銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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さあ、組み合わせパターンがなくなってきました。(笑)



16:僕は同盟で育った。

 アーレ・ハイネセンの長征一万光年(ロンゲストマーチ)

 やったことはすごい。

 成し遂げたことは尊敬する。

 でもさ、帝国打倒を目指してとか、崇高な決意を持ってとか、ちょっと違うんじゃねえの、と俺は思う。

 

 どうせ死ぬんなら、命懸けでやってやらあ!

 

 そんなもんじゃねえの?

 だからといって、成し遂げた偉業が霞むもんでもないだろうに。

 なんか、死んでからも後世の人間にいいように使われて大変だな、ハイネセンのおっさんよ。

 

 輪廻転生ってやつかな。

 俺は前世の記憶がある。

 とはいえ、20世紀後半の歴史が俺の記憶とちょっと違ってて、俺の前世の世界とこの世界が純粋な延長上にあるか疑問だ。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

 前世の記憶というか、価値観が邪魔するせいかな。

 この、自由惑星同盟って社会の空気と反りが合わねえ。

 ちなみに、ハイネセンのことを言ったら、じいちゃんに顔の形が変わるまでぶん殴られた。

 まあ、そのおかげで、この社会じゃハイネセンは一種の宗教なんだなと悟ることができたからよしとする。

 そういう身にまとった空気ってのは、わかるんだろうな。

 学校でもハブられた。

 

 帝国に父さんは殺されたんだ!

 

 お前の父さんは、帝国の人間をぶち殺してるけどな……とは口に出さない。

 ガキの相手なんかしてられねえよ。

 5人に殴り掛かられて、目撃者もいるから大丈夫かと思って全員殴り倒したら、俺が悪いってことになった。

 

 協調性がない、クラスの和を乱す、素行が悪い、問題児です……。

 

 勉強も上位だし、スポーツもできるし、自分からルールを破ったことはないんだけどな。

 まあ、一度そういう空気が作られたらどうしようもねえのは、前世の日本でも同じだったしな。

 はいはい、学校でも、家でも居心地悪いっての……生まれ変わったって感じがしねえわ。

 特にじいちゃんは、俺のことを目の敵にしてるしな。

 退役軍人だか、予備役だか知らねえが、血圧上がっても知らねえぞ。

 学校に行く前の子供の頃の話をネチネチと執念深いこって……前世の感覚でいうなら、幼稚園児が素直な疑問を口にしただけだぜ?

 それで何度もぶん殴るって……相手は幼稚園児だぜ?自分の孫だぜ?頭おかしいだろ。

 

 さて、俺の進路はどうするか……と思ってたら、軍に放り込まれることになった。

 前世の感覚で言うと、中卒で自衛隊。

 なんか兄貴が申し訳なさそうに謝ってくるから、わけを聞いてみた。

 ああ、大学進学の費用で……俺の進学費用を浮かして転用すると。

 まあ、いいんじゃねえの。

 兄弟二人、このご時世じゃ、最低一人は戦争行きさ。

 早いか遅いだけだろ。

 それにいきなり戦場にはいかねえよ。

 帝国との戦争に駆り出されるのは、精兵ってやつだろ。

 俺みたいなのは、まず訓練から始まって、辺境の巡視とかで経験積んで、それからだ。

 まあ、ちっと厳しい高校に入学するようなもんだろ。

 いや、だから泣くなよ、兄貴。

 

『問題ばかり起こす子で、どうしたもんかと思ったら、卒業したら軍に入って帝国と戦うんだって言い出しましたの。そんなのまだ早いって言っても、本人の決意が固くて……』

 

 母ちゃんよ、それ誰のこと話してんだ?

 

 もう俺のことはどうでもいいけど……兄貴、生きろよ。

 親は子供を選べねえが、子供も親を選べねえってな。

 選べるのは、子供を産むかどうかだけってことさ。

 まあ、俺と家族は兄貴以外縁がなかったってことだろ。

 今まで育ててくれてありがとさん。

 

 

 

 

 やべえ。

 学校より、社会より、軍の方が居心地いいってどうなんだ?

