捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#16

「とうちゃーく!ここがららぽーとだよ。中央5番地区の中で最大のショッピングモール!」

 中央5番地区の駅からバスに乗り、約40分。どうやらようやく到着したようだ。

「へぇ~、デカいな。………………港ではないんだな。」

 PORT、港と言うぐらいなのだから、周りに海でも見えるのかと思うかもしれないが、海なんて見えない。

 そもそも、中央区なのだから、海なんてものがあるはずはない。

 分かっている。だが、もしかしたら……なんて想像したり、期待したりするのは、いけない事ではないだろう。

 

「界人くん、まだ言ってるの?それ……。そんな事より、行くよ!」

「うぉっ…ちょっ、おい!」

 水戸は元気よく『行くよ!』の所で片方の腕を上げ、そして、もう片方の腕は上げず、俺の手を取り急に走り出す。

 

 

 

「それで、水戸ここには何しに来たんだ?」

 今はもう、ららぽーと、やらの中にいる。

 今さっきまで水戸は俺の手を取っていたのだが、俺が『逃げないから離してくれ』と言うと離してくれた。

 そして、中に入り少し歩いていたのだが、ふと、そう疑問に思ったのだ。

「何言ってるの、界人くん。界人くんにいろいろ紹介して上げるって言ったでしょ!ここはその一つ目。ここは、映画も見れるし、ご飯食べる所もあるし、ショッピング出来るし……結構いい場所でしょ?」

「お、おう、そうだな」

 

 正直に言うとこんな所を紹介してもらっても行くことはもうないと思うので、意味は無い気もするが……

 まぁ水戸が楽しそうなので、黙っておくことにしよう。

 

「うーん…昼はここで食べるとしても、まだ早いから……」

 水戸はショッピングモール内に設置してある時計を見て、何かぶつぶつと呟いている。

 ちなみに今の時刻は11時半。昼ご飯を食べるにはまだ早い時間だろう。

「水戸、どうする?ご飯にはまだ早いし……」

「ショッピングして、時間潰す?……でも、界人くんあまりショッピングには興味無さそうだし……ゲームセンターに行く?……うーん、それも興味無さそう……」

「お、おーい、水戸?」

 水戸は急に腕を組み、何かを考えているのか、うーん、と唸りながら小さな声で呟いている。

 何かはわからないが、よっぽど真剣に考えているのだろう。俺の声が聞こえていないようだ。

 

「ただ歩き回るだけじゃここに来た意味ないし……やっぱり、ショッピングモールって言うぐらいだし、なにか買い物をしたい……服買ったり…………服……」

 そこで、水戸は急に、閃いた!と言うようなポーズをとる。

 そして、うんうんと自分で頷きながら、まだ小さな声で何かを呟き始める。

「うん、そうだよ。服だよ。界人くんに私に似合う服を選んでもらったり、私が逆に界人くんに似合う服を選んだり……うん!恋人っぽいし、デートっぽい!えへへ…恋人……デート……えへへへへ」

 

 最後の方はなぜか顔を赤くし、頬に両手を当てながらニヤニヤしたような笑みで笑いだした。

 声が小さく、何を言っていたのはわからなかったので、俺からすると、いや、周りからすると、相当危ない子に見える…

 その証拠にさっきからいろんな人に見られている。

 

「お、おーい、水戸。そろそろ……って、うぉっ!?」

「界人くん!ここはショッピングモールです!なので、ショッピングをします。買い物をします。服を買いに行きます!」

「お、おう……わ、分かったから。落ち着け…」

 俺が、まだぶつぶつと呟きながらニヤけている水戸に声をかけ、いつもの水戸に戻ってもらおうとした。

 しかし、その瞬間水戸は急に復活し、俺の肩を掴み、ものすごい勢いで、早口で言ってくる。

 

「ほら行くよ!今すぐ行くよ!」

「だから落ち着けってば!」

 

 そして、俺は水戸にまた手を取られ、すごい勢いのまま服屋のある階へと向かっていった。

 そして、俺はこのららぽーとにいる間、凄く元気のいい水戸に連れ回されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「どう?界人くん。右と左、どっちが似合う?」

