捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#21

「兄さん……これはどういう事ですか?」

「いや、見たまんまだが……」

 俺と凛が目が覚め、闇市場に乗り込むのを決めてから、約6時間と少し。時刻は昼の1時になろうとしていた。

 その6時間の間何をしていたか、というと…………

 …………まぁほとんどいつもと変わらない。お風呂に入ったり、着替えたり、ご飯を食べたり、いつも休みの日にしているような事をした。

 凛が言うには、こういう時にこそいつも通りが肝心らしい。

 

 いつもと変わったことと言えば……

 凛は、今日友達の未来ちゃんと遊び、闇市場について情報交換をするつもりでいたらしいが、万が一にも巻き込むわけにはいかないため、その約束を断る電話を入れた事。

 俺は、いつもはトレーニング以外家を出たり、人を家に連れてきたりなどはしないのだが、闇市場に乗り込むための、助っ人を学園の近くの公園に呼び出し、家まで連れてきた事。

 ただそれだけ。

 

 それだけ……だったのだが…どうやら、俺が助っ人を連れてくるのがダメだったのか、それとも余程嫌だっのかは分からないが、凛は、連れてきた助っ人をリビングに入れた瞬間、俺と助っ人の内の一人を睨み、どういう事かと問いただしてきたのだ。

「私が言ってるのは、なんで水戸さんがこの家に……私と兄さんの家にいるんですか!しかも、なんで、リビングまで入ってきてるんですか!」

「いいじゃない、別に。私は界人くんに案内されて、入ってもいいよって言われたからここにいるんだし」

「出ていってください!」

「だから、私は界人くんに上げさせてもらったの!界人くんの許可もらってるんだから、別にいいでしょ!」

 まぁその助っ人と言うのは今の会話を聞いて想像はついたとは思うが、水戸と御子柴だ。……御子柴は凛と水戸の言い合いを見て、呆然として立ち尽くしているため、何も話してはいないが……

 

 というか、水戸と凛は初めて会ってから、まだ少ししか経っていないにもかかわらず、何故こんなにも目を合わせれば言い合いをすることが出来るのだろうか……

 

「お、おい……二人とも、言い合うのはそこまでにしとけ。御子柴がビックリしてるだろ……。凛、御子柴は初めて会うだろ?コイツは友達の御子柴だ。御子柴、こっちは妹の凛だ。」

 頭を抱えそうになる水戸と凛の言い合いを、何とか止めさせ、今日初めて顔合わせをする、凛と御子柴のため軽くお互いを紹介する。

 御子柴を紹介したのが良かったのか、凛は落ち着き、水戸との言い合いをやめて、御子柴の方へ振り向く。

 そして、綺麗な一礼をしてから自己紹介の言葉を発していく。

 

「御子柴さん。兄さんの妹の八神凛です。兄さんとは血は繋がっていない義理の兄妹なので、結婚できます!よろしくお願いします!あ、あと、もし兄さんを悲しませたり、傷つけたりするようなことがあれば、私が殺しますからね?」

「お、おう。界人の友達の御子柴陽だ。よろしく凛ちゃん…………ん?……けっ、こん?こ、殺す?え、っと、聞き間違い?」

「……御子柴……すまん、気にするな。凛も、何言ってるんだよ…落ち着け。」

 凛が御子柴の方へ綺麗に一礼をし、自己紹介をする。そこまでは良かったのだが、その後すぐに、目のハイライトを消し、怖い笑みを浮かべながら、御子柴に対して、とんでもない事を2つ言い放つ。

 それに対し、御子柴は自分も自己紹介をした後、凛のその2つの発言に対し、唖然として、固まってしまった。

 

 御子柴は俺の気にするなという言葉によって、正気を取り戻す。凛は俺の落ち着けという言葉によって、落ち着く。水戸は凛の言った言葉に反応する事なく、落ち着いている……

 ……そんな形で、この事態が終わってくれてたら良かったのだが、まぁそれで終わるわけもなく……

「兄さん、これは大事なことなのです……」

「か、界人……結婚ってなんだ!?あと、俺殺させるの!?」

「界人くん!結婚するなら私と……じゃなくて!……結婚ってどういう事!妹と結婚なんてダメだからね!私は許さないんだから!」

 

