捻くれ者の最弱最強譚   作:浦谷一人

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捻くれ者の最弱最強譚#12

「それで?先輩は俺に何を聞きたいんです?」

 先程から俺の横に立ち俺のことをニコニコとそして、ジロジロと見てくる高原先輩に聞く。

「なになに~?話してくれるの~?」

「なっ!?ちょっと!!!」

 先輩は俺のその言葉に対し、変わらない笑顔のまま俺の世へと無理やり座ってくる。しかも、横に座るだけではなく、体をすり寄せてくるのだ。

 それを見た前の席にいる水戸が、イスをガタッとならし勢いよく立っていた。

「ちょっと!界人くんから離れなさいよ!あんた失礼でしょ!」

「私はセンパイだよ~?そんなセンパイに対してその口の聞き方の方が失礼じゃないかな~?」

「水戸、落ち着け。先輩の言い分も確かだ。先輩も少し離れてください。」

 水戸はまさか俺に注意されると思ってなかったのか、一瞬驚いたような顔になったが、すぐに俺の横にいる高原先輩を睨みつける。

 そして俺は、先程からすり寄ってくる先輩を無理やり引きはがす。

「で、でも!界人くん……」

「だから落ち着けって。別に俺は噂の事は気にしてねーよ。」

「でも……さっき落ち込んでたし……」

 

 水戸は勢いよく立った時とは正反対に、ゆっくりと座っていく。顔は落ち込んだような感じになっている上に、声も元気がない。

 先程、水戸が怒ってくれてたのは俺のためを思ってだろう。

 俺が落ち込んでいたのが噂のせいだと、そして、俺がその噂を気にしていると思ったのだろう。まぁその噂のお陰で面倒なことになったりもしたし、何もしていないのに逃げられたりして、落ち込みはしたが……でもそれだけだ。別に気にはしていない。

 

「あれは、助けなのに逃げられたことに対してだよ。別に噂では落ち込んでねーよ。それにさっき水戸が自分で言ったろ?私達は分かってるからって。俺はそれでいいよ。」

 俺がそう言うと、水戸はこれでもかと言うくらい満面の笑みを浮かべ、大きく頷く。横にいる御子柴も、険しい顔つきから、柔らかいものへと変わっている。

 

「ムッ……なになに~?なんの話~?」

 高原先輩は少しの間自分を置いて会話されたことが嫌だったのか、それとも驚いたのかは分からないが、一瞬素顔が見えた、ような気がした。

 しかし、それも一瞬のことであり、すぐにニコニコとした作られた仮面が顔に張り付いている。

 

「別になんでもないですよ。それで俺は何を話せばいいんです?」

「う~ん?話してくれるの~?」

 俺が話を戻すと、高原先輩はまた俺にすり寄ってくるのだが、俺は体が密着する前に手で制し止める。

 

「あの、わざわざすり寄って来なくても、話しますので。聞きたいことがあるなら早く聞いてもらえるとありがたいんですが……」

「……………………うん、そうするね。……えっと、アレ?」

 俺が密着されるのを嫌がると、高原先輩は何故か目を見開き、驚いたような顔をする。もちろん、その顔も一瞬だった。

 すぐに高原先輩は元の笑顔になおし、制服のポケットへと手を突っ込み何かを探している。笑顔のままでだ。

 ここまで来ると逆に怖くなってくる。それに疲れないのだろうか。

 ……本当になぜ人間はこうも無理に仮面を被り続けるのだろうか。俺にはよくわからない。

 

「界人。ホントに大丈夫なんだな?」

 高原先輩が何がを探しているのを横目で見ていると、前にいる御子柴から声がかけられる。

『大丈夫』それは噂を聞かれることに対してだろう。御子柴は昼休みの時に見せていた顔とは違い真剣なものだった。その横にいる水戸も真剣な顔で見てくる。

 

「あぁ、水戸にも言ったが、別に噂については気にしてないからな。大丈夫だよ。」

 俺がそう言うと、御子柴はホッとしたような顔になる。水戸は御子柴と違いホッとした顔はしなかったが、それでも納得してくれたのだろう、渋々といった感じではあったが頷いてくれた。

 

「そっか……ならいいんだ。まぁ噂になったのも俺らが悪いところもあるしな。界人が気にしてないのなら、良かったよ。」

「私は納得してないけど……陽くんの言うことも一理あるし……」

「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう。」

 御子柴も水戸も本気で心配してくれていたのだろう。

 今噂になっているのも、他のクラスの奴らから、俺を護ると言うか遠ざけるために行っていたことだと知っている。悪意があってやったんじゃないと分かっている。

 だからこそ、俺は笑顔で大丈夫だと、ありがとうと返事をする。

(ホント……いい友達だな。俺には勿体無いくらいだよ…)

 

 

 

