捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#13

「なぁ、界人。そう言えばさ、闇市場って知ってるか?」

 5月2日の昼休み、いつもより、食堂が賑やかに感じる。明日からゴールデンウィークということもあり、学園の生徒達は浮かれているのだろう。

 先程まで御子柴も目の前で『明日から休みだけど、なにする?何して遊ぶ?』などと元気よく騒いでいた。水戸は騒いではなかったが、終始笑顔で『そうだね~。』などと御子柴の話に乗っていた。

 

 まぁそんな感じで、昼休み中はずっと水戸と御子柴は休みの事で盛り上がりながら話しているものだと思っていたのだが、御子柴が急に真剣な顔を俺の方に向け、そんなことを言い出した。

 

「なぁ、御子柴……お前ってほんと色々と急だよな。さっきまで休みの事で盛り上がってたのに、なんで急にそんな真顔できるんだよ……」

「いや、なんか前噂で聞いて、その事を界人に聞いてみようと思ってたんだけど……それを今思い出してさ。それにこの話は笑いながらできる話じゃないからな。」

 

 それなら、今、休みについて盛り上がっていた時じゃなく、下校中とかでも良かったのでは?と思うのは俺だけだろうか……

 まぁあの御子柴が真剣な顔で聞いてくるということは、それだけ大事なことなんだろう。

 水戸もそう思ったのか、真剣な顔で俺と御子柴の会話を聞いている。

 

「闇市場……ねぇ~…噂で名前を聞いたことがあるってだけだな。詳しくは知らない。」

 闇市場…。3日程前の下校中だったか、水戸、御子柴と別れた後、自宅の近くで近所の奥様連中が話していた内容の中から『闇市場』という単語が聞こえてきた。

 ただそれだけの知識。名前を聞いたことがあると言うだけ。

 

「で、その、闇市場がどうしたんだ?」

「私も名前は知ってるけど、詳しくは知らない……」

 どうやら、水戸も知らなかったようだ。という事は、そこまで広まっている噂ではないと言うことなのだろうか。

 

「界人も水菜さんも知らないのか……俺も噂で聞いたくらいだから本当かどうかは知らないだけどよ、」

 御子柴はそこまで言うと、周りを見渡し、顔をテーブルの中心へともってくる。

 そして、先程よりも声をもっと小さくし、続きを話し始めた。

 

「その闇市場って所で人身売買らしきものが行われているらしい。正確に言うと、人間達…大人達が、元気な子供達を奴隷として売り捌いたり、力を得るために悪魔に自分の魂じゃなくて、他人の魂を与える、いえば生贄だな。そんな事をやってる場所があるらしいんだよ」

「な、なによそれ!」

「ちょっ、水菜さん、声でかいよ!」

 

 水戸が驚くのも無理はないだろう。俺も少し驚いたくらいだ。まぁ声に出してはいないが。

 人身売買。昔、ホントの大昔にそんな事があったという事は授業で習ったことがある。でも、元素使いが現れ出してからは、そんな事も減ったと言われていたのだが…………

 

「それで?まだあるんだろ?御子柴」

 御子柴はまだテーブルの中心に真剣な顔を近づけたままだった。

 つまり、まだ何かあるのだろう。大きな声で話せない何かが。

 

「あぁ、ここ最近、元素使いや無能力者達が老若男女問わず、行方不明になっているって、ニュースでやってるだろ?」

 確かに最近そんなニュースが多かったような気がする。それに今日の朝もそんなニュースをやっていたのを見た。

 それを見た時は、正直、へぇ~としか思わなかった。

 だが、今御子柴から闇市場の噂について聞いた後では、御子柴がそのニュースについて何が言いたいのかがすぐに分かった。

 

「つまり、御子柴が言いたいのはそのニュースでやっていた行方不明者は闇市場と関係がある。汚い大人達に売りさばかれ、生け贄にされている可能性があるってことだな?」

「あぁ、俺の感だけどさ……」

「なによそれ!!」

「いや、だから声でかいって水菜さん!」

 

 なるほどな……確かに御子柴の言う感は当たっているかもしれない。いや、本当に闇市場ってのがあるとしたら、十中八九、その行方不明者と闇市場は関係があるだろうな……

 

(闇市場が本当に存在しているのだとしたら………ホント、人間というのはつくづく汚い生き物だな…)

 

