第23話 仲良しギルドとの出会い
2023年4月────このデスゲームが始まってから既に5ヶ月が経っているが、現在の最前線は第23層。たったの5ヶ月でよくそこまでいけたと思うかもしれないが、今思えば100層中23層だけなのだ。
初めはうまく攻略が進んでいた。しかし階層が上がっていくにつれてモンスター達は強く、そして行動が複雑になっていった。相手が単体でもこちらは複数で挑まなければならない事もあるし、状態異常にしてくるモンスターなど今では普通にいる。
攻略する速度が最初と比べ、どんどん落ちてきているのは明白だった。
「なかなか見つからないな……」
最前線にいる攻略組が苦戦していると思われる中、俺は第11層の迷宮区、それも最奥を探索している。第1層でビーターと呼ばれるようになり、周りからの罵声に耐えきれずに前線から身を引いた────などという理由ではない。ここにはあるアイテムを手に入れる為に来ているだけだ。
しかし罵声がなかったわけではない。俺がただのベータテスターならあそこまでいかないが、俺は『現実世界で茅場と繋がりを持っている』と言ってしまった。『このゲームがこのようになる事は知らなかった』とも言ったが、そんなのは関係ない。『茅場の仲間』と決めつけて俺を恨み、レッドプレイヤーになる覚悟で襲ってくる奴もいれば、街中で俺に様々な罵声をぶつけてくる奴らもいた。
────あんたはプレイヤー全員の敵だ。
────テメェみたいなのが何で死なねぇんだよ
────クズはクズらしく死ね。
俺の話を信じず、また信じても信頼してくれている人達もいる。だが俺と関わていっている事で襲われる可能性は十分にある。だから俺はキリトやアスナ、エギル、アルゴ等との関係を絶ったように
しかしいつかは限界が来る。攻略がさらに進めば俺だけでは勝てないモンスターも必ず出てくるはずだ。その時は危険だが誰かと組む事も考えよう。俺への風当たりが減っていればの話だが……。
「!……もしかしてこれか?…………よし!」
俺は目的のアイテムを見つけ、確認する。俺がこの階層で手に入れたかったのは『とある武器』を作る為に必要な素材の
────白妖の秘石。
────クリスタライト・インゴット。
────災狼の牙。
どうして3つなのかはこの刀が他の武器とは違い、特殊な武器なんだろうと解釈した。しかし白妖の秘石は今見つけたものの、他の2つはアルゴですら知らなかった。ただ見つかっていないだけか、それともさらに上の階層にあるのか……そのどちらかだな。
「……残りの2つも大変なんだろうな」
この白妖の秘石はアルゴから情報を買い、この迷宮区にある事が分かった。しかしアルゴもNPCから話を聞いただけだった為、どの辺りにあるのかは知らなかったのだ。だから俺はこの迷宮区に何度も潜り込み、今回ようやく見つけたのだ。
「とっとと宿屋に戻って休むか」
目的の素材は手に入れた。ならばこの迷宮区にもう用はない。11階層の宿屋に行き、そこで一晩を過ごした後に最前線に戻ろう。今後の予定を立て、俺は出口へと向かって歩き出し────そこで何かの音と叫び声が聞こえてきた。
「……何だ?」
声と音を頼りにしながら道を進んでいくと、次第に何が起こっているのかが分かった。この先でモンスターとの戦闘が行われている。それもプレイヤー側が劣性なものだ。
足を速め、進んでいくと戦闘となっている場所へと辿り着いた。モンスターと戦っているのは5人だが、パーティのバランスが悪い。前衛は盾とメイスを装備した男1人だけで、他の短剣を装備した奴に棍使い、そして長槍使い2人は全員後衛なのだ。
「手を貸そうか?」
後退し続けながら戦う彼らをこのまま放っておく事も出来ず、俺はこのパーティのリーダーと思われる棍使いに声を掛けた。目を見開き、迷った様子の彼だったがこの状況で考え込むのは難しい。だからか、すぐに頷いた。
「すいません、お願いします。やばそうだったらすぐに逃げていいですから」
「分かった────スイッチ!」
俺は腰に差している鞘から
第1層の時からずっと曲刀を使い続け、熟練度を最大まで上げた俺はついに刀スキルを取得する事に成功した。まだ日が浅い為、ソードスキルは少ないがそこは現実で培った技術と経験で補っている。
「ふっ!」
敵は俺がこの迷宮区内で何度も戦ったゴブリン共。この階層を攻略していた頃は強かったが、今は違う。この程度のモンスターなら一撃で終わらせられる程に、俺のレベルが上がっているからだ。
「はぁっ!」
俺はソードスキルを一切使っていない。しかし弱点を見極め、たった一撃でゴブリン共をポリゴンへと姿を変えている事がその証拠だ。
