捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#25

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 白い光に雷……それに包まれてから約数秒。光に目がやられたのか、今はよく目が見えない。

 そもそも、俺は本当に無事なんだろうか。凛や水戸、御子柴に高原先輩。四人も大丈夫だったのだろうか。一応、四人には防壁を張ってもらってはいたが、物凄い威力の上、すごい光と雷だった。技を放った自分自身ですら驚いたほどだ。

 この地下……いや、この廃工場はもう瓦礫の山とかしているのではないか?それに、今俺達がいるのは地下だ。もし本当にそうなら、俺たちは瓦礫の山の下敷きになるのが当たり前だろう。

 だが、今の俺の体には痛みは何も無い。瓦礫に押しつぶされているような圧迫感もない。それに自分自身立っている感覚もある。

 

「兄さん、大丈夫ですか!?」

「界人、大丈夫か!?」

「界人くん、大丈夫!?」

「八神くん!」

 そんな事を思っていると、俺の後ろから四人の声が聞こえてくる。

 良かった。どうやら四人とも無事だったようだ。これで、四人が無事じゃなかったとなれば、俺は護る人達を自分の手で傷つけたことになってしまう。そうならずに済んで本当に良かった……

 

「な、なんだよこれ……」

「……なにこれ…」

「これが兄さんの……全力……」

「……すごい」

 最初は元気な声が聞こえてきていたが、四人の声はすぐに、困惑や感嘆の声へと変わる。

 それもそのはずだろう……俺も今驚いている。

 

 目が見えるようになり、なんとか見渡せる範囲内を、ゆっくり見渡す………

「まさか……ここまでとはな……それになんだよこれ……」

 確かに俺たちの周りには瓦礫の山が出来上がっていた。地下のはずなのに、天井も何もなく、上を見上げれば空が見える。

 この廃工場が、地下が瓦礫の山と化しているのまではなんとか、納得はいく。だが、それだけでは無かった。確かに瓦礫の山はある。でもそれは随分遠くで、だ。俺たちの周りには何も無い。文字通り、何も無いのだ。俊の姿も見えない上に、観覧席に沢山いた人間どももどこにも見えない。

 そして、周りは地面が抉れクレーターができている。でも俺達の立っている場所は何もなっていない。地面も抉れていない。

 そう、俺達のたっている場所を囲うように地面が抉れクレーターが出来ている。自分達の所だけ何も無かったかのように残っていたのだ。誰かが俺達を護ってくれたかのように……

 

 

『どうやら、今回の儂の役目もここまでのようだな。我が主よ』

 周りの現状に驚いていると、どこからか声がする。いや、頭の中に声が響いてくる。

「白虎……お前が護ってくれたのか?」

 横を見てみると白虎が俺に寄り添うようにしていた。

 目もやっと良く見えてきたのか、よく見ると俺たちの周りには雷の防壁がドーム状に形成されていた。どうやら、白虎が俺達を瓦礫から護ってくれたようだ。

『主に死なれては困るからな』

「そうか……ありがとう」

 なぜだろう、白虎のそばにいるとすごく安心する。まるで父さんみたいだ。

 ここで、一つ疑問が浮かぶ。俺は白虎が見えている。だが、後ろにいる四人は白虎には反応していない。四人には見えていないのだろうか。

「なぁ、お前の姿は他のみんなには見えないのか?」

『今の儂は主にしか見えんよ』

「そうか……ッッ……」

 どうやら、俺自身、限界みたいだ。目の前が回り始め、意識が遠のいていき、朦朧としている。

 

『よくやったな……』

 そんな時、白虎とは別の声が頭に響く。懐かしい声だ。これは、父さんだ……

「俺よくやれたかな?」

『あぁ、よく頑張った。よく答えを見つけて、覚悟を決めた。』

「父さん……俺さ、父さんがいなくなってから、色々あったんだ。暗闇に落ちて、迷って、自分なりの答えを正義を見つけて、そしてまた迷って…………ここまで辛くなかったと言ったら嘘になるよ……でもさ、もう大丈夫だよ。父さんの言う通り、もう俺決めたんだ。覚悟を決めたんだ。もう迷わないって。どんな事があっても自分を、自分の見つけた答えを、正義を貫くって。……だから、もう俺は大丈夫だよ」

