和美はベータテストが開始された以降も連日でソードアート・オンラインの世界へと入った。ベータテストは8月いっぱいだが、どうやら和美はそのテスト期間ずっと遊ぶつもりでいるらしい。部活がある俺にそんな事は出来ない為、暇が出来たら和美に誘われてアインクラッドに降り立っている。
「はっ!」
ベータテストが始まってから既に10日以上が経った。俺達が今いるのは最初に降り立ったあの街、始まりの街でもその周囲のフィールドでもない。ここはホルンカの村───始まりの街の北西のゲートをくぐり、進むと辿り着く村───から西にある森。
「うわっ、あああっ!」
「やべっ、また1人やられたぞ!」
ホルンカの村の奥にある民家で受けたクエスト────それは重病で床に伏した娘を治す為に、西の森に生息する捕食植物の胚種を取ってきてほしいという母親の頼みを叶えるもの。
「く、くそっ────げっ!?」
しかしその捕食植物は凶暴である上に、胚種が取れるのは花を咲かせている個体のみで、さらにはめったにいないという。だが胚種を取ってくれば、先祖伝来の長剣が貰える。ちなみにこの長剣、この階層で手に入れられる片手剣の中では最強らしい。
「キリト、HPは大丈夫か?」
「うん」
それならいい、とキリトに伝えて俺は再び襲い掛かってくる大量の捕食植物────リトルネペントに向き直る。リトルネペントには普通の奴と滅多に現れない花つき、実つきがいる。実は攻撃すると破裂し、嫌な臭いがする煙を撒き散らし──────大量のリトルネペントを呼び寄せるのだ。その実を
このクエストにはキリトと2人だけでのパーティではなく、このクエストに何度も挑んでは失敗しているパーティと組み、共に受けた。俺達のレベルが高い為に助けてほしいと頼まれたのだが、彼らのレベルは2……戦っていて分かったが、リトルネペントとまともに戦うのにレベル3くらいは必要だろう。
「ぐえっ」
「……全員死んだか」
俺とキリト以外のパーティメンバーは死んだ。まぁ、死んだといっても、始まりの街の北にある宮殿、黒鉄宮という場所で蘇生されるらしいが。
「シン、一度ホルンカの村に戻ろう!このままじゃ私達までやられちゃう!」
「だが、どうやって戻る?この数じゃ強引にも突破しようにも、殺られる可能性があるぞ」
「隠蔽スキルを使おう!あれを使えば、きっと────」
「アホか」
俺は向かってくるリトルネペントの蔓を刀───新しく手に入れた一陣刀で斬りながらキリトを睨んだ。先程までは熟練度を上げる為に曲刀で戦っていたが、耐久値か限界を越えてしまって壊れたからだ。
「あのパーティの連中が言っていただろ?前回、隠蔽スキルを使いながら逃げていたら見つかったとな。リトルペネントは目がない分、他の方法……嗅覚で相手を見つけているのかもしれない」
「あっ、そうか……じゃあ、どうしよ────うわっ!?」
リトルネペントから吐き出された腐蝕液をかわしたキリトであったが、バランスを崩して転んでしまった。何をしているんだか……と思いつつ、キリトに迫る蔓を切断して本体も一刀両断する。
「あ、ありがとう……」
「それよりとっとと立て。まだ来るぞ」
残りはまだいるものの、数はもうそんなに多くない。これならば強引に突破すれば、ここから離脱できるかもしれないな。
「キリト、俺が道を作るからお前は────」
「シン!あ、あれ!」
キリトが指差す方向を見ると、そこには花つきのリトルネペントがいた。ようやく出てきたか。奴が現れる確率はほんの僅か……だが、リトルペネントを倒し続ける事で
「キリト、お前がアレを殺れ。俺は他のリトルペネントの注意を引く」
「1人で大丈夫?」
「奴らの動きはある程度読めてきている。まったく違った攻撃をしてこない限り、当たる事はない」
「そっか……じゃあ頼むね!」
俺は残りのリトルネペントへと突っ込み、一陣刀でダメージを与えていく。刀のソードスキルはまだ使えない為、一撃で倒す事は出来ないが別にダメージを与えていけば倒せないわけではない。
「ふっ!」
向かってくる蔓を回避しつつ、かわせないものは斬るが、中には間に合わずに攻撃を受けてしまうのもある。しかしどうやらうまく注意を引けたらしく、花つき以外のリトルネペントが俺に迫ってくる。
「ふんっ……雑魚も集まれば、それなりの脅威にはなるな」
俺はリトルネペントに対してそう言い放つ。キリトに目を向ければ花つきのリトルネペントと対峙しており、あと少しもすれば倒せるだろう。
「こっちもそろそろ終わりにするか」
向かってくる蔓を避けつつ、リトルネペントを着実に倒していく。6体……5体、4体……3体……2体……そして残り1体。
「トドメだ」
刀を下から斬り上げ、倒す。周囲を見渡し、念の為に残りがいないか確認するが、全て倒したようだ。HPバーを確認し、半分以下までに減っている事に気付く。どうやらいくつか掠ったと思っていた攻撃が実際は深かったようだ。
「はぁっ!」
キリトの方に視線を向けると、片手直剣のホリゾンタルというソードスキルが花つきのリトルネペントを水平に斬り、次の瞬間には爆散した。
キリトのすぐ傍に仄かに光る玉が転がっていく。あれがリトルネペントの胚種だろう。キリトはそれを拾い、ストレージに入れると座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ……よ、ようやく手に入れられたね」
「疲れ過ぎだろ。ほら」
「あ、ありがとう」
確かキリトの回復ポーションは切れていたなと思い出し、ストレージに残っている回復ポーションをトレードする。Yesを押し、回復ポーションを飲むキリトだったが、何かに気付いたように目を見開いた。
「シンもHPが少ないじゃん!早く回復ポーションを────」
「それで俺のも最後だ」
「えっ!?」
俺はキリトにそう告げ、一陣刀を鞘には納める。俺のHPバーは既に全体の3割くらいだ。しかしクエストをクリアする為のアイテムは手に入れられた。ならばホルンカの村に戻って宿屋で休めばいいだけだ。それをキリトにそう言うと、
「じゃあ、早く村に戻ろう!」
「ああ」
森にいるリトルネペントはここに集まってきた事でほとんど倒したはず。再び出現するのはまだ先の事だろう。ならばゆっくりと戻っても戦闘になる可能性は低いと思われる。
だから、ここで伝えておこう。
「キリト、お前は今後もベータテストを続けるのか?」
「うん、もちろん!だけど、何で?」
「……実はな、」
──────俺がベータテストをやるのは、今日で最後だ。
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