「よう!元気そうだな?弱虫な
「三雲……才斗……」
(先に行ってくれ)
そう御子柴と高原先輩にアイコンタクトで送る。
御子柴たちはそれで分かってくれたのか、頷いてから、こちらに背を向け歩いて行った。
一人の男と、一人の女が目を合わせたまま動かない。
この言葉だけなら、感動の再会を果たした男女が嬉しさのあまり動けていない。なんていういい雰囲気にも取れるし、因縁の相手や、憎悪を抱いている相手、恨んでいる相手、まぁそんなに大事ではなくても、心底嫌いな相手が目の前にいる状況だから動けない、いや動きたくない、近づきたくない。なんていうよくない雰囲気にも取れると思う。
でも、今はどう見てもよくない方だろう.....
「おいおい、久しぶりに顔を合わせたってのにその顔はないだろ〜」
「私はあんたとなんて顔を合わせたくなんてない!!」
「そう言うなよ、弱菜」
「私は弱菜っていう名前じゃないし、弱くなんてない!」
「プッ…お前が弱くないなんてことになったら、元素使い全員が弱くないって言えるぜ?いや……元素使いだけにとどまらず、すべての人間が弱くないってことになるな」
「……………………水戸が弱い?」
「フッ...知らなかったのか?こいつは…………」
この会話から見てもこの状況がいいものではないことは明白なのだが……………
「…………………………私は、弱くなんて………ない…」
水戸の苦しそうに歪めた顔。その水戸に対して、目の前の男は、水戸をバカにしたような嫌な笑顔。
会話をしていなくても分かる。していなくても分かった。この状況が、水戸にとってよくないものであると。
(とりあえず、水戸を連れてここを早く離れないと……)
「水戸どうした?大丈夫か?」
「………うん。大丈夫だよ……………」
「そっか…なら早く行こうぜ?御子柴たちも待ってるしな」
「…………う、うん」
「……………………………………………」
(落ち着け俺......俺がイラつてどうする!)
なぜかは分からない。分からないのだが水戸をバカにされていることに俺が腹を立ててしまっている。水戸を苦しませている、あの元気な水戸のかを歪ませている目の前の男に、三雲に、俺は殴りかかりそうになってしまっている。
でも、俺がそんなことをしても意味がないのも分かっている。それに、なぜそんなに腹を立てているのかさえ分からない俺がそんなことをしても状況が余計に悪化するのも分かっていた。
だからこそ、水戸を連れてここを早く離れないといけない。
「ほら行くぞ?…………悪いな。俺ら急いでるから」
なんとか自分の気持ちを抑えつけることに成功する。そして、水戸の手を引き、三雲と取り巻きの二人の横を通り過ぎようと歩く足を早めていく。
「おいおい、何も言い返さずに逃げるのか?弱菜さんよ」
「………………………………………………」
「気にするな水戸。行こう」
「あぁ、そうか。言い返すことなんかできないよな!弱いっていうのは事実だもんなぁ。だって・・・・」
(ダメだ!早くここを離れろ!離れないといけないって分かっているのに…………)
三雲を合わせた三人の横を通り過ぎ、三雲たちの顔が見えなくなったと思った瞬間後ろから三雲の声が聞こえる。それも、嫌なくらいはっきりに。
そのまま無視してこの三人から離れればいい。分かっている。そんなことは分かっていた。なのに俺の足は止まり、動こうとしない。
だから、三雲の続きの言葉が嫌でも耳に入ってくる。
「弱いから自分の家族を死なせてしまったんだもんなぁ!」
「っ!?」
「それだけじゃ飽き足らず、お前の心の弱さによって、町の人たちも死なせた!」
「………………………………………………………」
「そうだ!お前が殺したんだよ!自分の家族も、町の人たちも、もちろん俺も家族もな!」
「……………わ、私は………………………………………」
「お前は人殺しなんだよ!お前がいなければ、お前が、いなくなればいいのにな!お前が死ねばよかったんだよ!なぁ弱菜さんよぉ!!」
この瞬間、この言葉を耳にした瞬間、俺の中の何かが切れた、壊れた。
そして何かが、溢れ出す………黒い、ナニカガ
「界人くん!?」
「家族...殺した…………自分の弱さで………人殺し……………」
