銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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またキッツイキャラを書いてしまった。
主人公の言動及び性格が不快感を与える可能性があります。

感想欄からいただきました、『拝金じいちゃん』。
……まだ若いんですけど。


13:僕はフェザーンで育った。

 この世界、ひょっとして孫にせがまれて買ってやった銀河英雄伝説ってやつじゃねえの?

 

 小説。

 アニメのDVD。

 思い出される内容を、現実に当てはめていく。

 偶然とは思えない一致率に、ぶるりと、身体が震えた。

 右手を強く握り締める。

 ビッグウエーブだ。

 何よりも、それに気づけた時期がいい。

 今世におけるフェザーン商人としての、そして前世において山師とも勝負師とも言われた相場師としての心に火が付いた。

 

 フェザーンは帝国の自治領だ。

 あと20年ほどで、フェザーンは帝国の連中に占領される。

 そして、同盟を倒した帝国は、フェザーンに遷都して新たな支配体制を確立していく。

 

 おいおい、単純に不動産転がしただけでどれだけ利益が出るって話だよ。

 まあ、良くも悪くも軍政だからな、目をつけられたら無償で没収コースってのはゴメンだ。

 そのあたりは注意する必要はある。

 そして、同盟が負ける過程では、株価がヒャッハーだろ。

 国債とかどうなんだよ。

 他人の不幸は蜜の味とか、笑いが止まらんぜ。

 

 戦争?

 英雄?

 

 どうでもいいね。

 金だよ、金。

 金ですべてが買えるなんてアホなことは言わないさ。

 だが、金さえあれば大概の問題は解決できるんだよ。

 金が人を狂わせる?

 ははは、毎年毎年戦争で数百万の死者を出してなお、それを容認してるこの社会がそもそも狂ってるだろうが。

 マネーだ、マネー、マネー、マネー、マネー!

 ははは、戦争も英雄もどうでもいいが、前世では作り損なった伝説を作ってやろうじゃねえか!

 家族なんていらねえさ、そんなもの前世で十分に味わった。

 俺はフェザーン人として、フェザーンが滅びてなお、伝説としてフェザーンの名が残るほどに札束を積み上げてやろうじゃないか。

 かかか、長生きできそうにない人生だなあ、我ながら。

 

 いいぜ、全力で駆け抜けてやるぜ、この銀河をよ!

 

 

 

 アンタ、金をなめすぎた。

 金ってのはすごいぜ。

 帝国に同盟、そしてフェザーンか。

 随分と目減りしちまったようだが、この銀河に400億の人間が生きてる。

 なあ、400億の人間ってことは、400億の価値観だ。

 アンタはこのデータにこれだけの金を積んだ。

 ほかの人間はどうだ?

 タダでもいらないっていう奴もいるだろうよ。

 もう一度言う。

 この銀河には400億の価値観が生きている。

 その400億の人間が……この帝国マルク金貨を、帝国マルク金貨の額面通りにしか使えねえ。

 400億の人間が、400億の価値観が、この金ってやつの前には素直に頭を下げる。

 金の額面の通りにしか、動けなくなる。

 わかるか?

 拝金主義のフェザーンなどと呼ばれちゃいるが、金ってのは価値観のものさしとなり得る存在なのさ。

 宗教ってのは信者に価値観を与えるものだ、違うかい?

 金は俺に、銀河の400億の人間に等しく価値観を与える。

 宗教と金を対等に見てどこが悪い。

 しかも、金はある意味じゃすべてに対して平等だ。

 俺にとっちゃ、拝金主義者なんて言葉は褒め言葉だね。

 

 かかか、もっと謙虚になれよぉ。

 アンタの価値観を、ここに積んでくれ。

 俺を満足させるまでなあ!

 

 

 

 かかか、商談成立だなあ!

 

 

 

 バブルの頃を思い出すぜ!

