捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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番外編 第一章の水戸視点#2
どうぞ!


第一章の水戸視点#2

 今日は4月8日。学園生活2日目。

 昨日は入学式だけだった為、このクラスの人達のことは何も知らない。じゃあ、知るために何をするか。それは自己紹介だ。

 一人一人前の教壇に出て、自己紹介をする。自分の名前、趣味、好きな食べ物や、嫌いな食べ物などなど。

 席順はバラバラのため最初は八神くんの近くに座ろうとも思ったのだが、八神くんはギリギリに学園に来た為、席がほとんど埋まってしまい。近くに座ることが出来なかった。

 八神くんは廊下側の一番後ろの席。私は二列ほど少し離れた斜め前。

 八神くんが来てからは無意識にチラチラと視線を八神くんの方へ移してしまっている。八神くんは天井を見ながらぼーっとしている。

 なにか考え事でもしているのだろうか?

 

 そんなことを八神くんを見ながら考えていると、私の名前が呼ばれる。自己紹介をする順番が来たようだ。

 私は席を立ち上がり、教壇へと向かう。

 正直、私は友達を作りに来たのではないので、自己紹介なんてどうでもいいのだが、第一印象は大事だ。

 だから私は教壇につくと、飛びっきりの笑顔を作り、自己紹介を始める。

「水戸水菜です。食べ物で好き嫌いは特にありません。この学園には力をつけるために来ました。なので、これから頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。」

 私がそう言い終わると、周りから拍手が巻き起こる。

 席に戻る時、チラッともう一度、八神くんの方に視線を移したが、八神くんは変わることなく天井を見てぼーっとしている。

(何してるんだろ?)

 

 そのあとも、滞りなく自己紹介は進んでいき、やっと八神くんの出番になる。やっとこの時が来た。他の生徒の自己紹介なんてどうでもいい。私が聞きたかったのは、八神くんの自己紹介だけ。

 八神くんの好きな食べ物はなんだろう。嫌いな食べ物は?どんな目標があるんだろ?

 そんな事をワクワクしながら考えていると、何度か名前を呼ばれた後、ハッとして立ち上がり教壇に向かう八神くんと目が合う。

「ファイト!」

 私は八神くんにガッツポーズをしながらエールを送る。意味は無いのだが、なんとなく八神くんに元気がないような気がしたので、そうしたのだが、八神くんは私と目が合うと、目を細めながら私を見てくる。

「?」

 どうしたんだろうか?何か目にゴミでも入ったのだろうか?

 そんなことを考えながら、首を傾げると、八神くんは溜息をつく。

 そうこうしている内に教壇につき、八神くんは自己紹介を始めた。

「ハァ~……えっと…」

 周りを見渡してからもう一度溜息をつく。何故かもう疲れたような顔をしている。

 そして……

「八神…界人です。好きな物とか嫌いな物は特にありません……」

「「「「……………………」」」」

 八神くんはそれだけで言葉を自己紹介を切ってしまった。教室はもちろん静まり返ってしまう。

 私も唖然としてしまった。

「……プッ…………フフッ」

 何故か笑いが出てしまう。八神くんらしい。そう思ってしまった。昨日あったばかりなのに、何故かそう思ってしまったのだ。

(ホント……面白い人)

「八神、それだけか?」

「え?え、……っと、そうですね。」

「……そうか、わかった。戻れ」

「は、はい」

 先生に不思議な顔をされて、それだけか?と聞かれたのに、八神くんは逆に不思議な顔で返事をし返す。これに先生も困ったのか、溜息を一つついたあと、席に戻るように指示する。

 すると八神くんは、少しだけ顔が明るくなり早足で席へと戻っていく。そして、席にドサッと座り込んだあと、全身の疲れを抜いたようにダラーっとした座り方に変わっていく。

 見ているだけなのに飽きない。

「フフッ……」

 ホント、楽しい学園生活になりそう。

 そのあとも自己紹介はあったのだが、私はそんなのはどうでもよく、ただただ八神くんの方を無意識に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「………………このお陰で、私達人間も元素を操れるようになり、そして、力をつけることが出来た。ちなみに、この日本では火・水・風・土・雷の五大元素を操るのに秀でた名家がそれぞれ存在する。その名家のお陰もあり、今の日本は他の国にも負けないほどの国になっていると言っても過言ではない。火の名家の火野家。水の名家の水原家。風の名家の……………………………………」