<そうだ。お前は家族を殺した。お前の弱さで。お前は人殺しだ>
『界人!逃げろ』
『嫌だよ!父さん』
『逃げるの!界人!あなたはまだ走れるでしょ!凛を連れて早く!』
『い、嫌だよ!父さん!!母さん!!』
「………いなければ………………いなくなれば…………………………………死ねば、よかった………………」
<そう。お前がいなければ、誰も死ぬことはなっかた。お前が死ねばよかった>
『嫌だ!凛!俺を置いて………俺を一人に、しないでくれ....』
『大丈夫です。兄さんなら、大丈夫です。だから泣かないでください。兄さんは大丈夫です。だって兄さんは......私の………………』
『私の《ーーーー》なんですから』
「お…れ…………の……………………せい…………で………」
『お前の所為で……』
『貴方の所為で……』
『お前がいなければ……』
『貴方がいなければ……』
『お前が死ねばよかったのに……』
『貴方が死ねばよかったのに……』
「界人くん!」
「っ!?」
「界人くん!いいよ!そんな奴らは放って置いて行こ!ねっ?」
「俺は…………………………」
水戸の声で、気がつく。すると、さっきまでいた場所と少しずれている。
「なんで……………」
さっきは少しでも早く離れようと、三雲たちに背を向けていたはずだ。なのに、今の俺は、背を向けていたはずの三雲たちの方を向き、しかも少しではあるが近づいていた。
なぜ近づいているのか、なぜ俺は水戸に止められるような形になっているのか、わからない。
少し時間が飛んでいる。それはわかる。でもその間もことを何も覚えていないのだ。
「行こ、界人くん。御子柴くんたちも待っていると思うし。」
「そ、そうだな……………」
今考えても何もわからない。
そう思った俺は、少しでも冷静さを戻すため目を閉じる。そして、水戸の言うとおりにし、三雲たちにもう一度背を向ける。
でも、やはり今の俺は冷静ではなかったのだろう。
少し考えればわかることだ。
「なんだよ。やはり何も言い返せないんだな。」
少し考えればわかる。わざわざ喧嘩を売ってきたような奴が、素直に俺たちを、いや、俺たちというより、水戸を逃すわけがないと言うことを…………
「そりゃそうだよな!AランクなのにEランクに無様に負けたんだもんなぁ。そりゃ言い返せないよな。その事実が弱いと言うことを物語っているもんな!」
言い返したらいけない。でも、我慢できなかった。
俺は、水戸が弱くないって知っているから。努力しているのを知っているから。
「おい!」
(そうか…………そうだ。俺は知っている。分かっている………だから腹が立ったんだ)
「水戸は弱くなんかない!水戸は強い!俺は知っている。分かってる。水戸はお前よりずっと強い!」
「へぇ〜」
「界人くん…………」
ここまで言ったんだ。もう後戻りなんてできないし、するつもりなんてない。
ここで一つの言葉を思い出す。最近聞いたばかりのあの言葉を……………
『八神は対抗戦が始まるまでに、私のところに代表に戻して欲しいと言いに来る。誰かを護るために…………………』
「そいつのどこが強いんだ?」
「わからないならいい。無理にでもわからせてやるから。」
「へぇ〜………面白いな。どうやってだよ。」
「証明してやるよ。」
(ほんと、あなたの予感にはびっくりですよ、坂本先生)
「証明?」
「俺はEランクの八神界人。ここまで言えばわかるか?」
「あぁ〜、お前が最弱者か。で、それが?」
「界人くん、なにを…………………わっ!?」
心配そうに、いや、ただ俺が何かしでかすんじゃと心配しただけかもしれないが、とりあえず心配そうにしている水戸の頭を大丈夫だと言う意味を込め、笑顔で撫でる。
「水戸は確かに俺に負けたかもな。でも弱くないし、お前より強い。そのことを俺が証明してやるんだよ。」
(まぁ、誰かを護るためじゃなく、俺がそうしたいと思ったから。ただの私利私欲だけどな)
そう、ただの私利私欲。護りたいだなんて、そんなかっこいいものじゃないし、俺にはそんなことできない。
