ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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ようやく実習を終える事が出来ました……!まだまだ提出する書類はありますが、息抜きなどで執筆していくつもりです。


第15話 会議

「……ふむ」

 

噴水広場に集まった人数は44人であった。ベータテストの時、フロアボスに挑まずに辞めてしまった俺からしてみればこの人数が多いのか少ないかなど分からない。

だが────フロアボスとなれば、死ぬ確率は今までよりもさらに高い。だというのに、ここまで集まったのは何故か?早くこの世界からログアウトしたいからか、フロアボスを倒して有名になりたいからか、この世界に怯え、戦えずにいる人達の為になりたいからか──────

 

「……こんなに、たくさん……」

「……どうしてそう思う?」

「だって……初めてこの層のボスモンスターに挑戦する為に集まったんでしょう?全滅する可能性もあるはずなのに……」

「確かにな。だが、それでも集まったのはそれぞれが思惑を持っているからだろう」

「……思惑?」

「ここのフロアボスを倒して成し遂げたい何かがある──────そういう事だ」

 

俺の答えに納得がいったかどうかは分からないが、細剣使いを連れて広場を歩く。どこかにキリトがいるはずなんだが、一体どこにいるんだろうか?と思いながら歩いていると、黒髪の少女が走ってくるのが視界に入った。

 

「シーン!ごめんね、遅くなっ……て……」

「……どうした?」

「ねぇ、シン……そこにいる女の人は誰かな?」

「ああ、彼女は────」

「……人に名前を尋ねるなら、まず初めに自分の名前を名乗らない?」

 

何故か機嫌の悪そうなキリトに、俺の時と同じように敵意を剥き出しにしている細剣使い。キリトを非常識と思ったからか、それとも俺に紹介されるのが嫌だったからか。そういえば、まだ彼女には俺の名前を伝えていないし、名前も聞いていなかったな。

ちょうど良い、ここで互いに自己紹介をしておこう。

 

「……キリトだけど」

「…………アスナよ」

「割り込むようで悪いが、俺はシンだ。改めてよろしく頼む、アスナ」

「…………」

 

声を掛けるも、アスナはやはり仲良くする気はないのか、それとも警戒しているのか────俺から顔を背けてしまった。

 

「……私は貴方に誘われてここに来たけど、仲間ではないわ。貴方が探していた人とも会えたみたいだし、私はここで失礼するわ」

「待ってよ」

「……何?」

「どうしてシンと一緒にいたの?」

 

……?何故キリトは俺とアスナの関係をそんなに気にするんだ?別に彼女との間に何かがあるわけではない。ただ迷宮内で出会い、知り合った────たったそれだけの事だ。

 

「……彼に聞けばいいじゃない」

「それじゃ私がシンの事を疑ってるみたいじゃん」

「キリト、疑うとは何をだ?」

「とっ、とにかく!どうして一緒にいたのか教えてよ!」

 

キリトからの質問をしつこいと思ったのだろう。アスナは溜め息を吐くと、俺と迷宮内で出会った時の事を簡略化してキリトに説明した。

 

「……シン、それで本当に合ってる?」

「ああ、合っているが……」

「確認するなら、どうして私に聞いたのよ……私はもう行くからね」

 

アスナはこれ以上質問をされるのは勘弁だと言うように立ち去っていった。キリトが何故わざわざアスナに聞いたのか、何を考えているのか俺も分からないが……キリトに限って悪い事ではないだろう。

 

「ねぇ、シン」

「何だ?」

「あの人とは、その……何もなかったんだよね?」

「ふむ……例えば?」

「えっ!?えっと……その、た、例えば……」

 

何故そんなに慌てる必要があるんだ?もしかして何か良からぬ事……例えばアスナに脅された、その事を秘密にしろと言い寄られたなどだろうか?

 

「いや、アスナとは何もなかったぞ」

「ほ、本当に?」

「ああ」

 

もしもキリトと考えている事が違っていても、何かをしたという事はないからな。嘘を言う必要などない。

 

「はーい!それじゃ、5分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと3歩こっち来ようか!」

 

声がした方向に視線を向ければ、長身の男がいた。金属の防具を装備しており、武器から見て片手剣使いだろう男は噴水の縁に助走もしないで飛び乗った。

 

「……キリト、何故あの男の髪は青色なんだ?」

「髪染めアイテムだよ。1層の店じゃ売ってないから、モンスターからのレアドロップで手に入れたんだと思うけど」

「……ふむ」

 

ならば、あの男はベータテスターか?偶然入手したのであれば違うだろうが、狙って入手したんならその可能性はある。今まで見てきたプレイヤーに髪を染めたプレイヤーがいない事も考えると、さらに高くなる。

 

「今日は、俺の呼び掛けに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

ナイト……つまり騎士という事か。確かに装備を見てみると、そのように見えなくもない。

 

