ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第33話 フラワーガーデン

「うわぁ……凄いっ……!」

 

次の日、朝食を食べ終えた俺達は第47層の主街区・フローリアへと転移した。そして眩い光が薄れ、目の前に現れた光景にシリカは驚いていた。

広場は無数の花で溢れており、風に乗って宙を舞う花びらも非常に多く、幻想的な光景を作り出している。そういえば初めてこの階層を訪れた時には、誰もがシリカと同様に見入っていたが……これは何度見ても凄いとしか言う他ない。

 

「このお花……とってもいい匂いがします!」

「きゅるるっ!」

 

花壇の前にしゃがみこむシリカは薄青い花に顔を近付け、そっと香りを嗅いでいた。ピナも同じように嗅いでおり、その香りを気に入ったようである。花はゲームとは思えない程の精密さで造り込まれているが、全ての花が常時このように存在しているわけではない。

ディティール・フォーカシング・システム────この仕組みはプレイヤーがオブジェクトに興味を持ち、視線を凝らした瞬間、その対象物だけがリアルな物へと変わるものらしい。

 

「さて……それにしても、今日は人が多いな」

「えっ?……あっ」

 

周囲を見渡せば、様々な場所を男女の2人組が歩いていた。楽しそうに手を繋ぐ者、腕を組む者、中には人前だというのにキスをしている者もおり、まるで周りに見せつけているようにも感じられる。

ここが()()()()場所へとなったのはこの階層が攻略されてからだ。それ以前からも人気はあったものの、ボス戦の準備で攻略組が居座っていた為に訪れる者はほとんどいなかったが。

 

「シ、シンさん……その、ここって……」

「俺も話やテレビ位でしか聞いた事がないが、デート……スポット?とかいう場所らしい」

「う、うわぁあ……」

 

シリカは先程まで驚きに満ちた表情をしていたが、今では顔を真っ赤にさせて俯いてしまっている。突然どうしたのかと尋ねるも、俺の声はシリカの耳には届いていないらしい。ずっと何かをブツブツと言っている。

 

「や、やっぱりこれってデート……?でもあたしとシンさんはそんな関係じゃ……そ、それは嫌じゃないし、逆に嬉しいけど……ううっ、だけどそう見られているのはすっごく恥ずかしいし……!」

「……シリカ?しっかりしろ、大丈夫か?」

「ひゃっ、ひゃぃいっ!?」

 

シリカの前へと回り、屈んで問い掛けてみたがどうやら驚かせてしまったようだ。何の反応もなかった為、心配だった故にだが悪い事をしてしまったな。

 

「あっ、す、すみません!その、全然話を聞いてなくて……」

「いや、それは別にいいんだが……どうかしたのか?シリカと俺がどうとか聞こえたが」

「いっ、いえっ!シ、シンさんには関係ない話ですから!気にしなくて大丈夫です!!」

 

焦った様子で否定するシリカだが、そこまで言われると逆に気になるんだが。まぁ、無理に追求する必要もないか。

 

「ならとりあいずここから移動するか」

「は、はい、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は巨大花森へと向かう為にフィールドへと出た。当然フィールドも花だらけであり、どこを歩いても壮大な花畑がいつも見える。その光景に見とれるシリカが不意に俺よりも前に出た瞬間──────

 

「ぎゃ、ぎゃあああああ!?な、なにこれ!?き、気持ちワルー!!」

「きゅっ、きゅるるっ!」

 

俺達よりも背の高い草むらから現れたそれは、シリカが思っていた敵とは違っていたようだ。一言で言うならばそれは名前と同じく歩く花(ウォークフラワー)。ひまわりに似た巨大花の中央には牙を生やした口が見え、獲物(俺とシリカ)を見つけた事で涎が垂れている。

シリカの慌てた様子を見て、ピナが落ち着くよう声を掛けているが効果はないらしい。

 

「キシャアアアアアッ!!」

「や、やああああ!!こ、来ないで!来ないでってばー!!」

 

確かにその姿はシリカだけでなく、誰もが気持ち悪いと思うだろう。特に女性ならば吐き気すら催すに違いない。しかし残念ながらこの階層に現れるモンスターのほとんどはあのような見た目なのだ。

 

「確かに気持ち悪いが、この階層のモンスターの中では一番弱い。弱点は首根っこにある膨らみを────」

「せっ、説明はいいですから、シンさんっ!早く倒してくだ────わっ!?」

 

無茶苦茶に振り回される短剣だが、ウォークフラワーには一度も当たっていない。それどころか目をつぶっていたせいで近付いてくる2本のツタにシリカは気付けず、両足を縛られて持ち上げられてしまった。

 

「いっ……いやああああああっ!!」

「きゅるっ!?」

 

ぐるん、と体が反転して宙吊りにされたシリカは悲鳴を上げながらもただでさえ短いスカートがずり下がる事を阻止しようと裾を押さえた。しかしあれでは自由な左手が使えず、裾を離さなければこの不利な状況を打開する事は不可能だ。

 

「シッ……シンさん!助けて!見ないで助けてっ!」

「それは……ちょっとな」

 

流石に相手を見ないままシリカを助けるというのは無理がある。そんな事をしていれば攻撃は見当違いな方向へと飛び、逆に俺がやられて終わりだろう。

 

「きゅるるっ!きゅるるるっ!!」

「あっ、ピナ!?」

 

主人が危機に陥っている時に、使い魔であるピナが黙っているはずがない。口からシャボン玉にも似たブレスを吐いて攻撃する……が、シリカと違って何の装備をしていないピナの攻撃が通じるはずもなく。

 

「キシャアアアッ!!」

「きゅるぅっ!?」

 

ピナをうっとうしいと思ったのか、片方のツタをシリカから離して勢いよく弾き飛ばした。こちらへと吹っ飛んでくるピナを地面にぶつかる前に受け止めたものの、ダメージをかなり受けてしまったようだ。

 

「こ、の……いい加減に、しろっ!」

 

ピナをやられてシリカはウォークフラワーと対峙する事を決めたらしい。スカートから離した左手で自身に残るツタを引き寄せ、短剣で切断する。結果、下へと落ちるが視界に入った首根っこの膨らみへとソードスキルを見事に命中させた。

 

「ッッ!!?」

「や、やった!って、きゃあっ!?」

 

弱点を突かれたウォークフラワーはHPを一気に0へと減らされ、ポリゴン状の欠片へと姿を変えた。故に足場を失ったシリカは体勢を変える暇もなく、尻餅をつくような形で落ちてしまった。

 

「大丈夫か、シリカ。まさか一発で仕留めるとはな」

「あ、ありがとうございます……それよりピナは!?」

「無事だぞ。HPも回復していってる」

「きゅるるっ」

 

俺の元から飛び立ったピナはシリカの肩へと止まった。使い魔となったモンスターに回復アイテムなどは存在しないが、一定時間が経つと回復し始めるのだ。と言っても、少しずつだが。

 

「よ……よかった〜……」

「……ところでシリカ、1ついいか?」

「はい、何ですか?」

「……見えてるぞ」

「へっ?」

 

微妙に視線を逸らす俺が指差す方向────スカート部分へとシリカは視線を落とした。そこには先程は一瞬だったものの、今ではスカートが盛大に捲れて見えてしまっている物があった。

 

「っっ、っ……きゃあああああああっ!!?」

 

その瞬間、シリカの悲鳴と共に頬を引っ叩く音が盛大にフィールド中へと響き渡ったのである。




今回、もっと長かったんですが長すぎる為に分けました。

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