ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第32話 デートの約束

「シンさんは……実はロザリアさんみたいな人がよかったりするんですか……?」

「……なに?」

 

宿屋『風見鶏亭』に戻り、シリカの部屋を訪れた俺は突然そんな事を尋ねられた。しかし答えようにもロザリアの何をもってしてよいのか……少なくともシリカに対するあの態度が嘘でない限り、ロザリアに対していい印象はもてないが。

 

「どういう事だ?」

「だって……森の中を歩いてる時、ずっとロザリアさんのこと見てましたし……」

 

なるほど。気付かなかったが、ロザリアの行動を意識するあまり常にあいつを視界に入れていたのか。しかしつまりはシリカもそれが分かる程に俺を見ていたという事になるが……。

 

「ロザリアさん……あの態度は嫌ですけどあたしよりも綺麗ですし、実際他の人達もそう言ってました。だからシンさんもああいう人が好きなのかなって……」

「ああ、容姿について気になってたのか。けどシリカとロザリアじゃ年齢も違うだろ。確かにあいつは綺麗かもしれないが、俺はシリカの方が断然可愛いと思うぞ?」

 

というか……人を容姿だけで優劣をつけたくはないな。人それぞれに魅力的な部分はあるし、『容姿がいいから』という理由でそいつを好きになったりもしない。

 

「えっ……ほ、本当ですか!?」

「ああ」

「そ、そうですか……えへへっ、やった……!」

 

自分の容姿を褒められたシリカは相当嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべている。グッと手を握り、ガッツポーズを作ってるしな。

 

「ところでシリカ、話は変わるが……花は好きか?」

「お花ですか?はい、好きですよ。ピナも……食べちゃうぐらいに」

「ああ……そういえばフィールドにある物を食べてる事があるな」

 

使い魔は普通、主人が与える餌のみしか食べない。だがピナはそれだけではなく、フィールドに存在する花や木の実も口に入れ、食べてしまうのだ。現実世界の動物らしいが、何故ピナは他の使い魔と異なる行動が出来るのか分からないが。

 

「今日はなかなかに酷い事があったからな。花畑でも見て気分転換でもと思ってな」

「そんな所があるんですか?」

「ああ、フラワーガーデンとも呼ばれてる第47層はどこも花だらけでな。当然モンスターはいるが、女性プレイヤーには結構な人気があるんだ」

「へぇ、そんな所があるんですか!」

「だから明日、一緒に行かないか?」

「えっ?……ええええっ!?」

 

俺の提案にシリカは一瞬、唖然としたかと思うとすぐに驚きの声を上げた。いや、今のどこにもそんなに驚く所はなかったと思うんだが……。

 

「そ、そそ、それって……つ、つまり、デ、デ、デデ、デートって、ことです、か……?」

「まぁ……そうだな」

 

デートって確か男女が一緒に出掛ける事だよな?……いや、そういえば現実世界で和美や直葉にそう言った時もかなり動揺されていたような……ん?もしかして俺が意味を間違ってるのか?

 

「なぁ、シリカ。デートの意味って────」

「いっ、行きます!いえ、行きたいです!ぜひ行かせてください!ねぇっ、ピナ!?」

「きゅ、きゅるっ!?」

 

顔を真っ赤にしたシリカは慌てた様子で俺の質問を遮ってきた。どれだけ行きたいんだと思うが、その気迫には俺はおろかピナも困惑している。シリカに掴まれ、ブンブンと上下に振られながら同意を求められるピナには同情する他ない。

 

「シリカ、ピナを離したらどうだ?結構苦しそうだぞ」

「えっ?あ、ああっ!?ピナ、ごめん!」

「きゅるる〜……」

 

ようやく解放されたピナは力尽きたように床に倒れた。それを見たシリカは自分が何をしていたかを理解し、目を回している自分の相棒を心配して何度も謝り出した。

さて……とりあいずこんなもんでいいか。俺はドアの方を向き、索敵(サーチング)スキルで廊下側には()()何の反応もない事を確認する。

 

「……あとはキリトに話せば準備万端か」

「シンさん?今、何か……」

「ん?いや、ただの一人言だ、気にするな」

 

シリカには悪いが、()()が姿を現すまでは黙っているつもりだ。全てを話し、シリカが不審な行動を見せればバレる可能性がある。それでは俺が念の為にと考えた作戦に、奴らは嵌まっている事に気付いてしまうかもしれない。

