ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第26話 夢と現実

「攻略組と僕らは何が違うんだろう?」

 

迷宮区の休憩ポイントでサチの手作り弁当を頬張っていると、ケイタが不意にそんな事を呟いた。その突然の問いに他のメンバーは何と答えたらいいのか迷い、俺も求める答えを出せるか分からない。しかし攻略組として活動している俺にはそれに答える義務があるだろう。

 

「それは────」

「突然どうしたの、ケイタ?」

 

ケイタの問いに答えようとすると、サチによって言葉を遮られた。本人はそんなつもりなどなかったんだろうが、なってしまったからには仕方ない。それよりもケイタが何故そのような事を呟いたのかが分かるんだと考えよう。

 

「攻略組も僕らも同じプレイヤーだろう?なのに僕らとの間には大きなレベルの差がある。実際、シンのレベルと僕らのレベルは初めは20近くも違っていたし。何がそこまでの違いを出しているのか気になったんだよ」

「そりゃあ、情報を独占してる事じゃないか?」

「うん……このデスゲームが始まった瞬間に元ベータテスターはみんな、始まりの街から飛び出していったみたいだからね」

 

ケイタの言葉にダッカーやササマルが答える。しかしその答えはケイタが求めていたものとは違っていたらしく、不満そうだった。

 

「そりゃ……そういうのもあるだろうけどさ。僕は意思力だと思うんだよ。そういう力があるからこそ、彼らは危険なボス戦に勝ち続けられるんだ。僕らは今はまだ守ってもらう側だけど、気持ちじゃ負けてないはずだよ」

「意思力……つまり心が折れないってこと?」

「そうだね。どれだけ相手が強くても諦めずに挑めるから攻略組はあんなにも強いんだと思う」

 

……なるほどな。ダッカーやササマルは違いの大部分を出しているが、ケイタはそれに反して自分が思い描いた事を口にしている。察するに、ケイタにとって攻略組は憧れなんだろう。だから『情報を独占している』などと悪く言われて不満げになったんだ。

 

「シンはどう?攻略組のメンバーなんだし、何か感じた事とかあるんじゃないかな」

「僕もシンは違いが何か分かってるんじゃないかと思ったんだけど……どうかな?」

「……違い、か」

 

ケイタやダッカー、ササマルが出した答えは間違ってはいないだろう。攻略組にはそういう人もいるし、中にはそうではない人もいるからな。情報を独占していれば、良い狩り場を見つけたり強力な武器を手に入れられる。だがそれが出来ずとも攻略組にいる人達は多い。その中にケイタが言うような人はいるかもしれない。

 

「俺は、攻略組には叶えたい夢や成し遂げたい目的があるからだと思う」

「シン、夢なら僕らにもあるよ。今は無理だけど、攻略組に仲間入りしたいっていう夢がね」

「攻略組のはそんな立派なもんじゃない。もっと……我が儘みたいなやつだ」

 

以前、キリトは攻略組のメンバーが攻略組でいられるのは数千人のプレイヤー達の頂点であり続けたいからだと言っていた。だから手に入れた情報やアイテムを中層プレイヤーに渡さず、レベルの差を維持し続けようと考えている。

……馬鹿か?そのせいでどれ程のプレイヤーが死んだと思っている。ディアベルの時だって、もっと沢山のプレイヤーがいれば誰一人欠けずに第1層は攻略できていたかもしれないんだぞ。それなのに自分達が強ければそれでおしまいか?他人の事なんてどうでもいいと言うのか?

 

「シン、大丈夫?顔がちょっと怖いけど……」

「……悪い。ケイタ、攻略組に仲間入りするのが夢だと言っていたな」

「えっ?ああ、うん……それがどうかした?」

「その夢、諦めるなよ。お前達が攻略組に入ってくれれば、きっとあいつらを変えられるはずだからな」

 

ケイタ達の仲間を思いやる気持ちが攻略組の中で浸透していけば、それは攻略の速度が上がるだけでなく死者の数も減っていくはずだと俺は考えている。だからケイタ達の夢が叶う事を祈っている。いずれ、俺のすぐ側で月夜の黒猫団が活躍する姿を。

 

