ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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今日、成人式だった人はおめでとうございます。今後の人生が良いものでありますように。


第21話 代償

第1層のボス、イルファング・ザ・コボルトロードの消滅────それはつまり、第1層は攻略されたという事だ。それを証明するように薄暗かった部屋は段々と明るくなっていく。

そして俺の目の前に現れていたあのメッセージ……俺が奴にLastAttackを決めたという事で間違いないだろう。

 

「助け……られなかった…………」

 

あいつを────ディアベルを。キリトに対してアニールブレードを売ってもらうよう計画した犯人だとしても、見捨てるわけにはいかなかった。あいつが何の目的で、剣を手に入れようとしたのか。どのような思いで皆を率いていたのか。信頼を得る為だけか、それともこのゲームを本気で攻略する為だったのか────聞くべき事があった。知らなくてはいけない事があった。

 

「っ……!!」

 

すぐ目の前にいたあいつは、俺が手を伸ばせば救えたかもしれない。しかし現実(この世界)は甘くない。そんな事が出来ないまま、ディアベルは死んでしまった。

…………俺のすぐ目の前で。

 

「くそっ……!!」

 

教えの1つ、『その7 助けを待つ者には手を差し出せ』

 

ディアベルに手を差し出す事すら出来ていなかっただろ!消えていくあいつは誰かの助けを待っていたかもしれないのにだ!自分の命を犠牲にしてでもこの世界に囚われたプレイヤー達を1人でも多く現実世界に戻す……それが俺のするべき事だろうがっ!!

 

「……シン」

「だ、大丈夫?」

「……ああ」

 

背後からアスナとキリトに声を掛けられ、俺は無意識の内に()()()()()()()()を止めた。現実世界でならば皮膚が剥け、出血しているであろう手に傷は一切ない。だがその代わりにHPバーが僅かに減少していた。

痛みがない。これは今までの経験から知っている。だが痛みがないという事は────ダメージを受けても、痛みなど感じずにHPバーという命が無くなっていくという事だ。死ぬという感覚はないのに、HPバーが0になったというだけで死んでしまう。

 

「…………」

 

茅場晶彦──────俺は貴様が何故こんな事をしたのか未だに分からない。だが貴様には1つだけ問いたい事がある。

痛みは感じていないのに死んでしまう、それがどれだけ人に死を受け入れさせず、恐怖を与えるのか貴様は知っているのか?

 

「────何でだよ!!」

「えっ……?」

「……今の声は」

 

俺達は一斉に振り返る。ボスを倒したというのに、ディアベルの死亡という事が頭から離れられないプレイヤー達は喜ぶ事も互いを称え会う事も出来ていなかった。

そんな暗い雰囲気の中、叫び声を上げたプレイヤーはディアベルと同じC隊の曲刀使いであった。

 

「何で、ディアベルさんを見殺しにしたんだよ!!」

 

────見殺し。助けられなかった俺は確かにそう言われても仕方ないだろう。あいつを助けられなかった事で、ディアベルの仲間達を悲しませる事になったのは俺の責任だ。

この責任をどう償えばいいかは分からない。しかしどのような償い方であろうと、俺は受け入れて────

 

()()()()はボスが最初から刀を使うって分かってたんだろ!?最初からその情報を伝えれば、ディアベルさんも俺達もあんな目に遭わなかった!最後のだって、本当は新しいソードスキルが来るって分かってたんだろ!!」

「……何?」

 

「アンタ」ではなく、「アンタら」だと?奴の武器を知らなかったとはいえ、技の流れを読む事でかわしていた俺はそう疑われても仕方ない。他に誰が…………っ、まさか。

 

「おい。俺だけじゃなく、キリトにも言っているのか?」

「当たり前だろ!!そいつはボスから離れるよう叫んでいたけど、ただ黙っていただけだろ!分かってるんだよ、俺達攻撃部隊が死ねば、混乱が起きてLAボーナスを取りやすくなるからな!!」

 

……根拠のない話だが、確かにそう見られてもおかしくはない。ボスが新たに出した武器が曲刀ではなく、刀だと判断するには早すぎて初めから知っていたと思われるのは当然だ。それにキリトはキバオウの発言によって、ディアベル共々ベータテスターだと疑われているか、悪ければ決めつけられている。

 

「こいつも、あっちの奴も元ベータテスターで間違いない!だから、あいつはボスの攻撃パターンを知ってたんだ!本当は旨いクエや狩場も知ってるんだろ!?知ってて隠してるんだろ!!」

 