「ディアベル……聞いた事あるか、キリト?」

「ううん。でも、顔は何度か前線の村や町で見かけたような……」

 

となると初心者とは考えづらい。前線に初心者がいないとは言わないが、キリトの言う通り前線にいたのならばベータテスターである可能性は高くなった。

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」

 

理由はフロアボスの事だろう、と思っているとやはりそうであった。曰く、あのディアベルのパーティがあの迷宮の最上階に続く階段を見つけたらしい。あの迷宮はキリトによれば20階まであるらしく、つまり既にボス部屋に辿り着く為のマッピングは済んでいるという事か。

 

「1ヶ月。ここまで1ヶ月もかかったけど……それでも、俺達は示さなきゃならない。ボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリア出来るんだって事を始まりの街で待ってる皆に伝えなきゃならない。それが、今この場所にいる俺達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、皆!」

 

……なるほど。今回開かれた会議の目的はプレイヤー達の士気を上げ、様々な思惑を持つプレイヤー達をボス攻略するという1つの目標へと纏め上げる事か。

その目的はどうやら成功したらしく、大勢のプレイヤー達の拍手が広場全体に響き渡った。

 

「ちょお待ってんか!!」

「……む?」

 

歓声が止まり、人垣が2つに割れるのが見えた。奥にいる姿に見覚えがある。違いがあるとすれば、大型の片手剣を背負ってる事くらいか。

 

「……キバオウ」

「えっ、知ってる人なの?」

「始まりの街で武器の相談に乗った事がある」

 

まさかここで再び出会うとは思っていなかった。しかし、何故会議を中断したのか。……いや、1つだけ考えられる事がある。キバオウなど初心者にとって────ここにもいるであろうベータテスターは良く思われていない。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

「こいつっていうのは何かな?まぁ、何にせよ意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名前を名乗ってもらいたいな」

「………ふん」

 

キバオウは鼻を鳴らすと足を進め、噴水の前に辿り着くとこちらへと体を向けた。

 

「わいはキバオウってもんや」

 

……何だ?キバオウは今、名乗ると同時に全プレイヤーを見回した。その視線がキリトに向けられた時、止まった。ほんの一瞬であったが、明らかに止まっていた。

先程のキリトの反応からキバオウと知り合いとは考えづらい。それならば顔見知りである俺で止まるはずだ。だが、俺では止まらなかった。────何故だ?

 

「こん中に、5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

「詫び?誰にだい?」

「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった1800人に、や!奴らが何もかんも独り占めしたから、1ヶ月で1800人も死んでしもたんや!せやろが!!」

 

………………奴ら、か。

 

「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり……元ベータテスターの人達の事かな?」

「決まっとるやろ」

 

間違いではない。キリトのようにほとんどのベータテスターはデスゲームが開始したと同時に始まりの街から出ていった。そしてキリトは確かに言った。プレイヤー間での奪い合いだと。その奪い合いに遅れた初心者にとって、レベル上げしやすい狩り場やクエストを独り占めしたベータテスターは憎むべき存在だろう。

今も話しているキバオウの言葉の中には「ベータ上がりという事を隠している」「ボス攻略に入れてもらおうと考えている小狡い奴ら」「貯め込んだ金やアイテムをこの作戦の為に出せ」等々……本当の事を言っているし、当然であるべき事も言っている。だが、それは──────

 

「…………少しいいか?」

「シ、シン!?」

 

俺が口を挟むと、周囲のプレイヤー達の驚いた顔が見えた。その中にはキリトの顔も当然ある。キバオウやディアベルにもよく見えるよう人垣が割れ、俺はその道を通って噴水の前に立った。キバオウを見れば、どこか都合が悪そうに舌打ちした音が聞こえたが今は関係ない。

 

「えーっと、君は?」

「シンだ」

「……シンはんか。久し振りやな、何の用や?」

「お前が言っている事は間違っていない。だが、それは全てベータテスターの責任だった場合だ」

「その通りやろ!あんたはともかく、他の奴らが何の情報を教えず、全部奪っていったせいで──────」

「何故そう言える?」

「何故やと……?実際にそうなっとるから言っとるんや!!」

「死んでいったプレイヤーの中には少なからずベータテスターもいるはずだ。いくら情報がなかったからと言って、全ての死者が初心者だとは考えづらい」

 

キリトから聞いた話では、アニールブレードを手に入れる為のクエストでベータテスターが1人死に、自身もかなり危なかったと言っていた。つまりベータテスターがいくら有利であっても、油断や実力への慢心で死ぬ時などいくらでもあるという事だ。

 

「何が……何が言いたいんや、あんたは!」

「プレイヤー達が死んでいった理由を全てベータテスターのせいにするなと言っている。……それと、お前は金やアイテムを全て出せと言ったな」

「当然の事やろ。まぁ、シンはんから取る気は────」

「どうやって初心者とベータテスターは見分けるつもりだ?」

「そんなの、レアなアイテムなんかを持っていればすぐにつくやろ」

 