「どっちも一緒に見えるんだが……」

 水戸は両手に持った服を俺にどちらが似合うか意見を求め、見せてくる。

 だが、その水戸が持っている服は二つとも同じような、というかほぼ同じものだ。

「全然違うよ!ほらココとか!」

「そのワンポイントだけかよ……」

 水戸は服についている刺繍を指さす。

 ほんとにそのぐらいしか変わったところがない。

「そんなこと言わずに!どっちが似合う?」

「ハァ……じゃあ右で……」

 俺は水戸が右手に持っている服の方に指を指す。

 その服には花の刺繍が入っている。紫陽花(あじさい)の刺繍だ。

 確か、紫陽花の花言葉は元気な女性、という意味があった気がする。

 それなら、水戸にピッタリだし、似合っている。

 

「それじゃ次ね!これとこれならどっち?」

「まだやるのか?」

「いいから、いいから。」

「へいへい……」

 一つ選ぶと、水戸はまた違う服を持ってくる。次は色が違う服。

 その服も、俺がどちらかを選び、そしてまた水戸が新しい服を見つけて見せてくる。その繰り返し。

 

「あ、そうそう、次は界人くんの服も選ぶからね!」

「いや、俺のは別に……」

「いいから選ぶの!」

 水戸は自分の服を二つ探しながら、思い出したかのように俺に言ってくる。

 正直、ファッションなどには興味もないので、選んでもらうほどでもないのだが……

「ふんふんふふん、ふ~ん……♪フフッ」

 水戸は楽しそうに鼻歌を口ずさむ。その上、笑顔だ。

 まぁ水戸が楽しそうだから、良しとしよう。

 だから……

「界人くん!これとこれならどっち?次は界人くんの服選ぶからね!」

「はいはい、了解。」

 

 今はこの流れに身を任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構買ったから、荷物多いな……少し持つよ」

「ありがとう!」

 そう言い俺は水戸の持つ荷物の半分ほどを受け取る。

 

 服屋で俺の服を見て、昼食を食べた後、雑貨屋、アクセサリーショップ、メガネ屋、などいろいろな場所に寄り、いろいろ買った。

 ほとんど買っていたのは水戸だけだったが、俺も一つだけ買った。

 

 

 そして今は昼の3時過ぎ。あらかたショッピングを終え、ららぽーと出て、また違う場所にバスで向かっている。

 どこに向かっているのかは、着くまで内緒ということらしい。

 

 

 約10分間、バスに揺られながら、水戸と話していると、先程までいたららぽーとと同じくらいの大きい建物の前にバスが止まる。

「ここだよ、界人くん。降りよ」

「おう」

 どうやら、次の目的地はここのようだ。

 バスを降り、その建物を見上げる。とりあえず、デカい。その一言しか出てこない。

 

「水戸、ここはなんだ?」

「ジムだよ!」

「はい?ジム?」

「そうだよ、ほら」

 水戸はそう言いながらある一点を指さす。

 そこには【エレメンタージム】とデカデカと書いてあった。

「エ、エレメンター……ジム?」

「そう、ここは元素使い専用のジムなの!トレーニング機器や施設がしっかり整ってるし、闘技場もあるから試合もできる。それに、仮想の敵とも闘うことも出来るから、1人で来ても闘えるし、自分の実力も把握しやすい。結構人気なジムなんだ!」

「へ、へぇ~……ま、まさか……」

 

 すごく、嫌な予感がする。

 ここの説明を水戸がする時、闘技場がある、の部分をすごく強調していた。そしてすごいい笑顔を俺に向けていた。

 つまり、水戸はここにトレーニングに来たのではない。俺にここを紹介したくて来たのではない。

 なら、何をしにここに来たのか…………

 

