とりあいず今月中にギリギリで投稿できてよかったです。
「はぁっ!」
迫り来るモンスターを俺は新たに入手した刀────
「だ、大丈夫なのかい?ずっと戦ってくれてるけど……」
「ああ。それにこれより多い数と戦った事なんて何度もあるしな」
後ろから心配そうに声を掛けてきたルクスに俺はそう答える。俺だけが戦っているのはルクスの安全を考えての事だ。レベル的には大丈夫だろうが、あのような事があった後では精神的な問題が出てくるかもしれない。ならば俺が先陣を切る事にしたのだ。
「とにかくまずはクリスタル無効エリアを脱出する。そしたら転移して安全な場所に……」
「あっ……ちょ、ちょっと待ってくれるかい?」
「どうした?」
「実は探したい人達がいるんだ。私のパーティメンバーで…………あ、あれ……?」
ルクスの目線は左下へと向いている。おそらくパーティメンバーを確認したんだろう。だが何かあったらしく、様子がおかしい。
「全員……名前がない……?」
「……その場合、考えられるのはパーティから離脱したか、あるいは……」
「ま、まさか、そんな……っ!!」
パーティメンバーの名前が消える原因はもう1つ、そのプレイヤーが
「ルクス、ラフコフの奴らは何か言っていたか?」
「そういえば……私と出会った時、さっきの奴らの仲間とか、所持品は期待できないとかって……」
「……なるほどな」
『さっきの奴らの仲間』だけでは、ラフコフが接触したかどうか分からない。しかし『所持品は期待できない』という事は接触し、間違いなく略奪をしている。奴らならその後、パーティを脱退させずに脅してルクスを誘い出す事も出来たはず。だがそれをあえてしなかった──────いや、そこまでする必要がなかったからか。
「ルクス、奴らがギルドに引きずり込んだ可能性もある。その時に居場所を知られない為にパーティを脱退させただけかもしれない」
「ほ、本当かい……?」
「あくまで可能性の1つだがな」
ラフコフの奴らは殆どがオレンジプレイヤーだ。オレンジになった奴らが圏内に入ろうとすればNPCの衛兵が現れ、入れなくなる。その為、街への買い出しや効率的な狩場の確保などを行うプレイヤーを必要としているそうだ。ルクスをギルドに入れようとしたのも、それが目的だろう。
「でも、それならまだここに……」
「……確かにいるかもしれない……だが」
ラフコフの奴らがいる以上、ここに長く留まるのは危険だ。ここにいるラフコフがPoH達だけとは限らない。もしかしたら他のメンバー達が別行動でいるかもしれないのだ。相手を殺す方法を幾つも生み出しては広めている奴らだ、俺が対処法を知らなけばルクス共々殺される事になる。
「……ちょっと待ってろ」
「う、うん」
俺はメインウインドウを開き、
「3人……おそらくPoH達だな。あとは……」
他にもう3人……いや、これは2人が1人を追いかけてるのか?カーソルは1人の方はグリーン、もう2人は……っ、オレンジ……!
「ルクス……
「持ってるけど、何を?」
「オレンジ……おそらくラフコフだと思うが、そいつらが誰かを追いかけてる。俺は今からそいつを助けに行くがルクス、お前はすぐここから────」
「逃げる気は……ないよ」
俺の言葉を遮り、ルクスは答えてきた。PoHは他のメンバーと比べれば別格の存在だが、それでもラフコフの恐ろしさは分かったはずだ。それなのに何故……?
「その人がもしも私の仲間だったら、私はその人を置いて逃げたって事になる。私だけが逃げるなんて、そんなのは……嫌なんだ」
「殺される可能性が十分にあるとしてもか?」
「危険だって事は知ってる。お願いだ、私も一緒に連れていってくれないかい?」
ルクスを連れていくのは本意じゃないが……。
「……危なくなったらすぐに逃げろ。それが条件だ」
「うん、分かったよ。ありがとう、シンさん」
こうしている間にもラフコフが追いかけてるプレイヤーが危険に晒されているかもしれない。ならばここはルクスの要求を飲み込み、連れていった方が手っ取り早い。それに1人にして危険な行動をとられる事もないだろうからな。
サブダンジョン内を走る俺とルクスはかなり奥にある部屋へと辿り着いた。そして不意に俺が立ち止まると、ルクスは不思議に思ったのか顔を近付けてくる。
「ど、どうしたんだい?」
「気を付けろ、こっちから来るぞ」
俺薄暗い通路の先を見つめ、鬼燕を鞘から引き抜いた。ルクスが俺の言葉にハッとした瞬間、すぐに通路の先から男性プレイヤーが走ってくるのが見えた。懸命に走り、その後ろにはやはりというべきかラフコフの2人がいる。
「あっ……!あの人、同じパーティの……!」
「ルクス、お前は隠れてろ!」
俺は通路へと走り出した。何故ルクスのパーティメンバーがこのような状況になっているかは分からないが、とにかく助けなければならない。その為にはとにかく奴らを止めないと……!
