銀河転生者伝説~君は生き延びることができるか~   作:高任斎

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新章、『道に倒れる転生者』開始です。

知人に言われて、ちょっと修正しました。
 


道に倒れる転生者の章
11:僕は同盟で育った。


 輪廻転生ってあるんだなあと思った。

 地球という星から、人類は宇宙(そら)へと羽ばたいたのだと。

 羽ばたく際に、いかにも人類らしい、愚かしくて無益だとしか思えない争いが勃発したのはお約束。

 そして人類の翼は太陽系を超え、銀河の海へと。

 そこでまたひと悶着も、お約束とはいえばお約束。

 まあ、差し引きしてもプラスの感情に包まれて、地球という星からついに羽ばたけなかった記憶を持つ私は感動したものだった。

 

 その感動が、その、なんとも微妙なものへと変化するまで、あまり時間はかからなかったが。

 

 14歳。

 前世と同じく、私は進路に迷うことになる。

 いつになったらこの夢から覚めるんだろうなあ……という意識が、頭の片隅から離れることはない。

 しかし、怪我をすれば痛いし、ものを食べれば美味しいと感じる。

 そして、事故や戦争や病気で人が死ぬ。

 これを現実として向き合わねばならないことぐらいは、さすがにわかる。

 わかるからこそ、私は進路に迷った。

 

 銀英伝の世界かぁ。

 あと30年ほどで、同盟、滅んじゃうんだなあ。

 

 歴史は必然の繰り返しという人もいれば、偶然の積み重ねという人もいる。

 この世界が、原作という名の『史実』通りに動いていくのかはわからないが……私としては、状況が歴史を作るのだと思いたい。

 と、いうか……私自身の原作知識がそれほど豊かでないことに加えて、ちょうどこの時期って原作におけるエアポケットみたいな時期だったよなあ、と。

 ちなみに今は、宇宙歴の769年。

 あー、ヤン・ウェンリーが、生まれたぐらい……かな?自信はない。

 

 話を戻そう。

 

 同盟を守るために奔走するか、個人の幸福を追求するか。

 残念だけど、完全に一致はしない。

 そして、どちらにしても私自身の能力の制約を受けるってところが重要なポイント。

 

 前世でプログラマーだった友人が言ってたけど、あるレベルからは将棋の上手い下手は思考速度で差がつくと。

 将棋の名人が1手1分以内でさし、アマチュアの段位持ちが、時間無制限で……それこそ何日もかけて最善手を追求しながら指したらそれほど差はつかないそうだ。

 ただし、アマチュアが考えている間、名人は思考しないものとするって付け加えられたけど。

 つまり、将棋でコンピューターが人間を超えていくのは必然……と、ちょっと寂しそうに言ってたな。

 コンピューターだけが武器を持ち、人間が素手で立ち向かう……両者の思考速度の差は、そのぐらいの隔たりがある、と。

 これは将棋に限った事ではなく、レベルが上がれば上がるほど刹那の判断の積み重ねが優劣を分けることは少なくない。

 

 ああ、何を言いたいかっていうと。

 戦争の指揮官というか、戦術家として優秀な人間は、学習や訓練ではどうしようもない部分があるってことさ。

 戦場は刻々と変化する。

 それを見て、最善の対応を考えつき、指示を飛ばす。

 指示を受け、兵が動き出す。

 戦場で見て、兵が動き出すまでのタイムラグ。

 つまり、状況を見て判断した自分の指示が実行されたとき、それは既に最善の対応ではなくなっている可能性が高い。

 そもそも、敵の指揮官だって、『戦場に対応しようとしている』んだからね。

 つまり、戦術家に必要なのは、『相手がどう対応するかも含めて、ここから戦場がどう変化するかを予測し、最善のタイミングで対応できるように指示を出す』能力ってことだ。

 これは、学習、訓練、経験である程度は補えるかもしれないけど、どうしても超えられない壁が存在すると思う。

 だからこそ安易に、『才能』という言葉を使うんだろうね。

 私としては、『軍事的才能』は異能の類だと思っている。

 もちろん、指揮官には兵の士気を上げるとか、部下の掌握とかはあるけど、それはちょっとおいといて欲しい。

 自分の指示が、正確に、素早く達成されるかなんてことを言い出したら、もうね。

 原作において、フィッシャーさんが強調されたのは、つまりはそういうことなのだろう。

 ヤンファミリーは、戦術的指揮官に必要な要素の集合体……とまでは言いすぎか。

 ああでも、そうだとしたら民主的といえるのかもなあ。

 

 

 まあ、そんな感じで私には無理。

 まず、基本的に同盟は帝国軍に対して劣勢にある。

 それを、私が戦場で大活躍して、いわば戦術で戦略をひっくり返しにかかる?

 ははは、ナイスジョーク。

 やってみないとわからないとは言うけどね、わかった時には死んじゃうからね。

 ああ、やっぱり私には無理だったってね。

 ついでに言うと、同盟軍において私が指揮官に至るまで出世する道が見えない。

 出世するためには武勲を上げるだけでなく、上司の覚えが良くなくちゃいけなくて……どう考えても、相反する資質というか、前世の記憶からしても、全くイメージできない。

 原作でミラクルヤンがやったイゼルローン要塞の乗っ取りとかも、私には無理だね。

 まず、作戦案を出すにはそこまで出世しなきゃならないけど、それはおいておこうか。

 忘れちゃいけないのが、戦場には常に敵がいるってこと。

 

 前世での私は、高校で野球をやっていた。

 9回表、1点リードした上で2死走者3塁。

 相手の4番バッターがまさかのセーフティーバントさ。

 それで同点に追いつかれて、延長で負けた。

 仮に、私があのシーンに戻ってバントを警戒すれば勝てると思うかい?