キバオウが率いているE隊の1人が俺とキリトを指差して、そう叫ぶ。俺もキリトと同じくベータテスターだと決めつけられているらしいが、今更だろう。それに実際そうであったのだから嘘をつく気もない。

 

「そこまでにせえやっ!!」

「っ……キバオウ、お前は黙ってろ!」

「ジブンが黙っとれ!ワイはシンはんに話があるんや!」

 

E隊の奴を押し退け、キバオウは俺に顔を向ける。その表情はディアベルの死というものがあったにも関わらず、悲しみがない。いや、無理矢理胸の内に押し込んでいるのか?どちらせによせ、その代わりに戸惑いや疑問、怒りなどが入り乱れているのは確かだが。

 

「シンはん、あんたは始まりの街でワイら初心者の為に色々しとってくれたやないか!シンはんが本当に元ベータテスターだとしても、そこの女とは違って隠してるわけじゃないんやろ!?何か、理由があるに決まってる!!」

「……そういえば、俺もあの街であの男に一度だけ助けられた事があったな」

「僕も色々教えてもらった事があったっけ……」

「ていうか元ベータテスターだからって、ボスの攻撃パターンまでは知らなかっただろ。だって配布された攻略本にはベータ時代の情報だって書いてあったぞ」

 

……確かに。ベータテストの時と今回使われた武器が違っている、それはベータテスターでも攻撃パターンは分からなった事を意味している。だがそれでは駄目だ。違っている事を証明するには俺とキリト以外のベータテスターが証言するしかない。しかしそんな危険を伴う事をする奴はいないだろう。

 

「あの攻略本が嘘だったんだ!アルゴって情報屋が嘘を売り付けたに決まってる!あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当の事なんかを教えるわけないんだよ!!」

「でもそれはおかしくないか?ディアベルさんが本当にベータテスターなら、攻略本の嘘に気付くだろ」

「っ……それも嘘に決まって─────」

「それは無理があるだろ。アルゴからベータテスト時の情報を買えない以上、あの女の事をディアベルさんが知るにはベータテストをやってなきゃ説明がつかない」

「……つまりこういう事だろ。元ベータテスターはどいつもこいつも信用しちゃいけねぇんだよ」

 

────まずいな。このままいけば、どうなるかなど容易に想像できる。このゲームを攻略するにはプレイヤー全員が協力しなければならない。だが第1層を攻略できた時点で、こんな状況では100層など夢のまた夢だ。

この関係を払拭し、初心者もベータテスターも互いに協力できるようにするには…………。

 

「ねぇ、シン」

「何だ?」

「お願いだから……馬鹿な真似だけはしないで」

「…………さてな」

 

俺は前へと足を進めていく。キリトが俺に手を伸ばそうとしたが、俺はそれをやんわりと制する。そしてアスナの横を通り過ぎようとした時。

 

「貴方、何をする気?」

「あいつにとっては馬鹿な真似かもな」

「そう……きっと悲しむわよ」

 

心配そうに見てくるアスナはきっと俺を止めようとしたのだろう。だから親しく接しているキリトの事を出してきた。しかし止まってしまえば、ディアベルが死んだ時以上の悲劇が起こる。

それだけは────止めなければならない。

 

「……貴様らは大きな勘違いをしてるぞ?俺の事も、ベータテスターの事もな」

「な、何やと?どういう事や、シンはん」

 

キバオウが疑問に満ちた表情を俺に向けてくる。これから俺が口にする事は、あいつにとって辛い事だろう。ディアベルにも裏切られている事を考えればその辛さは倍か。

 

「俺が始まりの街で貴様ら初心者を助けていたのは、別にしたくしてしていたわけじゃない。信頼を得る為だよ」

「信頼を得る為……?どういう事だよそれ」

「分からないか?全部、自作自演だったんだよ。貴様らの命など、俺はどうでもよかったんだ」

「っ……シッ────」

「黙ってろ女ァアッ!……俺が今喋ってるだろ?関係ねぇお前は引っ込んでろ」

 

背後から俺を止めようと名前を呼ぼうとしたキリトに、俺は殺気を込めて叫ぶ。視線を向ければ固まっているキリトが見えたが…………これでいい。俺とお前との関係をここで壊したように見せれば、俺が何を言っても今後キリトに被害が及ぶ事はないはずだ。

 

「……どうしてわざわざ信頼を得ようとしたんだ?何か目的があったんだろ?」

「当たり前だろ、ハゲのおっさん」

「ハ……これはスキンヘッドなんだが……」

 

