ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第12話 合流

シリカと別れてから俺は残りの時間を再び困っている初心者を助ける為に動いた。そして気付けばその日は終わってしまい、次の日─────キリトと約束をしていたデスゲーム開始から3日後の日になっていた。

俺は全員とはいかないが、それでも多くのプレイヤーにこの始まりの街を出ていく事を告げた。何人かはまだしばらく残ってほしい事を頼んできていたが、それは単なる甘えだろう。必要な知識はプレイヤーからプレイヤーへと伝わるはず。ならば残ってほしい理由はおそらく俺がいてくれれば、助けてくれる────そう考えながらフィールドに出るのは勘弁してもらいたい。俺は危機的状況になった時の保険などではない。その事を彼らに強く言い、俺は始まりの街を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

ホルンカの村へは一度だけ行った事がある為、迷わずに行ける自信がある。ただキリトならば安全な道を知っているだろうが、俺は知らない為に本来通る道をモンスターを倒しながら進んでいる。と言っても、出てくるのは雑魚のフレンジーボアだけだが。

 

「……レベルが上がったか」

 

レベルが上がった事を知らせるファンファーレが鳴り響いた。同時に金色のライトエフェクトが全身を包む。始まりの街にいた時にレベルは既に一度上がっている。つまり俺のレベルは今、3という事だ。

 

「今頃キリトはホルンカの村を拠点にして経験値やアイテムを入手してるはず……少なくともレベルは4か5には達しているだろうな」

 

メインメニュー・ウインドウからステータスタブを選び、加算されたポイントを筋力と敏捷性に振り分ける。このゲームで分かるステータスはこの2つだけだ。とりあいずポイントは均等に分けているが、いずれはよく考えながら振っていこう。

 

「プギイイイッ!」

「まだ残ってたか……」

 

向かってくるフレンジーボアをかわしてブロンズシミターで攻撃を与えつつ、最後はリーパーを発動して一気にHPを削って倒した。

 

「急がないとな。このままだと約束の時間に遅れる」

 

俺はそう呟き、ブロンズシミターを常に手に持った状態でベータテストの時の記憶を頼りにホルンカの村へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後──────モンスターとは必要最低限の戦いのみを行い、約束の1時手前に俺は民家の前に辿り着いた。キリトの姿はまだない事から、間に合ったと考えていいだろう。

 

「てっきりもう来ていると思ったんだが……」

 

約束の時間の前にクエストかどこかに行ったが、予想よりも時間がかかってしまっている……とかか?いや、今のキリトの事がわざわざ約束の日に予定を入れるとは到底思えない。

 

「となると、他の理由が……?」

 

一体何だろうかと頭の中で考えていると、前から誰かが息切れをしながら走ってくる音が聞こえてきた。もしかして、と思いながら顔を上げると──────

 

「シンッ!!」

「っと……うおっ」

 

走ってきていたのはやはりキリトであった。防具が変わっているなと思った瞬間、キリトは走ってきた勢いを乗せて俺に抱き着いてきた。……いや、というよりもはや突進とも言えるような勢いで、俺は咄嗟に受け止めたもののよろけて地面に倒れてしまった。

 

「あ……ご、ごめん!」

「……心配するな。このゲームで痛みなどないからな……それよりも」

 

俺は僅かに溜め息を吐き、覆い被さっているキリトに対して短く告げた。

 

「近い」

「…………えっ?」

 

俺とキリトとの顔の距離はほとんど無いに等しい。キリトの胸の僅かな膨らみは当たっているし、吐息もかかっているというのに何故気付かない?キリトはしばらく硬直していたが、一気に顔を赤くしたかと思うと一瞬にして飛び退いた。

 

「う、うわああああっ!?」

「……今頃気付くとか、遅すぎるだろ」

 

顔を真っ赤に染めて尻餅をついているキリトに俺はそう言い放ち、立ち上がった。そこで不意に思ったのは、もしもキリトが慌ててハラスメント防止コードを使っていたらという事である。俺からは何もしていないのに、監獄行きになるのは納得がいかない。

 

「大丈夫か?」

「う、うん……ううっ、何で思わず飛び込んじゃったんだろ……」

「……ところで何かしてたのか?お前の事だから、俺よりも先にいると思ったんだが」

「えっと……シンに会えると思ってたらなかなか寝れなくて……寝坊しちゃったんだ」

 

