「ぜ、全国大会……?」
「ああ。夏休みの最後に行われる」
ゲームの中で現実世界の話をするのは禁止、というわけではないがプライバシーの為にするのはまずい。だから俺は今後、ベータテストを続けられない理由を現実世界の和美の部屋で告げた。
「直葉から聞いていないみたいだな。とにかく俺はその大会に出場するから、これ以上ゲームに時間を割く事は出来ない」
「で、でも……暇が出来た時にでも」
「暇な時間は全て特訓に使う。去年はベスト5だったからな、それ以上の結果を出す為には生半可なものでは駄目なんだ」
和美には悪いが、俺は剣道部の部長だ。しかしそれ以上に俺は夜天流剣術道場の一人息子にして跡取りだ。もしも俺がさらなる結果を出せば、道場がテレビで紹介されて人気が殺到するだろう。そうなれば、稼いだ金で生活費だけでなく自分が気に入った物を買えるはずだ。
「そ……そうだよね。真一にとって、私とゲームで遊ぶなんかより部活の方が大事なんだよね……」
「………っ」
悲しむ表情を向けてくる和美。教え『その3 女性を悲しませるな』を破るわけにはいかない。だが、やはりそれ以上に──────
「とにかくベータテストはこれ以上やらない。だが、このゲームの正式版を俺も買ってやる」
「……ふぇ?」
「どうせお前も買う予定なんだろ?」
「そ、そうだけど……高いよ?」
「金ならどうにかなる────予定だ」
ここで必ず用意できると言ってしまえば、買えなかった時に何と言われるか分からない。そうならないようにするには、まず大会で今まで以上の結果を出さなければならない。
しかし、問題は金以外にもう1つあるのだ。
「だが、このゲームは相当な人気だ。販売が始まったらすぐに消えるだろう。金があったとしても買えるかどうか……」
「えっ、ベータテスターには正式版の優先購入権がついてるけど」
「………………な、に?」
だが、そんなものは見てい────いや、待てよ?確か親父が何か箱についていたぞって言っていたような気が……まさか、アレが?
「……和美」
「う、うん?」
「俺がやるべき事は1つに決まった」
必ず大会で優勝してやる──────!
その後に行われた練習に対して部員が思った事。
「ね、ねぇ……最近、暁先輩の練習、厳しくない?」
「だ、だよな……何があそこまで部長を熱くしているんだろう……?」
「昨日、部活が終わってからも部長……ずっと素振りを続けていたみたいだぜ。夜、巡回にしに来た先生が驚いていたって噂だ」
「ていうか部長、休憩中も休まないでずっと練習してたぜ……なんつー体力してんだ……」
「な、なぁ……昨日の練習試合……暁の奴、凄くなかったか?」
「ああ……しかも最後の相手、今年の全国大会の優勝候補の1人だぞ……」
「それを瞬殺って、本当に人間かあいつ……?」
全国大会で優勝する。そしてテレビなどのメディアで紹介された道場に多くの弟子を入る事で、生活費以上の金を手に入れる────真一はそれらを全て成功させた。
ちなみに、全国大会を見ていた人達は揃えてこう言ったようだ。
あの人間離れした動きは、本当に人間が出来るものなのか?────と。
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