問いかけてくるエギルを俺はそう呼ぶ。おそらく俺の芝居にわざと乗ってきてくれているんだろう。それなのにわざととはいえ、そう呼んでしまった事には罪悪感を抱いてしまう。

 

「ベータテスターとバレても初心者共から襲われないようにする為だが、目的はもう1つある」

「……何だ?」

「LAボーナスを取る為だよ。顔を売っておけば、協力してくれる奴が増えるからな。だが結果はディアベルと、奴がLAボーナスを取られると危惧していたあの女と組んだせいでうまくいかなかったけどな」

 

俺はキリトを親指で指差し、あからさまにあいつが邪魔だった事を強調する。この位しておけば、ほとんどの奴は散々に言われているキリトに情が移るだろう。代わりに俺を敵と見なしてくれるはずだ。

 

「つまり、俺達初心者を利用しようとしてたのか!?」

「ああ、そうだよ。まぁ……ほとんどが利用できねぇクズ共だったがな!!」

「クズッ……んだとっ、テメェ!?」

「ふざけんじゃねぇぞ!!」

「俺達を何だと思ってんだぁっ!!」

 

よし、とりあいず敵意を俺に向ける事は出来たな。これならば、あの事を吹っ掛ければベータテスターに対する敵意も簡単に俺の方に向けられる。

 

「それとベータテスターへの勘違いだが、ベータテストは確かに武器は曲刀だった。しかし今回は刀へと変更されていた。これを事前に知っていたのはアルゴでもそこの女でもない────()だけだよ」

「っ……どうやって知ったんだよ!?他の元ベータテスターでも手に入られなかった情報を!」

「プレイヤー以外で変更点を知っているのは誰だと思う?」

 

俺はニヤリと笑って奴らを見る。変更点をプレイヤー以外で知っている者などこのゲームを開発した奴らしかいない。そしてプレイヤー達がよく知る開発者などたった1人しかいない。

利用させてもらうぞ、貴様の名前を──────

 

「……まさ、か……!?」

「か、茅場晶彦か……?あいつから教えてもらったっていうのか!?」

「ああ、そうだよ。俺は現実世界であいつと繋がりを持っていたんだ。このゲームの変更点なんていくらでも聞いてるぜ……まぁ、俺もこんな事になるなんて聞いていなかったけどな」

 

現実世界の事は家族や知り合いならばともかく、赤の他人が知っているはずない。それを利用すれば、茅場と繋がりを持っているなんてバレそうな嘘────真実かどうかを確認できず、さらにはここにいる誰もが俺に敵意を向けている状況では信じ込ませるのは然程難しくない。

 

「ふっ……ふざけんなよテメェ!!何だよそれ!!もうベータテスターどころじゃねぇだろうが!!」

「チートだろ、それ!お前、チーターだったのかよ!!」

「お前にクズ呼ばわりされる筋合いなんてねぇよ!お前がクズだろうが!」

「ベータのチーターが、粋がってんじゃねぇぞ!!」

「あんたなんて、とっとと死んでまえっ!!」

 

チーター、ベータ、チーター、ベータ…………と、2つの単語は次第に混ざり合ってビーターという1つの単語へと変わっていく。

チートなどという言葉を俺は知らない。チーターなど動物の名前でしか知らない。何も知らない俺は嘘をついただけで、死を望まれる程のクズ呼ばわり──────か。

故意にやった事だが、随分と落ちぶれたもんだな。

 

「ビーターか、いいな!俺にぴったりな、格好いい名前だ!!」

 

……これで、いい。これでいいんだ。これならば多くのベータテスターが救われる。キリトもアルゴも……これが今の俺が出来るディアベルへの唯一の償いだ。

俺は多くのプレイヤー達に悪どい笑みを向け、それでも敵意を向けさせると後ろへと振り返ってキリトの前に立つ。

 

「シ、ン……なん、で……!」

「キリト、お前にこれを渡す。絶対に、誰にもこれの入手方法を教えるな」

「……?そ、それってどういう────」

 

俺が選択したアイテムを、キリトは何のアイテムか分からないままOKを押して受け取ってくれた。そして受け取ったアイテムの名前を見て、絶句する。

 

「こっ……れ、は……駄目、だよ……」

「いらないなら捨てろ。俺は第2層に進むからな」

 

ここで後戻りしても得られる物など何もない。ならば前に進むしか道はない。俺は立ち尽くし、震えた声しか出せていないキリトの横を通り過ぎていく。目指すはイルファングが座っていた玉座の後ろに設けられた小さな扉だ。あれが第2層へと繋がっている事は容易に想像できる。