でも、嫌だったから。水戸が苦しそうな顔をするのは、顔を歪めるのは。俺の知っている水戸は決して弱くなんかない。水戸は強い。その水戸を知らないのに否定されるのが………………ただただ嫌だった。許せなかった。ただそれだけ。
「お前はAランクなんだろ?そして、クラス対抗戦に出る。だから同じように対抗戦に出る水戸に突っかかってきた。」
「それが?」
「水戸は対抗戦には出ないよ。俺が出る」
「えっ!?か、界人くん!?」
「はぁ?そんなことができるわけがないだろ」
「いや、できるよ。元々は俺が代表だった。それを無理を言って水戸に変えてもらった。その時、先生に代表に戻りたいと言えば認めると言われてるからな。」
「へぇ〜。でもそれがどうしたんだ?Eランクの君が代表に戻ったからと言って……………………」
「俺がお前を倒す。1分もかけずに、な」
「フッ.....フハハハハハハハハハハハ!!Eランクの君が?Aランクの僕に?1分もかけず?ぷっ....」
「行こ、水戸」
「ちょ、ちょっと界人くん!どう言うこと?ねぇ、ねぇてっば!待ってよ!」
なんだろ。なんでだろうか。言いたいことを言ったからだろうか?分からないけど、後ろから聞こえて来る三雲の声に、もう何も、嫌悪も感じなかった。
「一つだけ、あなたに言っておく。ランクなんかに囚われてたら、痛い目みるよ。」
「水戸?」
声を少し荒げながら、俺に駆け寄ってきたと思ったら、水戸は三雲の方へ振り返り、嫌なはずの三雲に話しかけた。
「はぁ?何を言ってるんだ?ランクが強さの象徴に決まっているだろ?」
「そうだね。そうかもしれない。私もまだそう思っているところもある。でも、そうじゃないってこと知っているし、分かってる。……………界人くん、行こっ!」
(水戸……………)
俺も方に振り返った水戸の顔は、先ほどまでの苦しそうな、歪んだ顔ではなく、いつも見ている、水戸らしく輝いていて、可愛い、そして、元気一杯の笑顔だった。
……………そうか。これでよかった。すごいな、水戸の笑顔は。
やはり俺は間違えてなんかなかった。間違いだなんて誰にも言わせない。
この笑顔が見られるなら……そう自信を持てる。
そして、これも確信を持って、自信を持って言える。
「やっぱり、水戸はお前より強いよ、三雲」
「よう、界人、水菜さん。あいつら誰なんだ?何かあったのか?何か言われたのか?何かされなかったか?大丈夫だったか?」
「多い質問が………一気に言うな。あと大丈夫だ。」
「界人くん、大丈夫だった?………あぁ、あとついでに、水戸ちゃんも」
「はい。まぁ、大丈夫です。あと近いです。そして、触りすぎです…………」
「ついでって何よ!?てか、界人くんから離れなさいよ!」
三雲たちから離れたあと、御子柴たちに集合場所を伝えず先に行かせたことに後悔しつつトボトボと歩いていると、あの場所から少し離れたところに御子柴と高原先輩は待っていてくれたのだ。それには感謝している。それはもうすごく。
だが、再開した瞬間、御子柴はすごい剣幕で、すごい量の質問を一気にしてくるし、高原先輩は、俺が見えたと思ったら、体と体が密着するほど近い距離まで、突進を仕掛ける勢いで近づき、あちこちを触ってくる。
先ほども言ったが、待っていてくれたのだ待っていてくれたのは素直に感謝している。でも、その後が、なんていうか…大げさすぎる。心配されるのはむず痒く、ちょっと嬉しいような、でも少し引いてしまうみたいな変な気持ちになる。まぁ嫌な気分ではないのは確かなのだが、今回のは嬉しいと気持ちよりも、少し引いてしまっている。それほど二人がすごい勢いだったのだ。
「ねぇ、界人くん?本当に大丈夫だった?どこも痛くない?しんどくない?もしあれだったら私が保健室に連れて行ってあげるけど……」
「ちょっと!?早く界人くんから離れなさいってば!」
「何よ、私は界人くんを心配してるだけで、あなたには関係ないでしょ?」
「心配するだけなら、くっつかないでもいいじゃない!界人くんも嫌がってるじゃない!だから早く離れなさい!今すぐに!!」
「界人くん………嫌がってるの?」
「えっ!?……………いや、嫌というわけでは……でも、少し離れて欲しいなぁというか、なんというか……」
「ちょっと!界人くん!はっきり言いなさいよ!!嫌、って!」