「八神くん、ゴメンね~。聞こうと思ってたことをメモしてた紙持ってくるの忘れちゃったみたいでね~。あはは、私ったらドジだな~」

 御子柴と水戸との会話が終わるのを、見計らったかのような丁度のタイミングで、横にいる高原先輩の声が上がる。

 横を見ると、高原先輩はゴメンね~の部分で、顔の前で手を合わせた後、すぐにてへっ、と頭を軽く小突いている。

「そうですか。」

 多分わざとだろう。先輩を見て俺はそう思う。

 この人は喋り方から天然さやドジっ娘、と言ったような雰囲気が出てはいるが、俺には全てが計算されているように感じるのだ。

 いや、感じる、では無いな。確信を持って、計算されていると言える。

 

 まぁつまり、今言った紙を忘れてきた、というのも……

(わざと……だろうな。)

 何が狙いで忘れてきたのかまではわからないが……少しだけ警戒しておいた方がいいかもしれない。

 

 そう心に決め、食べ終わった食器があるトレーを持ち、席を立ち上がる。

「それじゃ、今日は噂についてお話するのは、なしと言うことでいいですよね?では、俺たちは行きますので。」

 俺がそう言うと、水戸と御子柴も同じようにトレーを持ち、俺に続いて席を立つ。

 そして、そのままそこを去ろうと、先輩の後ろを横切ろうとした。

 が、その時、後ろから制服の端を掴まれる。もちろん掴んでいるのは高原先輩だ。

 このまま、無視してもいいのだが、食器を持っているので無理に引きはがすことが出来ない。

 水戸と御子柴は俺が急に立ち止まったことを疑問に思ったのか、少し前で立ち止まりこちらを振り返る。

 

「ハァ~……」

 俺はため息をついた後、水戸と御子柴に、『先に行っててくれ』と目線を送る。

 それを感じ取ったのか、御子柴は頷き、水戸を引き連れて、食器の返却口の方へと歩いていく。

 それを確認したあと、俺は体の向きはそのままで、顔だけ高原先輩の方へ向け、視線の端で先輩を捉える。

 

「どうしたんですか?制服、離してほしいんですが……」

「一つ……一つだけ聞いていい?」

「なんですか?」

 高原先輩の声は先程までの声色とは違い、少し暗いものへと変わっていた。

 視線の端で先輩を捉えているだけなので、表情まではわからない。

 だが、今のこの雰囲気が仮面をかぶっていない状態の先輩なのだろう。

「八神くんがAランクを倒した。って言うのは本当のこと?」

 高原先輩は俺の制服から手を離し、雰囲気は変えず聞いてくる。

 

「そう、ですね。どんな風に噂が出回っているのかは知りませんが、それは事実ですよ。」

 ここで嘘をついてもよかったのだろうが、それは水戸に失礼だ。

 だから、正直に答えた。

 

「そっか……そっかそっか~~。それは事実だったか~!スゴいね、八神くんは!今日は無理だけど、また今度、噂についてとか、他にも色々聞いていいかな?」

 俺が事実を答えた瞬間、先程までとはまた違った感じがしたが、すぐに仮面のつけた状態の先輩へと戻る。

 

「そう、ですね……先輩が今つけてる、その仮面を外してくれるなら聞かれたことに答えますよ。」

 別に話す分にはいいのだが、また次もこの仮面を付けた状態で近づかれると俺が疲れるので、それだけ忠告し、水戸と御子柴の元へと向かった。

 

「悪いな、遅くなって。」

「んいや、別にいいよ。早く行こうぜ。」

「今日こそ、勝つからね。界人くん!」

 水戸と御子柴に遅れたことを謝る。

 そして、一瞬だけ、俺たちが元いた席に未だ座っている高原先輩を見た後、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……八神くん。君はこの短時間で、私のこの仮面に気づくんだね。……うん。君に決めたよ、八神くん。君ならきっと………やっと、やっと見つけた…もう少しだから待っててねお父さん。誠也(せいや)。必ず助け出してみせるから…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一闘技場。今の時間は15時30分。

 午後の授業の実技が始まり、2時間半が経過している。実技の残り時間はあと、30分。いつもこの時間帯になると、自由時間となり、各々が決めたトレーニングをしたり、技を鍛えたり、試合をしたりなどする。

御子柴は纏いの練習をしているようだ。

 

 そして、俺はと言うと……

 

「水流弾!」

 

 水戸と試合をしていた。というか、水戸と俺が初めて試合した日から毎日水戸がこの自由時間の時に試合を申し込んでくる。

 

「当たんねーよ!」

 水戸が俺に向け、水流弾を飛ばしてくる。もちろん当たるつもりは無いため、足に集めた元素を解放し、避ける。

 

「何でよけんのよ!当たんなさいよ!……舞水!!」

 今度は避け終わった俺の周辺の地面に水色の円が浮かび上がる。

 頭上を見ると、無数の水流弾が形成されている。

「何度もこれを見てんだから、当たるわけないだろ!」

 そういい、その水流弾が当たる前に地面に浮かび上がっている円から出る。

 そして、俺も反撃するため、水戸の方を見る。

 その瞬間、悪寒が走る。水戸がこちらを見て笑っていたのだ。

 

「当たらないことくらい分かってるわよ。だから誘導しただけ。水獄(すいごく)

