捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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第三章 クラス対抗戦
やっと第三章に入りました!!
これからも頑張るので、よろしくお願いします!
では、スタート!(*゚▽゚)ノ


第三章 クラス対抗戦
捻くれ者の最弱最強譚#26


 

「……な、……なんだよ、これ……」

「まぁなんだ……どんまい界人!」

「頑張ってね!界人くん!」

 ゴールデンウィークも終わってから約1ヵ月。

 今日は6月6日。そして、時刻は12時過ぎ。午前中の授業が終わってすぐだ。いつも通り、水戸、御子柴との三人で食堂に向かっていた。

 しかし、今俺たちのいる場所は食堂ではなく、食堂に行くまでの廊下にある掲示板の前。たくさんの人がここに集まってきている。

 まぁそれもそうだろう。その掲示板に張り出されているのは、来週から始まる、クラス対抗戦に出るクラス代表者の名前が載った紙。

 クラス対抗戦とはそれぞれのクラスの代表者同士で試合をする。もちろん同じ学年のだ。そして、優勝したクラス代表者のクラスがその学年のトップとなる。

 ただそれだけ。ただそれだけを決める、しょうもない催しだ。

 いい事があるとすれば、夏休み終わりにある、学園対抗戦の代表者にその優勝したクラスから選ばれやすくなるというだけ。

 まぁそれも俺からすればどうでもいい事なので、このクラス対抗戦などというものには興味の欠片もない。

 ならなぜ今、俺はその掲示板を見ているのか……簡単なことだ。

 そこに俺の名前があったからだ。

 クラス対抗戦。一学年Jクラス代表者・八神界人。と……

 

「どうしてこうなった……」

「まぁ、一学年に二人しかいないAランクの一人に勝っているんだから、当たり前って言ったら当たり前でしょ?」

 やっぱりそうなるのか……

 別にあの時、水戸と試合をしたことを公開しているわけではない。あれがなければ、今、このように水戸と話したりはできていないだろう。だから、あの選択は間違っていないのは確かなのだが……

 もし、4月8日の時の俺がこのことを知っていたらどうしていたのだろうかと考えてしまう。

(まぁ、同じか……)

「にしても、俺はまだEランクだぞ?そんな奴にクラスの命運を賭けていいのか?俺なら嫌だな。そうだ、先生に直談判しに行って変えてもらおう!そうしよう!」

「おいおい、どこ行くんだよ、界人。食堂はこっちだぜ?」

「界人くん。早くご飯食べに行くよ!」

 俺が先生に直談判しに行くために職員室にの方へ向け足を踏み出すと、後ろから二人に肩を掴まれ止められる。

「おい!御子柴、水戸、離せ!俺は今から職員室に行くんだ!」

「今行ってももう遅いっての……」

「覚悟決めなさい、界人くん!」

「嫌だ!俺こんなクラス対抗戦なんかに興味なんかないし、出たくも……ちょっ、やめ、やめろ!引っ張るな!俺は職員室に……やめろーーーー!俺は職員室に行くんだーーー」

 俺一人の力では、二人の力に抗うことは出来ない。俺はどうすることも出来ず、その場所に俺の叫び声だけがこだまし、食堂へと引っ張られていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ~……なんで俺が……」

 食堂に移動し、昼ご飯を食べ始めても尚、俺は自分がクラス代表というのに納得がいかず、グチグチと言っていた。

 いつまで、グチグチと文句を言っている女々しい奴だと思うかもしれないが、本当に嫌なものは嫌なのだ……

「界人は強いんだし、大丈夫だろ。」

「そうだよ、界人くん。」

「いや……出てからの事を言っているんじゃないんだよ……クラス代表戦自体に出たくないと言っているんだよ……」

 そう、俺が嫌だと言っているのは、クラス代表戦に出て闘うことではない。クラス代表戦に出て負けることでもない。クラス代表戦に出ること自体が嫌なのだ。クラス代表に選ばれていること自体が納得いかない。

