ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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夕陽は赤く (ラダトーム②)

ラダトーム城に自ら向かい、ロトの子孫の命と神器と呼ばれる太陽の石、人間たちの

希望をすべて奪い去ろうとした竜王だが、本人も理解していない謎の力に満たされた

ブライアンによって阻まれ、痛み分けの形で己の城に戻っていた。彼のもとには

共にラダトームから帰ってきていた彼の娘と大魔道がいた。

 

 

「・・・危ないところだったねお父様。だからわたしの言う通り・・・」

 

「我が娘よ・・・その議論はまた後ほどにしよう。いまは・・・」

 

「お嬢様。竜王様は静養が必要です。さあ、私と共に・・・」

 

二人は竜王の間を後にした。すると、大魔道は娘に頭を下げた。

 

「・・・お嬢様。申しわけありません。本来であれば私があなたや竜王様を

 命をかけてお守りしなければならないのにあのような失態を・・・!」

 

ラダトームで救われたことをまだ気にしているようだ。しかし竜王の娘は言う。

 

「いいって、別に。だってお互い様でしょ?助けたり助けられたり・・・。

 それが仲間であり、友だちであり、家族である・・・そう思ってるから。

 きっといつか人間たちともそれができるって思っているんだけどね。お父様も

 二人のお兄様もわかってくれない。わたしが変なのかなぁ」

 

「お嬢様・・・その優しさを大切になさってください」

 

二人はそのまま竜王城の外に出た。ラダトームが遠くにぼんやりと見える。

竜王は半日以上横になったまま動けず、すでに夕陽が海を赤く染めていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・クソっ・・・!せっかくの姫様奪還のお祝いムードが

 またもとのしみったれた空気に戻っちまった・・・!しかもブライアンさんは

 丸二日も目覚めていない! 薬草や回復呪文で癒しは終わったのに・・・。

 もはやそばにいて支えてやるしかできねえ!このタイキ・ブリザードが

 ブライアンさんを救ってやるんだ!」

 

ブリザードはブライアンが眠る彼の寝室へと急いだ。城にその一室がある。

すでにブリザードは城に入る許可を得ていた。すぐに目的の場所に向かう。

 

 

「・・・ブライアンさんっ!!来てやったぜ!いつあんたが目覚めてもいいように

 あんたの好きな肉のたっぷり詰まった饅頭を町から持ってきたぜ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

勢いよく扉を開けたが、うるさいから静かにしろと言わんばかりに睨まれた。

その厳しい視線の主は、ブライアンの幼馴染である町娘アマゾンだった。

彼女はブライアンが竜王との戦いの後倒れてからずっと休まず看病していた。

 

「あんたか・・・。ブライアンさんの傷自体は完治しているはずだが」

 

「それでもこうして汗を拭いたり手を握ったり・・・看ていたいの。

 あなただってだから来たのでしょう?まあそこに座って・・・」

 

言われるがままにブリザードは座り、そして大人しくしていた。しかし

それから間もなく、また部屋の外からざわめきが聞こえた。

 

 

「・・・いけませんローラ姫様、あなたほどのお方が病人の看護など・・・」

 

「いいえ!ブライアンさまのもとには私がいなければならないのです!」

 

「でも姫様!あなたは食事の用意も掃除もなさったことがないではありませんか!」

 

ローラがやってきたようだ。ブリザードはここで修羅場を予感した。アマゾンも

ローラもブライアンを愛しているのだ。巻き込まれまいと逃げ出そうとしたが遅かった。

 

 

「・・・・・・ローラ姫様。ここへ何を?」

 

「あなたは確か町の・・・。ブライアンさま・・・いや彼はこの城の人間。

 ならばあなたではなく私が彼を看るのが道理にかなっているのでは?

