ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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マイ・ジプシー・ダンス (祝宴①)

 

「おお、ブライアン!なかなか帰ってこないから心配したぜ・・・・・・!?」

 

「お前が連れているのはその・・・ま、まさか・・・!?」

 

ラダトームの町の人々と久しぶりの再会を果たした勇者ブライアン。町人たちが

驚き言葉を失っているのは他でもない。彼の隣にいる女性のことだ。

 

「そのまさかだよ。ローラ姫さ。早くお城の兵士を呼んできてくれないかな」

 

人々が大慌てで城に向かうと、兵士たちだけでなく王までもが共にやって来た。

ローラの姿を見ると、脇目もふらず走り出し、愛娘を抱擁した。

 

 

「・・・・・・おお!我が娘、愛するローラ!ほんとうに・・・よかった!

 わしは・・・わしはもうだめかと・・・!こうして生きて会えるとは・・・」

 

「ええ・・・お父様。私も久しぶりにそのお顔を目にすることができて

 とても感激しております。すべてお父様の遣わした勇者様のおかげですわ」

 

「そうか・・・ブライアンか!うむ・・・よし、今日は夜から盛大な宴を

 開くことにする!この町でも、城でもだ!ブライアン、それに町の者たちよ、

 そのときまでに今日の分の仕事は終えて皆が参加できるようにせよ!

 宴の時刻までは・・・しばらくわしら家族だけにさせてもらおう」

 

 

王と護衛の兵士たちに連れられてローラが城へと去っていこうとする。

その後ろ姿を見送っているブライアンのもとに一人の女性がやってきた。

 

 

「ブライアン!あなた・・・元気そうじゃない。しかも姫様まで

 連れて帰ってきて・・・大したものね」

 

「アマゾンか・・・久々に顔を見ると何か新鮮だなぁ。でも少し痩せた?」

 

ブライアンの言葉に対しての返事がない。どうしたのかと近づくと、

アマゾンは彼に勢いよく抱きついてきた。鍛えられた足腰を持つ

彼でなければそのまま押し倒されかねないほどだった。いまこのときの

彼女は、泣くでも笑うでもなく、ただ心から安堵している顔だった。

 

 

「・・・あなたが無事でよかった。一日、また一日あなたが帰ってこない

 夜のたびに・・・無理にでも町の外までついていけばよかったと・・・」

 

「・・・・・・心配かけて悪かったよ。待っていてくれてありがとう」

 

 

このやり取りを微笑ましく見ていたブリザードたちだったが、その一瞬、

確かに『寒気』、『殺気』・・・身を突き刺すそれらを感じ取って身が震えた。

 

「な・・・なんだったんだ・・・?」

 

「ブリザード・・・・・・あれを」

 

彼の仲間が指さした先は、視力のいい人間でなければ豆粒にしか映らない

遠い前方、兵士たちの一団だった。その中心、厳重に守られているはずの

ローラ姫の鋭い視線がこちらを向いているのだ。ブライアンと

町娘アマゾンが抱き合っている姿を見つめている・・・ように見えた。

 

「・・・・・・モテる男も楽じゃないってことか・・・」

 

「勘違いであってくれと願うのみだな。ブライアンさんにも困ったモンだぜ」

 

 

 

 

王の言葉通り、夕刻には町の全ての店が営業を終え、農夫も医者も早々に

自分の仕事を切り上げていた。城の料理人たちの用意した酒やごちそうに

皆があずかり、宴は早い段階から盛り上がっていた。ブライアンは

ブリザードとぶどう酒を楽しんでいた。もちろん二人ともよく食べる。

 

「意外と奮発するじゃねえかあの王も。ただ、物足りねえのは王と主役の姫様が

 ここにはいねえってことか。下々の者とはいっしょにいられねえってことかァ?」

 

「まあそう言うなよ。安全を考えたら仕方ないだろう」

 

「でもあの野郎はいるぜ?王の自慢のバカ息子がよォ・・・」

 

王の息子チトセ。別に彼は庶民と同じ空気が好きというわけではない。

あえて言えば自身が優越感に浸れるからこういう場所にいるのだろう。

そして王や教育係の監視の目のないここならやりたい放題だからだ。

 

「あんなのよりブライアンさんのほうがよっぽど次の王にふさわしい!

