PPPのメンバー、フルルは、毎日不思議な夢を見ていた。

1 / 1
フルルとグレープ君への気持ちを抑えられませんでした。キャラ崩壊してるかも……。


夢で会えたなら

「皆さん、お疲れ様ですっ!」

 今日もライブを終えたPPPのメンバーに、ねぎらいのじゃぱりまんを配るマーゲイ。PPPのメンバー達は喜んで受け取り、じゃぱりまんを食べながら、ライブの疲れを癒やす。

「プリンセス。フルルは?」

 と、少ししてから、コウテイがプリンセスに、フルルの居場所を訊いた。

「えっ?」

 見回すと、確かにフルルの姿が見えなくなっている。

「どこ行ったのかしらあの子? 探してくるわね」

「私も行こう」

 心配ないとは思うが、万が一セルリアンに襲われでもしたら大変だ。プリンセスとコウテイは、フルルを探しに行った。

 

 

 

 フルルはすぐに見つかった。ライブが終わって誰もいなくなったステージに腰掛け、かじりかけのじゃぱりまんを手に持って、ぼんやりと空を見上げている。

「フルル! こんなところにいた!」

「まったく、あんまり心配させないでくれ」

 二人はフルルが無事だった事に安堵した。

「あ、プリンセスにコウテイ。どうかしたの?」

 肝心のフルルといえば、二人の心配など、どこ吹く風で、のんきなものだ。

「それはこっちの台詞よ!」

「どうしたんだこんなところで?」

「ん~」

 コウテイから訊かれて、フルルは何か考えるような仕草をしてから答えた。

「夢を思い出してたの」

「「夢?」」

「うん。夢」

 フルルの話によると、ここしばらく彼女は、同じ夢を寝るたびに毎日見るらしい。

「夢の中だとね、私はいつもよくわかんない場所にいるの」

「よくわからない場所?」

「うん。柵に囲われた場所でね、そこには私と同じ、フンボルトペンギンの仲間がたくさんいるの」

 フルルは続ける。

「その中にね、一羽だけ、私に話しかけてくる子がいるの。いつも私と一緒にいて、好きだよ、大好きだよって言ってくるんだよ。私はそれが嬉しくて、ありがとうって言おうとするんだけど、声が出ないの。それで、どうしたらあの子に私の気持ちを伝えられるかなぁって」

 フルルの考え事を聞いて、プリンセスとコウテイは返答に困ってしまった。夢の中の出来事など、どうしようもない。

「フルルは、その子にどうしても、自分の気持ちを伝えたいと思ってるのか?」

 コウテイが、フルルの意思を確認する。

「うん。伝えたい」

「なら、思い続けろ。思い続ければ、それはきっと叶う」

「……うん、そうだね。じゃあ私、あの子の事、思い続ける!」

「その意気だ!」

 納得してくれるかと心配したが、フルルは納得してじゃぱりまんを食べるのを再開した。

「……大丈夫かしら?」

 少し離れてから、プリンセスはコウテイに訊いた。思いだけで、望みが叶うわけがない。何せ、今回は夢の中での出来事が問題なのだ。

「私達にはどうにも出来ない事だ。時間が解決してくれるのを待つしかない」

 どこまで行っても、夢は夢だ。その内、フルルも諦めるだろうと、コウテイは思っていた。

 

 その翌日、事件は起きた。

 次のライブに向けての練習にフルルを誘おうと、プリンセスが楽屋を訪れた時、プリンセスは驚いた。

「フルル!? フルルどうしたの!?」

 フルルは楽屋で眠っていたのだが、寝ながら涙を流していたのだ。驚いたプリンセスはフルルを揺さぶり、起こそうとする。

「プリンセス!?」

「どうしたんですか!?」

 プリンセスの声に気付いたイワビーとジェーンが、楽屋に飛び込んできた。遅れて、コウテイとマーゲイもやってくる。

「ん……みんな……?」

 フルルは目を覚ました。

「また夢を見たのね?」

 プリンセスはフルルが泣いていた理由が、昨日言っていた夢のせいである事にすぐ気付く。

「うん……」

 フルルは、今回見た夢の内容について語った。

「今日はいつもと違う所にいたの。暗くて冷たい場所で、あの子が私のすぐそばにいた。つらそうで、ぐったりしてて……」

 目を背けたかったが、その時初めて身体も動かせない事に気付いた。

「あの子、私に、結局最期まで何も言ってくれないんだね。一回くらいお話したかったな、って言って、それから目をつぶって、全然動かなくなっちゃった……」

 プリンセスは察した。フルルが夢の中で会っていたフンボルトペンギンは、死んでしまったのだ。生まれて初めて、誰かが死ぬところを見た事、それがずっと気持ちを伝えたかった相手である事が重なって、フルルは悲しみのあまり泣いていたのだ。

「泣くな、フルル」

 そんな彼女に、コウテイは優しく声をかけた。

「お前の気持ちは、きっとその子に届いている。お前が泣いている姿を見たら、悲しむぞ」

「……うん……」

 フルルは涙を拭い、泣き止んだ。

 