『そうか……ならもう心配いらないな。界人。お前なら大丈夫だ。白虎も使いこなせる。だから、これからも自分の思うままに生きろ。』

 父さんはいつも俺を見守ってくれていたのだろう。今になってそれが良くわかる。この白虎も、そして、もしかしたらオレも……父さんが……

『界人、俺はいつまでもお前を見守っている。』

 こんなに安心する言葉は他にはないだろう。

「父さん……」

 ダメだ……もう意識が朦朧として、言いたいことがまだまだ沢山あるのに、言葉が発せない……

 でも、これだけは伝えないと……父さんに、そして、白虎にも。

 俺は朦朧とする意識の中それだけは言わないと、伝えないとと思いなんとか、小さい声ではあるが言葉にする。

「……とう、さん……白虎……ありが、……とう……。」

 なんとか、言いたかった言葉を口にすることが出来たところで俺は無理に引き止めていた意識を手放すため、体の力を抜き前のめりに倒れていく。

 その倒れる瞬間、白虎は俺の周りをくるりと一周し、一吠えしてから消えていく。そして、目の前に父さんの姿が見えた。笑っている顔が見えた。

(良かった……父さん、悲しい顔してない。笑ってる……ホントに良かった……)

 流れきた過去の記憶の時、父さんは悲しそうな顔をしていた。その悲しそうな顔が頭から離れなかった。だから、ほっとした。嬉しかった。父さんの笑顔がまた見れて……父さんがもう悲しい思いをしていないとわかって……良かった……

 そして俺は笑顔で、清々しい気持ちのまま意識を完全に手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井…………空?いや、白いな……」

 目を開けると、俺は真っ白な世界にいた。俺の記憶が正しければ前にもここに来たことがある。ここは現実じゃない。

『よう、また会ったな。俺』

 体を起こし周りを見渡していると、俺の後ろから声がする。聞きなれた(オレ)の声だ。

 振り返ると、やはりオレがいた。前あった時みたいに黒い靄はかかっていない。

「よう、オレ。先程ぶりだな。」

『もう大丈夫そうだな。』

「まぁな。オレのお陰だよ。もう迷わない。」

『そうか、ならオレもここで消えるとしよう。いや、違うな……俺の中へ帰るとするよ』

 顔も、声も、何もかも同じ。なんか不思議な気持ちだ。

「そうか……迷惑かけたな。ありがとう」

 消える。帰る。オレはそう言った。俺がオレを作り出したのかもしれないし、父さんが俺を助けるために白虎と一緒に渡してくれたのかもしれない。それは分からないが、オレには迷惑をかけた。それだけは凄く分かる。

『いや、別いいよ。オレ()の事だしな。自分を助けるのは当たり前だろ?』

「素直に受け取れよ……ハハッ…アハハハハハ」

『フッ…アハハハハハ』

 お互い少しの間声を出し笑い合う。

 ホント、自分自身と面と向かって話すのは変な感じだ。でも悪くない。

 

「じゃ…そろそろ行くよ」

『おう、まぁもう会うことはないと思うぜ。オレは言わば、俺が白虎を使役できるようになるまでの仮主のためにいたようなものだ。そして、お前がもし迷った時に目を覚まさせてやるのがオレの役目だ。だからもう俺は御役御免って訳だ。』

