ソードアート・オンライン 絶速の剣士   作:白琳

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第0.5章 デスゲーム開始
第6話 終わりが始まった日


俺は受験生である為に剣道部を引退、部長の座は2年生の男子生徒に託した。進学すると決めた高校の受験も無事に終えている。結局、どの道に進みたいかはゆっくりと決めるようと高校は普通科を選んだ。場所は家からでも十分に通える範囲である為、今後も和美や直葉との交流は途絶える事はない。

そんな俺は来年の4月までに残された退屈な時間を和美と共に購入したソードアート・オンラインで潰す事に決めている。俺達は優先購入権があったから良かったものの、そうでない人達はまるで戦争のようにソフトを奪い合ったそうだ。おかげでソードアート・オンラインは完売したらしい。

そして今日────2022年11月6日の日曜日。午後1時から正式サービスが開始される。和美は1秒たりとも遅れずにログインするらしく、俺も同じようにログインするつもりでいる。

そして──────あの開始コマンドを再び口にする。

 

「《リンク・スタート》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────今思えば、和美に誘われてソードアート・オンラインにログインしたのは間違いではなかったと思いたい。

何故ならば────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またここに戻ってきたのか」

 

ベータテストが始まった時と同じように作ったアバターで俺は始まりの街に降り立った。周囲を見渡すと、既に多くのプレイヤーがログインしているようだ。俺の周りだけでも数十人はいる。

 

「さて、キリトはどこに────」

「シン!」

「ん?」

 

後ろを振り向くと、そこにいたのはファンタジー系アニメの主人公を務めていそうな少年であった。

 

「……キリトか?」

「うん!ベータテストの時と同じアバターって言ってたから、すぐに分かったよ!」

「そうだとしても同じような奴はどこにでもいるぞ」

「そうでもないよ?だって髪の跳ね具合や瞳の色、体格、腕や足の太さとか色々違うじゃん!」

 

………こいつ、ベータテストの時にどれだけ俺の事を見ていたんだ?いくらなんでも観察し過ぎるだろ。まぁ、それだけ観察してもらっているからすぐに気付けたんだろうが。

 

「ところで、何故お前は男のアバターなんだ?もしかしてそんな趣味でもあったのか」

「ち、違うよ!その……ほら、男性の姿ならセクハラとかされないじゃん」

「……されたのか?」

「う、うん……ベータテスト中に。だからすぐにハラスメント防止コードを使って牢獄に入れたよ」

 

SAO内では異性のプレイヤーやNPCに不適切な接触行為をすると、警告と共に電気ショックめいた反発力が生まれる。さらには黒鉄宮にある牢獄に強制転移させる事も出来るとか。

 

「次からは何かあったら言え」

「も、もしかして……怒ってる?」

「当たり前だ。女性に対してそんな事をする輩を許せるわけないだろ」

 

もしもその場にいたら、間違いなくそのプレイヤーに対して制裁を与えていただろうな。

 

「その……ご、ごめん」

「……もういい。それで?まずは武器を揃えにあの武器屋に行くか?」

「う、うん。まずはそこで武器を揃えないと」

 

俺はキリトと共に歓喜している初心者の間を歩いていき、安売りの武器屋がある裏道へと入っていく。ここを知っているのはおそらくベータテスターしかいないだろう。偶然にも見つけた初心者もいるだろうが。

 

「シンはまた刀を使うの?」

「ああ。だが、また曲刀の熟練度を上げないとな」

「そうだね。僕も片手剣を使うつもり────」

「おお〜いっ!そこの兄ちゃん達!」

 

……ん?今の声、後ろからか。振り向くと、まるで戦国時代の若武者のような顔をした男が走ってきていた。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……あ、あんたらっ、迷いもなくここに入っていったって事は、ベータ経験者だろ?」

「え、えっと……そうだけど?」

「ならよっ、ちょいとレクチャーしてくれよっ!俺、初めてなんだ!なぁ、頼むよ!」

 

両手をパンッと合わせて必死に頼んでくる男。どうするかと考えていると、人付き合いが得意ではないキリトがこちらに助けを求めるような視線を向けている事に気付いた。

 

「……いいぞ。その頼み、聞いてやる」

「ほっ、本当か!?ありがとな!俺はクラインだっ、よろしくな!」

「おう。俺はシン、こっちはキリトだ」

「よ、よろしく……」

 

さて……どうやらこのクラインとやらも武器をまだ持っていないみたいだな。

 

「クライン。この先に安売りの武器屋があるが、お前もそこで買うか?」

「おっ、そうなのか?ならそうさせてもらうぜ!」

 

俺達はクラインを加えた3人で武器屋に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおっ、とりゃっ……うぐええっ!?」

 

青イノシシ──────フレンジーボアに対してクラインは先程買った曲刀を振るうが、構えも振り方も滅茶苦茶である。あれでは当たるはずもないと思っていると、フレンジーボアの突進を受けて吹き飛んでいった。

どうやら股間に直撃したらしいが、痛みなど感じないだろうに。

 

「ふっ」

「ぷぎいいっ!」

 

キリトがクラインに戦い方やソードスキルについて説明している中、俺は少し離れた場所で数匹のフレンジーボアと戦っている。武器は曲刀であり、先程買った石研包丁はまだ触れてすらいない。ベータテストで刀のソードスキルを使う事が出来なかったからな、正式版では使えるようになりたいと思ったのだ。

 

「フレンジーボアじゃ、こんなもんか」

 