 あなたにはあなたの生活があるはずです。それに一度お休みに・・・」

 

ライバルからの牽制に気の強いアマゾンがどう反応するかハラハラしながら

ブリザードは展開を見守っていた。しかしアマゾンは小声で呟くように返答した。

 

 

「・・・いいえ、私にはわかるのです。ローラ姫様、きっとあなたは将来、

 もっと大切な場面、そして長きに渡ってブライアンを支え、共にいると。

 ですからせめていまだけは私に任せていただけませんか、彼のことを。

 私にできるのはこれくらいですから・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・わかりました。ではよろしくお願いしましょう」

 

ローラは思わぬ答えにしばらく黙ってしまっていたが、アマゾンの気持ちを

深く思いに留め、そして受けとめた。最終的に誰がブライアンと結ばれるかを

わかった上で、その日が来れば身をひくという彼女の思いにこの場は

あっさりと引き下がった。

 

 

「ふーっ・・・何事も起きずによかったぜ。しかしあんたはいいのか?それで」

 

「いいも何も・・・『こうなるしかない』ってことには逆らえないじゃない」

 

アマゾンはブライアンの身体を布で優しく拭くことを再開した。どう言ってやれば

いいものか・・・ブリザードもよくわからないまま一時間ほど沈黙が流れていた

そのとき、何の前触れもなく彼はむくりと体を起こし、腕を伸ばすと、

 

 

「・・・あー・・・よく寝た。やっぱり知らない宿のベッド、まして野宿なんかとか

 わけが違うな。ほんとうに疲れが・・・あれ、どうしたんだお前たち・・・」

 

 

ブライアンがついに目を覚ました。歓喜の瞬間に二人は目を輝かせた。

 

「・・・・・・ブライアンさん!!」 「ブライアン・・・!」

 

ベッドの彼の胸のなかへ二人同時に飛び込む。その勢いでブライアンは押し倒され

再び横になる形になった。

 

「・・・いたいな・・・だからいったいどうしたって言ってるのに・・・」

 

「どうしたもこうしたもないわよ!まったく・・・!私たちがどれほど

 心配したと思ってるの!でもまあ・・・とにかくよかったわ!」

 

「・・・・・・はっ!!そうか!おい二人とも、竜王はっ!?」

 

頭が働き始め、意識を失う直前の記憶が蘇る。そのときのブライアンは

竜王と死闘中だったのだ。慌ててベッドからおりた彼を安心させるように、

 

「竜王?やつならブライアンさんのおかげでどっかへ逃げ帰っちまいましたぜ!

 とどめを刺せなかったのは悔しいが・・・あの傷なら当分の間はてめえの城から

 出て来れねえでしょう!あんたが返り討ちにしたんですよ、あの竜王を!」

 

「そうか・・・それはよかった。でも・・・王様が・・・・・・」

 

王ラルス16世はもういない。ブライアンは気になったことができたので見舞いの品の

肉饅頭を食べてから王の間に向かった。すると、この間までラルス王の君臨していた

王座に、ブライアンもよく知るあの男が座っていたのだった。

 

 

「オッス!若大将!やっと起きたのか!呑気な野郎だなぁ。こっちはもうとっくに

 いろいろやっているっていうのに、暇人は楽でいいな」

 

「チトセじゃないか。そうか、次の王はやっぱりお前か」

 

「チトセオー!チ・ト・セ・お・う!そこのところを間違えてくれるなよ。

 親父が死んじゃったからおれが王位を継ぐのは当たり前だろう?」

 

「そうだよな、じゃあそのうちラルス17世ってことになるんだな」

 

頭の王冠をこれ見よがしにアピールし、王座にどっしりと座っている姿が

滑稽そのものだったが、すでに彼が王なのだ。ブライアンも大臣や兵士たちも

不安が大きかったがこれからしっかりと支えていく以外にあるまい。

そう思っていたところでチトセ王はブライアンを持っていた杖で指して言った。

 

「じゃあさっそくだが若大将、王であるおれからお前に使命を与える!」

 

「・・・何だ?あんまり無茶なのは困るぞ」

 

「王の命令だ!お前は今から竜王を倒して来い!そして・・・

 倒してくるまでこの城に戻ることは・・・絶対に許さんっ!」

 

またとんでもないことを言いだしやがった、そう兵士たちの間で呆れにも近い

ざわめきが起こる。しかしブライアンはすぐに跪いて答えた。

 

 

「・・・チトセ王、あなたの仰る通りに私は動きます」

 

 

それを聞くと王は王座から立ち、決まりの悪そうな顔でブライアンに近づき耳打ちした。

 

「悪いな若大将・・・お前にラダトームにいられるとおれの王座が危うい!