 そうか……本当に俺は色々な人に迷惑をかけていたんだな。

 今改めてそのことを実感させられる。

『そんな顔するなよ。オレは俺だぜ?自分自身の体に戻って何が悪いんだよ。』

「そう、だな……今までありがとな」

『おう』

 最後にオレに笑顔でお礼を言う。これまでの感謝を込めて。

 そして、俺は後ろに振り返り一歩踏み出していく。すると、急に目の前には暗闇の世界に続く道と、光り輝く明るい世界に続く道が現れる。

 さっきまでの俺ならここで、どちらに進むか迷っていたのかもしれない。でも、今は迷わない。

 俺は暗闇の世界の方へと足を向け歩き出す。

『やっぱり俺はそっちに行くんだな。』

「まぁな、暗闇だからこそ本当の光が見える。答えが見つかる。それに……もう迷わないって決めたからな。」

『そうか……最後に、白虎からの伝言だ。「儂を使う時はいつでも呼べ。儂はどんな時でも主の力になる」だってよ』

「そうか、またお礼言っておくよ。俺一人じゃ今はまだ使役できないんだけどな。」

『どうだろうな。』

 何か含みのある言い方だったが……まぁ今は気にしないでおこう。

「じゃ行くよ。……あ、そうだ。オレにも最後に伝言があった。」

『なんだよ』

 俺は暗闇の世界の方へと一歩、また一歩と踏み出し歩いている途中で、伝えるべきことがあったのを思い出す。

 だから、俺は最後にもう一度だけ、オレの方へと振り返り、笑顔を浮かべ告げる。

「父さん……笑ってた。」

『……知ってるよ、オレも見てた。』

「そっか……それだけだ。じゃあな」

『ああ』

 今思えば、オレは俺だ。だから、オレが見ていて知っているのもおかしくはないのだろう。でも、伝えないと、と思った。だから伝えた。

 最後の最後、オレは笑っていた。優しそうな笑顔がちらっとだが、振り返る時に見えた。

 そして、俺は今度は振り返ることなく、もう迷わないよう、踏みしめるように前だけを見て歩き出す。捻くれ、捻れた暗闇の世界の道へと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度こそ、知らない天井だな……」

 どうやら今度は本当に現実に戻ってきたらしい。

 周りは白いがしっかりと天井もある。そして、ベッドに寝転んでいる感覚に薬品の匂い。どうやら病院のようだ。

「目、覚めたんだね。八神くん。」

「ワッ、ビックリした!……高原先輩」

 体をベッドにあずけたまま天井を意味もなく見ていると、不意に横から声がする。その声にビックリしながら横を振り向くと、ベッドの横の椅子に座っている高原先輩の姿が目に入る。

「急に横から声掛けないでくださいよ。ビックリするじゃないですか。」

本当にビックリした。誰もいないと思っているところに、急に声をかけられたら誰であろうとビックリするだろう。

俺は少し笑いながら先輩に声をかけたのだが、先輩は俺の表情とは裏腹に真剣な顔でこちらを見ていた。どうしたんだろうか?

「どうしたんですか?そんな真剣な顔をして。」

俺が不思議に思い、そう聞くと、先輩は椅子から立ち上がり頭を下げる。そして、先輩は頭を下げたまま俺にお礼を言う。

「ありがとう……本当にありがとう!お父さんを、誠也を……私を救ってくれて、助けてくれてありがとう……」

「頭をあげてください、先輩。俺一人じゃ出来なかったことです。それに最後は俺が先輩に助けられました。こちらこそ、ありがとうございました。」

「そ、そんな……私にお礼なんて……」

俺が先輩に対してお礼を言うと、先輩は顔を上げ、慌てたように手を体の前で手を振り、遠慮をしてくる。

でも、本当に俺は感謝をしている。あれがなければ…先輩がいなければ、俺はあそこで確実に負けていた。

「先輩は俺に助けられたと思っている。でも俺はしたいことをしたしただけです。そして先輩も俺を助けたとは思っていない。なら、これはチャラにしませんか?お互いお礼を言わなくていいってことで。」

「で、でも……」

「いいんですよ、それで、これでこの話は終わりです。」

本当に俺はしたい事をしただけだ。だからお礼を言われるのはどこがこそばゆい。

「ホント、君は優しいんだね。」

「ッッ…そ、そんなことないですよ……それで、話はこれだじゃないんですよね?」

俺がこの話を無理やり終わらすと、先輩はとびっきりの笑顔でこちらを見てくる。その顔を見た瞬間、すごくドキッとした。やはり女性の心からの笑顔というのは美しいものだと思う。

でも、笑顔のあと先輩の顔は気が付かないほど一瞬ではあったが、また真剣な顔をした。だから、まだこれで話が終わりではない。そう思った。だから聞いた。

先輩はそれに対し、驚いたような顔をしてこちらを見てくる。

「よ、よく分かったね……」

「そんな感じがしたので。」

「やっぱり八神くんには隠し事は利かないね。」

そんなことはないと思うのだが……ただ人の視線などに少し敏感なだけだ。

まぁ今はそんなことより、先輩の話したいこととやらを聞かないと、

「それで、話はなんです?」

「え、っとね……その……」

なんだろう、すごく歯切れが悪い。

「なんですか?」

「えっと……その……私と」

「私と?」

「とも、とも、……」

「私、とも?」

「友達になってください!!」

「うおっ!?」

最初は小さな声で言っていたのに、急に俺に近づき顔の近くで大きな声でそんなことを言ってきた。急に顔の近くに来るもんだからまたまたビックリしてしまった。

「水戸ちゃんに聞いたんだけど……八神くんって、分かり合ってる人と友達になるんでしょ?それが八神くんたちの友達なんでしょ?」

「そ、そうなんですかね?」

「だ、だから、私とも友達になってください!まだ私も八神くんの事は分かってるとは言えないし、八神くんも私の全てを分かってるって訳でもないのも知ってるよ……でもね、私は八神くんと友達になりたい。」