 凛は目のハイライトを消したまま俺の正面へと近づいて来る。そして、俺の襟を掴み、その目のまま俺を見上げてくる。

 御子柴は驚いたような、焦っているような表情をしながら声を荒らげる。そして、俺の右肩を掴み揺らしてくる。

 水戸は、顔を少し赤らめ、嬉しそうな、でも怒っているようなよく分からない表情をしながら、御子柴と同じく声を荒らげる。そして、俺の左肩を掴み揺らしてくる。

「グッ……ちょっ、ちょっと……待て、みんな落ち着け。凛、首が締まってきてる…二人も揺らさないでくれ…」

「ねぇ、兄さん……これは大事なことですよね……?」

「か、かか界人!お前、結婚するのか!?そして、俺は殺させるのか!?」

「界人くん!何とか言いなさいよ!結婚なんて、ダメなんだから!」

 

 落ち着けと揺らさないでくれと、言っているのにも関わらず、三人ともその事を聞いてくれない。

 凛はまだ目のハイライトが消えて怖い笑みのままだし、襟を掴んでいる力がどんど強くなってきている。そのため、俺の首が締まり始めてきて、息苦しい。

 水戸と御子柴は落ち着く様子はなく、声は余計に大きくなっていく。その上、二人とも揺らす力も大きくなってきているため、肩が痛いし頭も変に揺らされ気持ち悪い。

 

「ウェッ……首が……気持ち悪っ……みんな落ち着け、頼むから。話が進まない……」

「ねぇ……兄さん……」

「なぁ!界人!」

「ねぇ!界人くん!」

 今から闇市場に乗り込もうしているのに、俺らは何をやっているのだろうか……

 水戸や御子柴にもまだ詳しい事情は話していないため、話さないといけない。それと…………話を聞かないといけないかもしれない。まぁこれは後でもいいか……

 とりあえず、いろいろ事情を話したり聞いたりしないといけないのに、全く進んでいないし、このままでは進まない。

 

「だぁぁぁあああ!、もう!落ち着けって言ってるだろうがぁぁぁぁあああ!」

 -----------ゴツン!ゴツン!ゴツン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、水戸さんと御子柴さんのお二人を巻き込みたくはなかったけど、闇市場に乗り込むには私と兄さんの二人では無理だと思ったので、お呼びしたと……それで、私と兄さん、水戸さん、御子柴さんの四人で闇市場について店や、外で話すのに抵抗があったため、この家に呼んだと……そういう事ですね?……頭痛い……兄さん酷いです…何も殴らなくてもいいじゃないですか…」

「そうだぜ、界人……」

「うぅぅぅ……そうよ…」

「そういう事だ……ゲンコツをしたのは、三人が落ち着かなかったからだ。話が進まなかったし、仕方なくだ。」

 全く落ち着かない三人に俺はゲンコツをかました。

 ゲンコツにより三人が落ち着いたところで、俺はなぜ、水戸と御子柴を呼んだのかなど、その他諸々の理由などを凛、水戸、御子柴の三人にしっかり説明した。

 その間、三人は俺が殴った事によりできた、たんこぶを痛そうに擦りながら落ち着いて話を聞いてくれた。

 そして、凛が最後に俺の話をまとめ、確認してくれたという訳だ。

 

 

「で?いつ乗り込むんだ?俺はもう準備万端だぜ!噂の状態でも闇市場は許せないと思ってたからな、潰しに行けるのはテンション上がるぜ」

「そうね。私も闇市場っていう存在は許せないから、行くなら早く潰しに行きましょ!」

「兄さん、行きましょ!私も蓮ちゃんを助けないといけないですし、私の友達に手を出した奴らに制裁を与えないといけません」

 御子柴には3日に闇市場の連中に襲われたことを話し、昨日あったことは御子柴にも水戸にも包み隠さず話した。

 その後、御子柴も水戸も、そして、凛も勢い良く立ち上がり、今すぐ乗り込み潰そうと、気合が入っているからなのか、簡単に言ってくる。軽い気持ちで言っていないのは分かるのだが、それでもそうスムーズには事は進まないだろう。

 だからこそ、助っ人を呼んだのだ。その事をこの三人は忘れているのだろうか……

 

「とりあえず、落ち着け。そんな簡単に乗り込んで潰せる所じゃない。そんなスムーズにいけるなら俺一人でやってる。今から行く所は下手をすれば死ぬ可能性もあるんだ。軽い気持ちで言っていないのは分かっている。気持ちが熱くなっているのも分かっている。気持ちが熱くなるのはいい事だと思うしな……でも、だからこそ冷静でいろ!そして、覚悟はしっかり決めとけ。」