「っ……ああ、もちろんだよ!この夢を諦めたりするもんか!絶対にいつか、シンと同じ位強くなってみせるよ!」

「はははっ!シンと同じ位って、強く出たなぁ」

「でもいつかはそうなってみたいよね」

「うんうん、今はシンに頼りっぱなしだからな。逆に頼られる側にもなってみたいよ」

「な、何だよみんなして!」

 

立ち上がって意思を強く固めるケイタにダッカーは冗談はよせと笑い、テツオ、ササマルはケイタの言葉を夢物語のように思っているらしい。本気で考えているケイタにとって、それは許せるものではなかったようだ。

怒るケイタと笑う3人の姿を眺めていると、サチが俺の裾をくいっと引っ張ってきた。

 

「どうした?」

「私もさ、シンみたいには強くなれないけど……でも、いつかはシンと本当の意味で一緒に戦えるようになりたいな」

「……そうか。無理だけはするなよ」

「うん、分かってる」

 

俺の声にサチは笑顔で頷くと、ギャーギャーと言い争ってる4人を止めに入っていった。

攻略組に入り、一緒に戦う……か。それが実現するのはおそらく無いだろう。俺はビーターだ、それが露見すればケイタ達でも関わりを避けるかもしれない。例えそうでなくても、俺のせいで危険に巻き込まれるなら結果は変わらない。

 

「頑張れよ。ケイタ、サチ、ダッカー、テツオ、ササマル……お前達ならきっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってくるよ。みんな、楽しみに待っていてね」

 

その日、ケイタはそう言って出掛けていった。理由は前々から手に入れたいと口にしていたギルドハウスを購入する為である。昨日、ようやくギルド資金が目標金額に達した事で誰もが喜んでいたのは、見ていて気持ちのいいものだった。

 

「そうだ!ケイタが帰ってくるまでに迷宮区でちょっと金を稼いでこようよ。新しい家用の家具を全部揃えて、ビックリさせるんだ!」

「おっ、いいなそれ!」

 

宿屋でそれぞれが暇を潰しながらケイタ達の帰りを待っていると、出掛けていったテツオがそんな事を閃いた。それを聞いたダッカーが賛成し、ササマルも頷いている。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。その間にケイタが帰ってきちゃったらどうするのよ」

「だから、帰ってくるまでに行ってくればいいんだよ!」

「大丈夫だよ、ケイタも帰りは遅くなるかもって言ってたし」

 

読書をしていたサチが3人を引き留めようとするが、ダッカーとテツオは行く気満々のようだな。その様子にサチが俺に助けを求めるような視線を向けてくる。仕方ないと思いつつ、俺は立ち上がるとサチの隣へと移動した。

 

「サチの言う通りだ。それに全員のコルは0に近い。今行っている階層の迷宮区でいくら稼いでも、買えるのはほとんど無いぞ」

「だったらもっと上の階層に行けばいいんじゃないか?例えば……最前線から3つ下の階層とか」

「でもそんなとこ、俺ら行った事ないぞ?」

「大丈夫だよ、シンもいるんだ!多少危なくたって平気に決まってる!」

 

理由をつけて説得しようとしたが、逆にそれを受けたササマルがそんな提案を出してしまった。流石のダッカーもそれはどうかと思ったみたいだが、テツオの言葉で納得してしまったようだった。

 

「おい、俺は行くとは……」

「よし、みんな準備してさっそく出掛けよう!」

「「おおっ!」」

 

ギルドハウスの購入だけでなく、ケイタを驚かすという目的もあって興奮気味な3人には俺の声は届いていないようだった。それぞれが自分の部屋へと行ってしまい、俺とサチだけが残される形になってしまった。

 

「シ、シン……どうするの?」

「あの様子じゃ何を言っても止まらないだろうな。何かあったらまずいし、俺もついていく。サチはどうする?」

「わ、私も行くよ……ここに一人で残されるなんて嫌だし……一応、心配されないようにケイタにはメッセージを飛ばしておくね」

「頼む。ケイタには何も知らないフリをして帰って来てくれた方がいいだろうし、その事も伝えておいてくれ」

「うん、分かった」

 

しかし最前線から3つ下か……確かあそこは稼ぎはいいし、レベルも問題は無いだろう。だがトラップが大量に仕掛けられているし、その階層から難易度が大きく上がる。その事も含めて宝箱を見つけても無闇に触ったりしないよう注意しておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、あれ宝箱じゃないか?」

 

