銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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多分、『栄光なき転生者』の章に持っていくべき主人公かも。
それっぽい知り合いはいましたが、作者自身は技術がどうとかわかりません。



14:僕は帝国で育った。

 目を閉じれば、もう開くことはないだろう。

 無念を抱えたまま目を閉じ、瞼の裏に映る宇宙を夢見て……私は死んだ。

 

 

 死んでる場合じゃなかった。

 生まれ変わってる場合じゃなかった。

 夢がある。

 夢が無限の広がりを見せている。

 真理を求めた三蔵法師が、天竺にたどり着いた時の感激がわかる。

 夢が。

 謎が。

 全てが。

 体系だった学問として、私の前に積み上げられている。

 貪るようにして学んだ。

 すべてを食らいつくさんとして学んだ。

 連続した睡眠は非効率だ。

 90分の睡眠を、1日3回。

 前世から学んだ、これがベストの効率。

 タンクベッド睡眠……だと?

 ああ、やはりこの世界は素晴らしい。

 そんな便利なものがあるなら、即導入しよう。

 それで浮いた時間は、全て勉強につぎ込める。

 それでもなお、時間が足りない。

 ああ、身体が3つ欲しい。

 ああ、1日が96時間ぐらいにならないものか。

 そして私は、今世の父親に申し出た。

 

 家督は弟に継がせてください。

 

「あ、はい」

 

 帝国貴族などという面倒な家柄でありながら、父は驚くほど寛容に私の申し出を受け入れてくれた。

 

 父よ、母よ、弟よ。

 心の底から感謝する。

 ああ、これで。

 これでこそ私は。

 研究のために死ねる。

 

 

 研究は金食い虫だ。

 前世において、それは骨身にしみている。

 研究費用をどう調達するかで、研究の進みが変わってくる。

 

 マスコミを前に、臆することなく堂々と口を開く研究者。

 

 それを見た知人が、『研究者のイメージとは違うね』と言ったことがある。

 おそらく、知人の研究者のイメージは一昔前のそれだろう。

 研究を進めるために金が必要なこと、その費用を調達しなければいけないことは先に述べた。

 では、どうやって調達するか?

 国なり企業なりの研究所に割り当てられた予算の奪い合いがほとんどだ。

 もちろん、自分の研究がもたらすであろう利益をアピールして、関連企業に資金を提供させる研究者もいる。

 予算の奪い合いに、企業から資金を提供させるのに、必要な能力というか流れ。

 

 相手が望むことを把握し、自らの研究の利点を相手にとって的確にアピールして、損得勘定の上で研究費用を獲得する、だ。

 

 要するに、コミュニケーション能力の優れた人間が研究費用を優先的に獲得する。

 そりゃ、マスコミの前でも平然としていられる。

 慣れてるからな。

 アピールの為には、資料を作成したりすることも必要だから、実務能力も必要……まあその方面の助手がいればこれはなんとかなる。

 つまり、口下手で、相手が何を望んでいるかわからない研究者に、費用は回ってこない。

 一般的に、研究者のイメージは、自分の研究だけに興味があって……という感じだろう。

 そんな研究者には、よっぽどの理解者が現れない限り、研究費用が満足に与えられることもないし、研究結果を残すことも希になる。

 費用は全部研究につぎ込みたいから、誰かにアピールすることなんて考えられなくなる。

 アピールしたところで、自分の願望を押し付けるだけになる。

 これでは、企業は金を出さない。

 その結果、自分がやりたいことだけ研究していたいなんて研究者は、研究そのものが満足にできなくなる。

 研究者本来の能力とは関係ないところで、優劣が決まってしまう……まあ、資金集めも研究者の資質であると言われたらそれまでだが。

 

 まあ、私の前世は、そういう時代だった。

 おそらく、いつの時代もこれに近い状態で推移してきたのだろう。

 ただ、専制国家による直属の研究室の場合は、少し事情が異なる。

 自分が望む研究と方向性がそれなりに一致したならば……そこは、研究者にとって天国に最も近い場所となる。

 ああ、結果を出さねば、物理的に首が飛びかねないという意味でも、天国に近い場所だ。

 おっと、この世界ではヴァルハラだったか。

 