「まぁ、実際、俺らの学年で、界人が一番強いだろうしな。選ばれて正解じゃないか?」

「そうそう。」

「その考えはどこから出てくるだよ……」

 俺は強くなんてない……確かに弱いとも思っていないが、強いとも思っていない。

「まぁ、そんなに嫌なら実技終わったあと一緒に先生に言いに行く?」

「えっ!?い、いいのか?水菜さん。せっかく界人が選ばれるようにしたのに!」

「まぁ界人くん本人が嫌だって言ってるんだから強制はできないでしょ?」

「お、おぉぉぉ……」

 今俺の目の前には、いや、俺の横には女神がいる……

 俺は喜びのあまり、勢いよく立ち上がり、水戸の手を両手で包み込み水戸に近づきながら、気持ちの高ぶりに任せて、変なことを口走ってしまう。

「ありがとう水戸!お前は最高の友達だ!行こう、実技が終わったらすぐ行こう!ありがとう!本当にありがとう!愛してるぜ水戸!」

「ふぇっ……えっ……あ、愛してるって……か、界人くん。わ、わわわ私、まだ心の準備が……」

 勢いよく、自分自身でもよく覚えていないが、変なことを口走ったあと、水戸の手を両手で包み込み顔を近づけている状態のまま頭が冷静になっていく……

「ん?」

 そして、今さっきの御子柴の言葉を思い出していく。

『えっ!?い、いいのか?水菜さん。せっかく界人が選ばれるようにしたのに!』

 俺が選ばれるようにした……せっかく……

 ……………………

「なぁ、御子柴……さっきの言葉、どういう意味だ?」

「界人……よくあんなことを口走ったあとで、冷静になれるな……で?何のことだ?」

「せっかく俺が選ばれるようにしたのに!、ってところだよ。その言い様だと、御子柴と水戸が俺が選ばれるように仕向けたように聞こえるんだが……」

「!?……えっ?な、何のことだ?お、俺には、よ、よく分からないなぁ~……」

 御子柴は、俺が最初に聞いた時は、本当に分からない顔をしていた。しかし、俺が、御子柴の言った言葉を織り交ぜて問い直すと、御子柴はギクッという様な驚いた顔をしたあと、俺に顔を合わせないように、俺から視線を泳がせながら外していく。

「…………」

「…………」

「……ハァ~…御子柴。何か言うことは?」

「…………す、すみません…」

 御子柴は本当に申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。まぁ、御子柴も悪気があってやった事じゃないというのは今の顔を見れば分かるし、そんなことをする奴じゃないのも分かっている。

 それに、御子柴の言葉からして、水戸も関わっているみたいだし……

 御子柴だけ糾弾するのはお門違いというやつだろう。

「水戸、どういう事だ?今の御子柴の言葉から察するに、水戸も何かしたん………………水戸?」

 だから、水戸にも御子柴と同じように、どういう事だと聞こうと思い、水戸の方に振り向くと、水戸は顔を真っ赤にし、固まっていた。そして、小さな声でボソボソとなにか呟いていた。

「あ、愛してるって……プ、プロポーズ、だよね…キャャャ、どうしよ。OKしていいのかな?でも、前に界人くん、ずっと一緒にいるって言ってくれたし……もうこれっていいんじゃ……でもでも、まだ私の心の準備が……あぁ、でも界人くん凄く優しいしカッコイイからのんびりしてたら他の人に取られちゃうかもだし……それは…やだなぁ……ならOKしても……ぅぅぅぅぅぅぅ」

「み、水戸?おーーい……おーーいってば!」

 何度呼びかけても、全く反応しない。どうやら、自分の世界に入り込んでしまっているようだ。

「……界人、水菜さんとラブラブするのはいいんだけどさ、それに応援もしてるんだけど……とりあえず、手を離したらどうだ?それに近いと思うんだけど」

「ん?……うぉっ!?」

 御子柴に言われ、改めて今の俺の体制を見ると、俺は未だ水戸の手を両手で包み込んだ状態な上、顔も水戸に近づけたままだった。

 俺は慌てて、手を離し、水戸から距離をとる。御子柴に言われるまで全く気が付かなかった。それに、気持ちの高ぶりに任せ勢いでやったからなのか、無意識な行動だったため、自分がなぜ手を握っていたのも、なぜ顔を近づけていたのも、よく分からないし、よく覚えていない……

「無意識だったとはな……ある意味すごいよ界人……」

「す、すまん…水戸。嫌だったよな…?」

 無意識だったとはいえ、顔を近づけ、手を握っていたのだ。嫌だったに決まっている。だから謝った……のだが……

「界人くん!こんな私ですが……よろしくお願いします!!」

「えっ!?……お、おう?」

 水戸は、俺の謝罪に対して、許すのでも怒るのでもなく、俺に向け頭を下げながら、全く違う返事をしてきた。よろしくお願いします!!……と

 俺はその返事の意味が分からず、疑問形で返事をしてしまう。

 何に対してのよろしくお願いします、なのだろう?