「てなわけで、試合しよ、界人くん!」

「ハァ……やっぱりか……」

 そう、俺と試合をしたくてここに来たのだ。

 どれほど試合がしたかったのか。いや、違うか……どれほど俺に勝ちたいのか、今俺の前にいる水戸の顔を見れば、その気持ちが手に取るようにわかる……

「ほら!行こ、界人くん!」

 水戸はそう言い、楽しそうにスキップでジムの方へと向かっていく。

 

「ハァ……休みの日でも試合を申し込まれるとか……めんどくさい……」

 俺は今まさにジムの中へと入って行こうとしている水戸の背中を見ながらそう呟くのだが……その声は、この気持ちは水戸には届かないだろう。

 

 

 

 

 

 

「あーーー、また負けたーーー!ハァ……ハァ…なんで勝てないのよ!」

「ハァ……ハァ…ハァ……キッつ…」

 

 あれから俺と水戸はすぐに闘技場の方へと向かい、試合を開始した。

 約15分くらいの試合だったが、結果はこの通り俺の勝ちだ。

 水戸は開始早々、とりあえず、攻撃を仕掛け、俺を近づけさせないようにし、俺はそれを避け少しづつ水戸に近づいていく。

 そして、ある程度近づくと足に元素を溜め、圧縮したのを解放する。そして、一気に近づく。

 いつもならそれで終わっていたのだが、今日はそう簡単にはいかなかった。

 水戸もとっさに攻撃を近距離の攻撃に変え、対抗してきたのだ。

 そうなれば元素量が少なく、元素濃度が低い俺は一気に不利になる。

 まぁ何とか、最後は水戸の後ろを取り、勝てたが、ギリギリだった。

 

 息が切れ、キツそうにしているのがその証拠だ。

 

「最後の速すぎ……見えなかった…何よあれ」

「元素をより圧縮し、一点に集中させただけだよ。まぁそれは最後の最後に、水戸が焦って大技を打とうとして、大きな隙を作ってくれたから出来たことなんだけどな……」

「うぐっ……で、でも、普通そんなことできないわよ……」

 まぁそうだろう。俺もこれを出来るようになるまですごくトレーニングした。

 元素を、体内で正確に迅速に操ると言うのでさえ苦労したのだ。

 それを()()()()圧縮し、()()()()正確に一点に集中させる。そんな事が簡単に出来るわけもない。

 長年そのトレーニングをしてきた俺で、やっと2日前にできるようになったのだ。

 

「まぁ、すごい集中しないといけないから、隙が大きいけどな。……動きながらでも出来るようにしないと……今トレーニングはしてるけど、それが中々な……」

「動きながら、攻撃しながらそんな事されたら、たまったもんじゃないよ……もうほんとに勝てなくなる……」

 

 次の人達が使うため、邪魔にならないように、そんな会話をしながらとりあえず闘技場を出るため移動する。

 そして、すぐ近くにあった休憩室のベンチに座り一息つく。

 

「ねぇ、界人くん。その元素の操り方教えてよ。」

 休憩室に移動してから、約5分ほど、お互い何も話さず、ストレッチをしたり、汗を拭いたり、水を飲んだりしていたのだが、急に水戸からそんな事を言われる。

 

「元素の操り方って……水戸も操ってるだろ?全身纏いもしてるし、物質を飛ばして遠距離攻撃とかもしてるじゃないか。」

「そ、そうじゃなくて……より精密にって言うか……界人くんみたいに、元素を圧縮したりすることが出来たら、もっと強くなれるかなーって。ううん……強くなりたい!だから……」

 水戸は俺にそう訴えかけてくる。

 それも、これまでに見たこともないほどの真剣な顔で、真剣な眼差しでだ。

 水戸は心の底からそう思っている。そう願っている。『強くなりたい』と。

 俺のこの技術が、少しでも水戸の願いに近づくための道になるのなら……

 

「ハァ~……分かったよ。でも、これは俺が、まだ型も何もついていない小さい時から毎日欠かさずトレーニングしてきたから出来んだ。それに俺だから、出来たと言ってもいい。父さんに昔そう言われたしな……だから、もう戦い方や元素の操り方、いろいろ型が出来上がってしまっている今の状態では難しいと思う。しんどいと思う。努力次第で出来る様にはなるが、出来ても俺のやっている事の半分ほど出来ればいい方だ。それでもやるか?」