 自己紹介が終わってから約2時間半。時刻は11時半であり、今は4限目。

 前もって聞いていたから知っていたけど、今は座学をしている。

 でも今していることは誰でも知っているようなこと。

 だから、面白くない。ただただ退屈な授業。普通の人ならそう思い、午後からの授業は実技らしいので、誰もが早く午後になってくれと思っているだろう。

 でも私は退屈なんてしていない。

 

「あっ、八神くん。また欠伸してる。さっきまで寝てたのに。」

 もちろん、座学が面白くて退屈していない。という訳では無い。

 その座学だけを聞いていたのなら、私も退屈で仕方なかったのだろう。

 でも、自己紹介が終わり授業が始まって、かれこれ2時間半。私は勉強なんて、先生の話なんてこれっぽっちも聞いてなんかいない。

 なら何をしているのか……

 隣の人と話している?落書き?妄想?いろんな時間つぶしがあるだろう。でも私がしているのはそのどれでもない。

 私はただただ、八神くんのことを観察していた。

 何故こんなにも勝手に八神くんの方に視線がいってしまうのか、なぜこんなにも気になるのか、は分からない。でも何故か、面白くて、胸がぽかぽかするのだ。

「あ……八神くん、また寝た……」

 そんなことを考えながら、八神くんのことを見ていると、八神くんは何度目かわからない欠伸を最後にもう一度したあと、机に伏せ、また寝始めた。

「机で寝るのって、疲れないのかな?」

 八神くんが寝たとしても、私の視線が八神くんから離れることは、午前中の授業が終わるまで無かった……

 

 

 

 ―――キーンコーンカーンコーン

「あ、八神くん起きた……ってもう終わり?」

 4限目終了のチャイムがなる。ここまで時間が流れるのがとても早く感じた。ただただ、八神くんを見てただけなのになぜそう思うのだろう。

「それでは今日はここまでだ。午後からは実技だ。場所は第一闘技場だ。遅れないように」

 アレから30分。時刻は12時過ぎ。結局、私は最後の最後まで八神くんのことを見ていたらしい。

 でも今、改めて考えれば、不思議なものだ。なぜずっと八神くんを見ていたのだろう。まぁそんなこと考えても、無意識。という答えしか出てこないのだが……

「さ~てとっ!八神くんを誘って昼ごはん食べに行こっと!」

 私はそう言いながら勢いよく席を立ち上がり、八神くんの方へと歩き出す。

 机で寝ていたため、少し固まった筋肉をほぐしているのか、八神くんは体を伸ばしている。そんな八神くんはとても気持ちよさそうな顔をしている。

 そんな顔を見ていると、自然と私も笑みが零れてくる。

 そして、八神くんの近くまで来たところで、食堂に誘うため声を上げる。

「八神くん、食堂行こ!」

「おーーす、八神。食堂行こうぜ~」

 すると、私の隣で、私と同じタイミングで、声を上げた男子生徒がいた。

 八神くんの友達だろうか?

「お、おー」

 そんなことを考えながら、その男子生徒から八神くんへと視線を戻すと、八神くんはまだ座ったまま、何故か驚いたような顔をしていた。

「何驚いた顔してんだよ?早く行こーぜ?」

「そうそう、八神くん、早く立って!行くよ」

「お、おう」

 なんでそんなに戸惑っているだろう?