寝坊って……子供か。遠足前の小学生じゃあるまいし。

 

「でも約束の時間に間に合ってよかったよ」

「……確かにな。時間が過ぎていないなら、それは間に合ったという事だ」

「だよねっ!……それで、どうして急に合流しようなんて連絡したの?……私の事、嫌いになったんじゃなかったの?」

「誰もそんな事は言っていないだろ……」

 

確かに突き放してしまったが、俺は一言もキリトの事が嫌いなったとは言っていない。その事を聞いたキリトはどこか暗くなっていた表情を明るくしていた。

 

「……すまなかったな。あの時、お前を突き放したりして。色々と理由はあるが、それを盾にして許してくれなどとは言わない。もしも俺の死を望むなら、今すぐにでもフィールドに出て────」

「いっ、いいよ!ていうかしないでっ!?……でも、そうだね。じゃあ、今度私と出掛ける事を約束してくれるなら、許してあげるよ」

「……?そんなのでいいのか」

「私にとっては重要な事なんだよ!」

 

俺と出掛ける事が重要な事……?何故かは分からないが、キリトがそれでいいならいいが。今の俺に断る権利などないしな。

 

「分かった。予定が合えば、一緒に出掛けるか」

「うん!…………ところで気になってたんだけど、それ(・・)どうしたの?」

「それ?」

「右手に付けてるブレスレットだよ」

 

ああ、シリカとペアルックしている……確か再会の腕輪とかいうアクセサリーの事か。キリトが疑問に思っているのは無理ないか。俺は現実世界でも仮想世界でもこういった物を付けていなかったからな。

 

「連れていきたいって言っていた知り合いが選んだアクセサリーでな。ステータスに変化はないんだが、何でもペアルック仕様とかで1つ増えたから貰ったんだ」

「ペア……ルック。へぇー、そうなんだ……へぇー」

 

気のせいだろうか?キリトを中心にして周囲が段々と黒くなっているような気がする。それに一瞬にして周囲の気温が下がったような……。

 

「そうだ。ペアルックで思い出したが、お前に渡したい物があったんだ」

「……えっ、私に?な、何?」

「俺もアクセサリーを買ったんだけどな。そのアクセサリーもペアルック仕様だったようでな……ほらっ」

 

俺はあの青い宝石がぶら下がっているネックレスを1つだけキリトにトレードする。このネックレス、確認したがアイテム名は祈願の首飾りと言うらしい。

キリトは受け取ったネックレスを実体化させ、自分の手元に置いた。

 

「綺麗……」

「どんな物が気に入るか分からなかったからな、俺の感覚だけで決めてしまったが……どうだ?」

「うん、気に入ったよ!ありがとう!……あれ?でもこれ、ペアルック仕様って言ってなかったっけ?」

「ああ、もう1つは俺が持ってる。俺が装備した方がお前も喜ぶと思ったんだが、どうす────」

「シンが装備して!」

 

一気に顔を寄せてくるキリトに俺は驚きつつも頷き、祈願の首飾りを装備した。……やはりステータスに変化はないか。説明も「これを付けた物の願いは叶う」と書いてあったが、設定だけだろう。

キリトも祈願の首飾りを装備し、俺に笑顔を見せてくる。

 

「えへへっ、私達もペアルックだね!」

「そうだな」

 

ふむ……このペアルックとやらはそんなに嬉しい事なのか?シリカは2人が同じ物を持っている事と言っていたが……実はその他にも意味があるんじゃないだろうか?

 

「そうだ!ねぇ、今から一緒にクエストに行かない?」

「今からか?」

「うん!……駄目かな?」

「……まぁ、お前がどれだけ強くなっているのかは知りたいからな。いいぞ」

「やった!じゃあっそく受注しにいこっ!」

 

そう言ってキリトはクエストが受けられる場所へと走っていき、俺の方に振り向いて早く来るよう叫んでいる。現実世界でもあそこまでの元気な姿は見た事がなかったな、と思いつつキリトの後を追っていった。




これにて第0.5章は終了です!次回からはプログレッシブ第1巻へと入ります。
シンとキリトのお出掛けの約束については番外編で出そうかなと思ってます。

評価、ご感想お待ちしています!

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