「俺、シグナム先生と結婚する!」   作:Vitaかわいきつら

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リリなのSSでは避けて通れないティアナSEKKYOU回。



第4話

「努力の天才」

 

この言葉はいったいどういう意味を持つのだろう。

天才にも、類い稀な努力をすれば勝てるということ。

あるいは、凡人の希望の星。

その他にも、多くの意味がある。

だがそれは、きっと全て正解で、全てが不正解。

受け手により、解釈が違う。だから正解はないのだ。

では、彼はその言葉をどう受け取ったのだろう。

そして、彼女は。

 

 

 

ミッドチルダで生きることを誓った夜から一夜明け、太陽が登り始めてから数時間。

健の手には両刃の剣。隣には蒼い毛並みの大きな狼。

剣は昨夜、シグナムから贈られた物だ。

正確には八神はやてからのものだが、シグナムから手渡されたことで健の中ではそういうことになっている。

前例といい、なかなか便利な頭をしている。

八神はやてが彼に剣、ストレージデバイスを与えたのは贖罪の為。オーダーメイドではなく量産品ではあるが。直接の原因は彼女達にはないのだが、巻き込んだことを申し訳なく思っている。

もっとも健にとっては良いことずくめであったわけだが。

それと、単純に健に強くなってもらいたい、というのもある。

シグナムだけでなく他の守護騎士達も「人並み」の恋愛をするきっかけになれば、と考えたのだ。

彼女達の主としての配慮であった。

 

 

隣の狼はシグナムと同等の存在、ザフィーラ。

他の局員達は多忙で、健に魔法を教える人物がいなかった。そこに白羽の矢が立ったのがザフィーラである。

ザフィーラは戦闘を予想される出動時以外、決まった仕事はない。普段は八神はやてや高町なのはのフォローをしているのだが、今日はこうして健に魔法を教えている。

始めに教えたのは、バリアジャケットの生成。

バリアジャケットというのは文字どおり防護服で、魔力や物理ダメージをある程度シャットアウトするものだ。

魔導師として生きる上ではもっとも重要と言って過言ではあるまい。

 

健が生成したバリアジャケットのイメージは、やはり剣道の防具。

面だけは視界を遮るために泣く泣く外した。

 

そうしてバリアジャケットの生成が無事に終わり、次は身体能力を強化する魔法。

 

ザフィーラの忠告を受けながら強化魔法を行い、デバイスを振る。

 

今までとは違う風切り音。その音は健の耳によく馴染んだ。

新たに風をその身に受けながら。

 

 

それだけで1日が終わってしまった。

体の疲れだけでなく、魔力の減衰も伴いその日はぐっすりと眠った。

 

翌日、ザフィーラ含めフォワード陣は任務で六課を留守にしている。

任務の詳細は健には知らされていない。六課で保護を受けているものの、局員でない健には任務の内容を安易に話すことは出来ない。

 

よってその日は昨日の繰り返し。

ただただデバイスを振る。

延々と、何時間も。

 

端から見れば、狂人を疑うものもいたかもしれない。

それほどに単調なことの繰り返し。

 

だが健にはそれでも楽しかった。新しいおもちゃを手に入れた赤ん坊のように、繰り返した。

もともと竹刀をこうして振り続けた経験と習慣がある。これはそれの応用なのだと健は考える。

ようやく。ようやく踏み出せた一歩なのだ。

魔法という未知の世界を知り、踏み込めた第一歩。

それが楽しく、嬉しくないはずがなかった。

 

その日はシグナム達が任務から帰って来ても、続けられた。

 

夕食をとり、しばらくしてからまた練習をしようと隊舎の外に出る。

今回はデバイスを振るのではなく、ランニング。魔力で強化して、だが。

 

走り始めてしばらく。

林の中でチカチカと何かが光るのに気が付いた。

何か機械でもあるのだろうか。

そこは一旦素通りし、ランニングを続ける。

 

2時間は走っただろうか。

相変わらず、何かは光続けている。

何があるのだろう。そう思い、近づいた。

 

そこにあったのは、幾つかの光の玉。それがたびたび点滅していた。

なるほど、魔法というからにはこういうものもあるのかと健は感心する。

光の玉の中心にいたのは六課の新人、ランスターであった。

 

健とランスターは会話をしたことはあまりない。地球の道場での自己紹介程度だ。

 

話しかけてみようかとしたがランスターの表情があまりに真剣だったので結局止めることにし、バレないように見守ることにした。

 

 

実はこの日、ランスターは任務で仲間の撃墜未遂という失態を犯している。自身の力不足を嘆き、こうして特訓しているというわけだ。

 

 

そうして見続け、早5分。

汗をかいているものの、ランスターが着ている白い運動着は透けることはない。地球のものであれば汗である程度透けるものだが――。

と、健はそこまで考えを浮かべ、頭から消し去る為に頭を振る。

自身の、女性の胸好きを思い出して以来、考えが俗物になってしまったと自覚する。

 

このランスターも、綺麗な女性……というよりはまだ可愛いという段階だが、そうだと思う。

だが、重要なのは外見ではなく、中身である。

こうして努力する姿は、女性を美しくさせる。

彼女の武器である銃型のデバイスを、型になぞるように、正確に光の玉へ銃口を向ける姿。

動く度に彼女の胸が上下左右に柔らかく揺れ、それがまた美しく……。

 

 

今度は頭を振るだけではなく、木に頭を打ち付ける。

 

――何を考えているんだ、俺は。

 

どうやら健は、彼が思っている以上に、女性の胸が好きなようだ。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

