ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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今回よりSAOのデスゲーム、開始です。


第7話 宣言

リンゴーン────リンゴーン────

 

「むっ」

「んな……っ」

「な、何!?」

 

この音……鐘か?確かに鐘があるような場所はあるが、ベータテストの時にこんな事は────っ!?

 

「これはっ……」

「こ、今度は何だよぉ!?」

 

俺達の体を鮮やかなブルーの光の柱が包み込んでいる事に気付いた。何が起こっているのか考えるが、草原の風景がみるみる内に薄くなっていってる。

クラインは騒いでいるが、キリトは何が起こっているのか気付いているようだった。

 

「キリト、この現象は何だ?」

「転移だよ!でも私達はアイテムを持ってないし、コマンドだって────」

 

転移……そういえばベータテスト中にそれが初めて出来た時、和美から電話がかかってきたな。つまりキリトは転移を一度体験している。だからすぐに気付いたのか。

だが、その転移とやらはアイテムを使わないといけないと聞いている。ならば何故、転移が行われているのか?

そこまで考えた時、光は強くなって視界から何もかもが消えた。そして光が収まったと思うと、目の前の風景が変わっていた。

 

「こ、ここは始まりの街の広場じゃねぇか……!」

「みたいだね……それに、強制的に転移させられたのは私達だけじゃないみたい……」

 

キリトやクラインと共に視線を周囲に向ける。この広場にいるのは俺達3人だけではない────1万人近くはいるであろう、このゲームにログイン中のプレイヤー全員だ。

 

「な、何がどうなってんだぁ……?」

「…………」

 

クラインがそう呟く中、俺は周囲から聞こえてくる声に耳を立てる。初めは「どうなってるの?」「これでログアウトできるのか?」などといった言葉が聞こえてきた。しかし何も起こらずにいると「ふざけんな」「GM出てこい」といった喚き声も聞こえてくるようになった。

何かが──────おかしい。そう思ったのは俺だけではないはずだ。

 

「あっ……上を見ろ!」

 

誰が上げた声なのかは分からない。咄嗟に上を見上げると上空に2つの英文が交互に表示されているのが見えた。

 

────Warning────

 

────System Announcement────

 

「あっ……ようやく運営のアナウンスがあるみたいだね」

「おっ、ついにか。ったくよぉ、今まで随分と待たせてくれたじゃねぇか」

 

「…………アレ(・・)、がか?」

 

おそらくその時、声を発する事が出来たのは俺だけだったんだろう。何故ならば、誰もが予想を大きく裏切られていたのだから。

あの英文からどろりと垂れ下がる────まるで血液のような液体は空中で形を変えた。その姿とは、身長20mはあると思われる真紅のフード付きローブを纏った巨大な大人の姿である。しかしフードの中に顔はない。巨大なローブが空中に浮いているとも言っていい。

 

「あのローブ……アーガスの……」

「キリト、何か知ってるのか?」

「う、うん……シンがベータテストをやめてからなんだけど、GMのアバターを何度か見かけたんだ。あのローブは、そのアバターが必ず纏っていた衣装なんだよ」

 

そうなのか、と言おうとした所で巨大なローブが動いた。広げられた袖口から純白の手袋が現れたが、それら2つを繋ぐ腕は見られない。

まるで幽霊みたいだな──────と思っていると。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

低く落ち着いた、よく通る男の声が広場に響いた。誰もがその言葉の意味が分かったはずだ。あの男がこのゲームの操作権限を持つGMならば、私の世界と言ってもおかしくない。

だが、俺はその言葉の意味が分からなかった。()の世界──────それはまるでゲームの世界ではなく、あの男が神となって支配するもう1つの別世界を示しているように聞こえたのだ。

 

『私の名前は茅場晶彦(かやばあきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

「かや……?誰の名前だ、それは」

 

俺がそう呟くと、キリトやクラインの驚いたような顔がこちらに向けられた。いや、2人だけではない。俺の言葉が聞こえていた全員が俺を見ていた。

 

「……?何だ、そんなに有名な奴なのか?」

「シン、本当に知らないの……?」

「仕方ないだろ、俺は少し前までゲームに触れた事すらなかったんだからな」

 

後から知った事だが、どうやらその茅場晶彦とやらは弱小ゲーム会社であったアーガスを最大手と呼ばれるまでに成長させた、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。このゲームの開発ディレクターであり、ナーヴギアの基礎設計者でもあるそうだ。

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

「し……仕様、だと?」

「……なるほどな」

 

俺はログアウトボタンが消えたのがバグではなく、何者かによるハッキングなどがされたと思っていた。操作権限が運営から盗まれたと思っていた。だが違っていた。このゲームそのものが原因だったのだ。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトする事は出来ない』

 

この城の頂?……城?あの男は今、城と言ったか?