 まあ、軍って言っても新兵の訓練所みたいなとこだが。

 そりゃあ、厳しいし、時には鉄拳も飛ぶし、連帯責任の懲罰もある。

 でも、命がかかってるんだ、当然だろ。

 つーか、初めて友人っぽい相手もできたぜ。

 大抵は3つ年上になるんだが、なんかいいやつばっかりだ。

 飯もうまい。

 おかわりも許されるって最高だろ。

 俺、今世で一番幸せに近づいてるわ、これ。

 別に死にたいとは思ってねえけど、こう幸せだと、なんとか生き延びたくなるぜ。

 

 

 初陣は宇宙海賊。

 情報のタレコミでもあったのか、賊の本拠地を急襲するんだと。

 大丈夫なのかねえ……俺なら、本拠地を捨てるついでにお土産を設置して、ああ、タレコミそのものも罠ってのがいいよな。

 いや、だってよ……俺みたいな下っ端に、そんな情報が回ってくることが変だろ?

 まあ、一番下っ端の新兵が、上になにか言えるわけでもないけど……初めての戦闘にぶるってるフリをして、隊長の耳に入るように弱音でもはいとくか。

 

 さすがに目の前で人がポンポン死ぬと、ちょっと来るもんがあるな。

 あ?

 初陣で新兵が大活躍とかねーわ。

 死ななきゃ上出来ってやつさ。

 

 ちょっ……辺境巡視って、こんなにポンポン戦闘が起きるのかよ?

 え、珍しいっていうかありえないレベル?

 駆逐艦の砲手の助手兼陸戦隊の俺、いきまーす!

 

 顔つきが変わってきたなって、そりゃこんだけ戦闘を経験すりゃ顔つきも変わりますよ。

 まあ、でも、帝国との戦闘はこんなもんじゃないでしょうしね。

 つーか、小規模とは言え艦隊戦が3回に、賊相手の白兵戦が5回。

 1回のパトロールで……ああ、新記録ですか。

 わーい、ラッキー!

 

 ……つーか、結構死にましたね、敵も、味方も。

 やっぱ、目の前で味方の艦がやられるとショックっすわ。

 あれ、俺の乗ってる艦だったかもしれなかったんですよね。

 俺、このパトロールでどれだけ運使ったんだろ。

 

 辺境巡視は、1ヶ月とか2ヶ月なんかの長期にわたるから、それが終わるとまとまった休暇がもらえるっぽい。

 休暇、ねえ。

 やることねえし、手土産持ってベテランの先輩から話でも聞くべ。

 戦わなきゃ経験は重ねられねえけど、経験者の話を聞けば、擬似的な経験になるしな。

 

 

 

 

 

 

 世の中には、晴れ女とか、雨男ってのがいる。

 まあ、なんだ。

 

 この中に、戦闘男がいる。

 

 おまえだー!

 と、みんなに指を差されるようになりました。

 口の悪い人には、『出世か死を与える存在』なんて言われる。

 巡視に出れば、組み合わせ、コースに関わらず、2~3回の戦闘が起きる。

 まあ、悪いことばかりじゃない。

 何よりも、実績が残る。

 戦闘において死ににくい人間ほど俺を重宝し、死が近い人間ほど俺を敬遠する。

 つまり、中間を吹っ飛ばして上に好かれ、仲間内から嫌われ、軍曹ポジションからは睨まれる。

 言い訳させてくれ。

 同じ場所で巡視すれば、物理的に敵がいなくなって平和になるはずなんだ。

 なのに俺は、1回ごとに配置替えがなされて戦闘を繰り返す羽目になっている。

 だから、2周目が本当の勝負なんだ。

 

 最近、いろんな意味で軍での居心地悪いというか、雰囲気が悪いです。

 

 あ、ひょっとして俺がすぐに配置転換になるのってそのせいか?

