』

「ッ~~~~~~~~!」

「水戸さん、保健室では静かに!」

「は、はい」

 

 

 

 

 水戸水菜は何かと格闘していた!




捻くれ者の学園生活#3。どうでしたでしょうか。
文章書くのって難しいですよね。でも、これからも楽しんでもらえるように頑張ります!

登場人物
御子柴陽
界人の友達第1号。真っ直ぐな性格で、嘘をつけないタイプ。1度信じると最後までその人のことを信じる、めちゃくちゃいい奴。
噂や、外見などで人を決めない。自分自身で見て感じた事しか信じない。他人に何言われても騙されたりしないが、友達になると信じすぎてしまうため、友達には騙されやすい。一言で言うと……バカ
177cm 66kg 界人と同じく細マッチョ
顔はイケメンなのだが、バカなため彼女は出来たことがなく、良くても親友止まり。
髪は赤みの入った茶。ワックスを使わなくても、つんつんと髪が立っている。イメージはディーふらぐの風間。

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