 俺は断言するぜ。俺たちや町の連中はこの後の城の宴には参加させて

 もらえねえからな・・・くそ、王にはっきり言ってやりたいぜ!」

 

「まあそう言うなって。チトセだって根は悪いやつじゃ・・・・・・」

 

ブライアンたちはチトセが酒瓶を片手にぶらついているのを眺めていた。

あてもなく威張りながら歩き回った末に、彼はアマゾンのもとで立ち止まった。

 

 

「・・・あら、王子様。お酒ならあっちで・・・」

 

「おお?意外とカワイイ女じゃねえか。とんだ拾いもんだ。どうだい、

 そこの宿屋のベッドでボクと少しいっしょに休まないかい?なあ、

 いいだろう?ラダトームの王子であり次の王であるボクと

 お酒を飲みながら楽しいことをしようよォ・・・」

 

「・・・な、何するんですか!ちょっと、やめてください!」

 

「いいじゃないかぁ。ほら、はやくこっちへ来いって。

 なあ、早く気持ちよくなろうって言ってるんだよ!」

 

アマゾンの両肩を背後から掴みながら顔を近づけている。酒のせいか、

それとももともとどうしようもない男であるせいか・・・。

王子という立場ゆえに誰も手出し口出しできないなか、彼は違った。

 

 

「そのへんにしておけよ。彼女、嫌がっているじゃないか」

 

「なんだブライアンてめえ!邪魔する気かよ!」

 

歳が一つ違うだけでチトセとブライアンは幼いときからの付き合いだった。

ブライアンは家族を亡くした後しばらくは王の家で育てられていたので

彼との交友もそこから始まっていた。それでもローラとの接触は

許されていなかったあたりに、王がいかに彼女を大切にしているか、

そしてブライアンに近づけさせないようにしていたかがわかるだろう。

このころから将来ブライアンに王座が渡ることを危惧していたのだ。

 

「お前ローラを助けて調子に乗ってやがんな。少しお仕置きをしてやらねえとな!」

 

「・・・・・・仕方ない、かかってこい!」

 

 

王子は怪しげな拳法もどきのような動きで襲いかかり、ブライアンはそれを避ける。

すると今度は酒瓶を投げつけたりしてきたのでなかなか接近しづらかった。

突然始まった喧嘩に皆は大盛り上がりで、城に伝えなくてはという野暮な

考えを持つ者は誰もいなかった。

 

「よーし、やっと捕まえたぞ、大人しくするんだな」

 

「こ、この野郎!オレに対してこんなことしてタダで済むと思うなよ・・・とうっ!」

 

攻撃をかわしてついに王子を地面に組み伏せたが、王子相手に手荒な真似は

できず、それ以上の追撃ができない。その隙をついて逃げられてしまった。

ブライアンから逃亡したチトセは懲りずに再びアマゾンに迫っていった。ところが、

 

 

「いい加減にしなさい、この破廉恥男!そんなに飢えているんだったらどっかの村の

 パフパフ屋の娼婦にでも拝んで頼みなさい!」

 

「あぶおっ・・・!ほげえぇぇ・・・・・・」

 

 

ビンタ一発で王子を沈めてみせた。当たりどころが悪かったのか、気絶したようだ。

 

 

(・・・この女・・・これなら最初から助けなんていらなかったじゃねえか。

 いや、ブライアンさんに助けてもらうってのが狙いであり望みだったのか?

 さっきのローラ姫もそうだが・・・モテるっていうのは案外怖いモンだな)

 

ブライアンはアマゾンのもとに駆け寄って無事を確認していたが、

あの調子ならまず大丈夫だろう。苦笑いをしながら見ていたブリザード

だったが、突然どこからか彼に近づく者がいた。そして速やかに

何かが書かれた紙を渡すと、またどこかへと消え去っていった。

 

 

「・・・おお・・・これは!さすがキャロルだ、仕事が早いぜ!

 あとはこれをブライアンさんにいつ伝えるか、そしていつ

 公の場で明らかにするか・・・!大事なのはタイミングだぜ」

 

 

 

 

その後もまだ町での宴は続いていたが、ブライアンの姿はない。

先ほど城の兵士がやって来て、彼を城での宴のために連れて行った。

町の大騒ぎとは違い、品のある祝いの席となるだろう。当然ただの

町人であるアマゾンやブリザード一味は呼ばれるはずもない。

アマゾンはブリザードの仲間の女性、ナイフ使いのローマンと酒を飲んでいた。

 

「・・・私は思うの。こうやってブライアンが遠くへ行ってしまうんだろうなって。

 私がついていけるのはせいぜい町のなかだけ。きっといつかは・・・」

 

普段は積極的で時には王子を一撃で倒してしまうほどの気の強さを見せる

アマゾンだが、酒が入ると気分が沈む人間のようだ。ブライアンは

勇者ロトの子孫であり、ローラ姫を救った英雄なのだ。これからは

今までのように接することができなくなる・・・そう思い始めた。

共にいるローマンも慰めるでもなく彼女と同じような状態になっていた。

 

「よくわかるわ、それ。ああ見えてブリザードも私たちの世界では人気なのよ。

 そして情報屋のキャロル・・・あの娘は私と違って学があって美人で、

 それでいて仕事は完璧・・・きっとブリザードはあの娘を選ぶわ。

 ブリザードという大樹の葉っぱにすぎないのね、私は・・・」

 

 

ブライアンがここにいないのは当然だが、ブリザードもなぜかいない。

城に呼ばれていない彼だが、どうやら何らかの方法で潜り込もうとしているようだ。

 

「きっと城ではいまごろ優雅な音楽とここの食事とは比べ物にならないほど

 豪華な・・・・・・あれ?いま・・・何か光った?」

 