 と、いうわけで……私は帝国軍の開発研究……まあ、技術部に所属することになった。

 

 

 

 

 

 あれから十数年。

 私はこの上なく幸せだった。

 研究の結果が出て、確認さえできれば、その成果など上司に丸投げしてしまえばいい。

 上司は満足して、私に自由に研究させてくれる。

 上司はさらに上から評価されて満足。

 そうか、前世において私に足りなかったのはこれか。

 研究によって、自分自身ではなく、他人を満足させること。

 ああ、ああ、研究者生活に身を投じて……前世も含めて何年だ?

 まあいい、やはり人生は学び続けるはるかな道のりなのだ。

 

 睡眠はタンクベッド。

 食事は軍用の戦闘補給食。

 おい、お前ら何故私を変な目で見る?

 お前らそれでも研究者か?

 研究者は研究している時が一番幸せじゃないか。

 病気になれば研究できない。

 空腹で倒れたら研究できない。

 ならば最も短時間かつ効率的に、おい、お前ら何故逃げる。

 

 

 ん、誰だ?

 ああ、新しい上司の方でしたか、これは失礼。

 よろしく頼むと言われても、私はただの研究者ですから。

 研究だけをやります。

 私は研究をする。

 私の研究をどう使うかは、上司のあなたや、もっと上の人の仕事でしょう。

 

『君はそれでいい』とか言って、笑って行っちゃったよ。

 なんなんだ?

 

 

 は?要塞をイゼルローン回廊に運ぶ?

 それは、既存の技術を応用というか活用するだけの話ですよね?

 宇宙船より、はるかにモノがでかいというだけの。

 私の仕事は研究することですので。

 いやいやいや、なんですか、一体?

 首が飛ぶ?

 そりゃあ、人間ですから、首も飛ぶでしょう。

 助けてくれって……だから私は、タダの研究者なんですが。

 そもそもなんで、要塞を運ぶなんて話になったんです?

 

 ……イゼルローン要塞を手に入れるのではなくて、ぶっ壊していいというなら、わざわざ要塞なんか運ぶ必要はないでしょう。

 いや、しがみつかないでくださいって。

 はあ、イゼルローン回廊付近で、小惑星を数十個集めたなら、そもそもワープさせる必要もないでしょう。

 まあ、反撃で進路を曲げられたり破壊される可能性がありますから、数は必要でしょうが。

 え、いやだから……それに亜光速エンジンを設置して、亜光速まで加速させて、イゼルローンに次々とぶっつけてやればいいんじゃないですか?

 細かい部分は、私にはわかりかねますから、軍事の専門家の方に……。

 

 

 

 は、私に客?

 研究に関係あることか?

 ないなら帰ってもらってくれ。

 人生は短いからな。

 そういうわけにもいかない相手?

 仕方ないな……。

 

 は?

 出世?

 出世すれば、研究の時間が増えますか?

 増えるどころか減りますよ。

 今までの上司を見ていればそれぐらいはわかります。

 私のためと言うならば、私の研究の邪魔をしないでください。

 研究だけが私の望みなんです。

 私の研究の成果が人に奪われているとかどうでもいいです。

 奪うというなら、私の研究を理解してくれたということではないですか。

 研究者としては、そんな嬉しいことはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、本当に人生は短すぎる。

 知りたいこと、やりたいことが多すぎる。

 願わくばまた、生まれ変わることができたなら……。

 いや、そんな奇跡を願うことは、研究者の姿勢ではないな。

 満足などできるか。

 世界は、まだこんなにも謎に満ちている……。

 無念だ。

 

 




研究者タイプの転生者主人公はあまり見ないな、と。
もっとマッドな感じにしようと思ったのですが、どうしても具体的な技術論になってしまうので断念。
自分の成果はほぼ他人に丸投げしたので、後世に名は残らなかった模様。

「家督は弟に継がせてください」
「あ、はい」

このやりとりの父親の心境に涙不可避。(笑)

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