迷宮区でモンスターを倒し続け、目標額に達した事で街に戻ろうと口にした時、横の壁に変化があった。曰く、ダッカーが壁に背中をつけた途端、スイッチらしき物が押されたらしい。それによって仕掛けが起動、壁には隠し扉が現れた。恐る恐る開いてみれば、広い部屋の中心に宝箱が置かれていたというわけだ。

 

「確かにそうだが、無理しろ。どんなトラップが仕掛けられているのか分からないからな」

「でもさ、俺達まだ一度もトラップに引っ掛かっていないぜ?」

「俺がトラップが仕掛けられている場所は通っていないからだ」

「えっ?シン、トラップがある場所が分かるスキルを持ってるの?」

 

サチが驚いた表情で見てくるが、そうではない。俺達が通ってきた道は攻略時に通った道と同じ、つまりどこにトラップが仕掛けられているか把握しているから引っ掛からなかっただけなのだ。それを伝えると、4人がさらに驚いた表情を見せたのは何故だろうか?

 

「じゃあ、シン。あれはどうなんだ?」

「分からない。攻略時にこの隠し扉は見つからなかったからな……トラップが仕掛けられているかどうかは分からないが、その可能性がある以上は触れない方が安全だ」

「でも、実は珍しいアイテムが入ってるとかかもしれないだろ?だったら試しに開けてみようぜ!」

 

ダッカーがそう言って走り出すが、俺が襟を掴んだ事で反動で転んでしまった。しかしそうでもしなければ、止められなかったのだから仕方ないだろう。

 

「いってぇ〜……何すんだよ、シン!」

「それはこっちの台詞だ。話を聞いていなかったのか?」

 

迷宮区に入る前にも説明したんだが……何故わざわざ危険を犯す必要があるんだろうか?もしも危険なトラップが仕掛けられていたら、ここにいる全員が殺される可能性だってあるんだぞ。

 

「聞いてたさ!でも気になるだろ!?」

「我慢しろ」

「大丈夫だって!シンがいるんだ、多少危なくても何とか出来るだろ?」

「……あのな」

 

俺にだって出来ない事はある────と言おうとした瞬間、テツオとササマルが宝箱に向かって全力疾走で走っていく姿が視界の端に見えた。

 

「っ!?おい、待て!何する気だお前ら!?」

「だって中身が武器とかだったら見逃すなんて出来ないよ!」

「それに何があってもシンが()()()()()()って信じてるからな!」

「馬鹿がっ……!」

 

今、俺が走り出しても既に遅い。ならば少しでもトラップが発動した場合の危険を減らすしかない。俺は座り込んでいるダッカーを無理矢理起き上がらせると、サチと同時に隠し扉の外へと押し出した。

 

「きゃっ……!?」

「うおっ!」

 

よろけて床に転びながらも部屋から出るサチとダッカー。悲鳴と驚きの声を上げた2人から目を外し、代わりにテツオ達に向ければ宝箱を開けた瞬間であった。

 

「あれ?」

「空っぽ……?」

「お前ら!!とっととこっちに────」

 

俺が声を荒げたと同時にアラームが部屋中に鳴り響いた。すると唯一の出口である隠し扉が閉ざされ、新たに出現した扉からはモンスターが一斉に飛び出してくるのが見える。

あれは────まずい。強さは分からないが、少なくともプレイヤーがたったの3人で挑む相手ではないのは確かだ。

 

「テツオ、ササマル!転移クリスタルを使え!早く!」

「あ、ああ」

 

俺は時間を稼ぐ為に鞘から和太刀を引き抜き、モンスター共に突っ込む。勢いよく振り降ろした刀身は相手の武器に遮られ、左右から繰り出される攻撃を俺は紙一重でかわした。しかしさらに繰り出される攻撃までは避けられず、直撃とはいかなくても受けてしまった。

 

「っ……!」

 

今の攻防で分かった事がある。明らかにこいつらはこの階層にいるどのモンスターよりも圧倒的に強い。その理由は攻撃の速度、正確さもだがダメージ量が大きいのだ。テツオやササマルが対峙しても勝てる見込みはほとんどないだろう。

 

「ちっ!」

 

1体の手首を斬り、武器を落とすと額に向かって突きを放つ。その攻撃でバランスを崩したモンスターの心臓部分を貫く事でようやく倒せた。しかしそれで終わりではない。まだ目の前には数十体の相手がいるのだ。

 