「え、えっと………なんか、すみません………」
なんで、俺は謝っているのだろうか………
未だなお、高原先輩は俺から離れることなく引っ付いている上に、それに対してなぜかはわからないが、水戸は怒っているし……………いつもどうり俺を挟んで言い争いを始めている。
御子柴は俺と水戸が大丈夫だと分かってからは、落ち着いてきいる。……………いや、よく見ると、落ち着いたというより、笑っている。笑いを堪えていると言った方が正しいのかもしれないが、とりあえず御子柴は、こちらを見ながらニヤニヤとしている。
ニヤニヤとしていないで、水戸と高原先輩の二人を止めて欲しいのだが………まぁ、そうはしてくれないだろうということは、もう学んだ。
つまり自分でなんとかしてこの状況を切り抜けなければいけないということだ。まぁ、策というほどのものではないが、考えはある。まぁ、下手な手だがないよりマシだろう。
「と、とりあえずさ、予定していた対抗戦見に行かないか?」
「そうだなぁ、界人の言う通りそろそろ対抗戦見に行った方がいいと思うぜ?」
「御子柴………」
ここで御子柴が助けを出してくれるとは思ってもいなかったため、少し御子柴を見直しそうになる。まぁ、これは助けじゃなく、ただ俺の意見に賛成しただけに過ぎないのかもしれないが…………。
「そうね、界人くん御子柴君の言う通り、早く対抗戦を見に闘技場に行った方が良さそうね。座る席がなくなるかもしれないし」
「それには賛成だけど、そもそも、先輩が界人くんに無意味にくっついてたからそうなったんでしょ!」
「さぁ、なんのことかしらね」
「あんたねぇ!」
「まぁまぁ、とりあえず行こうぜ。」
どちらにせよ、御子柴のこの言葉によって、水戸も高原先輩も俺から離れ、闘技場に向けて歩き出してくれた。
つまり、抜け出すには今この時しかないと言うことだ。
「あ、あぁ、そうだった。俺用事があったんだった。すまんみんな。先言っててくれ。」
「用事?界人くん、なんか用事あるの?急ぐものなの?」
「えっ!?あ、ぁうん。そうそう急ぎなんだよ。だからすまないけど闘技場には三人で行っててくれないか?」
「ふぅん………まぁ用事なら仕方ないけど、さっきから口調が棒読み過ぎない?」
「えっ!?」
水戸はそう言いながら俺のことを怪しむような顔で見てくる。そして、近くにいる高原先輩も………
そんなに俺の演技は下手くそなのだろうか…………
まぁ、用事があるのは本当だし、このまま押し通すしかない。………急ぎではないけど……
「本当に用事なの?ここから逃げ出そうとしてるだけじゃ……」
こう言う時の女性の感というものは、いつも恐ろしく感じる。
「そ、そんなわけないだろ?ハハッ、ハハハハハハハハハ………」
「う〜ん、怪しい………」
「まぁまぁ、水菜さん。界人が用事って言ってるならそうなんでしょ?仕方ないよ。先に闘技場に行っておこうぜ。じゃ、界人、すぐそこの闘技場にいるからな」
「う〜ん、わかった。早めに用事終わらせて早く来てよ!」
「お、おう。わかった。」
もうダメかと思った時、御子柴が手助けをしてくれたおかげでなんとか上手いこといったようだ。これが俺が言っていた下手な手だったのだが、まぁ成功してよかった。御子柴の手助けがなかったら無理だったかもだけど…………
そんなことを考えながら、今一度分かれた三人の方を見ると御子柴がこちらに振り返り、笑顔でウインクをしながらサムズアップをして来た。
それに対して、俺もサムズアップで応える。御子柴たちには聞こえないであろう声でつぶやきながら…………
「ありがとう御子柴。少しだけ、ほんの少しだけ見直したよ。………………ウインクには寒気がしたけどな。」
「さてと、行くか……」
闘技場の方へと向かった水戸、御子柴、高原先輩の三人が見えなくなくなるまで、見送り、俺は伸びをしながら今から向かう場所へ向けて足を進める。
一週間前に行ったばかりの……………職員室へと……………
捻くれ者の最弱最強譚#31
いかがでしたでしょうか。
今回に限ったことじゃないけど、本当に全然話が進まない…………
でも、頑張る!
感想や意見も待ってますので、気軽にしてくれるとありがたいです!お願いします