正面へと辿り着いた俺はその扉を押し開き、奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉の先にあった螺旋階段をしばらく上っていくと、再び扉が目の前に現れた。この先に第2層が広がっている事を想像し、俺は扉を両手で一気に押し開いた。

 

「……へぇ。なかなかの絶景じゃないか」

 

どうやら俺がいるのは急角度の断崖らしい。狭いテラス状の下り階段が岩肌に沿って左に伸びているが、俺はそこから視線を外して眼科へと向ける。

どうやらこの階層はテーブルのような岩山が端から端まで連なっているだけのようだな。山の上部には大きな牛のようなモンスター達がおり、生えている草を食べている。……そういえば、このゲームに囚われてから肉を口にしていないな。

 

「さて、そろそろ……ん?」

 

何分か目の前に広がる光景を眺め、動き出そうとすると後ろの螺旋階段から足音が聞こえてきた。先程の攻略組の誰かだろうが、あれだけ周囲から敵意を向けられた俺を追い掛けてくるなど普通とは思えない。ならばその正体は自然と限られてくる。

 

「……よかった。ここにいたのね」

 

段々と見えてきた栗色の髪から誰なのかは分かっていたが、俺はアスナの全容が見えてくるまでは何も言わずに待った。あんな事があった後では、アスナも俺への態度を厳しい物へと変えているのではないかと思ったが……どうやら変わっていないようだな。

 

「綺麗……」

「ああ。第1層のごちゃ混ぜになっていた地形よりもこちらの方が断然良い」

 

アインクラッドの構成上、第1層が一番広い為に開発した側にとってはそれ故に余ったスペースをとにかく何かしらで埋めなければいけなかったのだろう。それともプレイヤー達にこういった建物や地形がこのゲームにはあるという事を知らせたかったのか?

 

「エギルさんとキバオウ、キリトから伝言があるわ」

「伝言?」

「エギルさんは『2層のボス攻略も一緒にやろう』って。キバオウは…………『ワイはシンはんが言った事を信じとらん。始まりの街で見たシンはんは、紛れもなく本心での行動やった』だって」

 

……キバオウの関西弁をアスナは真剣に再現しようとしたんだろうが、まったく似ていない。やはりその関西弁はキバオウでなければ駄目だろう。

 

「キリトは『これ以上、危険な事はしないで。私の前から消えないで』って」

「そうか」

「……貴方とキリトの間に何があったのかは知らないけど、とても悲しそうな顔をしてたわ」

 

分かっている。あいつが悲しむ事など初めから知っていた。だが俺はやらなければならなかった。教えの1つを破る事になったが、大勢の命とたった1人の悲しみ……どちらを優先しなければならないかなど、考えなくとも分かる事だ。

 

「ねぇ……どうしてあんな事をしたの?」

「キバオウ達に言った事か?」

「それもそうだけど、今聞きたいのはボスを倒して手に入れた装備品をどうしてキリトにあげたのかってこと。ああいったアイテムは2度と手に入らないんでしょ?」

 

コート・オブ・ミッドナイト──────選択する時に少しだけステータスを見たが、第1層で手に入る事は絶対にないだろう。おそらくそれに匹敵する装備品が出てくるのはずっと先の事になるはずだ。

 

「……俺が持つ資格はないからだ」

「資格……?」

「確かに俺は奴に最後のダメージを与え、LAボーナスを手に入れた。しかし()()()()()()()()俺にそのアイテムを手にする資格はない」

「それは貴方が────」

「分からないか?」

 

俺がビーターとなった経緯が本当であろうと自作自演であろうと、それは関係ない。このボス攻略はディアベルによって纏められたプレイヤー達が互いを信じ、全力で挑んだゲーム攻略への第一歩だった。結局はディアベルの死、信じていたディアベルへの疑惑、そして俺の行動によって最悪な第一歩となってしまったが……。

 

「俺は裏切ったんだよ。プレイヤー達からの信頼も、あいつらの信念も……何もかもな」

「っ……どうして」

「ん?」

「ディアベル達を助ける為に頑張って、彼の死を1人で背負いながらみんなから傷つけられて……さらには自分でも傷つけて。貴方はどうして名前も知らない誰かの為にそこまでするの?」

 

アスナを見れば、悲しげな表情で俺を見ていた。同情してくれているのか、それとも俺の境遇に哀れんでいるのか。どちらにせよ、俺にとっては必要ない事だ。俺は、俺がやるべき事をしているだけだから。

だが────俺がここまで誰かの為に、わざわざ命を捨てるような危険な道へと進む理由は教えが全てではない。

 