 お前を王様にしようってやつがたくさんいるんだよ、頼む、おれの支配が

 軌道に乗るまではしばらく旅に出てくれ!」

 

「・・・仕方ないな。いいだろう。でも心配しなくたって王座なんかとらないよ。

 仮に治める国があるとしたら・・・やっぱり自分自身で見つけたいしな」

 

ブライアンは王の間を後にしようとした。すると王はもう一度彼を呼んだ。

 

「おお、そうだ。こいつは賢者の遺品だそうだ。持っていけよ」

 

 

ブライアンはそれを受け取ると旅の道具入れに入れた。実はそれこそ

ラダトームに眠る三種の神器の一つ『太陽の石』だった。しかし王は

それを知らず、ブライアンのほうも大事なものとしかわからなかった。

どのような役割があるのかなどはまだ全く理解していなかったのだ。

 

 

 

 

「・・・よし、もともと言われなくてもそのつもりだったんだ。行くぞ!」

 

 

「・・・・・・ブライアンさま・・・どうかご無事で・・・!」

 

ブライアンは竜王を倒すための冒険を始めようとしている。広大な大地へ

帰ってくる保証のない旅に向かう愛する男の姿をローラ姫は城の窓から

見つめているしかできなかった。そしていつもにも増して精霊ルビスへの

心のこもった祈りを捧げようとしたところで、閉じかけた瞳を大きく開いた。

 

「・・・な・・・な・・・!あれは・・・・・・!」

 

ローラは大急ぎで城の外へ出た。すぐにブライアンに追いついた。何も言わずに

見送ろうとしたのにどうしても黙認できずに飛び出した理由は・・・。

 

「・・・あ、あなたもブライアンさまといっしょに・・・!?」

 

「はい?まあ・・・そうなるわね。不安だし、町の外にもついていかなくちゃ。

 私は別にあいつのことを諦めるとかは一言も言ったつもりはないけど」

 

「・・・・・・!!こ、こうなったら私もお供を―――っ!!」

 

 

兵士たちがどうにかローラ姫を城へと連れて戻った。その様子をアマゾンは

くすくすと笑いながら見ているだけだ。ブリザードは先ほどとは別の意味で

言葉を失った。やはりこの二人の戦いはまだまだ続くようだ。いや、

ブライアンを好きな女性がラダトームじゅうにたった二人とは考え難い。

 

「・・・どうしたんだ二人とも?騒ぎがしなかったか?」

 

「・・・・・・いや、何もなかったぜ」

 

離れた場所にいたブライアンに対し、ブリザードはそれだけ答えた。

 

 

 

「しかし夕陽がきれいだな。これも生きていればこそ・・・か」

 

ブライアンはしみじみと赤い夕陽を見つめていた。竜王に二日遅れてのことだった。

 

「だけどどうするの?竜王の城は目の前とはいえ海からは行けないように

 特別な結界が張られているのはとっくに調査済み。あなたの船もだめよ」

 

「まあすぐに行ったところで勝てないだろう。やつがしばらく動けないというのなら

 そのうちにしっかり鍛えたほうがいいと思っているんだ」

 

「なるほど。ならその鋼鉄の剣でザコを狩って狩って狩りまくりましょうぜ!

 俺たちもやってやるぜ!ゴーストや魔法使いも倒せねえんじゃついていく

 意味がねえ。さっそく修行の開始だぜ!強くならなきゃな・・・」

 

 

ブライアンの姿を見ただけでもうスライムやスライムベス、ドラキー辺りは

すぐに逃走する。それらを追うことはせず、竜王への忠誠心が強いのか好戦的なのか、

もしくは何も考えていないのか・・・向かってくる魔物だけを相手にした。

 

ブリザードの言葉通り、『狩り』だ。順調に魔物の死骸を重ねていく。

しかし、どこからか声がする。ブライアンたちの戦いを見ていたのか、

草むらからその男は出てきた。彼はブライアンに近づいてきて言う。

 

 

「・・・お前が強くなる最も効果的な方法を教えてやろう、勇者ブライアンよ」

 

「・・・・・・?それはいったい・・・?そもそもあなたは・・・」

 

「オレのことは後でいいだろう。で、お前がレベルアップする最高のやり方だが、

 それはお前の身体に眠るロトの力に目覚めることだ。お前は何事にもセンスが

 あったせいでこれまではどうにかなってきたようだが・・・。その力を

 使いこなせるようにならなくてはとても竜王は倒せんな」

 

 