「なっ、何でだよ!?」

「シン、転移クリスタルが使えない……ここ、クリスタル無効エリアなんだ!逃げられないんだ!ど、どうすればいい!?」

 

────最悪だ。部屋から脱出できず、目の前にはテツオ達では勝てる見込みのないモンスターが数十体。奴らを相手にしながら2人を守るなど到底不可能な話だろう。

しかしだからと言って諦める事も見捨てる事も出来るはずがない。

 

「はぁっ!」

 

ソードスキル、幻月を相手に勘づかせた下段────からではなく、上段から放つ事で後ろへと吹き飛ばす。他のモンスター達とぶつかり、倒れていく姿が見えたがそれを気にせず、次のソードスキルを放つ準備をした。

 

「ふぅっ────はっ!」

 

白く輝き出す刀を握り締め、力を溜める。そして勢いよく飛び出し、辻風でモンスター2体を同時に仕留める事に成功した。

 

「くっ……!」

 

四方八方から襲い来る武器を防ぎ、避けるも当たらないわけではない。HPバーは確実に減少しており、少しでも動きを止めれば大きなダメージをくらう事になる。それだけは避けなければならない。この状況で回復なんて出来ないからな。

 

「吹き飛べっ……!」

 

真上へと跳び、体を捻ると着地した瞬間に一気に戻して周囲にいるモンスター達を一掃する。旋車を受けたモンスターの中には何体かがスタンして動けなくなっている。この隙に数を────

 

「う、うわああああっ!?」

「っ!?」

 

テツオの悲鳴が聞こえ、後ろを振り向くと2人はモンスター達に囲まれていた。武器を抜き、戦っているが大したダメージにはなっていない。それどころかHPバーを半分近くまで減らされていた。

 

「やめろ!!」

 

2人を助けようとするとモンスター達が壁となって邪魔をしてくるが、その前に俺は体術スキル────地脚(ちきゃく)を発動する。このスキルは離れた足場へと跳ぶものだがこれを応用し、俺は壁を蹴って壁を乗り越えた。そして2人を囲むモンスターの内、1体を攻撃する。それによって他の奴らも俺に目標を変えてくれた。

 

「テツオ、ササマル!今の内に回復しろ!」

「あ、ありがとう!」

「シン……ごめん!俺達が勝手な行動をしたせいでこんな事になって……」

「謝罪なら後で聞いてやる!今はとにかく生き残れ!」

 

迫る武器を流し、逆に急所を突く。さらに突き刺した刀を脳天へと向かって動かし、一刀両断する。生まれた隙間に飛び込んで左右から襲ってきていた攻撃を避け、体勢を整えた。

 

「っと……ふっ!」

 

背後から振られる攻撃を弾き、体術スキル────水月による水平蹴りを頭へと放って横に吹き飛ばした。大きなダメージにはならないが、立ち上がるのに時間はかかるはずだ。

 

「ちっ……!」

 

モンスターの数はまだまだ多い。それどころか増えているようにも見える。このままじゃいくら倒してもキリがない。だが戦い続けなければあの2人に攻撃が向いてしまう。

 

「うわぁぁぁああっ!?」

「っ!?」

 

遠くでササマルの悲鳴が聞こえた。しかしモンスター達のせいで何が起こっているのか見る事すら出来ない。ならばもう一度地脚を使い、あの壁を乗り越えるしかないな。

 

「がっ……!?」

 

しかし地脚を使い、壁へと向かった瞬間に真下から繰り出された攻撃を受けて俺は地面へと叩きつけられた。まさか動きを読まれていた?だがデータ上の存在でしかない奴らがそんな事を出来るのか?

 

「シン……シン!」

「テツオ……どうした!?ササマルに何があった!」

「サ、ササマルが、殺さ────あああぁぁあああっ!」

 

テツオの悲鳴が聞こえた瞬間、モンスター達の隙間からポリゴンが見えた。あれは────モンスターを倒した時のものではない。ディアベルの時と同じ、プレイヤーが殺された時の────

 

「っ……!!」

 

まただ。ディアベルの時と同様に俺はまた目の前にいたにも関わらず、テツオとササマルを助けられなかった。助けを呼んでいたのに、俺はその手を掴めなかったんだ。

俺のせいかと問われれば、そうだろう。あの2人を止められなかったなど言い訳に過ぎない。気持ちを抑える事が出来ていれば、命を落とす事などなかったはずだ。それなのに俺は止められなかったどころか、助ける事も出来なかった。

俺はケイタの夢を共に追い掛ける仲間を────()()()()()()()んじゃないか?

