銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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帝国農奴コースへご招待……ただし。


4:僕は帝国で生まれた。

 神様と出会った覚えはないんだけどなあ。

 いわゆる異世界転生ってやつなんだろうか。

 まあ、一度死んだから、生まれ変わってラッキー、ボーナスゲームスタートォッ……などとお気楽にいきたいところなんだけど、正直罰ゲーム臭い。

 と、いうか……異世界転生と見せかけた、新手の地獄なんじゃなかろうか。

 ああ、俺の名前か?

 正直、名前にはなんの価値もない状態だけど、ヨハンだ。

 俺の知ってるだけでも、『ヨハン』は何人もいる。

 名前というか、ただの記号だな。

 まあ、名前で呼ばれることはほとんどなくて、大抵は『おい』とか、『そこのお前』とか呼ばれてる。

 お貴族様の荘園で働く、農奴ってやつさ、生まれた時からの。

 前世で、20世紀初頭のヨーロッパの鉱夫が日常で使う単語は精々600という話を聞いた記憶があるが……正直、ここの教育水準は恐ろしいほど低い。

 読み書きができる人間は数える程……というか、子供の頃はそんなもんかなと思ってたんだ。

 ただ、前世の記憶がはっきりしてくると、今の状況がものすごくチグハグなことに気がついた。

 だってさ、機械があるんだぜ。

 まあ、ぶっ壊れて修理もできずにそのまま放置されてるけど。

 機械があるのに、人力で農業。

 どんな苦行だよ。

 

 で、ついこの前。

 俺は見てしまった。

 正直腰が抜けるかと思ったわ。

 俺と同年代の、生まれた時からの農奴のガキは、ただぽかーんとしてたけどな。

 何を見たかって?

 

 宇宙船。

 

 ツッコンだよ。

 まるで機械のように、ツッコミまくったよ。

 どうなってんだこの世界ってな。

 宇宙船が飛ぶ世界で、機械が修理できずに放置、人力でへいこらと畑を耕すとか馬鹿じゃねえの?

 うん、正直目が覚めた。

 両親は文字の読み書きとか当然できないから、自力で読み書きの努力はしてたんだけど、俺は故障したまま放置されてた機械に飛びついたよ。

 まあ、専門知識はないけど、ネジの開け閉めや、目に見える範囲の清掃ぐらいはできらあな。

 休憩の合間に、あれこれやってたら、1台だけ、動き出したんだ。

『人間、やるか、やらんかじゃ』って言葉は本当だな。

 これがきっかけで、俺は目をかけられた。

 まあ、管理者のサポートっていうか、見習いみたいな感じで……うん、こいつら、中世的な住居で寝泊まりしてた俺らと違って、電化製品に囲まれた住居に住んでやがった。

 いつか殺す。

 いや、それよりも、文明開化の音がしてる、してるよ、これ。

 テレビっつーか、モニターつーか、コンピューターって、しゅごい。

 あれ、前世よりすごいはずなのに、あんまりすごい感じがしない。

 まあ、そんなこんなで、色々とわかってきた。

 

 人類はとっくの昔に宇宙に向かって羽ばたいていたってな。

 まずは宇宙時代に突入してから、銀河連邦ってのがあって、ルドルフってのが新しく帝国作って、それに反抗した反乱軍が、自由惑星同盟ってのを作って、戦争中らしい。

 これ、前世とは比べ物にならないってのがよくわかった。

 よくわかったんだけど、時々、頭に引っかかりを覚えることがある。

 お貴族様の名前とか聞くとな、なーんか、こう、ちょっとな。

 まあ、前世の記憶的には、漫画やアニメ的にはよくあるような名前なんだけどな、そのせいかもしれん。

 

 それから10年ほどすぎ、俺も大人になった。

 まあ、何歳かなんて全然わからないんだけどな。

 自分で言うのもなんだけど、俺は担当の荘園を、ほかに比べてかなり効率よく回せてると思う。

 機械の修理、農奴たちへの適度な休息やら食事やら。

 それは良いんだが、どうも最近帝国の治安っていうか、様子があまりよくないらしい。

 貴族同士の争いっていうか、権力争いなんだろうけど……まあ、うちの貴族様は帝国で1、2を争う派閥のトップらしいし、なんとかするだろ。

 まあ、歴史的には、ダメな時はダメなんだけどな。

 正直、俺の所に届く情報なんて大したものじゃないんだろうけど……それは前世でも一緒だったしな。

 まあいいや。

 明後日には、収穫がひと段落するから、農奴連中をねぎらうために酒と、ちょっとしたご馳走を振舞ってやるつもりなんだ。

 あんまりおおっぴらにやると、ほかの荘園の管理者連中から文句を言われるからあれだけどな。

 

 お、宇宙船が団体で飛んでいく。

 

 宇宙か。

 行けるものなら行ってみたいけどな、多分俺はこのままこの星で一生を過ごすことになるんだと思う。

 欲を出せばキリがないというか、まあこんな人生もありだろう。

 管理者とは言っても、所詮俺は農奴だ。

 みんなに、仲間の農奴たちに、ほんの少しだけいい目を見せてやる。

 俺は、そのことだけを考えて生きていこうと思う。

 ははっ、前世ではあんまり意識したことはなかったけど、生まれ故郷に愛着を持つのは自然なことだよな。

 うん、俺はこの星が……生まれた時から居るこの荘園が好きだよ。

 そうそう、この前ようやく、この星の名前を知る機会があったんだ。

 生まれ故郷だからな、やっぱり、名前ぐらいは知っておきたかったし。

 ヴェスターラントって言うんだ。

 

 ……っと、おかしいよな。

 生まれ故郷の星の名前なのに、それを口にすると、なんだか胸騒ぎがするんだぜ。

 変な話さ。




話の展開上、『胸騒ぎ』なんて表現してますが、実際は情報も制限されて、銀英伝の世界と気づくこともなく、終わっちゃうでしょうね。

10月21日、ラストに至るまでの流れを少し修正しました。

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