大半が消え、残りの奴らが一斉に俺へと集まり出す。その事に俺は気付き、口の端をニヤリとつり上げた。数で圧倒するつもりなんだろうが、それはゴブリン共を一掃するチャンスでしかない。
「これで……終わりだっ!」
取得当初から使えたソードスキル、旋車。かつて第1層でディアベル達を死の恐怖に叩き落としたその技を俺は発動した。真上に跳び、体を勢いよく捻ると着地と同時に周囲を凪ぎ払う。ゴブリン共は次々に刀の餌食となっていき、発動時間が終わった頃には1体も残らずに倒されていた。
「…………よし、他にはいないな」
「「「「よっしゃぁぁぁああああっ!!」」」」
メンバーの5人中、4人が凄まじい程の歓声を上げた。いや、最後の1人も喜んではいるが他のメンバーの声が大きすぎて聞こえてこないだけか。
「助かった!助かったんだ!!」
「ああ!」
「ありがとう!!助けてくれて本当に助かった!貴方が来なかったら僕達はっ……!」
メンバー全員が喜び合い、あのリーダーらしき人物が俺の手を強く握ると感謝の言葉を述べてした。嬉しさのあまりか涙を流す彼を俺が肩を叩き、励ますと涙を拭って他のメンバー達と抱き合った。
生き延びた事が嬉しいのは分かるが、少し激し過ぎるんじゃないかと思う。その光景を戸惑いつつも見ていると、手を誰かに握られた。誰だ?と思うが、相手は分かっている。視線を向けると、やはり他のメンバーと比べると大人しそうに見える槍使いの少女であった。
「ありがとう……ほんとに、ありがとう。凄い、怖かったから……助けに来てくれた時、ほんとに嬉しかった。ほんとにありがとう……」
「なら急いだかいがあったというものだな。間に合って良かったよ」
「あっ……」
目に涙を滲ませる少女の頭を俺は反対の手で優しく撫でる。彼女の事を安心させる為にそうしたわけだが、他のパーティメンバーがいる前では恥ずかしかったようだ。顔を赤くし、俯いたまま離れていく。
「おいおいサチ、なに恥ずかしがってんだよ〜!」
「だ、だって……!」
「すみません、こいつ怖がりだけじゃなくて結構な恥ずかしがり屋なんですよ」
「ケ、ケイタ!」
「何だよ、本当の事じゃないか」
サチと呼ばれた少女をリーダーもといケイタを中心としたメンバーでからかう。サチもからかわれた事を許せず、怒るが迫力はない。端から見ると、余裕のある大型犬ときゃんきゃんと懸命に吠える小型犬である。
「随分と仲が良いんだな」
「あっ……す、すみません。助けてくれた恩人なのにほったらかしにしちゃって……」
俺の事を忘れ、自分達だけで盛り上がってしまっていた事をケイタを始め、サチや他のメンバーも謝ってくる。そんな5人に俺はそれ以上の謝罪はいらないと手で制す。
「気にするな。それよりそっちが良いなら出口まで一緒に行くが、どうする?」
「心配してくれて、どうもありがとう。それじゃお言葉に甘えて、出口まで護衛頼んでもいいですか」
「ああ、任せとけ」
迷宮区から無事に脱出し、またもや彼らからお礼を貰った俺はそのまま宿屋に────ではなく、その近くにある酒場へと移動した。ケイタに「酒場で一杯やりましょう!」と誘われ、断るのも悪いと思って参加させてもらったのだ。
「我ら月夜の黒猫団に、んでもって命の恩人シンさんに……乾杯っ!!」
「「乾杯!!」」
「ああ、乾杯っ」
リーダーであるケイタ、唯一の女性であるサチ、前衛で戦っていたテツオ。それからササマル、ダッカーと自己紹介をした俺は彼らを離れた場所で眺めていた。
ビーターとなってからというものの、誰かと一緒に喜び合ったり笑い合ったりする事はほとんど無くなった。だからかこのパーティ……いや、ギルドが羨ましいという気持ちは少なからずある。
「…………」
ビーターになった事を後悔しているわけではない。しかしキリトやアスナ、クラインにエギル達と共に喜び、笑い合う事が出来ていたら────それはどれだけ楽しい物だったんだろうか。
「……過ぎた事を言っていても仕方ないか」
「あのー、シンさん」
「ん?」
俺はともかく、彼らにとっては高価と思われるワインを口にしているとケイタが小声で話しかけてきた。何だろうと思い、耳を傾けてみれば言いづらそうに尋ねてきた。
「えっと、言いたくなかったらいいんですけど、シンさんってレベルはどの位なんですか?」
「まぁ、最前線で戦っているからな。レベルは43だが」
「……えっ?い、今、最ぜ────」
「ぶふぅっ!?よ、よんじゅっ!?」
ケイタが目を丸くし、何かを尋ねようとしてくるとダッカーがワインを吹いた。おい、目の前のテツオの顔面に思いっきりかかってるぞ……。
しかしそんなにも驚く事だろうか?最前線で戦っている事は伝えて…………いないな、そういえば。
「さ、最前線で戦ってるって本当!?」
