ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第31話 迷いの森

次の日──────俺とシリカはリーダーであるロザリアや他のメンバーもといファンクラブの奴らと共に迷いの森を探索している。俺の他に地図を持つメンバーを先頭に進んでいってるが……険悪な雰囲気が後ろからひしひしと伝わってくる。その原因は勿論、シリカとロザリアだ。

 

「あんた、そのトカゲが回復してくれるんだからもっと前に出なさいよ」

「ピナをトカゲだなんて言わないでください!ロザリアさんだってみんなが頑張ってくれてるのに、ずっと後ろをうろついてるだけじゃないですか!」

「はぁ?なに言ってるのよ、ちゃんと攻撃してるじゃない」

「全然ですよ!あんなの、攻撃なんて言いません!」

 

昨日はロザリアがシリカに去り際、理由が分からないキツい言葉を言うだけで終わった。しかし今はロザリアがシリカだけに対して冷たく接するせいで余計に悪くなっている。先程から交わされるのは売り言葉と買い言葉だけだ。

 

「シ、シリカちゃん、ロザリアさん……そ、そろそろその辺で……」

「「あなたは(あんたは)黙っててください(なさい)!」」

「は、はいっ!?」

 

ファンクラブの1人が止めに入ったが、2人の気迫に押されて黙りこんでしまった。それからも激しくなる言い争いにメンバー達は止めに入れず、段々とそちらに集中していく事で歩くスピードが遅くなってきている。

迷いの森の名前はダテではない。森は数百のエリアに分割されており、エリアに入ってから1分が経つと隣接エリアへの道がランダムに入れ替わるのだ。転移結晶を使っても森のどこかに飛ばされるだけな為、地図を使って道を確認しながら次々に歩いていくしかない。

故に──────地図を使わずに進むのはこの森から出られずに死ぬ事を意味する。

 

「シリカ、ロザリア。喧嘩するならこの森を出てからでもいいだろ。じゃないと、他の奴らに迷惑だぞ」

「えっ?あっ……」

「っ……!」

 

そこでようやく自分達がほとんど立ち止まっている事に気付いたらしい。しかしそろそろこのエリアに入ってから1分が経つ頃だな。地図に表示されている道は森と連動している為、迷う事はないが余計な手間をかける事になる。

 

「ご、ごめんなさい……」

「……ふんっ、あんたがアタシの言葉を素直に聞かないからよ」

「何ですって!?」

「ロザリア、これ以上はやめろ」

「……分かったわよ」

 

再び言い争いに発展しそうになった為、俺はシリカを手で制してロザリアには直接口に出した。もう森の道は変わってしまっているだろうが、続けても意味などないし、パーティの雰囲気がこれ以上悪くなるのも気に入らない。

 

「シリカ、あまり強く反発するな。理由は分からないが、お前を挑発してるだけだぞ」

「だって!ピナをトカゲだって……それにあたしにあんなことばっか言って!あたしは色んな人に求められる位に()()()なのに……!」

 

……なるほどな。シリカが怒るのは珍しいし、あそこまで誰かと言い争うのは今まで見た事がなかったから不思議に思っていたが……そういった考えがあったからか。アルゴから『シリカは調子に乗っている』と聞いたが、あれは事実だったようだな。

その思い上がりが油断に繋がると注意したいが、今の興奮し切ったシリカでは油に水を注ぐようなものだろう。伝えるならもう少し落ち着いた頃にするか。

 

 

 

 

 

 

その後は特に言い争いは起きず、順調に森の中を進んでいった。襲いかかってくるモンスターはシリカ達でも苦戦せずに倒せるレベルであり、ドロップアイテムと大量のコルを手に入れ、宝箱も多く見つけた事でなかなかいい冒険となった。

しかし日が沈み始め、回復ポーションも尽きた事からそろそろ主街区へと戻ろうとした時である。ロザリアがシリカに向かって口を開いたのだ。

 

「そうそう、帰還後のアイテム分配なんだけど。別にあんたはヒール結晶は必要ないわよね?だってそのトカゲがいるんだから」

「またピナをっ……もういいです!!アイテムなんかいりません!あたしを欲しいっていうパーティは他にも山ほどいるんですからね!」

 

相棒であり、友達でもあるピナを何度もトカゲ呼ばわりされたシリカはもはや限界だったようだ。右手を動かして目の前に出現させたのは、パーティから離脱する際に出すウインドウ。シリカは下に表示されているOKを押そうとしたが──────俺が手首が掴んだ事により、すんでの所で止められた。

 

「っ!シ、シンさん!?」

「早まるな、シリカ。別に抜けるのはこの森を抜けてからでもいいだろ」

「でも……!」

 

シリカは迷いの森の地図を持っていない。つまりこのパーティから離れれば、迷ってしまうのは必然だ。俺はこのパーティでやらなければいけない事がある為、シリカにはついていけない。故にシリカの離脱は絶対に止めなければいけないのだ。

 

「ロザリア、シリカを煽るのはよせ」

「あら、アタシは煽ってないわよ?ただ本当の事を言っただけじゃない」

「……確かにピナは回復のブレスを吐く。だが回復するのは1割程度だし、頻繁に使えるものじゃない。だからヒール結晶はシリカにも必要なものだ……分かるな?」

「……ふんっ、分かったわよ」

 

俺の説明に対してロザリアは納得していないらしく、顔を背けて進んでいってしまった。ロザリアは煽ってないと言っていたが、何度も見せられたこちらとしては信じる事は難しい。そもそも言葉を掛けるのはどれもロザリアからだった。何度も言い争いになっているのに、何故あんなにしつこく……。

 

「シンさん……どうして止めたんですか?あたしはもうあんな人とは一緒にいたくないんです!」

「気持ちは分かる。が……1人でこの森から抜けられると思ったのか?」

「それは……」

「自分を過信し過ぎるのはいい事じゃない。油断して命取りな状況になる事だってあるんだからな」

 

シリカは確かに多くのパーティに誘われる、いわば有名人だ。ただの小学生だった自分がアイドルのようになれば、いい気分となって調子に乗ってしまうのも無理はない。だからこそ窮地に陥った際には心が折れやすくなる。そうなる事で過ちに気付いてくれるが……わざわざシリカに危険を冒してまで気付かせる事など出来ない。でなければ離脱を阻止するなど考えなかっただろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの森から出てすぐにシリカはパーティから離脱し、転移結晶で主街区へと飛んでしまった。それだけロザリアと一緒にいたくなかったんだろう。俺もシリカの後を追いかける事を考えたが、まだやるべき事を終えていない。シリカには宿屋に戻っているようメッセージを送り、俺達は予定通りにアイテムの分配をして広場で別れる事となった。

 

「あんたはどうする気?このパーティに残るのかしら?」

「……いや、俺も抜ける。元々シリカに誘われて入ったんだ、その本人がいないんじゃ残る意味はないだろ」

「あら、そう。残念ね、あんたは強くて頼もしいから期待していたんだけど」

「……そうか、ありがとな。それじゃあな」

 

シリカを散々挑発するような奴がいるパーティにいたくないというのもあるが、元々このパーティからは抜けるつもりだったのだ。俺とシリカが抜ける以上、あのパーティの戦力は著しく下がる。それにあのファンクラブのメンバー達もシリカが目当てだったのだから、近い内に抜けるはずだ。つまりあのパーティは事実上、解散状態となるだろう。

 

「だが……」

 

キリトから言われた通りなら──────このまま何事もなく、終わるとは限らないだろうな。




ピナ蘇生の話はなしのまま進みます。

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