 

「あ、あのっ、シンさん!」

「何だ?」

「その、47層のこと、もっと教えてもらってもいいですか?」

「別にいいが……それならこいつも使うか」

 

俺はウインドウを開き、所持しているアイテムの中から1つのアイテムを実体化させ、テーブルの上に置いた。それは小さな水晶が収められた小箱である。これは既に攻略されている階層ならば立体的に表示させられるレアアイテムであり、とあるクエストでしか入手できない物だ。

 

「綺麗……シンさん、これは?」

「ミラージュ・スフィアってアイテムでな、階層のことをよく知るには便利なやつだ」

 

指先で水晶に触れ、出現したウインドウには現在攻略されている第1層から第54層までは発光している。その中から47層を選ぶと、水晶が輝いて真上には円形のホログラムが現れた。第47層を丸ごと表示しており、街の建造物やフィールド上の木々までも細かに作り出している。それを見たシリカは顔を近付け、「うわあ……!」と感激の声を漏らしていた。

 

「凄い……こんな細かい所まで……!」

「俺も初めは驚いたな。まさかここまで立体的に表示されるとは思いもしなかった」

 

ホログラムを手で回したり、拡大したりしてシリカに第47層にどんな場所があるのかを説明していく。その途中、シリカが指を差して気になる部分を尋ねてきた。

 

「シンさん、ここは?」

「そこは北の端にある巨大花の森だな。大きな花がいくつも咲いていてな、モンスターの出現率は低いからわざわざ行くプレイヤーは少ないが……花のいい匂いはするし、絶景だからいい所だ」

「行ってみるってのは……?」

「まぁ、シリカが行ってみたいなら……ただ第47層のモンスターは当然ながらここよりも強い。シリカのレベルとその装備じゃまず危ないだろうな」

 

おそらく今のシリカでは第40層辺りが限界だろう。それより上の階層だと俺が一緒にいたとしても安全とは保証できない。故に主街区から出るならば何かしらの対策をしなければならないのは必然である。

 

「そ、そうなんですか……残念だなぁ……」

「いや、別に方法がないってわけじゃないぞ?レベルが足りないなら、装備で埋めればいい」

 

俺はそう言ってトレードウインドウを出現させ、操作していく。そしてシルバースレッド・アーマー、イーボン・タガーなどといった装備品や武器を次々とシリカにトレードしていった。

 

「とりあいずこいつらでレベルの差はある程度埋められるだろ」

「い、いいんですか?これ全部、もっと上の方でしか手に入らない物じゃ……」

「持っていても宝の持ち腐れだからな。誰かに買い取ってもらおうかとも思ってた位だし……だから金はいらないぞ」

 

わざわざ売るよりも使いたい奴がいるなら、今まで持っていた甲斐があったというものだ。まぁ、大半はドロップアイテムだったから売れば結構な値段はしたと思うが。

 

「で、でも……」

「いいんだよ。余り物だし、知らない仲でもないんだからな」

「シンさん……ありがとうございます!さっそく着てみてもいいですか!?」

「ああ」

 

お礼を言い終えたシリカはウインドウを開き、俺が渡した装備へと変えていく。全体的に赤を基調とした服と黒の短いスカートとなったその姿は、先程までの簡素な装備よりもシリカによく似合っている。

 

「え、えっと……ど、どうですか……?」

「いいんじゃないか?よく似合ってると思うぞ」

「そ、そうですか?でも、スカートがちょっと……」

 

スカートの中身が見えてしまうようなレベルではないが、やはり恥ずかしいのか頬を僅かに赤く染めて裾をぎゅと下に引っ張っている。

 

「でも……シンさんがせっかくくれた物なんですから、大切にしますね!」

「まぁ、ここよりも上の階層にいく予定がこれからもあるんなら役に立つだろうしな」

「はい!」

 

その後もしばらくシリカと話を続けたが、夜が更けてきた頃に流石に眠くなってきたのかあくびを漏らしていた。これ以上の夜更かしは明日に支障が出ると考え、シリカには部屋に戻ってもらった。 その際、シリカは明日出掛ける事を楽しみにしていると一目で分かる程に笑顔を浮かべていた。

 

「……奴らがどう仕掛けてこようが関係ない」

 

──────シリカには……指一本触れさせない。


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