「で、御子柴。聞いてみたいというのは俺が闇市場を知っているかどうか、って事だったのか?」

 それだけなら、別にわざわざ聞かなくてもいいのではと思ったのだが、御子柴の表情を見る限り、どうやら聞いてみたかったことはそれだけではないようだ。

 

「いや、確かに知っているかどうかも聞きたかったんだけどよ、本当に聞きたかったのは、それを知ってる上で、その闇市場について、どう思うって事なんだけど……」

 御子柴はそう言いながら、テーブルの中心へと近づけていた顔を、前のめりになっていた体勢を元の体勢へと直して行く。

 いつまでもその体勢でいるのがしんどかったのか、それとも、その体勢のままでいると周りから怪しまれると思ったのだろう。

 

「それで?界人はどう思う?」

 御子柴は声はまだ小さいままだが、確実に聞こえる声で俺に聞いてくる。

 

 どう思う……か……

「別に、どうも思わないな…俺は世界に興味はないし、他人にも興味はない。世界がどうなろうと、他人がどうなろうとどうでもいい。って思ってるかな…」

 それを聞いた瞬間、御子柴の顔が歪んでいく。隣にいる水戸の顔までも歪む。そして、二人ともが俺に対し大きな声で怒りを顕にする。

「な、なんだよそれ!どうでもいいって、興味無いって……界人、お前、そんな薄情者だったのかよ!」

「そうよ!御子柴くんの言う通りだよ!界人くん、それは言い過ぎじゃない!」

 

 まぁ、俺は人の命なんて、世界なんてどうでもいいと言ったのだ。そんなこと聞けば、誰であれ……いや、良い奴であれば怒るのも当然のことなのだろう。

 しかし、俺の言葉はそこで終わりではない。

 

「ま、待て待て。二人とも落ち着け。声がでかくなってるぞ。」

「で、でもよ!」

「でも!」

 分かってはいたことだが、この二人はとことん良い奴なんだと分かる。ではなければこんな風に怒ったりしない。

 

「最後まで聞けって。確かに俺は他人や世界がどうなろうとどうでもいいよ。興味も無い。でもそれは、俺が知らないから、分からないからなんだよ。信じられないから。もう今の二人なら俺が言いたいことわかるだろ?」

 そう、俺は信じることが出来ない。つまり、この世界のことを信じていない。他人を信じていない。だから、どうでもいい。

「「それは……」」

 

 それに……

「それにさ、俺は…分かってる、分かりあってる友達とか、妹の凛とか……そう言う人達を、場所を護るので、精一杯なんだよ……だから、俺はこの世界のことに、他人のことに気を向けていられないんだよ……」

「そっか……」

「界人くん……」

 俺がそう言うと、水戸と御子柴は、辛そうな顔だけど、どこか嬉しそうな…そんな良く分からないような顔をしていた。

 

「えっと…………」

「やっ、がみ、く~~~~~~~ん!!!」

 俺の言葉がこの場の雰囲気を悪くしたのだろう。そう思い、この雰囲気を少しでも変えるため、話題を変えようとした時、俺の横からこの場の雰囲気にそぐわない元気な声が聞こえてきた。

 

 そして、それと同時に、柔らかい何かが俺の左腕を包み込む。

 

「なっ!?高原先輩!?」

 俺は慌てて、声が聞こえた方に振り向くと、俺の左腕に抱きつき、偽りのニコニコした笑顔を俺に向けている高原先輩の姿があった。

「つ~かま~~えたっ!なにしてるの~?」

「い、いや、別に何も……ってか離れてくださいよ!」

 俺はそう言いながら、未だ俺の左腕に抱きついている先輩を引き剥がそうとする。

 

 --------バァァァァン

 その時、俺の前の席からとてつもない音が聞こえてくる。

 俺は恐る恐るその音が聞こえてきた方へ顔を向ける。

 すると、そこには……

「な、な、ななななななにしてんのよ!!!なんで抱きついてるの!?早く離れなさいよ!ってか、界人くんもデレデレしない!!!」

 テンパりすぎているからなのか、それとも怒っているからなのか分からないが、顔を真っ赤に染め上げこちらを睨みつけている水戸の姿があった。

 

「デ、デレデレなんかしてねーよ」

 胸が当たったからと言ってデレデレなんかしてない。ただちょっとドキドキ……じゃなくて、ビックリしただけだ。

 ………………ホントにデレデレなんかしてない…

 