「っ、ル、ルクス!?どうしてここに!!」
ルクスの存在に気付いた男性が驚いた様子で目を見開く。俺はそんな彼の横を素通りし──────一瞬だったが、小さく呟いた。
「ルクスと隠れてろ……!」
「あ、ああ!」
俺がラフコフの奴らの視界から彼が見えなくなるように並び立つと、奴らは立ち止まった。それぞれの武器はナイフ……おそらく相手を何らかの状態異常にする事が出来る代物だろうな。
「誰だテメェ?」
「俺らのゲームの邪魔をすんじゃねぇよ!」
「ゲーム……?」
あのプレイヤーを追いかけていた事と何か関係があるんだろうが……こいつらは一体何故あんな事を……?
「俺とこいつ、どっちがプレイヤーを多く殺せるかってゲームさ!」
「偶然リーダー達が見つけたパーティを俺達に玩具としてくれたのさ!今、2対1で俺が有利なんだよ!だからさぁ……そこ、どけよ!」
「っ……お前ら……!!」
ルクスのパーティメンバーを追いかけていたという事は、そのパーティというのはルクスの仲間で間違いない……そしてどちらが多く殺せるかというこのゲームで2対1という事は既に仲間の3人を……っ!
「おいおい、俺らに歯向かう気か?俺達がラフコフだって分かってないわけじゃ────」
「……黙れ」
「ああ?」
「黙れって言ったんだ……聞こえなかったか?」
こいつらをこのまま放っておけばさらに多くのプレイヤーが犠牲になる。これはラフコフの奴ら全員に言える事だが、例え1人でも捕まえる事が出来れば救われるプレイヤーは大勢いる。それは悪い意味で言えば、ラフコフの奴が1人いるだけでそれだけの脅威になるのだ。
「お……おい、こいつ……もしかして、あのビーターなんじゃあ……?」
「は?いやいや、あんな奴がこんな所にいるはず……が……っ!?」
ようやく俺が何者なのか気付いたようだが、もう遅い。お前らみたいな奴を俺は見逃すつもりなんてないんだよ。
「プレイヤーを殺しているんだ、なら……自分が捕まる覚悟も出来てるんだろうな?」
結果だけを言えば、最前線に立つ俺とラフコフといえどおそらく下っぱの奴らでは戦いにすらならなかった。オレンジプレイヤーを攻撃してもオレンジになる事はない……それを利用し、俺は奴らのHPをギリギリまで減らした状態で回廊結晶を使い、
「それで……これから2人はどうするつもりだ?」
ルクスのパーティメンバーは全員で5人……その内の3人はラフコフの奴らにより殺されてしまっている以上、あのサブダンジョンに残っている理由はない。故に俺とルクス、そしてメンバーの1人である男は第33層の主街区へと戻ってきた。
「……決まってる。フィールドなんてもうまともに出歩けない、俺は二度と街の外に出るつもりなんてないよ」
「っ……それって……」
「悪いけど俺はパーティに戻る気はない。ルクスもフィールドに出るなんてバカなこと考えるなよ……それじゃあな」
確かにそう考えるようになるのも仕方ない。わざわざ危険なフィールドに出るよりも、圏内にいる方がモンスターやオレンジプレイヤーにも襲われず、安全に過ごせるからな。
それに例えフィールドに出なくても、圏内でこの世界を生きていく術はいくらでもある。
「ルクス、お前はどうする?」
男が立ち去り、それからずっと悩んでいるのか顔を俯かせているルクスに俺は声を掛けた。あの男と同様にフィールドに出ず、圏内で過ごしていくのであればラフコフに襲われる可能性は大きく減る。奴らに会うこと自体滅多にない事だが、顔が知られている以上見つかれば真っ先に襲われるだろうからな。
「……ラフコフに襲われた時、とっても怖かったんだ。シンさんが来てくれて……私は助かったけど、その後も怖くて何も出来てなかっただろう?」
「ルクス……別にそれは──────」
「だからさ」
顔を上げたルクスは俺を真っ直ぐな目で見つめてきた。その目は先程までの怯えていたものではなく、何かを決心したかのように力強さが感じられた。
「教えてくれないかい?どうすればシンさんのような強いプレイヤーになれるのかをさ」