 それを聞いた瞬間、俺の足元には先程とは違い、範囲は狭いが、四角い模様が浮かび上がる。

「マジかよ!」

 俺を見た瞬間、俺はとっさに足に元素を集め、その模様から離脱する。

 そして、離脱したあとその場所を見ると、水でできた檻のようなものがそこに出来ていた。

 しかもただの檻ではなく、檻の中に向け無数の氷で出来た針が刺さっている。

 

「…………あの攻撃食らったらただじゃすまねーだろ。」

 舞水とは違い、範囲は狭いがその分、発動時間が、変換速度が速かった。

 何とかよけれたのだが…あと少しでも反応が遅れていたら、と思うと冷や汗が出てくる。

「何でそれもよけんのよ!」

「いや、避けるに決まってるだろ!それに水戸!お前殺す気だったな!」

「ここでは死なないわよ?」

 水戸は本当に疑問に思っているのか、首を傾げて答える。

 そういう問題じゃないと思うんだが……

 

「てか、なんで手を抜いてるの!界人くんも攻撃してきなさいよ!」

 そうしたいのは山々なのだが、それを言っている水戸本人が俺が攻撃することを許してくれない。

 俺は近距離タイプなのだ。水戸のように、全身纏いも出来ないし、攻撃を飛ばしたりもできない。

 

 試合が始まって約20分の間、水戸はとりあえず俺に攻撃を飛ばしまくり、俺はそれを避け続けている。

 でもそろそろ終わらせないとな……

 

「そうだな……じゃ試合も終わらせるか!」

「舐めないで!」

 俺は腰を落とし、両足と両拳に元素を集める。

 水戸は自分の頭上に、大きな氷を形成させている。

 

「行くぜ!」

 その瞬間、片方の足に溜めた元素を解放し、水戸との距離を縮めるため、一直線上に加速する。

凍氷剛破(とうひょうごうは)

 水戸は形成させていた氷をより大きく、そして、鋭くなるように圧縮し、こちらに向けて放ってくる。

 

 俺は今直線に加速している。そして、水戸の氷も俺に向けて飛んでくる。もちろん避ければいいのだが、その場合、もう片足に溜めた元素を解放しないといけない。そうなると避けるだけで元素を使ってしまい、また加速するには元素を溜めないといけない。

 そうなると、どうしても隙ができるし、その隙を水戸は見逃してはくれないだろう。

 

 ならどうするか……簡単だ。

 なぜ俺がわざわざ両足、両拳に元素を溜めたのか。それは……

「攻撃で打ち砕く為だよ!」

 

 俺はそう叫び、トップスピードのまま腰を捻り裏拳を繰り出す。

 まず、片足と片拳の元素……

「空裂波!」

 そして、空裂波をその氷に当て、粉砕させる。

「嘘っ!?これを砕くの!?」

 水戸が驚いた声を上げているが、俺は止まらない。

 もちろんここで、一度スピードは落ちてしまうが、問題は無い。

 

「次!」

 そして、次は残っているもう片足に溜めた元素を解放し、水戸との残りの距離を一気に詰める。

 水戸は自分の攻撃が打ち砕かれ、そのまま俺がトップスピードのまま距離を詰めてくると思わなかったのだろう、防御する態勢が整っていない。

 しかし、俺は止めることなく、そのままもう片拳に溜めた元素を解放しながらコークスクリューを繰り出す。

 

渦雷(からい)

「キャッ!?」

 

 ……………………………………

 

「え?」

 水戸はいつになっても攻撃が自分に当たらないことを不思議に思ったのか、瞑っていた目をあける。

 

 水戸に攻撃は当たらなかった。いや、当てなかった。

 俺の右拳は水戸の顔の数cm手前で綺麗に止められていた。

 

 俺はその拳を下げ、そして、水戸のおでこにデコピンをお見舞する。

「痛っ!?」

「ほい!今日も俺の勝ちな!」

 そして俺は水戸に笑顔でそう言ったあと、水戸に背を向けて、中央に集まっている生徒の元へ、正確には御子柴の元へと歩き出す。

 

 これで俺の10戦10勝。負けなしだ。

 

「もぅ!今日も勝てなかったーーーーー!」

 

 後ろから水戸の叫び声がしたが、毎回のことなのでもう気にしないことにした。

 

 

「おう!界人。お疲れさん!」

「おう!」

 そして俺は御子柴の元へ辿り着くと、御子柴と拳を合わせる。

 その瞬間、実技終了のチャイムがなる。あの日からいつもこんな感じだ。

 

 

「次は……次こそは絶対に私が勝つんだからーーーー」

 

 

 

 

 

 ……こうして、俺の学園生活16日目は無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 




捻くれ者の最弱最強譚#12
いかがでしたでしょうか。
ほんとに話しが全然進まない……バトル描写も難しいし……もっと文才があればなぁ~(◞‸◟ㆀ)
でも頑張ります!いや、頑張るしかないんです!
というわけで……応援してくださるとありがたいです。
これからもよろしくお願いします!

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