「そうそう。それに男の子は女の子の胸にはドキドキ、デレデレするものなんだよ~。まぁ胸のない水戸ちゃんには分からないだろうけど~」

 勝手に俺までデレデレしていると決められた上に、水戸に喧嘩を売るのは辞めていただきたい……水戸が物凄く睨みつけてくるから、どんどん精神が削れていく……

 

「な、何ですって!!!とりあえず……離れなさいってば!」

 水戸はそう声を荒らげながら、俺の右元に移動し、先輩と同じように右腕に抱きつく。そして、先輩から俺を引き剥がすためか、先輩とは逆の方に、つまり、自分の方に右腕を引っ張っていく。

 

「いやだよ~。私は八神くんに用事があってきたんだから。それに水戸ちゃんには関係ないでしょ~。」

 そう言いながら先輩も水戸に負けじと、左腕を引っ張る。

 

「っていうか、何であんたはあの日から毎日毎日私たちのところに来るのよ!」

「私先輩だよ~。先輩にあんたは無いんじゃない?それに私が会いに来てるのは、あなたたちじゃなくて、八神くんただ一人なの。」

「だから、なんで界人くんに会いに来るのよ!」

「だって~、まだ八神くん、噂について教えてくれないんだも~ん」

 

 教えてないのは、先輩が仮面を外してないからなのだが……

 先輩と初めてあった時、俺は『その仮面を外してくれるなら聞かれたことに答えますよ。』と言ったはずなのだ。しかし、あれから毎日先輩は仮面を外すことなく俺に絡んできて、そして、水戸とこのようなやり取りを毎日行っている。

 ………………っていうか……

 

「も~ん、ってあんたねぇ………とりあえず、離れなさいってば!!!」

「イ、ヤ、って、言ってるでしょ!!」

「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!痛いから!腕もげる!もげる!もげるって!!」

「「あ、ごめん」」

 

 俺が大声で痛いことを伝えると、二人すぐに腕から体を離して引っ張るのを辞める。

 いや、ホントまじで痛かった……腕がもげるかと思った……

 

「いっ、ててて……ハァ~…水戸、何に怒ってたのかは知らないけどさ、俺の腕を引っ張るんじゃなくて、引き剥がしたいなら先輩を引っ張った方が良かったんじゃないか?先輩、先輩は俺が噂について、まだ教えてくれないって言いましたけど、それは先輩が俺の言ったことを守ってないからです…………あと、御子柴!知らない顔せずに助けろよ!」

「ご、ごめんね界人くん……」

「お、おう……すまん界人。」

 俺がそう注意すると、水戸はほんとに悪いと思っていたのか、頭を下げ謝ってくる。

 御子柴はバツの悪そうな顔をし、頭を掻きながら謝ってくる。

 そして、先輩は…………

 

「ごめんね、八神くん……二人の時なら仮面外せるからさ……」

 俺の耳に近づき、小さな声で謝り、そして、仮面についても答えてくる。

 だが、先輩はそこで終わらなかった。

「だから、」

 いや、終わるはずもなかったのだ。

 

 先輩は大きな声で、とんでもない爆弾を……

「ゴールデンウィークの休みの時に二人で、デート、しよっか!詳しい事はまた後でね!それじゃ~ね~」

 落として、颯爽と去っていった……

 

(ホント……なんなんだあの先輩は…)

 

 そして、俺は先輩が食堂を出ていったのを確認したあと、二人の方へ顔を戻すと……そこには、なぜかまた怒っている水戸と、呆れた顔をした御子柴がいた。

 

「なんだよ?二人とも…」

「デートってなに!?ねぇ!なんなのよ!」

 水戸は俺の肩を掴み揺らしてくる。

 俺はその手をなんとか振りほどき、ゆっくり水戸から一歩離れる。

「お、落ち着け、落ち着けって、水戸。なんでそんな怒ってんだよ。デートっていう言葉に対して怒ってるのか?先輩が言ったのは冗談かもしれないだろ?それに、ただ噂の話をするだけだ。あの人が二人の時じゃないと出来ないって言ったから。だから、デートじゃない。ただの会話だ、なんともないし、なんもない!」

 俺は必死に怒っている水戸を、なんとか鎮めるために事実を言ったのだが……なんで俺もこんなに焦っているのか分からない。

「もういい!知らない!」

「ちょっ、おい、水戸!」

 しかし、それでは水戸の怒りは収まらなかったのか、水戸は走って食堂から出ていってしまう。

 