 まあ、なんだかんだ言って俺も生き残ってるからあれだけど。

 それに、配置転換が頻繁に起こるから、多くのベテラン兵士に話を聞くことができた。

 これは、俺の財産ってことだろ。

 悪いことばかりじゃない、悪いことばかりじゃ。

 

 そういえば、砲手助手の助手が取れたんだ。

 なんかイメージが違ったな。

 こう、敵の艦がきちんと見えるようなイメージがあったんだが、実際は真っ暗なんだよ。

 いや、レーダーの話じゃなくて、実際の目で見てって話さ。

 闇の中からいきなり、ビッと、敵の光線がこっちに走るんだ。

 それで、敵の位置がわかる。

 つまり、先に攻撃したほうが一概に有利とは言えねえってことだ……砲手としてはな。

 大艦隊同士の戦いならまた話は別だろうよ。

 これはあくまでも、賊相手の、小規模艦隊戦の話だ。

 それに、こちらの攻撃が当たっても効かないってこともあるしな。

 先に攻撃させて、位置の分かった敵に向かって味方の砲手が一斉に攻撃……とかな。

 もちろん、そこは阿吽の呼吸ってやつだ。

 結構やりがいがある。

 

 ああ、うん……バトルアックス掲げて突撃もやってるよ。

 なんか、周囲からは結構評価されてる。

 ちょっと複雑だ。

 そういや、この前昇進したわ。

 俺の感覚では、二等兵から一等兵ってやつだな。

 まあ、毎年新兵が軍にやってくるわけだから、新兵との区別みたいな昇進だろ。

 俺の同期も、みんな昇進したみたいだしな。

 実戦配備されてから1年経ったってことだな……もう会えない同期が俺の知ってるだけで何人もいるんだ、生き残ってるってことは、運がいいってことだろ。

 

 

 はいはい、また異動ですか。

 

「おう、お前がラッキーエンジェルか?」

 

 ……誰のことですか?

 聞く所によると、俺はこれまで配置された場所で、多くの上司を昇進させたらしい。

 マジか。

 仲間内からは、死神扱いだってのに。

 ああ、エンジェルってそういう……まあ、いいですけど。

 で、この艦隊はどういうお仕事を?

 

 

 そんなことを繰り返してきたせいかな。

 妙に勘が働くようになってきた。

 

 

 あー、なんか戦闘が起こる気がします。

 

「マジだ、マジで賊が隠れてやがった、総員、攻撃!」

 

 あっちの方向が、ヤバイ感じがします。

 

「ふむ、偵察を重点的に……ほう、待ち伏せか、賊の分際でこしゃくな」

 

 

 戦闘の数はむしろ増えたが、被害そのものは減少傾向。

 まあ、死ぬことに変わりはないんだけどな。

 でも、便利なことには変わりはないし、評価されたんだろうな。

 なんか、昇進した。

 一等兵になってから1年ちょいしか経ってないのに、異例の昇進ってやつだろう……まあ、戦闘経験は信じられないほど豊富だけどな!

 つーか、俺も部下持ちになるってことだが……まだ二十歳にもなってない俺に務まると思ってんのかねえ?

 別に昇進が嬉しくないってわけじゃないが、兵卒からの叩き上げなんて、ゴールはすぐそこだぜ?

 ああ、でも昇進できない奴は、使えないって判断されるから年数制限で予備役に回されるしよお。

 俺のじいちゃんがそれだよ。

 まあ、下士官ってやつだから今の俺よりは全然偉いけどな。

 考えても見ろよ、ずうっと昇進できない奴は、評価されない奴ってことだ。

 そんなヤツが居座ってると邪魔だろ?

 命のやり取りの現場に、使えない奴はむしろ害悪ってやつだ。

 だから軍ってのは、大抵は階級に応じてそこにいられる年数制限があるんだよ。

 あー、俺みたいなやつに部下を統率するなんてできんのか?

 家にも戻りたくねえというか、戻れるかどうかもわからねえし……やるしかねえか。

 

 うわ、マジかよ。

 この人、兵卒からの叩き上げで佐官になってやがる。

 すっげえ。

 しかも、もう少しで閣下だよな……マジか、マジでこの人、兵の神様じゃん。

 うはあ、この人に会って話とかしてみてえなあ……。

 え、何お前、写真持ってる?