 今日の練習は中止にして、PPPはフルルなしで会議を始めた。内容は、どうすればフルルが元気になるか。彼女の事を考えて、フルルには外れてもらったのだ。しばらく、一人になりたいだろうから。

「夢って、昨日コウテイが言ってた奴だよな」

 イワビーもジェーンもマーゲイも、コウテイから夢の話は聞いている。その上で、フルル自身に解決させる事にしたのだが、昨日の今日で急展開だ。

「正直、どうしたらいいのか私にもわかりません」

 マーゲイは、特殊すぎる状況に、解決法を見出せないでいる。

「私は、もうしばらくフルルをそっとしておいてあげるべきだと思うわ」

「私もそう思います」

 プリンセスとジェーンは、フルル自身に心の整理をさせる方法を提案した。

「そうだな。夢の事だし」

「それに私は、もうフルルは例の夢を見ないと思うんだ」

 イワビーとコウテイも賛成した。あの子は死んでしまったのだから、もう夢の続きは存在しない。その内忘れるだろうと、コウテイは思っていた。

 

 コウテイの予想通り、フルルはあの夢を見なくなった。

 だが予想に反して、フルルはフンボルトペンギンの事を忘れなかった。口に出しはしなかったが、言わなくてもわかる。練習に身が入っていないし、何もない時はぼーっとしているからだ。フンボルトペンギンの事を考えているのは、明らかだった。

 

 フルルが夢を見なくなってから、三週間後、それは起きた。

「フルルー? フルルどこー?」

 また、フルルが行方を眩ませたのだ。今度は、PPPのメンバーとマーゲイの全員で探す。

「フルル……」

 そして、見つけた。フルルだ。

 しかし、フルルは一人だけではなかった。

 誰かと一緒にいたのだ。

 それは、フルルとよく似た姿をしているフレンズ。フンボルトペンギンのフレンズだ。

 そのフレンズとフルルが、涙を流しながら、抱き合っていた。

「フルル!!」

 驚いてフルルを呼ぶプリンセス。フルルとフレンズも、驚いて離れる。

「ごめんなさい」

 フレンズは、駆け寄ってきたプリンセスに謝る。そこへ、コウテイ達も集まった。

「あなたは?」

「……ごめんなさい。わからないんです」

 プリンセスは訊ねるが、フレンズは自分の素性をわからないと言った。自分がなぜフレンズになったのか、いつからここにいるのか、全くわからないらしい。

「でも、わかってる事もあるんです」

 フレンズは、フルルに向けて言った。

「僕はずっと、この子に会いたかった。この子が誰なのかわからないけど、ずっと前から、僕はこの子に会いたかったんだって」

「私も。この子の事知らないはずなのに、この子を見てたら、すごく嬉しくなって……」

 そう言いながら、フルルは涙を拭う。

「何だかよくわかんねーけど、おめでたい事だってのはわかるぜ。同じ種類のフレンズが生まれるなんて、すっげー珍しい事なんだからな!」

「みんなでお祝いのライブをやりましょう!」

「賛成!!」

「私もだ」

「ライブのスケジュールなら、私に任せてください!!」

 新しい仲間の誕生を、みんなで祝福するPPPとマーゲイ。

「あ、でも待てよ?」

 と、ここでイワビーが、ある事に気付く。

「俺達、お前の事、なんて呼べばいいんだ?」

 フルルと同じ、フンボルトペンギンである。区別する為にも、呼び名が必要だ。

「うーん、どんな名前がいいかなぁ?」

 フレンズの為に、名前を考えようとするイワビー。

 すると、

「グレープ」

 フレンズが、そう言った。

「「「「「「えっ?」」」」」」

「グレープ。それが僕の名前。誰に付けられたのか覚えてないんだけど、ずっとずっと昔から、そう呼ばれてた気がするんだ」

「グレープ……」

 その名前を聞いて、フルルは夢を思い出した。

 夢の中で、フルルはたくさんの声を聞いたのだ。その声の中に、グレープという名前が、いくつも含まれていたのを、思い出した。

 その瞬間に、全てがフルルの中で繋がった。

 繋がった時には、再びグレープに抱きついていた。

「えっ、どうしたの!?」

 グレープは困惑している。他の仲間達も、フルルの突然の行動に、かなり驚いている。

「待ってたよ、ずっと」

 フルルは確信したのだ。このグレープという名のフンボルトペンギンこそが、夢の中で会っていたあの子だという事を。

 そして、自分を抑えきれなかったのだ。ずっとやりたかった事を、出来る日が来たから。

「私も大好きだよ、グレープ君! ようこそ、ジャパリパークへ!!」

 夢で見ていたあの子に、自分の気持ちを伝える。

 ずっとずっと夢見ていた事を、フルルは、やっと出来た。

 

 




グレープ君、ありがとう!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。