打ち付けた音によりランスターが健の存在に気が付き、声をかけてきた。

彼女としては練習を続けたいのだが、健はロストロギアの影響で心に悪影響を与えている、ということになっている。

何かあってはいけないと、こうして声をかけた次第だ。

 

「いえ! なんでもありません。すみません、お邪魔でしたね」

 

まさか「あなたの胸に見惚れてました」とは言えまい。

謝罪する健の視線は、礼をすると共に再びランスターの胸へと舞い戻る。

シグナムほどではないが、美しいと健は思う。

思うが、自己嫌悪の波に飲み込まれた。

 

「大丈夫ですか? 医務室に行ったほうが……送りましょうか?」

 

「大丈夫です、大丈夫です」

 

ある意味発作である、頭を振る行為を心配するランスター。

基本的には、素直な子である。

 

そうですか、と再び練習に戻るランスターに、健は疑問をぶつけた。

 

「ランスターさんは、どうして強くなりたいんですか?」

 

健の目標は、至ってシンプル。

シグナムに勝つことだけだ(その後の行為がそもそもの目的だが)。

 

この魔法の世界に来て、どんな目標を持つ者がいるのか気になった。

 

「どうして……ですか?」

 

そう言って、しばらく固まるランスター。

少しおいて、口を開く。

 

「強く、ならなくちゃいけないから、です」

 

「それはまた、どうしてですか?」

 

ほとんど初めて話す女性に対してやや踏み込み過ぎな質問である、と健も分かっている。だがそれを上回る興味があった。

 

ランスターは任務で疲れているはず。食事中も元気のない姿を見かけている。

だと言うのに、何故練習を? 翌日も朝から訓練が待っているはずなのに。

 

一度踏み越えたラインを、戻る気にはなれなかった。

 

「私は、凡人ですから。周りの天才達に着いていくには練習するしかないんです」

 

ランスターの語ったことは、本音ではない。

彼女は純粋に強さを求めている。

彼女の兄の、家族の力を、「あの時」嘲笑った連中を見返すだけの力を。

 

その事が、彼女の口から飛び出る事はない。

初対面と言ってもいい男性に、軽々しく本音を語ることが、そもそもあり得ない。

 

「凡人ですか……」

 

「えぇそうです。凡人には凡人なりの努力で、頑張らないといけないんです」

 

再び、練習に戻ろうとするランスター。

だがまた健は呼び止める。

 

「ランスターさん、少し自慢話、してもいいですか?」

 

「……なんですか」

 

嫌そうな顔が見てとれる。

隠しきれていないし、隠そうとしているのかすらわからない。

しかし健は続けた。

 

 

「俺はですね、住んでた世界では天才って呼ばれてたんですよ。剣道界での話ですけど」

 

「はぁ……」

 

「でも俺自身は天才だと思ったことはありませんでした。実際、努力が実を結んだだけでしたし」

 

ランスターは黙る。健が何を話すのか、多少なりとも興味を持ったようだ。

 

「俺を天才だって言った人にそう言ったんですよ。努力しただけだって。そしたらその人、こう言ったんです。『努力の天才』って」

 

「努力の天才……」

 

 

努力の天才、という言葉は地球では有りふれたものだ。

だがここ、ミッドチルダではそれほど聞かない言葉であり、ランスターは更に興味を示す。

 

「ランスターさんは、努力の天才って、どういう言葉だと思いますか?」

 

「……努力すれば、天才にも匹敵する、ってことですか?」

 

「そうですね、そういう意味もあるかもしれません。でもね、彼が言ったのはそういうことじゃなかったんです」

 

そこで深く息を吐く。

当時のことを思い出して。

 

「彼が言いたいのはこういうことだったんです。『努力するにも才能がいる』って」

 

ランスターの目が、やや大きく開かれる。

衝撃を受けているのか、あるいは別の感情か。

 

「笑っちゃいますよね。彼が眠っている間も、遊んでる間も、俺は必死に竹刀を振り続けて。血豆を作って、筋肉痛に苦しみながら振り続けて。その努力も、全部全部、才能のおかげだって言うんですよ」

 

そう言って力なく笑う健。

ランスターは少し、うつむいている。

 

 

「話しが逸れてしまいましたね。つまりランスターさんは、凡人じゃないって言いたかっただけなんです。努力するのも、きっと立派な才能ですから」

 

ランスターは、何も答えない。

 

「ランスターさんは、天才だと思いますよ。少なくとも俺と同じベクトルの。っと、練習の邪魔しといて言うセリフじゃありませんね。俺はこれで失礼します」

 

それで健は立ち去った。

 

健は知らない。

自分が、彼女を更に追い詰めたことを。

 

健は知らない。

彼女の真の目的を。

 

健は知らない。

自分が、魔法というものを甘く考えていることを。

 

そして。

 

 

 

「だったら……その努力の天才は、努力するしかないってことか……」

 

 

健は知らない。

彼女の呟きを。

 

 

 

 

 

この日より数日後。

ランスターは高町なのはとの模擬戦により撃墜。

数時間の、彼女にしては長い眠りにつくことになる。




SEKKYOUではなく自分語り……だと……。どこのゆとりJKだ。
ティアナもOPI大きいですよね。彼女は健の犠牲になりました。

健はティアナ以上に安全な世界に住んでたので、こんなことを言いました。
努力は無条件でいいものだと、そういう意味合いで。
無責任ですね!

しかし今回は評価低そうだなぁ。SEKKYOUだし。見どころはティアナのOPIだし。
そもそもメインヒロイン出てないし。ここのシグナムはちゃんと仕事してるんです!

デバイス名を募集したいんですが、こういうのは感想乞食乙!になってしまうのでしょうか。このままではコテツとかマサムネとかになってしまうので。

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