「なぁ、御子柴……俺なんか怒られるようなことしたか?怒られるようなこと言ったか?……事実を言ったんだけどな……」

 俺は、なぜ水戸があんなに怒っていたのか分からなかったため、水戸が走り去って言った方を見ながら横にいる御子柴に聞いたのだが……

 

「御子柴?聞いてるか?」

 いつまで経っても御子柴から返事が来ないので、不思議に思い御子柴の方へ振り向くと…………

 御子柴は俺の事を呆れた顔をして見ていた。

「なぁ、前々から思ってたけどよ……界人って……鈍感だよな」

「はぁ?なんだよそれ。どこが?」

「ハァ~……」

「お、おい、御子柴!」

 御子柴は溜息を一つついたあと、俺を置いて食堂を去っていってしまった。

 

「…………ほんとなんなんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、水戸……まだ怒ってるのか?そろそろ許してくれよ……」

 場面は変わり、今は実技の授業中だ。

 俺と水戸はそれぞれランクで一人づつだったため、合同でやっているのだが…実技が始まってから水戸は俺と話してくれない上に顔も合わせようとしてくれない。

 

「なぁ……ハァ……なぁ水戸、何でも一つ言う事聞くからさ、許してくれないか?」

 この、『何でも一つ言う事を聞く』というのは、妹の凛が怒った時に、許してもらうために使う手段だ。

 ……水戸に効果があるかは分からないが……

 

「本当!?」

「うおっ!?」

 どうやら効果てきめんだったようだ……

 水戸は俺がそう言った瞬間、勢い良くこちらに振り向き、キラキラした目を俺に向けてくる。

 

「それ、本当なの!?何でも言う事を聞くって、やつ」

「お、おう」

 一つ、という単語は抜けていたが……まぁ気にしないでおこう。

 どうやら、機嫌は直ったみたいだ。

 

「じゃあ、私とデートして!」

「……は?」

「私と、デートして!」

「……え?」

「何でも言う事聞くって言ったでしょ!」

 言った……確かに言ったのだが、こんなお願いが来るとは思わなかったため、物凄く戸惑っている。

 水戸はそんな俺に構いもせず、まだ俺にキラキラとした目で俺の事を見ている。

「い、いや、でもデートって……」

「いいから!す、る、の!!!」

「は、はい……分かりました」

 なんとか、そのお願いだけは阻止しようと思ったのだが、すごい勢いで押し切られてしまった……

 こういう時、よく思う。男は女には勝てないんだな……と

 

「じゃ、じゃあ、明日ね!」

 俺が遠い目で闘技場の天井を見つめていると、水戸が明日にしようと言ってくる。

 なぜかテンションがすごく高い。

「い、いや、明日はちょっと用事が……」

 男は女には勝てない……勝てないかもしれないが、明日ではなく、もう少し後に予定をずらす事は出来るのではないかと思い、反撃に出てみる。

「用事って……ほんと?」

「ほ、ほほホントだって」

「嘘だよね」

「え、い、いや、……」

「嘘……なんだよね!」

「は、はい……」

 

 やはり、勝てなかったようだ……反撃の、はの字もさせてもらえなかった。

 まぁ、俺が嘘というのが嫌いなため、自分自身嘘をつくことが出来ないのも関係しているだろうが……それでもやっぱり、女は強し、って事だろう。

 

「じゃあ、明日ね!デート、絶対だからね!」

「はいはい、わかったよ……」

 水戸は念を押すように俺に詰め寄ってくる。そして、俺の了解をとったあと、嬉しそうな顔をしながら俺に背を向け何かやったようだが、こちらからは見えない。

 また、その時に水戸から「よしっ!」と聞こえたのだが、何が「よしっ!」なのか、俺にはよく分からなかった。

 そんなに俺にお願いを聞かせたいのだろうか……

 

 

 

 そして、その日、学園生活26日目にして初めて、水戸からの試合の申し込みはなかった。

 そして、水戸は常時、笑顔でとても元気がよかった……

 

 

 

 




捻くれ者の最弱最強譚#13
いかがでしたでしょうか。
ちょっとづつ、話は前に進んではいるけど、やっぱり長い……

でも頑張りますよ!
応援してくださると嬉しいです!
てなわけで、これからもよろしくお願いします!( -`ω-)b

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