栄光なき転生者の章の、締めくくりです。
正気の沙汰じゃないけど、やるしかない。
まあ、前世の知識でもサバンナの勇者とか、1人でライオンを狩るとかあったけどさあ。
勢子もなしに、1人で大型獣を狩るとか、どんな罰ゲームなんだよぉぉ。
俺は、心は熱く、頭は冷たく。
戦斧を片手に突っ込んだ。
……俺は、やれば出来る子だったらしい。
ヤレばできる。
そうか、これが大人になることだったのか。
あ、すみません、ちょっと錯乱してました。
見事同世代の代表として成人の儀を終えた俺は……なんだよ、同世代の代表って。
これやるの、俺だけってことじゃん。
ひょっとして俺って、要らない子だった?
もしかして俺って、成人の儀という名を借りて殺されるはずだったの?
色々と言いたいことや突っ込みたいことはあったけど、『成人の儀を成し遂げた強い男』の俺は、里の歴史を受け継ぐ権利を得たらしい。
歴史もなにも、俺は前世の記憶持ちですよっと。
しかし、転生先はSFの世界でしたっと。
笑い事じゃないんだけど、古き良きSF世界って感じなんだよ。
新天地を目指して宇宙の海へと旅立った我らがご先祖たち。
様々な苦難がご先祖達を襲う。
闇の中を手探りするように進まなければいけない閉塞感、天体の影響による事故、仲違いによって袂を分かった仲間たち。
そんな苦難を乗り越えて、ご先祖様はこの星にたどり着いた。
世代を超え、100年に及ぶ長き旅の中で様々なものが失われ、星にたどり着いた宇宙船だったが、ごく一部の生活必需品を生産する技術を除いて、多くの機能はもはやロストテクノロジー。
まあ、ぶっちゃけ専門家がいなくなってしまったってことだろうな。
俺の前世の記憶も、専門工学とか役に立たない。
なんせ、太陽系すら脱出できなかった時代の記憶だし。
まあ、そんな感じ。
たまらなく1970年代のハ〇カワSF小説の世界って感じだろ?
なので、里の歴史と聞いて、実はちょっとドキドキしてるんだ。
里の歴史を見て、ふいた。
鼻からも鼻水が出るぐらいの勢いでふいた。
うん、新天地を求めて旅立った先祖たちの指導者の名前が、『アーレ・ハイネセン』。
聞き覚えあるわ、めっちゃ聞き覚えあるわ。
しかも、逃げ出した帝国を、建国したのはルドルフ・ゴールデンバウム。
これって、50年におよぶ大航海の果てに新天地にたどり着いた、
たどり着いた時には、ハイネセンが死んじゃってたあれだよな。
え、なに、ここ銀英伝の世界なの?
じゃあ、ここ一体どこなの?
50年かけたロンゲストマーチに対して、うちの里で語られる大航海は、100年以上かけてこの星にたどり着いたってお話なんですけどぉ?
単純に考えて、倍以上?
どういうこと……って、ロンゲストマーチの5年目に、ハイネセンたちとは別れて旅立ったって……ご先祖様、何処に向かって旅立ったんだよぉ!
つーか、ここマジでどこなの!?
自由惑星同盟領内ではないんだろうなあ……ハイネセンとは5年目に別れて……もしかして、イゼルローン回廊を通過してない可能性もあるのか?
いや待って、自由惑星同盟って……帝国歴160年ぐらいに脱出したってことは、ハイネセンにたどり着いたのが帝国歴210年頃か。
甦れ、俺の原作知識。
確か、150年ぐらい戦争してたはず。
同盟建国(ハイネセン)から約300年後が原作舞台で、建国から150年ぐらいで帝国とやり合うようになって、アッシュビーとかが大活躍するのが原作の50年ぐらい前か。
そしてそのあとに、イゼルローン要塞ができた。
うん、たしかそんな流れ。
……同盟すげえ、めっちゃ繁栄してるじゃん。
1つの星から、限られた人員で……原作時点で人口減少を示唆されながら人口130億。
同盟すげえ、マジすげえ。
さて、100年以上の
星の開発は、精々3分の1というところ。
人口は、数千人(最終的に壊れかけた宇宙船一隻でギリギリだったらしい)から始まって、80万人ってところ。
たぶん、人類みな兄弟って、いろんな意味でこの星では間違ってない。
どうしても食糧生産が、ボトルネックになってる部分もあるしな。
今は、プランクトン製造工場というか、新しい食糧自給工場建築に目処がついたところで、これができたら人口を支える能力が大幅に拡大する。
ちなみに、宇宙船建造技術は失われているというか、どうもエンジンあたりがどうにもならないらしい。
つーか、何よりも資源が足りない、採掘技術の問題かもしれないが。
この歴史を信じるなら、ご先祖様がこの星にたどり着いたのが帝国歴280年頃。
それから約200年経って、今俺がここにいる。
うああああ、今から原作はっじまるよー、なタイミングじゃねえか!
見たい、参加したい、原作キャラと会って写真とか撮りたい。
誰か、誰か俺を見つけてっていうか、この星を発見してくれ。
宇宙は可能性に満ちているぞ。
チクショウ、もうこの世界が銀英伝の世界以外の何ものでもないようにしか思えなくなっちまった。
この星の人口が1000万を超えた。
残された資料と、現物、優秀な人間を選抜して、技術者を育てる試み……がようやく芽を出し始めた。
俺が生きている間は無理だったが、近いうちにこの星から宇宙へと旅立つ船が出るだろう。
指導者として忙しく働く傍ら、俺は時間を見つけて『里の歴史』と銀英伝をミックスさせて年表らしきものを綴った。
この星の子孫が、いつか彼らと出会ったとき……これを見たら混乱するだろうなと、そんな未来を夢みている。
原作における帝国と同盟が争ったような、そんな歴史を繰り返すようなことがないよう…心から祈っている。
正直、疲れたよ。
そして俺は、静かに目を閉じた…。
宇宙の可能性は無限なんだ!!
なお、主人公は老衰の模様。