 変な期待は持たせない。

 その為にハッキリ言葉にする。

 結構辛いことを言った。現実を突きつけた。その上でやるかどうか聞いた。

 それでも、それを聞いている間、水戸の顔は沈むことなく、真剣な顔付きは変わらない。いや、それ以上に決意のこもった顔つきに変わった、気がする。

 

「うん……お願い、します」

「分かった。それじゃ、トレーニング室行くか」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ハァ……こ、こんな事を界人くんは体内でやってるの?」

「まぁな」

 今はトレーニング室で水戸に元素の圧縮の仕方を教えている。

 もちろん体内で、ではなく、全身纏いをした状態で、だ。

 トレーニングを始めてから約2時間半もの間、水戸は全身纏いの状態で、右拳を前に突き出した状態で立っている。

 周りから見れば、何をしているのか分からないだろうが、水戸は今その拳に元素を集めようとしているのだ。

 

「水戸は全身纏いは出来るんだから、後はその状態でどれだけ元素を圧縮出来るかだ。今の水戸はせっかく全身纏いしているのに、ただ纏っているだけ。それだけでも確かにすごいことなんだけど……」

「もったいない……って事だよね」

「あぁ」

 そう、もったいない。まぁこれは水戸だけに言えることじゃない。

 纏いができる者全員に言えることだ。

 確かに、変換し可視化させた元素を体に纏う。それだけでも纏っていない人より攻撃力は高いし、防御力も身体能力も高くなる。

 でもそれだけなのだ。

 だから、結局纏っても元素量の少ない者や元素濃度の低い者は、元素量が多く、元素濃度が高い者に勝てないと言われるのだ。

 

 じゃあ、単純な質問だ。

 纏いは何のためにしている?

 答えは、攻撃力、防御力、身体能力を上げると言うのもあるだろうが、一番は元素を操りやすくするためだ。

 

 なら、纏った状態で、攻撃をする時、防御をする時、移動をする時、その場所に元素を集中させることもできるはずだ。

 そうすれば、もっと攻撃力も防御力も何もかもが数段高くなる。

 だから、もったいない。という訳だ。

 

 まぁ、それが出来ないから……いや、出来ないと思っているから、今この世界はランクがすべてと言われているんだろう。

 

「これは……なかなかしんどいね……全然集まらないし……できるまで時間がかかりそうだよ」

「そう簡単にやられたら、俺が困るっての……とりあえず、無理しても意味ないし、今日はここまでにしようぜ。試合もしたしな。」

「そうだね……じゃあ、帰ろっか」

 時計を見るともう夕方の6時を回っていた。

 そろそろお腹も空いてきた上に、試合をしたのでもうヘロヘロだ。

 水戸の場合はそれからトレーニングもしているためもっと疲れているだろう。

 

「だな……とりあえず、ご飯食べようぜ!駅の近くでいいだろ?」

「え?いいの?」

「何だ?ダメなのか?」

「う、ううん!ダメじゃない、ダメじゃないよ!……そっかもうちょっと一緒にいれるのか……」

 まだ渡してないものもあったので、それを渡すきっかけを作るために食事に誘ったのだが、断られなくてよかった。

 最後の方、水戸はまた声が小さくなり、なんて言っているのか聞こえなかったが、もう気にしないことにした。

 

「じゃあ、行くか」

「うん!」

 

 そして俺たちはバスに乗り中央5番地区の駅へとむかった。

 

 

 

 

 

 

 そこで、何が起きるとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もぅそろそろ、突撃しようかな…ね、兄さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲット、移動。両者とも中央5番地区の駅に戻る様子。そこで計画を実行し、ターゲットを捉えます。」

『分かった……しくじらないようにな』

「了解です、ボス…」

『ブツッ……』

「……ごめんね……」

 

 

 

 

 

 

 




捻くれ者の最弱最強譚#16
いかがでしたでしょうか。

デートがこんなに長引くとは……

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