「レベル43って俺達の2倍じゃん!」
「だからあんなに強かったし、刀スキルが使えているんだなシンさん!」
俺とケイタの間に割り込むように話しかけてくるテツオ、ササマル、ダッカー。とりあいずテツオは顔を拭いてからにしてくれないか?顔にかかったワインがこっちに飛んできてるんだが。
「シ、シンさん……そうだったんですか」
「悪いな、騙していたわけじゃないんだが……それよりお前ら、別に敬語じゃなくてもいいし、さん付けもいらないぞ?どうしても付けたいならいいが」
身長や体格から見て全員、俺と同年齢かそれ以上かのどちらかだろう。ならば敬語を使う必要なんてないし、年齢が上なら俺が使うべきだ。まぁ、今更感もあるからわざわざ使う気はないが。
「そ、そう?なら────シンって今、ソロで活動してる?」
「そうだな。どこのギルドにも入っていないし」
「だよね……それならさ、短い期間でもいいからうちに入ってくれないかな?」
「……何?」
ケイタからの突然の申し出に俺は少し驚いた。ケイタ達と同じレベルのプレイヤーを誘うならまだ分かる。しかし自分達よりもレベルが高く、さらには最前線で戦うプレイヤーを誘うなど結果は分かりきっている事だ。
しかし俺は──────
「理由は?」
「僕ら、レベル的にはさっきのダンジョンくらいなら十分狩れるはずなんだよ。ただ、スキル構成がさ……シンももう分かってると思うけど、前衛できるのはテツオだけでなんだ」
それはさっきの迷宮区の戦いで分かっている。あれではテツオが回復をしても追い付くわけがなく、次第に追い込まれていくだけだ。
「シンが入ってくれれば随分と楽になるし、それに……おーい、サチ!ちょっと来てよ」
「どうしたの?……あっ」
ケイタが手を上げ、呼ばれたサチがこちらへと来ると僅かな間だが俺と目が合った。たったそれだけだというのに彼女はオロオロと慌て、ケイタが頭の上に手を置いた事で落ち着いたようだった。
「落ち着けって、サチ。それで見ての通りメインスキルは両手用長槍なんだけど、ササマルと比べてまだスキル値が低いんだ。だから今の内に盾持ち片手剣士に転向させようと思ってるんだけど、なかなか修行の時間も取れないし、そもそも片手剣の勝手が分からないみたいで……」
「俺に指導してもらいたいってか」
サチの頭をポンッポンッと叩いていると、頬を膨らませた彼女はケイタに向かってちらりと舌を出し、笑った。
「だってさー、私ずっと遠くから敵をちくちく突っつく役だったじゃん。それが急に前に出て接近戦やれって言われても、おっかないよ」
「盾の陰に隠れてりゃいいんだって何度言えば解るのかなぁー。まったくサチは昔っから怖がり過ぎるんだよ」
いや、サチじゃくても怖い物は怖いだろう。ここはHPが0になってしまえば、本当に現実世界でも死を迎えてしまうゲームの中なんだ。
しかし指導しようにも使った経験があるのは曲刀と刀だけで、他の武器は使った事がないんだよな。他のプレイヤー達の戦闘を見ているから動きや武器の特徴は大体分かるが。
「……やっぱ駄目だよね。シンは最前線で戦っているんだ。僕達と一緒にいたらどんどん置いてかれて────」
「俺が指導しても大した事は学べないぞ?それでもいいなら少しの間、入ってやるが」
「……えっ?い、今入って、えっ、ほ、本当に?」
俺はこのギルドには入ってくれないと決めつけていたのか、驚いた表情を向けてくる。それはケイタだけでなく、サチやダッカーなど他のメンバー達もであった。
「ほ、本当に……いいの?」
「ああ。何だ、何か問題でもあるのか」
「そうじゃないけど……だ、だってそしたら攻略組との間に差が出来ちゃうよ」
心配するとしたらそれしかないか。確かにそれは本当の事だし、最前線よりも下層にいる彼らと一緒にいたら間違いなくそうなる。
しかしそれがどうした。差が出来たら埋めればいいだけの話だろうが。
────教えの1つ、『その4 他者への力となれ』
「それは大丈夫だ。心配してくれてありがとな、サチ」
「あっ……う、うん」
「そっか……よし!それならシン、これからしばらくの間、僕達のギルドのメンバーとしてよろしく頼むよ」
笑みを浮かべ、差し出してくるケイタの手を俺は握り締めた。その瞬間、今度は俺がギルドに入った事で静まっていたはずの盛り上がりが再び起こり始めた。
追加のワインをNPCに頼んでいるが、コルは足りるんだろうか。まぁ、もしもそうなったら俺のを貸してやるかな。
シンはキリトや上級プレイヤーの考える効率を重視したゲームプレイではなく、助け合う事を前提に行動しています。
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