「それよりも、お前らって知り合ってたっけ?」

 私が、不思議に思っていると、八神くんが私と隣の男子生徒を交互に見て言ってくる。

 それにつられ、私ももしかしたら、と思い、その男子生徒の方へと視線を移すが、やっぱり知らない人だった。

「んいや、まだだな」

「いや、まだね」

 またまた私とその男子生徒の声が重なり、同じように否定すると、八神くんはまた驚いたような顔で交互に見る。

 そしてそのあと、ゆっくりと立ち上がり、八神くんはそれぞれを紹介してくれる。

「あー、えっと、水戸、コイツは昨日水戸がいない間に友達になった御子柴陽だ。で、御子柴、コイツが水戸水菜。」

「おー、御子柴陽です!よろしく水戸さん。」

 八神くんに、友達。と紹介してもらった御子柴くん。しかし八神くんは私の事を友達。だとは紹介しなかった。

 その事にムッとしながらも、それを顔に出さないように笑顔を作り、簡潔に自己紹介する。

「水戸水菜です。こちらこそよろしく、御子柴くん!」

「それじゃ、食堂行くか……場所知らないから、御子柴と水戸の後ついて行くから。」

「おう、了解だ」

「逃げないでよ?」

「逃げねーよ……もう」

 流石に八神くんも、この状況で逃げないとは思ったのだが、なんとなく、からかう感じで聞いてみた。

 ほんと軽い気持ちで聞いたのだ。逃げれば追いかければいい。そんな軽い感じで。

 それに対し、八神くんは真剣な顔で逃げないと答えてくれる。

 それが何故かとてつもなく嬉しかった。それに……

(もう……もう、か……)

 そう、八神くんは、「もう」と言ったのだ。その言葉は、これからは逃げないということにも取れるだろう。

 まだ学園生活が始まって2日。こんな事はありえないのだろうが、少しでも私が八神くんにとって特別な存在に近づけているのかな、とそんなことを思ってしまう。ありえない事だと分かっている。分かっているけど……

(なんだろう……嬉しい。)

「うん!」

 私は、その気持ちを隠すことなく、満面の笑みで八神くんに返事を返し、高鳴る気持ちを、なんとかスキップなどの行動に出ないように抑えながら、食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、八神。今日の授業についてどう思った?」

 食堂でご飯を食べていると、急に前の席に座っている御子柴くんがそんなことを言ってくる。ちなみに席は、私の隣が八神くん。そして、前に座っているのが御子柴くんだ。

 御子柴くんの質問に対し、私は質問の意味がよくわからない上に、どの事について言っているのだろうと思い、首を傾げる。

「は?授業?どう思ったって……何が?」

 八神くんは、チラッと私の方を見ると、すぐに御子柴くんの方へと視線を戻し、私の気持ちを代弁してくれるかのように、聞き返している。

 まぁ私も、そして多分八神くんも、授業の時、真剣に聞いていなかったので、よく分からず、答えられないのだと思う。

 

「いや、4限目の時さ、ランクの話になっただろ?その時に、強さってのはランクで決まる。つまり力が全てだー。なんて事を先生が言ってたからさ、本当にそうなのかなーっと俺は思ったんだよね。」

 御子柴くんはは困ったような、そして迷ってるような苦い顔をして話す。

 そのことなら、なんとか私の耳に入ってきていた為覚えている。

 だから私は、自分の意見を……ずっと前から決まっていた意見を、自分の答えを述べる。

「あー、その話なら、私は聞いてて、なるほどなーって思ったよ?だって強さってのは結局ランクで位付けされてるんだから、ランクがすべてなんじゃない?力がすべてってのも私はうなずけるよ。」