 ……ああ、お守りがわりってやつね。

 すまん、ちょっとケツのあたりがムズムズしただけだ。

 わかってるわかってる、冗談だよ。

 

 いや、すげえなあ。

 神様だよ、現実にいるもんなんだなあ。

 俺の場合、すぐに仏様にはなれそうなんだが……毎年100万人も生まれる仏様にはありがたみがねえよな。

 はあ、俺も下士官ぐらいは目指してみるか。

 できれば、じいちゃんの上。

 まあ、目標を持つぐらいはいいだろ。

 

 くそ、部下を持つってのは難しいな。

 まず上から命令が来て、それに従って部下を動かす。

 上からの命令がおかしいって思った時が、特にな。

 

 この場所に敵の待ち伏せがあると思われます。

 

 3割が俺の話を聞いてくれる。

 3割が俺をぶん殴る。

 残りが無視だ。

 俺って、上司に恵まれてたんだな。

 親の説教と冷酒は後から効いてくるってやつか……いや、親の説教は無しな。

 俺も、いい上司だったなと思われたいもんだ。

 まあ、それはそれとして……俺の仕事は部下を死なせないことと、上のメンツを潰さないことだ。

 難易度たっけえなあ。

 俺も、神様の写真を肌身離さず持つことにするか。

 

 

 くそ、全滅はしなかったが、部下が何人も死んだ。

 しかも、目的は果たしたけど、上の指示には微妙に逆らったからな、上官に呼び出されて事情聴取って名の、査問会かよ、これ?

 知るかよ、思ったこと話すだけだ。

 

 ……助かった。

 なんか、部下もいろいろ聞かれたらしい……ああ、上官にも恵まれたが、部下にも恵まれたなあ、俺。

 ああ、でも何人も死なせちまったよ。

 泣きたくなるぜ。

 

 直接の上に睨まれたからな、また配置転換だ。

 部下ともお別れ……サヨナラだけが、人生か。

 ああ、偉くなりたいなあ……部下を殺さずに……死ぬ部下の数を減らすように。

 

 何度目かの配置転換で、上司に恵まれた。

 下士官への昇進試験への推薦をしてくれたのだ。

 受けることにした。

 数ヶ月の研修と、試験、面接。

 

 

 

 神様は、ついに閣下と呼ばれる立場になった。

 神様の写真を手で押さえ、俺は結果を待つ。

 

 

 そして俺は、下士官になった。

 

 

 

 ああ、偉くなるってことは、部下の数が増えるってことなんだな。

 毎回、戦闘の度に部下が死ぬ。

 部下の顔が遠くなっただけ、どこかぼんやりした悲しみで、痛みだ。

 これじゃあ、ダメな気がする。

 何がダメなのかは、よくわからない。

 

 相変わらず、戦闘の気配に関しては俺は鋭いようだ。

 喜ばれる。

 嫉妬される。

 まあ、評価される。

 

 俺はついに、帝国との戦争に参加することになった。

 

 ああ、戦闘の気配しかしねえよ。

 多分、俺に向いてるのは、偵察任務とか、哨戒任務だったんだろうな。

 部下をどう動かすとか、俺の立場じゃ、戦闘はともかく、大規艦隊戦じゃあ、あんまり関係ないわ。

 戦争だ。

 ああ、これが戦争か。

 

 

 

 あ……部下に指示を出す。

 退艦準備!

 俺の指示に遅れて、上からの指示がやって来る。

 また、呼び出されるかな。

 

 ……生き残れたらの話だが。

 

 胸の写真に手を当てた。

 ああ、一度神様に会ってみたかったなあ……。

  




ほかの作者さんなら、彼はどこまで行けただろう……。
やはり、ビュコックは、兵の神様である。

そういえば、兵卒じゃなくて、下士官スタートでも叩き上げに入るんだろうか?
ふむ、下士官スタートの主人公ならどうなるか。

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