残りの3匹の内、1匹を曲刀の基本ソードスキル、リーバーで倒す。そして残りの2匹はクリティカルポイント、つまりは弱点である首をはねて倒した。

 

「おいおい……マジか、そんなあっさりと倒すのかよっ」

「使い慣れているだけだ。クラインだって、武器が体に馴染めばこのくらい普通に出来るはずだ」

「本当か!?よっしゃっ、燃えてきたぁっ!」

 

本当に燃えているかのように叫んだクラインは再び現れたフレンジーボアに突っ込んでいき────ソードスキルを放とうとしたんだろうが、その前に突進で吹き飛ばされてしまった。

 

「いててっ……おっかしぃな、さっきはちゃんと出来たのによ」

「1回出来たからと言って、調子に乗るな」

「わりぃわりぃ」

 

俺はもう一度突進をしようとしているフレンジーボアをリーバーで倒し、クラインに忠告する。が、クラインは笑って謝り、回復ポーションをストレージから取り出して一気に飲んだ。

 

「クライン、大丈夫?」

「おうっ!こんなもん、なんってことねぇからな!」

「……ところでクライン、まだ続けるのか?」

「ったりめぇよ!……と言いてぇとこだけど」

 

クラインの目が右に動いたな。その方向には現在時刻が表示されているが、何か用事でも入っているのか?

 

「ピザの宅配を5時半に指定していてな。一度落ちて飯を食ってこようと思ってんだ」

「準備万端だねぇ」

「だな」

 

さて、クラインはここでログアウトをしてしまうみたいだが、フレンジーボアと戦っている時に見ていた感じだとキリトと大分親しくなってきていたな。このゲーム内で、俺以外にはいないキリトの友人──────に、なりそうなクラインをこのまま逃がすわけにはいかない。

 

「クライン、俺達とフレンド登録をしないか?」

「えっ!?」

「おっ、いいのか?」

「ああ。俺もキリトもお互いでしかフレンド登録をしていないからな」

「そうなのか?ならしようぜ!」

 

俺はクラインとフレンド登録をする。これで俺のフレンドは少し前にしたキリトに加えてクラインの2人にになったわけだ。フレンド登録をしておけば、メッセージを送れる以外にもフレンドがどこにいるのかも分かるようになる。

隣ではキリトもクラインとフレンド登録をしようとしているが、Yesが押せずにいた。

 

「ん?どうした、キリト。押さねぇのか?」

「えっ、えっと……」

「キリト」

 

俺はキリトに声を掛け、親指を立てる。安心しろとか大丈夫などという事を伝えたかったんだが、どうやらキリトは分かってくれたらしい。不安そうにしながらも、Yesを押した。

 

「あっ、そうだ。俺の知り合いの奴らともフレンド登録しねぇか?始まりの街で落ち合う約束しているんだ」

「えっと……それは、そのぅ……」

「そんなに急がなくてもいいだろう。紹介する機会などこれから先、いくらでもあるんだからな」

「んー……まぁ、それもそうだなっ」

 

困惑するキリトを見て、俺はクラインをフレンド登録の話から遠ざけた。あいつの事だ、その知り合い達とも仲良くなれるのか分からない、クラインと気まずくなってしまうかもしれない────とでも思っているんだろうな。

 

「ほんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ。マジでサンキューな、キリト。それからシンも」

 

差し出された右手をキリト、俺という順番で握り返す。クラインはニカッと笑い、手を離して1歩下がる。そして右手を真下に振る事でメインメニュー・ウインドウを呼び出した。

さて、俺達はこれからどうするかキリトと少し話すかな──────と思った時だった。

 

「あれっ」

「どうしたの?」

ログアウトボタン(・・・・・・・・)がねぇ」

 

……何?それはつまりログアウトが出来ないという事か?

 

「ボタンがないって……そんなわけないよ、ちゃんと見てみてよ」

 

クラインは自分が開いたウインドウを隅々まで見ていた。キリトは疑っているようだが、本当にそうなのか?と思い、俺もメインメニュー・ウインドウを呼び出した。

 

「やっぱどこにもねぇよ。おめぇも見てみろって、キリト」

「だから、そんな事は……」

 

──────ないな。

 

「……えっ?」

「キリト、確かにログアウトボタンがない。自分のを見てみろ」

 

俺の呟いた言葉を聞き、キリトもウインドウを開いた。だが、結果は。

 

「……ない」

「だろぉ?まぁ、今日はゲームの正式サービス初日だからな。こんなバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろうなぁ」

 

……本当にバグなのか?俺はゲームに詳しくはないが、3人同時にログアウトボタンが消失するなどというバグが普通起こるだろうか?そもそも、正式サービス初日が理由なら何故それ以外に問題が起きていない?

────これは、本当にバグか?それともまさか……。

 

「シン、どうしたの?突然難しい顔をして……」

「……何でもない。それよりどうする?特にクラインはピザが届くんじゃないのか?」

「やべっ、そうだよ!俺様のアンチョビピッツアとジンジャーエールがぁー!!」

 

がぁー……がぁー………………がぁー……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち込むクラインと共にキリトの説明を聞き、どうやらログアウトするにはやはりメニューのログアウトボタンが無ければ無理らしい。

だが、あれから15分も経っているというのに何故運営側は何もしない?

前に聞いたキリトの話によれば、このゲームを開発したアーガスは、ユーザー重視な姿勢で名前を売ってきたゲーム会社だったはずだ。それなのに初日でバグが起こり、さらには運営側は何もしないとは何事か。

 

何か────────嫌な予感がするな。




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