 

「はっ……はっ……はっ……!違う、違う、違う……俺は助けたかったんだ!殺してなんかない!助けたかったんだよ!助けたくて、助けたくて、助けたくて……っ!!」

 

和太刀を無茶苦茶に振り、ソードスキルを連発してモンスター達を倒しながら俺は自分の考えを否定する。攻撃が、武器が当たり、吹き飛ばされ、叩きつけられようと俺は止まらない。止まれない。止まる事なんか、出来ない。

 

「助けたくてっ…………クソが、誰も助けられてないだろうがぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……シ、シン!!大丈夫!?」

 

モンスター達を全て倒し、開いた隠し扉から出た俺はサチの前へと倒れ込んだ。そんな俺をサチはしっかりと支え、ゆっくりと横にしてくれた。俺は今、たぶん酷い顔をしているんだろう。そう分かるのはサチの視線が顔に向けられ、焦った様子でいるからだ。

 

「シン……しっかりして!中で何があったの!?テツオとササマルは……ど、どうしたの?」

「……れなかった」

「えっ?」

「助け……られなかった……」

 

俺はその悔しさから歯軋りをし、床に拳を叩きつけた。すぐ近くからはショックから座り込んだサチの泣き声が聞こえ、それはいつまでも続いた。いつまでも、いつまでも……そんなサチに俺は何と声を掛けたらいいのか分からず、ただサチが泣き止むのを待つしかなかった。

 

「……大丈夫か?」

「うん……ごめん」

「サチが謝る必要なんてないだろ……謝るのは俺だ、テツオとササマルを助けられなくて……本当に、すまなかった……!」

 

サチと向き合った俺は額を地面にぶつけ、土下座をした。これで許してもらえるなんて到底思っていない。信じていたのに仲間を、現実世界での友達を助けてくれなかったのだ。どんな風に言われようと俺は────

 

「そんなこと……しないでよ。シンは2人を本気で助けようとしてくれたんでしょ?分かってるよ。だってシンは優しいから。こんな私でも絶対に見捨てないでくれるシンなら、2人のせいでもそんなの関係なしに真っ先に2人を助けようとしてくれるって、私信じてた」

「……でも、俺は……」

「2人が死んじゃったのは辛いよ。だって仲良しだったんだから。でもだからってシンの事は恨まないよ。そんな事したら2人に怒られちゃう」

「……っ!」

「だから……さ。そんなに自分を責めないでよ」

 

サチは両手を広げると、俺を優しく包み込んだ。耳元で「大丈夫。大丈夫だから」と囁かされながら背中をポンポンとされるのは少し恥ずかしいが、それでも嫌な感じはしなかった。

 

「ぐっ……うっ、ぐぅっ……」

「シン……?えっと、もしかして泣いてる?」

「ああ……悪い」

 

さっきまでは2人を助けられなかったという自責の念が鎖となって心をきつく縛っていた。しかしサチの言葉によりその鎖から解放されたからか、思いが涙となって溢れ出してしまったらしい。

 

「しばらく……こうしてもらっていてもいいか?」

「え、ええっ?そ、それはその……は、恥ずか……」

「……駄目か?」

「ううっ……わ、分かったよ。シンがいいって言うまでこのままでいてあげるよ……」

「悪い……ありがとな」

 

その後、俺とサチはしばらく抱き合ったままでいた。何故かは分からないが、こうしていると安心できるのだ。

サチのトクン、トクンという心臓の音も心地よく聞こえる。まるで俺を眠りに誘っているのかと思ってしまう程に。

 

 

 

落ち着きを取り戻した俺はダッカーがいない事に気付き、尋ねてみれば隠し扉が閉まった直後、ケイタを呼びに行ったとのこと。今はケイタと共に宿屋で俺達が帰ってくるのを待っているらしい。テツオ達の死を知らない2人にどう会えばいいのか悩んだが、サチからの応援もあり、俺は意を決して宿屋へと飛び込んだが────そこで待っていたのは予想もしていなかった事態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────シン、君は……あのビーターなのか?」




テツオとササマルの死。そして次回、ついにサチ達にシンの正体がバレるか?

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