……なるほど。キバオウはそうやって見分けようとしていたのか。だが、口にするのは失礼故に言う気はないが、こいつは頭が足りていない。そんな事をすれば、どうなるか。

 

「ディアベルとやら。お前のその髪は髪染めアイテムを使っているのか?」

「ん?ああ、そうだけど」

「ふむ……ならディアベルはベータテスターという事になるな、キバオウ」

「えっ……」

「な、何やと!?」

 

キリトが髪染めアイテムはレアドロップと言っていたからな。だからと言って、それだけでディアベルをベータテスターと決めつける気はない。初心者が偶然で手に入れてもおかしくないし、ベータテスターである可能性があるというだけ。ただ今回はキバオウが言った方法を実行に移しただけだ。

……しかし、おかしいな。何故かディアベルは青ざめているし、キバオウは予想以上に動揺している。まるで片方は隠していた事を突きつけられ、もう片方はその隠していた事に驚いているような様子だ。

まさか、本当にそうなのか?そしてキバオウ、お前はもしかして──────

 

「た、確かに髪染めアイテムはレアドロップだけど、偶然手に入れたんだ。それから、俺はベータテスターじゃなくて初心者だ」

「ディアベルの言う通りだ。俺達のパーティは初心者で構成されてるからな」

「そうだ。それに仮にディアベルがベータテスターだとしても、初心者だと嘘をつくような奴じゃない」

 

近くにいたディアベルのパーティメンバーと思われるプレイヤー達がそう口にする。どうやらディアベルはかなりの信頼を寄せられているようだな。誰もが疑った俺を強く睨んでいる。

 

「……そうか。悪かったな、ディアベル」

「いや、いいさ。キバオウさん、今のようにその方法じゃこんな事が起こるのは確実だ」

「……確かにそうやな。やけど、納得が出来ん!ベータテスターのせいなのは本当の事やろ!」

 

「発言、いいか?」

 

その声と共に人垣の左端から進み出てくるスキンヘッドの男性が見えた。武器は背中にある斧だが、あの日本人離れした体格から考えると軽そうに見える。キリト曰く、体の大きさはステータスに影響しないようだが。

 

「……誰だ?」

「俺の名前はエギルだ。悪いが、今は言い争っている場合ではないはずだ。キバオウさん、あんたはベータテスターが全て奪っていったと言っているが、情報はあったぞ」

「何やと?」

 

情報はあった……?一体どこからだ?誰かが情報を初心者に与えていたのか?

 

「このガイドブック、あんたも貰っているだろう?ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな」

 

そう言ってエギルが大きなポーチから取り出したのは本であった。表紙には鼠のマークが描かれており、下には大きく「大丈夫。アルゴの攻略本だよ」と書かれている。

アルゴ……あの情報屋が作った本なのか。いや、誰が作ったかはいい。確かこの本は色々な村や町の道具屋で何度か目にしていたな。しかし無料配布であったのか……ここはゲームの中なのに、攻略本など売っているのはおかしいと思い、その内容を疑って購入しなかったのだ。

 

「────貰たで。それが何や」

「このガイドは、俺が新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい」

「せやかったら、早かったら何やっちゅうんや!」

 

情報が早すぎる……なるほど、そういう事か。

 

「その情報はベータテスターが提供していた、と言いたいんだろう」

「ああ、そうだ。情報はあったのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランのMMOのプレイヤーだったからだと思う。このSAOを、他のタイトルと同じ物差しで計り、引くべきポイントを見誤った」

 

エギルは集団に視線を向け、プレイヤー達に自分の考えを伝えた。ベテランだからこそ、死に至った。そういう事か。

 

「俺達自身もそうなるかどうか、それがこの会議で左右されるんじゃないか?」

「……キバオウさん、君の言うことも理解は出来るよ。でも、そこのエギルさんの言う通り、今は前を見るべきだ。元ベータテスターだからこそ、その戦力はボス攻略の為に必要なものなんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら、何の意味もないじゃないか」

 

確かにそうだろう。人数は多くても経験が浅い初心者、人数は少ないが経験はあるベータテスター。そのどちらかが欠ければ、ボス攻略は困難を極めるだろう。攻略するには、互いが協力し合うしかない。

 

「…………ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさしてもらうで」

 

そう言い、キバオウは集団の前列へと戻っていった。その表情はどこか悔しそうであるが……それはベータテスター達に対して謝罪すらさせる事が出来なかったからだろう。エギルも同じように元いた場所へと歩いていく。その姿を見て、俺もキリトの元へと戻っていった。

 

「シ、シン……突然やめてよ、あんな事は……もしもシンに何かあったら……」

「……悪い」

「でも……ありがとう。私もシンが言った事と同じ事をあの人に言いたかったから」

「そうか」

 

その後、第1回目の会議は前線のプレイヤー達を纏めるという事を達成して解散となった。




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