 誰もがみんな、自分だけはうまくやるって狂ってた時代だ。

 最っ高に楽しい時代だったなあ。

 バブルがはじけたあとも最高に面白かった。

 欲に溺れた連中が、欲に焼かれてもがき苦しむ。

 そんな中で、ひとにぎりの勝負師だけが駆け抜けていったぜ。

 まあ、いろんな奴が死んでいったけどな。

 戦いから逃げ出すことで無様に生き延びた奴が、すました顔であの狂騒の時代を語るなんて胸糞悪いものまで見せられた。

 笑いものになってたことも気づかねえクソだったが、狂ったまま生きていかなきゃならなかった俺らも偉そうなことは言えねえか。

 そして生まれ変わっても狂ったままだぜ、俺は。

 そら来た。

 襲ってきた奴を蹴り上げる。

 取り押さえて、武器と、服と……。

 

「お、おい、何をする?」

 

 身ぐるみはいでんだよ、決まってるだろ。

 身体は帝国貴族に奴隷として売っぱらうから、お前の持ち物は心だけさ。

 無くさないように気をつけな。

 

「き、貴様ぁ、ろくな死に方はせんぞ…」

 

 死に方には興味ないね。

 人って生きものは、どう生きるかを考える。

 そして俺は商人。

 どう金を稼ぐかを考える生きものさ。

 

 

 かかか、我ながら敵が多くなってきたなあ。

 だがそれがいい。

 これが俺にとっちゃ普通なんだよ。

 金を稼ぐってのはこういうことだよなぁ。

 

 

 さーて、そろそろ某貴族様が没落する時期だなあ。

 領地の特産品を買い占めにでもはしるかねえ。

 同盟の方は……ひでえよなあ。

 フェザーンの連中に食い荒らされて、ボロボロだぜ。

 戦争経済による業種特化、その特化した業種にフェザーンが食いついてるもんだから、同盟の市場規模がどんどん縮小してやがる。

 戦争ってのは、富の奪い合い……言ってみれば、金の奪い合いだ。

 フェザーンが同盟から金という名の資本を吸い上げるってのは……そういうことだよ。

 同盟も、帝国も、フェザーンとの戦争に負け続けてる。

 かかか、拝金主義者が聞いて呆れるぜ。

 戦争に勝つためには、戦争相手がいないと始まらないってのに。

 

 

 それに……暴力ってもんを甘く見すぎだろ。

 この世界に、安全地帯なんかねえのさ。

 戦争するなら命をはれ。

 基本だろうに。

 

 

 それにしても、地球教はウザイな。

 奪う前に与えよって言うしな、やってみるか。

 ダブついた資金の投資先にちょうどいいのが見つからねえことだし。

 

 

 金ってのは魔力を持っている。

 口座振込みやら電子マネーやらでは味わえない、魔力ってやつを味わってみな。

 くくく、世界が変わるぜ。

 

 部下に命じて、札束の詰まったケースを、山のように積んでやった。

 司教に、信者たち。

 そいつらの目の前で、あらためてケースを開け現ナマを見せつける。

 しっかりしなよ、気配が上ずってるぜ?

 別に?

 ただの寄付ってやつさ。

 ここにいるみんなに、いい服を着せ、うまいものを食わせて、酒でも飲ませてやってくれよ。

 何をしろとは言わないさ。

 心配はいらねえよ。

 帝国、同盟の地球教支部にも、似たような贈り物を届けているからさ。

 

 くくく、満たされろ。

 信者から、人間に戻りな。

 サイオキシン麻薬ってやつは、常用しだしたら廃人まですぐだったっけ?

 つまり、信者を使える期間は限られるってことだ。

 なら、まだこの時期にはまともな信者が多いってことだ。

 だったら、麻薬じゃなくて、金で頬を叩いてやるよ。

 信者から人間に戻れば、欲が出る。

 欲が出た人間は……お前らの言う事を聞くかな?

 満たされれば満たされるほど、信者の数は減っていく。

 まあ、そこまで上手くはいかないか。

 

 

 地球教で、内ゲバが起こった。

 寄付金の使い方っていうか、分配方法でもめたらしい。

 かかか、しっかりしろよお。

 フェザーンのガキより、ピュアな連中だな、おい。

 そんなことしてると、地球との航路がプッツンするぜ。

 サイオキシン麻薬の製造場所ってのは、地球にあるんだろ?

 俺は何もしてねえ。

 俺はただ、地球に人を運ぶよりも割の良い仕事を回してやっただけさ。

 フェザーン商人だからな。

 金になる方の仕事を選ぶさ。

 

 

 さあ、そろそろ毟るか。

 どちらかといえばこっちのほうが得意なのさ、俺は。

 土地、建物、そして人。

 地球には何もない?