分かる、分かり合う。それが俺たちの友達。それは御子柴に教えてもらったことだ。確かに俺は御子柴や水戸の事は少しだけど分かってる。水戸や御子柴も俺のことを少しだけど分かってくれている。

じゃあ、どこまで分かっていれば、分かってもらえれば友達なんだ?

俺は本当に水戸、御子柴と分かり合ってるから友達なのか?それだけで友達をやっているのか?違う気がする。俺はそれだけで水戸と御子柴と友達になっていない気がする。でもそれが何なのかよく分からない。

「先輩……確かに俺は水戸、御子柴と友達です。少しだけど、分かってるから、分かってくれているから。でも、俺はよく分からないですよ。俺は本当にそれだけで、二人と友達になっているのか?って。なんかもっと違う理由があると思うんです。でもそれが分からないんですよ。」

「八神くん……」

「水戸や御子柴は、もう俺にとって大切な人です。友達です。でもそれはただ分かりあってるからってだけで、そうなったんでしょうか?先輩は分かりますか?」

「ううん……私もずっと仮面を被ってきたから友達というのはよくわからないの……ただ、八神くんとは離れたくないと思ったから……」

離れたくないから……か……それもあるのかもしれない。

俺は二人と離れたくない、だから友達になっている。でもそれは束縛してることにならないのか?よく分からない……

じゃあどうする……そんなの簡単だろう?

「分からない……なら、探しませんか?一緒に。友達とはなんなのか。分かる、分かり合うってなんなのか。」

「一緒に……探す。一緒……いいの?私一緒にいても。」

「何度も言いませんよ……」

「フフッ…ほんと君は優しいんだね。好きなっちゃいそうだよ。」

先輩はそんな事を言ってくる。仮面が付いてないので、嘘なのか、本心なのか分からない。いつもなら、冗談だと聞き流しているのに、今は何故か顔が熱くなっていて、よく考えられない。

「じょ、冗談はやめてください。」

しかし、なんとか先輩のその言葉を受け流す。

「アハハ。うん、じゃまた明日ね。」

先輩は少し笑ったあと、出口へと向かうため俺に背を向ける。そして、ドアを開け病室から出ようとした時、少しだけ俺の方へと振り返り、笑顔でウインクをしながら小さな声でとんでもない事を言ってくる。

「さっきの言葉、冗談じゃないかもしれないよ!じゃあね」

先輩はその言葉だけを言い残し、病室から出てドアを閉める。

 

「………………ホント、女ってのは分からねぇ~……」

俺は頭に手をやりながら、そんなことを呟く。すると、病室においてある日めくりカレンダーに目がいく。

5月7日。日めくりカレンダーにはそう書いてあった。

「…………な、7日?……えっ?待て、待て待てまてまてまて……えっ?今日、7日!?明日から学校じゃねぇか!!俺の休みが……」

そう、ゴールデンウィークは7日まで。明日から学校が始まる。

今回、結局俺のゴールデンウィークはあっという間に過ぎてしまったようだ。前半は色々なことがあり、休んでいない。そして、後半は病院のベッドの上……

「ハァ~……」

最初はゴールデンウィーク中、トレーニングだけして、あとは家で、ずっとダラダラしようと思っていたのに……気づけばそんな暇もなく、ゴールデンウィークは終わりを迎える。

まぁ、でも……

「こんな年があっても、いいか。…悪くない……」

俺はそっとそれだけ小さく呟き、残り少ないゴールデンウィークの時間を寝ることにし、目をそっと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




捻くれ者の最弱最強譚#25
いかがでしたでしょうか。
第2章、終わりました。ここまで書くのに結構時間経ってるのに、全然文章力が成長していない気が…………

まぁとりあえず、もちろん、まだまだこれからも続けますよ!
次回から、それぞれの視点の番外編を書くか、それとも第3章に入るか迷ってます…………どうしよう……
意見があれば感想で、教えてくださいm(_ _)m

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