「水戸さんはそう思うのか……八神は?」

 御子柴くんは、私の意見を聞いても、どこか顔は晴れず、困ったような、迷ったような苦い顔をしている。

 そして、その顔のまま、次は八神くんの方へと顔を向け、八神くんの答えを聞こうとする。

 八神くんは聞かれたあと、少し難しそうな顔をして、考え始める。

 まぁそれでも、八神くんの答えも決まっているだろう。私と同じなはずだ。元素使いの殆どが私と同じ考え方のはずだ。

 ランクはその人の強さのすべてなのだから。元素使いは力がすべてなのだから。

 そして、八神くんは少し考えたあと、ゆっくりと答え始める。

「まぁ、水戸の言う通りだろうな。単純な戦闘力での強さ、それがランクだ。つまり、ランクが高ければ高いほど強いということになると言うのは否定出来ないな。」

 八神くんがそう言うと、御子柴はガクッと項垂れるように机に伏せる。

「やっぱりそうなのかな~?」

 やっぱり、力が、ランクがすべてなんだろう。私は間違ってなんかいない。その事を改めて分かった。

 八神くんも私と同じ考え方だと分かって、嬉しかった。何故だかほっとした。

 でも、八神くんはそれだけで言葉を止めることなく、言葉を続けていく。

 私の考え方とは全く違った答えを……

「でも!俺はランクだけでは強さってのは決められないと思うけどな。強さ、力には色々ある。敵を倒す強さ、力。敵を欺く強さ、力。人や物を守る強さ、他にもあると思うが、このように色々ある。だから俺はランクだけが強さというわけじゃないと思う。力がすべてじゃないと思うけどな。」

(えっ…………)

 八神くんの言葉が頭の中で反響する。

 ランクだけが強さじゃない、力だけがすべてじゃない。その言葉が何度も何度も頭の中で繰り返し再生される。

 力が入り体が震えていく。さっきまで楽しい気持ちでいっぱいだったのに、今はよく分からない感情で埋め尽くされていく。

 私のしてきた事が、否定された気がした。私自身を否定された気がした。お前は間違っている!と。

 八神くんがそんなこと言っていないのは分かってる。八神くんは八神くんの答えがある。そんなの分かってる。でも、何故かわからないが、そう感じてしまったのだ。

「そんなことない!」

「「え?」」

「み、水戸?」

「ランクだけが強さじゃないって、ランクだけが力じゃないって……そんなことない!ランクがすべてなのよ!力が全てなのよ!力のないものは、強くないものは、ランクは低い者は、力のあるものに、強いものに、ランクの高いものにただただやられるだけ!何もできずに!」

 ここで、私は自分自身が立ち上がり、声を荒らげているのに気づく。そして、ゆっくりと八神くんと御子柴くんを見る。二人はそんな私に驚いたのか、目を見開いてこちらを見ている。

 私は何を言っているのだろうか。なんでこんなに悲しいのだろうか。なんでこんなに胸が苦しいのだろうか……

 なんで……こんなに涙が流れているのだろうか……

 わからない……足が震える……体温が下がっていくのがわかる。

「み、水戸?何を言って……」

「ッ…………!!!」

 八神くんは何か私に言おうとした。でも私は耐えきれず、振り返ることなく走り出してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ハァ…ハァ…………」

 私は何をしているのだろう。なんで走っているんだろう。

 なんで……泣いているんだろ。

 

 何故かわからない。分からないが、八神君が言った言葉すべてが心に突き刺さってきた。力を強さを、ランクをだけを求めて生きてきた私のこの数年は無駄だったと言われたみたいだった。

 もちろん八神くんはそんなことは一言も言っていない。それに考え方は人それぞれだ。それでも、何故か苦しかった。悲しかった。……涙が出た。

 

「ほんと、私何やってるんだろ……八神くんの言う通りなのかな?私のしてきた事は無駄だったのかな……」

『恨め!』

「ッ……」

『力のない自分を恨め!』

「やめてっ……」

『ランクの低い自分を恨め!』

「やめて!」

『お前は弱いから負けた。力が無いから負けた。ランクが低いから負けた。だから、何も……護れない。負けるから、護れないんだ。力がない、強さがない、ランクが低い、その自分自身を恨め!』

「やめてよ!」

 

「そうだ、そうだよ……あの時思い知ったじゃない……力がすべてだって。強くないといけないって。ランクがすべてだって……八神くんがそうじゃないって言うなら、私が証明すればいい。八神くんに勝って、八神くんの考えは間違ってるって、私の考えは正しいんだって、証明すればいいんだ……」

(私は間違ってないんだから……)

 そう心で思うようにしても、私の体は小刻みに震え、涙は止まることなく溢れ続けていた……

 

 

 

 

 

 




番外編 第一章の水戸視点#2
いかがでしたでしょうか。
今回は捻くれ者の最弱最強譚#5~6話ですね。
次回で番外編 第一章の水戸視点は終わりです。

これからも皆さんのご期待に添えられるように頑張ります!!

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