銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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女の子です。


3:私はフェザーンに生まれた。

 あ、銀英伝の世界だ。

 少なくとも、それに近い世界。

 萌えた。

 ついでに、燃えた。

 その時の私は、幼女として浮かべてはいけない表情をしていたと思う。

 

 なんとかしてキルヒアイス様を助けて、ラインハルト様との真実の愛に目覚めてもらおう。

 

 そういう腐った思考がオーバードライブ状態だったといえば理解できるかしら?

 まあ、3日ほどで冷静になって(両親によって病院へ運ばれました)愚考したところ、私は何らかの事故か病気で意識を失い、穏やかな夢の世界に流されているのではないかと。

 つまり、記憶持ち越しの転生などではなく、私は21世紀の日本の病院で意識を失ったまま治療を受けている状態で、夢を見ているってとこかな。

 ラノベや二次小説じゃあるまいし、既存創作世界に転生とか、ないない。

 銀英伝が好きだったから、夢の世界で近似の世界を構築。

 夢も希望もないけど、現実ってのはこんなもんでしょ。

 

 ……まあ、気になるところはあるんだけどね。

 現世(リアル)で日本語以外ほとんどわからないはずなんだけど、この夢の世界の帝国言語と同盟言語の体系がやたらしっかり成立してるし、専門書に目をやれば、私の知らない専門知識が学問として成立していたりする。

 

 やるわね、私の無意識。

 

 と、いうわけで、私はフェザーンに生まれたわ……夢だけどね。

 うん、そうやって自分に言い聞かせておかないと。

 ちなみにフェザーンは帝国自治領。

 原作では、自治領主のルビンスキーが、フェザーンの黒狐とか呼ばれて、暗躍してたわね。

 でも、今の自治領主は、全然聞き覚えのない名前なんだけど……原作で言うところの、どのあたりの設定なの?

 あれ、これは私の夢で、なのに妙にリアルで……。

 

 さすが私。

 

 さて、貴族でも何でもない私が、ラインハルト様の旗のもとに集い、キルヒアイス様の命をお守りするためには……えーと、帝国では女性は軍人にはなれないんだったかしら?

 ……まあ、男尊女卑社会だしね、おそらくは後方勤務のみで前線には出られず、下手すりゃバカ貴族の慰みもので、どのみち出世は無理っぽいはず。

 くたばれ、帝国。

 やっぱり、ラインハルト様は正しい。

 

 なんにせよ、自分磨きは必須よ。

 夢だけどね、夢なんだけどね。

 日々を過ごすごとに、そのリアリティに心が折れそうになるけど、これは夢。

 外見の美しさはもちろん、中身も気高く。

 あら、ラインハルト様なら外見は気にしないって?

 馬鹿なこと言わないで。

 ラインハルト様、キルヒアイス様、ロイ様……あの、絵になるキャラのそばにモブが近づいたら台無し。

 ふふふ、さすがは私の夢。

 夢の中の私は美しく、優秀なの。

 

 ……夢から覚めた時のギャップで心が折れるんじゃないかしら、私。

 

 なんかいろいろなものを吹っ切る為に、私は自分磨きに没頭したわ。

 美しくて優秀な私だったけど、思い通りに行かないことも多い。

 フェザーンは商業国。

 うん、だけど帝国領だから……帝国にも同盟にも足を運ぶのは難しくはないんだけど、出世というか成り上がりのためのルートがないというか、か細いの。

 まず女だからね。

 帝国方面においては、どうしてもネックになるわ。

 これは商売を行う上で、どうしても足を引っ張る要素になる。

 それに、商売はまず元手が必要というか、人脈も必要で、そもそも商売で成功するということと、私の目的がねじれの関係にあるような。

 でもお金は大切。

 お金を稼ぐ手段と、コネを得る手段。

 なんというか……女っていろいろ不便ね。

 

 ああ、うん。これは夢。

 

 胸を張って言うわ。

 私の武器は美貌ですって。

 もちろん、頭脳にも自信があるけど、そもそもそういう立場にならないと、頭脳の優秀さなんて発揮しにくいから。

 まずは、男を1ダースほど転がして、良い女と呼ばれてみせるわ。

 計画、実戦、反省、修正、そしてまた実践ってことよ。

 女は生まれた時から女優。

 見てなさい。

 

 ……ちょっと予想外の展開です。

 それなりに内容の濃い経験を積んだ私の目の前に現れたのは、アドリアン・ルビンスキー。

 原作で言うところの、フェザーンの黒狐……よね?

 そう呼ばれる前の、お狐さん?

 というか、もっと若くてキラキラしてる感じ。

 下世話な言い方をすれば、私よりはもちろん年上だけど若くていい男。

 アニメ版とは随分……ふさふさだし。

 あれ、もしかして私、愛人ルート?

 いや、そもそも、今は原作のどの段階で……。

 

 知ってた。

 恋って、落ちちゃうものだって。

 たぶん、疲れてたのよ私。

 キルヒアイス様を助けるルートが全然見えなくて。

 それはそうと、『きみのためなら死ねる』状態の彼の熱を冷ましてあげないと。

 フェザーン自治領主を目指すなら、私との結婚は悪手。

 彼の隣に立つことはできなくても、彼とともに歩むことはできるはずだから。

 惚れた男の成長を妨げるような真似はできないわ。

 いい女としてね。

 

 

 あ~あ、しくじったなぁ。

 高校の先生が言ってた、『目標は高く持て』って。

 優勝を目指せばベスト4。

 ベスト4を目指せばベスト16。

 ほとんどにおいて結果は常に目標を下回るからって。

 うん、だから……。

 

「アギフッ! アギフゥッ!」

 

 キルヒアイス様を助けることを目標にしていた私は、フェザーンの黒狐の命を救うのが精一杯。

 やっぱり、政治の世界って怖いわ。

 まあ、彼の敵にとって余計なことを結構やっちゃったし、自業自得と言ってしまえばそれまで。

 でも、割と満足してる。

 だって、私が助けなきゃ、この人……死んでた。

 良かった、本当に良かった……あなたを助けられて。

 私の名を呼び続ける、彼を見る。

 目も見える、声も聞こえる、でも、ちょっと身体が動かしづらい。

 

 震える手を伸ばして、アディー(アドリアン)の目の涙を拭ってあげた。

 

 イケメンが台無しよ、アディー。

 

 ねえ、知ってる?

 私の名の『アギフ』って『宝石』って意味なの。

 私、あなたの宝石になれたかしら?

 泣かないで。

 アナタの心の柔らかい部分は、全部私にちょうだい。

 そうすればアナタは、強かな、自治領主になれる。

 そして、高く飛翔して。

 

 私の、腕が落ちる。

 ああ、まぶたが落ちていく。

 最後まで、アナタを……見ていたかった……。

 

 

 




彼女は活躍した方だと思う。(真剣)

ちょっと修正しました。
あと、この頃のルビンスキーは、綺麗なルビンスキー。

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