「そ、そうだな……すまん、熱くなりすぎた」

「う、うん……そうだね…ごめんね界人くん…冷静にならないと」

「すみません兄さん……昨日でわかってた事なのに……」

 俺の言葉を聞き、少し落ち込み気味で、三人は謝ってくる。

 別に俺は謝って欲しくて言ったわけではないので、落ち込んで欲しくはないのだが……まぁそれでも少し冷静になれたようなので良しとしておこう。

 それに、まだ乗り込む時ではない。俺は話すことは話したが、まだ聞かないといけないことがある。その為に、話をするために、そこにいるのだろうから…

 

「それに、俺は話すことは話したが、まだ話していない人がいるからな……それを聞いてからだ。……ここにいるという事は全て包み隠さず話してくれるって事ですよね……高原先輩」

「なんで界人くんにはバレちゃうかな~……見えなかったと思うんだけど……」

 俺がそう言うと、先程まで何も無かったところに、急に先輩の姿が現れる。

 先輩が姿を見せた瞬間、水戸と御子柴はは言葉を失うほど驚いていた。

 かくいう俺も、付けられている、近くで見られている、というのは先輩特有の視線から感じていたのだが、まさか姿を見えなくしているとは思っていなかったため、多少ではあるが驚いてしまう…

 そして凛はというと……

「に、にににに兄さん!?ふ、不法侵入者です!で、電話しないと!警察!い、いや、兄さん今すぐ退治してください!」

 ものすごく動揺していた……

 

「落ち着け、凛。この人は高原先輩。学園の2年生で知り合いだ。それにしても、まさか消えているとは……驚きですよ高原先輩。」

「私の元素は八神くんと一緒で雷。雷はね、言わば光と一緒なの。だから、雷を光として体の周りに展開させる事によって、人から見えなくなることができるのよ。」

 

 高原先輩が俺と同じ雷の元素使いで、しかも雷の元素にそんなことができるという事に今日いちばん驚いた。

 しかし、今はそんなことに、驚き時間を浪費する訳にはいかないため、話を元に戻し、もう一度先輩に問いかける。

「雷にそんな使い方ができるとは初めて知りました。まぁ纏いのできない俺には到底無理なことですけど……覚えておきます。それで、先輩。なにか話すことがあるからここにいるんですよね?」

「うん……今日は界人くんに……ううん、水戸ちゃんにも御子柴くんにも、そして、凛ちゃんにも、全員に話すことが、言わなくちゃいけない事がある。……聴いてくれるかな?」

 先輩が俺たちにそう問いかけてくる。それに対し、水戸、御子柴、凛、そして、俺もしっかりと首を縦に動かし頷く。

 先輩はそれを確認したあと、少し微笑みながら「ありがとう」と告げる…そして、

「まずは謝らせて欲しいの……凛ちゃん、水戸ちゃん3日はごめんなさい……」

 先輩はまず、凛と水戸の方へ向き、そして頭を深々と下げ謝罪の言葉を告げた。

「どういう事ですか?先輩……なんで私たちに謝るんです?」

 それに対し、水戸は冷静に疑問で返す。凛もそれに納得なのか頷いている。

 

「私ね……闇市場の一員なの。その時に襲った5人の内の一人。だから、ごめんなさい」

「なっ……」

「闇市場の!?な、なんで!」

「ッッ!!」

 先輩の闇市場の一員だという告白に対し、御子柴は驚き、水戸は声を荒らげ、凛は戦闘態勢をとる。

 まぁこれが普通の反応だろう。でも、今はしっかり、最後まで先輩の話を聞かなくてはいけない。俺たちは、聴くと頷いているのだから。

 

「水戸、凛。落ち着いて、最後まで聞くんだ。……でも、先輩。何か理由があるんですよね?闇市場の一員になった理由が。」

 落ち着け、と言うのも無理なことだろうが、それでも凛と水戸は俺の言葉を聞き、ソファに座り直す。

「やっぱり凄いね、八神くんは……そんな事まで分かっちゃってるんだ……」

「いえ……ただの推測ですよ。あの場で、唯一あなたは俺たちに悪感情を気持ち悪い視線を向けてこなかった。そして、今日ここに来た。その事から、何か理由があるんじゃないかと思ったまでです。」

 俺のその推測は当たっていたのか、高原先輩はしっかりと頷く。

 

 そして、弱々しい声ではあるが、なぜ闇市場の一員になったのか、なぜ水戸と凛を襲ったのか、その全てをゆっくりと話し始めた。

 俺たちも、その先輩の言葉を遮ること無く最後まで聞いた。

 