 よく分からないが、話が噛み合っていないことはものすごく分かる。

 それに、誤解をまねいている様な……そんな気もするのは、気のせいだろうか。

「えっ、と……御子柴。俺、水戸になんか変な事言ったか?」

「……ハァ~。マジで無意識だったとはな……界人は、水戸の手を両手で包み込みながら、愛してるぜ!、って言ったんだよ……」

「………………えっ?」

 御子柴はなんて言った?

 俺が、水戸に、愛してるぜ!って言った?……手を握っていただけでもあれなのに、それだけに留まらず、そんな事まで無意識のうちに言ってしまっていたのだろうか……

「えっと……嘘、だよな?」

「いや、ホントだよ……しっかりと言ってたぜ?しかも結構大きな声で」

「……………………」

 一応、御子柴のイタズラで嘘の可能性もあるかもしれないと、思い込み聞いてみたのだが、御子柴の返答は変わらない。変わらないどころか、大きな声で言った、という事まで付け足されている。

 御子柴は至って真剣な顔だ。つまり本当に俺はそんなことを口走ったのだろう。

 どうやら、俺はとんでもない誤解を水戸に与えてしまったらしい……

「……え、えっと……水戸。その……」

「やっほー!界人くん!掲示板見たよーー」

 なんとかその誤解を解こうと、真っ白になった頭で考えながら言葉を口にしようとすると、後ろからすごく明るく元気な声が聞こえてくる。そして、とても聞き覚えのある声だ。

「……高原先輩……」

 誰か確認するまでもなかったのだが、一応声のした方へと振り返ると、その声の主はやはり高原先輩のものだった。

「もう、私の事は美咲でいいって言ったでしょ!私も界人くんって名前呼びしてるんだから、界人くんも、美咲って名前呼びしてくれないと。……にてもどうしたの?水戸ちゃんも顔真っ赤で……風邪?」

「どんな理屈ですか、それ……それに名前で呼んだとしても、呼び捨てにはしませんよ。あと、水戸のこれは……俺の所為というか……」

「水菜さんのこれは、界人が愛してるぜって言ったからですよ、先輩。」

「お、おい!御子柴!また誤解を与えるようなことをっ……」

「……どういう事かな?…………界人くん…説明お願いね?」

 つい先程まで笑顔だった先輩の顔はどんどん曇っていき、顔には影が差していく。

 そして、とても低い声で説明を求められる。なんだろう、すごく怖い……

「え、えっと……御子柴が言ったのは誤解で……えっと、言ったのは確かみたいなんですけど、覚えていないというか……無意識だったと言うか……とりあえず誤解というか……」

 なんで俺はこんなに曖昧に言っているのだろうか。それに何故こんなに慌てているのだろう……

 先輩は俺の言葉では満足しなかったのか、笑顔は笑顔でも、影の差した笑顔に変わり、そのまま少しづつ、本当に少しづつ近づいてくる。

 そして、俺と先輩の距離はほぼ無くなっていた……

「詳しく……ねっ?」

「え、えっと……」

「え、えへへ……か、界人くんと結婚……ずっと一緒……えへ、えへへ……」

「界人くん。説明!」

「ご愁傷様だな、界人……」

 俺の横には手を合わせ拝む形をとっている御子柴。俺の前には影を差しながらも怖い笑みを浮かべている高原先輩。そして、俺の後ろには顔を真っ赤にしながら、未だボソボソと何かを呟いている水戸。

「ハァ~……」

 俺の所為にも関わらず、俺は、なぜ何故こんなことになったのだろうかと、そんなことを思いながら、食堂の天井を見上げ、溜息をこぼす。

 少し天井を見つめてから視線を共に戻す。しかし、御子柴は未だ目を瞑り、手を合わせている。先輩はさらに俺に近づき、終いには、俺の襟を掴みながら、怖い笑みのまま説明を求めてきている。水戸は先程よりも近づいてきていて、俺の制服の裾を掴み、未だに真っ赤な顔でボソボソと呟いている。

 

「……………………」

 俺はもう一度……もう一度だけ現実逃避をするため、天井へと目をやる。

 ……天井を見ていると、変に頭が冷静になり考えてしまう。

 今のこの状況に、なりたくもなかったクラス対抗戦のクラス代表……それに、これまでも……

「ハァ…………ホント…退屈しねぇな!ちくしょう!!」

 俺は、今日あったこと、今起こっていること、そして、たった2ヶ月という短い間にあったことを思い出し、つい大声を出してしまう。

 6月6日。時刻は12時40分。昼休み終了まで残り約20分の食堂。

 そこに俺の大きな声がこだましたのは言うまでもないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三章 1話目
捻くれ者の最弱最強譚#26
いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

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