 バカを言っちゃいけねえ。

 人は資源さ。

 今の時代に、1つの星に1000万の人間が住んでるなんて、上等じゃないか。

 帝国とか同盟なんて小さいことは言わねえよ、今の銀河系は、人手が足りない状態なのさ。

 俺が手に入れた星に来なよ。

 いくつもあるから、好きな星を選びな。

 いくらでも仕事はあるさ。

 頑張れば頑張るだけ、豊かになれる。

 未来だよ。

 その手に未来が掴めるのさ。

 子どもに、孫に、見せてやりなよ。

 そうすればあんたは笑って死ねる。

 

 

 地球から人が次々と旅立っていく。

 地球教が、バラバラになっていく。

 俺の手に入れた星が人で満たされていく。

 俺の手に入れた鉱山から次々と鉱石が掘り出される。

 星が開拓されていく。

 人が増えていく。

 笑顔が増えていく。

 

 ああ、狂う前の俺は……あんなふうに笑ってたか。

 

 ん?

 おお、気分転換みたいなもんさ。

 狂ってる連中の顔ばかり見てるとな、どうしても俺の中のバランスみたいなものがおかしくなっていくのさ。

 たまには、命の洗濯が必要ってことだな。

 おい、何を変な顔してやがる。

 俺は最初から狂ってるさ、ただ、狂うにも、狂い過ぎたらそれを楽しめなくなるからな。

 かかか、若いうちから余計なこと考えるな。

 まずは、欲に狂え。

 うまいもんが食いたい、いい服が着たい、いい女と付き合いたい……なんでもいいさ。

 欲に狂って、金に狂うんだよ。

 そうすれば、死なずにすめば、いつかどこかで止まる時が来る。

 そこが分岐点だ。

 覚めたら終わり、それ以上に狂えば破滅が待っている。

 そこにとどまり、狂ってる自分を見つめ続ける。

 そういう連中だけが、戦い続けることができる……俺のいるのはそんな世界さ。

 

 かかか、まだわかんねえか。

 くく、まあ、偉そうなことを言っても、俺もまだまだ若造さ。

 40や50じゃ、まだまだだよ。

 まあ、これから忙しくなるぜ。

 いよいよ、帝国も、同盟も、ぐっちゃぐちゃだ。

 

 ……ははは、フェザーンにはもう未来なんてねえよ。

 地球と同じさ、人だけが残る。

 なあに、100年以上も他人の命をチップにギャンブルを繰り返してきた末路ってやつさ。

 俺だって、いつ死ぬかわからねえ。

 ろくな死に方はしねえだろうよ……まあ、星の開拓云々は、生きているうちの罪滅しってやつさ。

 

 

 おお、また命の洗濯ってやつさ。

 なんだよ、俺は前からフェザーンは滅ぶって言ってただろ?

 冗談だと思ってた?

 かかか、人も、国も、永遠のものなんかありゃしねえよ。

 次は同盟が滅んでいくさ。

 帝国は、滅んだようなものだしな。

 

 それで今日は、なんの騒ぎだい?

 ほう、収穫祭か。

 いいタイミングだったな……おい、1人残してお前らも楽しんで来い。

 時間を決めて交代しろ、ハメを外さない程度に欲ってやつを楽しみな。

 

 

 祭りの熱を離れたところから眺める。

 俺にはこのぐらいがちょうどいい。

 トン、と背中を突かれた。

 振り返る。

 ああ、いつかの司教さん……元気だったかい。

 ガードは……ああ、悪いことしたな。

 俺のせいで死んじまったようなもんか。

 

 異変を感じて、駆け寄ってくるものたちがいる。

 元、地球教徒の連中だ。

 はは、皮肉なもんだな。

 司教の身体が引き剥がされる。

 俺の身体から、何かが溢れていくのがわかった。

 ああ、もったいねえな……。

 

 おい、そんな乱暴にしてやるな。

 その司教さんは、金に勝ったのさ。

 俺の()は、司教さんの(地球)に勝てなかった。

 つまり、俺が負けた。

 

 俺の周りで騒ぎがひどくなる。

 それなのに、騒ぎが遠くなっていく。

 

 俺が手に入れた星で。

 俺が手に入れた人に囲まれて。

 俺の命が、俺の手からこぼれていった。

 

 

 




書いてて楽しかったです。(笑)
バブルの頃は……あの無力感を思い出すと、吐きそう。

突然の死は、ご都合主義であると同時に作者の世代にとっては一種のロマンです。
あ、この世界って札束というか現金って……あるかな?

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