「うん……そうだね。八神くんの言う通り、私が闇市場の一員になったのは理由がある。それはね…お父さんと弟を闇市場の連中に連れ去られ、人質にされたからなの。闇市場の連中はこう言ってきた。『無事に二人を返して欲しければ闇市場の一員として私の力を使え』って……だから、私は従った…お父さんや弟を助けるためには従うしかなかった。……こんなのは言い訳になるのは分かってるよ。でも、その時は本当にそうするしかなかったの。その考えしか……従うという考えしか思いつかなかった。だから、私は仮面をかぶった。闇になることを決めた。……お父さんを弟の誠也を護るために。でも…でもね…辛かった。しんどかった。胸が痛かった。仮面をかぶることが、闇に染まることが……耐えきれなかった。……私の大切な家族、お父さんや誠也を奪った、闇市場が憎かった。その闇市場が存在できるほど醜いこの世界が憎かった。だから、内側から潰そうとした。何度も何度も何度も!でも私では無理だった……だから…だから!私よりも強い人に頼ることにしたの。でもただのAランクでは無理。私は仮面をつけ闇市場の連中に悟られないように探した。闇市場を潰せる人を。それほどの力を持った人を。そんな時に見つけたのが、Aランクを倒した一年生、という噂。つまり八神くんだった。私はその噂に(すが)った。だから八神くんに近づいた。そして、私は八神くんに決めた。私の仮面を見破った八神くんに。でも、話をしているうち思ったの。この人は私の話を聴いたからって闇市場を潰すのに協力はしてくれないって……だから、八神くんが介入せざるを得ない理由を作ることにした。それが、3日の出来事。八神くんと話したり、調べたりしているうちに、八神くんは身内の人にはとても優しくて、大切な人は何があっても護る人。それが分かったから、水戸ちゃんと凛ちゃん、八神くんの大切な人が二人いる時を狙った。……それが私が闇市場の一員になった理由。そして、3日に凛ちゃんと水戸ちゃんを狙った理由……本当にごめんなさい……こんな事をしたのに、ずっと仮面を付けて隠してきたのに、言えることじゃないのは分かってる。でも…お願いします……お父さんを、誠也を助けてください。私を……助けてください……お願いします」

 

 最後の方は先輩は涙を流し、泣きながら説明し、そして、頭を深く下げお願いをする。そして今も尚頭を上げることなく頭を下げている。

 

「界人……」

「界人くん……」

「兄さん……」

 水戸と御子柴、凛の三人はその先輩の姿を見た後俺に視線を移し、俺の様子を伺ってくる。

 三人ともとても不安そうな表情をしている。

 何をそんなに不安そうにしているのだろうか。俺が今ごろ闇市場に乗り込むのを止めるとでも言うと思ったのだろうか。それとも先輩のお願いに応えないと思ったのだろか。

 

 まぁ確かにいつもの先輩のままであったのなら、俺は真剣に話を聴くことも無かっただろうし、お願いもなんとも思わず無視していただろう。

 でも、今回は違う。

 

「三人とも、そんな不安そうな顔で見るなよ……さて、行きますか、闇市場を……潰しに行きますか。」

「おう!」

「もちろんよ!」

「行きましょう!」

 俺がそう言いながら立ち上がり玄関に向かおうとすると、御子柴、水戸、凛の三人は笑顔で頷き、俺の後についてくる。

 だが、先輩は目を見開いたまま、俺の方を見て動かない。

 

「何してるんですか?先輩。行きますよ。助けに行くんでしょ?お父さんを弟さんを。助けて欲しいんでしょ?先輩自身を……なら早く行きますよ」

「え……い、いいの……?」

「俺は言いましたよね?もし先輩が仮面を外してくれるなら、聞きますよって……仮面を外してくれるなら、答えますよって。」

 

 そう、今回は違う。先輩は仮面をつけていない。

 そして今、先輩は仮面を外し、心の底から正直に言っている。心の底から願っている。

 

 ……だから俺はこう答える。

 

「……先輩は仮面を外し俺にお願いした。だから俺は答えましょう。助けます!だから、行きますよ!」

「ぅぅぅぅ……ありがとう……ありがとう、八神くん……」

「まぁ……もともと、凛の友達を、凛を助けるつもりでいたんです。ただ、先輩のお父さん、弟さん、そして、先輩自身。助けるのが、護るのが少し増えただけです。」

「プッ……あ、あはは……そっか、そっか。やっぱり君は優しいね……」

 

 先輩は涙を拭き、笑顔で俺の方へと向かってくる。

 他の三人も、先輩を笑顔で出迎える。

 俺はそれを少し見つめたあと、笑みが零れそうになるのをなんとか耐えながら、玄関へ向け歩き出す。

 

「さぁ……行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 




捻くれ者の最弱最強譚#21
いかがでしたでしょうか。
やっぱり文章を書くのは難しい……

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