 違うね。

 彼は、バントを警戒されてなかったからバントをした。

 もちろん、勇気ある選択だっただろうけどね。

 私がバントを警戒すれば、バントはしないだろうね。

 もしかすると、彼が凡退に倒れて私たちは勝てたかもしれないし、彼がホームランを打って逆転されたかもしれない。

 私に分かるのは、こちらが警戒していれば彼はバントをしなかっただろうということぐらいさ。

 

『敵が油断していた』なら、その状況を作るまでが大変なんだ。

 いわゆる、仕事は段取りが終わった時点で9割終わっているってこと。

 エル・ファシルと同じで、『ヤンは、作戦実行に至るまでの段取りの魔術師』だと私は思っている。

 敵、あるいは味方の心理状態も含めて、戦場がどう変化していくかを予測する能力が極めて高いってことだと思うよ。

 だからこそ、タイミング良く、指示を出せる。

 その指示がきちんと実行に移されれば、魔術師のミラクルが完成するってね。

 

 

 で、それを私にやれって?

 ははは、ご冗談を。

 

 

 そして私は、政治家になる道を選んだ。

 これもまた無理ゲーだと思ったけど、戦争で英雄になるよりはまだ可能性があるかなって。

 政治は、瞬時の判断を要求されることは少ない。

 それなりに思考する時間が与えられることがほとんどだ……まあ、それを実行できるかどうかが大変な世界なんだろうけどね。

 

 私は同盟で生まれ、同盟で育った。

 だから同盟を、守りたい。

 私に出来ることは……これぐらいしか思いつかなかったよ。

 

 変かな?

 

 40歳になる前に、政治面での影響力を確保したい。

 具体的には、帝国でラインハルトが頭角を現す頃に、同盟の状況に変化を与えられる立場になりたい。

 それは、戦術ではなく、戦略に何かを与えられるということだ。

 仮に、戦略面で同盟に何かを与えられたとしたら、ヤンウェンリーはもちろん、ほかの同盟の軍人達にも、もう少し選択肢が増えるだろう。

 だから勝てるとまでは言わない。

 でも、もう少し……楽な戦い方をさせてあげられるんじゃないか。

 私は、そう願う。

 

 時間がない。

 高校時代は、ボランティアや部活動、生徒会活動などで、地道に地元の有力者と顔をつないでいく。

 大学は同盟で最高峰のハイネセン大学になんとか合格した。

 恥も外聞もなく、入学しやすい学部を選択した。

 大学内での人脈を作りつつ、政治ボランティアなどに参加して、政党メンバーの一員と認識される程度に顔を売った。

 いかにもな、青い理想を情熱を込めて語ったりした。

 内容よりも意欲を示す。

 政治の世界は、力学が支配する世界だ。

 上の人間の目にとまり、可愛がられ、引っ張りあげられなくては話にならない。

 それでいながら、周囲の人間に気を遣い、声をかけ、最低でも足を引っ張られる要素を潰していく。

 

 朝、顔を洗ったあとに鏡を見てぞっとした。

 

 うまくなったなあ、作り笑顔。

 

 心の中で、魔法の言葉を繰り返す。

『私は同盟を守りたい』

 楽な道などあるものか。

 綺麗なだけじゃいられない。

 

 笑顔をふりまく。

 誠意をばらまく。

 情熱を語る。

 未来を憂う。

 

 

 エル・ファシルの英雄が生まれた。

 

 ああ、足りないのは時間じゃない。

『私』が至らない。

 足らない、届かない。

 私は、君たちの選択肢を増やす、政治家には届かない。

 そうか、届かないか。

 届かないなら、こんな魔法の言葉に意味はないな。

 

 

 

 

 

 

 ああ、今ならわかる。

 トリューニヒトよ。

 名前も覚えていない、原作における政治家の面々よ。

 お前達はすごいやつだなあ。

 英雄の選択肢を制限することができるなら、選択肢を増やすこともできるってことだろう?

 原作ではひどい扱いだったが、お前たちの心の中にも魔法の言葉はあったのか?

 あったのだろうと思う。

 

『同盟を守りたい』

『同盟を変えたい』

『帝国を滅ぼしたい』

 

 こんなところだろうか?

 その魔法の言葉を叶えるため……私がそうだったように、お前たちにもいろいろあったんだろうなあ。

 いろいろあって、その魔法の言葉はどうなった?

 ああ、その魔法の言葉があれば、手を取り合って進んでいけたかもしれないのに。

 その思いが強かったから、強すぎたからこそ、『自分の手で』と思ってしまったのかもしれないなあ。

 だから、他人の手をとることができなかった。

 そして私も。

 

 

 なあ、教えてくれ。

 いや、誰の差金かなんてことは聞きたくない。

 私には何が足りなかったと思う?

 ああ、でも『努力』という言葉だけは使わないでくれ。

 死にたくなる。

 

 それでも……私は、誰かに『殺される程度には』影響力のある政治家になれたんだな。

 大事な大事な、魔法の言葉と引き換えに。

 

 

 

 

 

 

「よう、ヤン。お前さんの嫌いな政治家が殺されたそうだぜ」

「嫌っていたことは認めますがね、先輩。殺されることを良しとは考えたくないですよ」

 

 

 




あまり原作キャラを絡めたくないと考えているので、最後の2文を入れるか入れないかで迷ったのですが、この方が悲惨かなと。

修正の裏事情。
知人:『トリューニヒトに直接殺されたの?政治家としてリスク高くない?』
作者:『ファッ!?』
……確かにそう読めるわ。

言い訳になりますが、そういう障害を乗り越えて政治家として力を持った連中に対して『すごいなあ』と主人公が思った感じです。
自分の想像を優先させて、さすがに言葉が足らなすぎたようです。

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