突如やってきたこの男はブライアンの戸惑いを気にもせず語り続けた。

彼は髪の毛の色が灰色で、身につけている鎧も白という珍しい風貌の男だった。

手にする剣はブライアンと同じ鋼鉄の剣だった。彼はそれを構えて、

 

「・・・かかって来い。オレの言葉が嘘ではないことを教えてやろう」

 

「いきなりそう言われても・・・見ず知らずの人と戦うわけには」

 

「ならばこちらから行くぞ!ハア―――ッ!!」

 

白い剣士が先制攻撃を仕掛けてきた。だが意外と対処可能なスピードだった。

 

 

「何だあの野郎はっ!?だが速さはあまりないみたいだ!」

 

「・・・ブライアン!」

 

ブライアンはすぐに自らの鋼鉄の剣で攻撃を受け止め反撃に出ようとした。

しかし剣士の攻撃は思っていた以上に『重い』。よく見ると彼の足腰は

非常にどっしりとしている。ブライアンも自分の肉体はしっかりと

鍛えていたが、目の前の男はそれ以上に基礎的な鍛錬に時間を費やして

いるようだ。その安定感のある剣士の勢いがついにブライアンを押しこみ、

斬られはしなかったが地面に打ちつけられてしまった。

 

 

「・・・ぐわっ!!」

 

「てめえ突然現れたと思ったら!このお方はラダトームの国から竜王討伐を

 命じられているんだぞ!頭おかしいんじゃねえのか!?」

 

アマゾンは倒されたブライアンに駆け寄り、ブリザードは謎の男を怒鳴りつけた。

しかしその男もまた真剣な表情で、ブライアンたち全員に向かって大きな声で言う。

 

 

「だからこそ、だ!竜王を倒すというのであればこんなところでオレに

 負けている場合ではない!勇者ブライアン、お前は血筋や家柄で

 自分を見てほしくないという気持ちと、何事も無難にこなせてきた

 これまでの歩みのせいで偉大なるロトについて深く考えたことがなかっただろう!」

 

「・・・そんなつもりは・・・でも深く考えては・・・いないかもしれない」

 

「そんなことではお前はすぐに殺される!後ろの二人もいっしょにな!

 竜王軍の精鋭たちを打ち倒し、そして竜王をも闇に葬るためにはやはり

 お前のなかで熱く滾るロトの血を目覚めさせなければならない!それは

 他の誰にもできない、当然オレにも。お前だけなのだ、ブライアン!」

 

 

ロトの血に目覚める。初めは意味が全く分からなかったが、次第に思い出した。

竜王に命を奪われそうになったとき、腕のアザが光り始め、並外れた力が

湧いてくるのをぼんやりとした頭でも確かに実感していた。あの力を

意識して開放することができれば竜王相手にも勝機が見えてくるだろう。

 

「もうわかったな?オレはそのための協力にやってきたのだ。お前に断る理由はない!」

 

「確かにそうだ。しかしあなたがどうやってそれを実現させてくれるのか・・・」

 

「まずは地力をもっと鍛えなければならない。そのためには実戦で訓練あるのみ、

 なのだが・・・まさかお前ら、こんなところで雑魚を倒し続けて強くなるつもり

 だったのではあるまいな?」

 

まさにその通りだよ、とブライアンがまだ口にする前に白い剣士は顔を真っ赤に

怒り始め、ブライアンを引っ張って歩き出した。置いていかれた二人も慌てて追う。

 

「馬鹿が!弱い敵をいくら倒したところで経験にはならん!これからお前を

 絶好の修行場へ連れて行ってやる!甘えた根性を鍛え直すのだ!」

 

「・・・あ、あいたた!行きますから!でもあなたは何者なんですか?名前は?」

 

いまだにこの男に関してブライアンたちは何もわからない。さすがに名前くらいは

教えてもらわなければただでさえ信用しきれないのに更に心を許し難くなる。

竜王の手下ではないにしても、怪しさが拭えない。ブライアンたちのそんな

視線を感じ取ったか、白い剣士もしぶしぶ応じた。

 

 

「オレの名前は・・・『ビワ』だ。いま言えるのはそれだけだ」

 

「ビワ・・・聞いたことのない名前だな。本名かよそれ?」

 

 

結局彼の素性についてはここで知ることはできなかった。だが彼を頼らなくては

竜王を撃破するために不可欠な『ロトの力』に目覚めることは難しそうだ。

ブライアンの新たな旅が始まった。


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