 

───全100層からなる石と鉄で出来た城───

 

「まさか……」

 

『……また、外部の人間による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合───』

 

ドクンッと心臓が跳ねたような────気がした。ログアウトしないまま、ナーヴギアが外されればどうなる?脳に何らかの障害が残るんじゃないか、と思ったが実際はそれ以上に残酷なものであった。

 

『───ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生活活動を停止させる』

 

「っ…………ふざけるな……!」

 

ナーヴギアを外せば、脳を破壊するだと?つまりは殺すという事だろう。相手を恨み、殺す。それならば分かる。だが、この男からは────そういったものがない。つまりこいつは恨みもない相手を殺すと言っている。

殺す事は許せない事だ。だが、理由もなしに誰かを殺すのは────さらに許せない事だ。

 

「はは……何言ってんだアイツ、おかしいんじゃねぇのか。んなことできるわけねぇ、ナーヴギアは……ただのゲーム機じゃねぇか。脳を破壊するなんて……んな真似ができるわけねぇだろ。そうだろキリト!」

「…………原理的には有り得なくもないよ。でも、ハッタリに決まってる。だって、いきなりナーヴギアの電源コードを引っこ抜けば、とてもそんな高出力の電磁波は発生させられないはずだよ。大容量のバッテリでも内蔵されてない……限り…………」

 

俺はナーヴギアの構造について詳しくない。だが、キリトの言葉が途切れた事で俺は気付いた。

 

「……内蔵されてるのか」

「う……ん。ナーヴギアの重さの3割はバッテリセルだって……」

「そんなの無茶苦茶だろ!瞬間停電でもあったらどうすんだよ!?」

 

クラインの言う通りだ。つまり電力が切れた場合はどうなるのか────その答えを茅場は口にした。

 

『より具体的には、10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナーヴギア本体のロック解除、分解または破壊の試み────以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この上空は既に外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』

 

……その先を、言うなっ……!!

 

『────残念ながら、既に213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

「茅場……晶彦ぉぉっ!!」

 

どこかで小さな悲鳴が上がったのが聞こえた。何人かは尻餅をつき、それはキリトやクラインも例外ではない。中には放心している者や、薄い笑いを浮かべている者もいる。

 

「っ……キリト、クライン……しっかりしろ」

「う、うん……」

「…………信じねぇ。信じねぇぞ、俺は」

 

確かに信じられる者は少ないだろう。だが、次の茅場の言葉で信じ得ざるわけにはいかなくなった。

 

『諸君が向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を多数の死者が出ている事も含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体はナーヴギアを装着したまま2時間の回路切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 

……なるほど。とりあいず混乱した親や友人によってナーヴギアを外されるという危険性はあいつの言う通り下がったと言っていいだろう。

だが、ゲーム攻略だと?それはつまり──────

 

「ログアウト不能の状況でゲームを攻略しろなんて……こんなの、もうゲームでも何でもない!!」

「キリト、落ち着け」

「だって!」

「……茅場、聞いているんなら答えろ。現実世界でナーヴギアによって死ぬんなら、ゲーム内で死んだ場合はどうなる?」

 

『諸君にとって、ソードアート・オンラインは既にただのゲームではない。もう1つの現実と言うべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に──────諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

やはり……予想していた通りか。視界左上に見えるHPバーは青く輝いている。その上には342/342という数字が表示されているが────この数字が0/342となった時、俺はナーヴギアによって脳を破壊されるのか。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった1つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされる事を保証しよう』

 

茅場の言葉によって周囲からあらゆる音が消え去った。誰もが信じられないような目で茅場を見る。中には再び崩れ落ちる者もいる。

まさかとは思っていたが、先程言っていた城とは本当にアインクラッドの事だったのか……。

 

「クリア……第100層だとぉ!?で、できるわきゃねぇだろうが!ベータじゃろくに上れなかった聞いたぞ!」

 