 

『真一、貴方は誰かを想う事が出来るとっても優しい子。私も進も────そんな貴方が大好きなの』

『真にぃ……ごめん……ごめんなさいぃ……!!』

 

 

「……もう嫌なんだよ。誰かが傍で死ぬのも、助けたいのに何も出来なくなるのもな」

「シン、もしかして貴方は……」

 

アスナはそこまで言いかけ、口を閉じた。しかし彼女が俺の言葉に何を察したのかは分かる。そしてそれが合っているという事も。

 

「……そうだ、キリトからもう1つ伝言があったわ。貴方、転移門を有効化(アクティベート)する事を知っている?」

「転移門は分かるが……有効化(アクティベート)って何だ?」

 

転移門とは始まりの街といった各層の主要区や村にある門の事だ。その門をくぐる事で転移門がある場所へと移動できるらしいが、それでは強くなれないと思った俺は使った事がない。しかしそういえば、あれはどのようにして使えるようになるんだろうか?

 

「まぁ、私もさっきキリトから聞いたばかりだから人の事を言えないけど……第2層の主街区のウルバスにある転移門に触れると、始まりの街にある転移門と繋がるみたい」

「なるほど……いや、待てよ。アスナ、第2層にある街の名前を知っているという事は────」

「別に私はシンやキリトが元ベータテスターだからって態度を変える気はないわよ」

 

まぁ、それは分かっているが。しかしキリトがアスナに自らベータテスターだった事を告げるとは。キバオウからの発言だけなら本当かどうか分からない状態に留まっていたというのに……アスナには伝えても大丈夫と判断したのか。

 

「それで、アスナはこれからどうするんだ?」

「私は他のプレイヤー達と一緒に始まりの街に戻るわ。キリトも……少し具合が悪そうだったから、エギルさんが付き添って戻っていったわよ」

「っ……そうか。あいつ、そこまで……」

 

だがここでホルンカの村の時のようにあいつと再会するわけにはいかない。あの時とは状況がまったく違う。俺に敵意が向けられたおかげでキリトの存在が隠れるようになったのに、一緒にいればそれが意味を無くしてしまうからな。

 

「あっ、それと……転移門を有効化(アクティベート)したらそこからすぐに離れて隠れた方がいいって。始まりの街にいるプレイヤー達が一気に出てくるから」

「そうなのか、それはいい事を聞いた。ビーターになった以上、目立つ事は極力避けたいからな」

 

転移門の前にいれば、そこにいる俺は間違いなく攻略組と判断される。他のメンバーがいない事には疑問を持たれるだろうが、全員が俺に注目するだろう。その中に俺がビーターだと知る奴がいるとする。そうなれば俺は一斉に罵声を浴びせられるはずだ。わざわざそんな事をされるつもりはない為、有効化(アクティベート)したらとっとと離れよう。

 

「じゃあ、私は行くから」

「そうか。それじゃあ、俺もウルバスとやらに行ってみるかな」

「…………ねぇ」

「どうした?」

 

アスナに別れを告げようとすると、その前に言葉を遮られた。何だろうかと思いながらアスナからの返事を待つが、何故かなかなか口を開こうとしない。

 

「どうした?何か言いづらい事なのか?」

「いや、そういうわけじゃないけどその……もし、また会う事があったら、私と──────」

「私と、何だ?」

「……ううん、やっぱり何でもない」

 

いや、そこで途切れるのかよ。余計気になるじゃないか。……まぁ、何にせよアスナが言いたくないんなら無理に追求するのはやめておくか。

 

「それじゃあ……またね、シン」

「ああ。またな、アスナ」

 

上ってきた螺旋階段をアスナは下っていった。アスナの姿が見えなくなり、足音も消えかかってきた所で俺も階段を下りようとすると誰かからかメッセージが届いたようだった。俺がフレンドに登録しているのはキリトとクライン、シリカ。そして昨日の夜、依頼の報告等を聞く為にとフレンド登録をしていたアルゴの4人だけである。

誰だろうかと思いながら開いてみると、差出人はアルゴだった。

 

『大変な迷惑かけたみたいだナ、シー坊。お詫びに情報を何でもひとつタダで売るヨ』

「……へぇ、情報が回るのが早いな。流石は情報屋だ」

 

しかし情報を1つか……特に思い浮かぶ事もないし、タダならばわざわざ適当に使うよりも保留にしておくか。

 

『なら次に出会う時までに考えておく』

 

アルゴにメッセージを返信し、何を教えてもらおうかと考えながら俺は階段の一段目を下り始めた。




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