クラインの言葉は真実だ。あのベータテストで攻略できたのは第6層までだったとキリトから聞いたからだ。あの時よりも今回の方が人数は遥かに多いが、それでもどのくらいかかるか分からない。これがただのゲームならばともかく、生死を伴うゲームへと変わった今────戦う事でさえ躊躇うプレイヤーがいるからだ。

 

「キリト。ベータテストの時、どのくらい死んだ?」

「す、少なくとも100回は……」

「……そうか」

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してあるり確認してくれ給え』

 

「プレゼント……?」

 

キリトやクライン、他のプレイヤーと共に開いたメインメニューからアイテム欄を選ぶと、茅場がくれたというアイテムを見つけた。

そのアイテムの名は────手鏡。オブジェクト化のボタンを選択して躊躇いなく手に持ってみるが、何も起こらない。何だろうかと思い、試しに振ってみたりする。しかし手鏡には何の変化もなかった。

 

「これは一体────っ!?」

 

突然全てのプレイヤーが白い光に包まれた。すぐに光は収まり、風景は変化していない事から転移ではない事にすぐ気付いたが──────それ以外に変化している事があった。

 

「……キリト」

「な、何……ってシン、その姿……」

「おいおい……誰だよおめぇら」

 

俺達の姿が変わっていた。いや、正確には現実の自分(・・・・・)の姿へと変わっていた。

 

「落ち着け。どうやら……着ている物以外、全て現実の自分と変わらないみたいだな」

「って事はキリト……おめぇ、女だったのか!?」

「う、うん……」

 

驚きから2人の手から手鏡が落ち、地面にぶつかると消滅した。このアイテム……なるほど、自分の姿がどうなったのかを確認する為に鏡にしたって事か。そう考えていると、手鏡から勝手に消滅していった。

周囲を見渡してみると、全員が現実の姿にされている事が分かった。男女比も大きく変化している事から、キリトのように性別を偽っていた奴もいたというわけか。

 

「……そうか!」

「どうした?」

「ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆ってる。つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握できるんだ……」

「で、でもよ。身長とか……体格はどうなんだよ」

 

確かに。プレイヤー達の身長は体格は変化前と比べて大きく違っている。身長が低い者は何㎝か高くし、横幅がある者は小さくしたりしていたんだろう。

だが、ナーヴギアが覆っているのはキリトの言う通り顔だけだ。どうやって体までも把握したのかが分からない。

 

「あ……待てよ。確か……キャリブレーションだっけか?それで自分の体をあちこち自分で触ったじゃねぇか。もしかしてアレか……?」

「ああ、そういえばそんなのもあったな。……って、どうしたキリト?」

「う、うん……な、何でもないよ?……うう、思い出したくないのに」

 

キャリブレーションとは装着者の体表面感覚を再現する為に、手をどれだけ動かしたら自分の体に触れるかのかを測る作業だ。……なるほど、それによってナーヴギア内に自分の体格がデータ化されたという事か。

 

「現実……か。茅場は俺達の姿を現実の物と同じにする事で、この世界が今の俺達の現実世界だと言いたいという事か」

「何でだ……何でだよ!?何であいつはこんな事を……!」

 

『諸君は今、何故、と思っているだろう。なぜ私は────SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

 

……確かに。何故あいつはこんな事をした?俺達をこのゲーム内に閉じ込め、誰もが楽しみにしていたゲームをデスゲームへと変えて──────ログアウトしたければゲームを攻略しろと言う。

分からない。あいつの目的は何なんだ?

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。何故なら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞する為にのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

…………どういう事だ?この世界を創り出し、観賞するだと?こいつは────本当にこの世界の神になったつもりでいるのか?

間違いない。あいつは、茅場晶彦は……狂っていやがる。

 

『……以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の────健闘を祈る』

 

そう言った瞬間、茅場────いや、深紅のローブはシステムメッセージと共に消滅していった。

そして市街地のBGMが聞こえてきた。その瞬間──────

 

「嘘だろ……何だよこれ、嘘だろ!」

「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」

「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」

「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」

 

プレイヤー達が吠えた。あらゆる方向から叫び声が聞こえてきて、まるで広場全体が震動しているように思えた。

……まずいな。このままここにいるのは危険だ。狂ったプレイヤーが何をしでかすか分からない。

 

「キリト、ここから離れるぞ」

「あっ……う、うん!クライン、一緒に来て!」

 

俺とキリト、クラインはプレイヤー達の間を抜けながら広場から走り去っていった。




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