「流れ星・・・かしら?でも何か・・・嫌な予感がするわ・・・・・・」

 

 

 

ラダトーム城。全アレフガルドの多くの民を治める栄華を誇る城も最近は

いいニュースが少なかった。竜王軍に敗れ戦死した兵士が何人いるとか

遠くの町が魔物たちの住処になってしまったとか、意気を挫かれるものばかり

だったところに、ローラ姫が救出され傷一つなく生還を果たした。

 

城の王族や貴族、兵士や要人たち、また急な招きにも応え応じた周辺の

権力者たち・・・。町の宴とは違い大騒ぎする者はいないが、みんな歓びを

抑えきれない。久々にラダトーム城に活気が戻った。

 

ダンスの時間が始まっていた。何事も器用にこなせるブライアンだが、

上層階級のダンスなど全く知らないでこれまで生きてきたのだ。

ローラ姫と手を取り踊ってはみたが・・・。

 

 

「・・・いたっ!」

 

「ああっ・・・ごめんなさい。足を踏んでしまうなんて・・・」

 

散々な出来だった。しかし苦悶する彼の様子とは対照的にローラは笑顔だ。

 

「・・・?どうされましたか?」

 

「いいえ、ブライアンさまってカワイイ一面もあるのだわ、そう思いまして。

 あんなに勇敢にドラゴンに立ち向かうあなたがいまはこうして

 小さくなりながら踊っているのですから・・・」

 

「カワイイ・・・。女性にそんなことを言われたのは初めてですよ。

 いつも大飯食いの若大将とか呼ばれているものですから」

 

「まあ・・・うふふ」

 

 

楽しそうに踊るブライアンと愛娘ローラを眺め、ラルス16世は・・・。

 

(・・・・・・なるほど、そうか・・・。ローラがまだ幼いときから

 わしが怖れていた事態になったか。それが精霊ルビス様のご意志か。

 ならばわしもくだらない意地を張るのはやめるべき・・・か・・・)

 

誰も座っていない王座を眺める。そしてぽつりと・・・。

 

「たとえわしの代でこの家系がアレフガルドの王ではなくなったとしても、

 世界が終わってしまうことに比べたらどんなに些細なことだろうか。

 ・・・・・・いや、よく考えたらわしの家も王であり続けるではないか」

 

大事に育て、愛してきたローラの結婚相手に、そして自らの王位を相続する者に

相応しい男が確かに見つかった。来たるべき時が来たら・・・そう思っていた。

しみじみと一人酒を飲んでいたが、突然城内に一人の男の声が響き渡った。

王はその声を聞くと、控えている兵士たちに視線で合図を出した。

 

 

「いまラダトーム城にいる全ての方々!せっかくのお祝いムードを

 これからしばし台無しにすることをご容赦願いたい!俺の名は

 ブリザード!ブライアンさんに救われ彼にほれ込んだ男だ!」

 

「・・・ブリザード!きみは確か・・・招かれてなかったんじゃあ?」

 

「そんなことはあとだ、ブライアンさん!ついにあんたの探していた

 やつがみつかったんだよ!それをこうやって大々的に発表してやるのさ!」

 

奥から兵士たちが十人近くやってくる。乱入したブリザードが追い出されると

思いブライアンは頭を抱えた。しかし思わぬ展開が待っていた。

 

「あんたたちが密かに探していた『竜王の内通者』が!わかったんだ!」

 

「ええっ!?そうか、それでこの国の大物がみんな集まったいまなのか。

 ここで発表すれば犯人の逃げ場はないし・・・で、それは・・・」

 

「ああ。ローラ姫の誘拐、それに作戦を筒抜けにさせて軍を壊滅に追い込んだ

 竜王の手先は・・・・・・こいつだ――――――っ!!」

 

 

ブリザードが指さす相手・・・それは・・・。

 

「え・・・・・・私・・・ですか?」

 

城に勤めている魔術師の女性。ブライアンが二度目の旅立ちの前に呪文を

教わった、物腰の柔らかい優しい女性だ。ブライアンも、内通者がいるという

ことを知る少ない者たちも、まさかこの人が、そう誰もが耳を疑った。

しかしブリザードは構わずに皆の前で暴露を続ける。

 

「その女が魔物相手にこの城の秘密を伝えていた目撃証人もいる!

 カネでもみ消したこともすでにわかっているぜ。ちょっと脅したら

 そいつらすぐに吐きやがったぜ。あんたがやってることはよォ!」

 

「急に何を・・・。そもそもあなたは何者ですか。誰かこの男を・・・!はっ!」

 

兵士たちを呼ぼうとする。ところが兵士たちはブリザードではなく彼女を

取り囲んだ。ブリザードはあの短い時間で人を介して事前に王に全てを話していたのだ。

逃げ場がなくなった彼女の前に王がやってきた。

 

 

「・・・・・・」

 

「残念だよ。君は我が城のために活躍してくれていると思っていたのに。

 君が魔物なのか竜王に魂を売った人間なのか・・・全て獄でじっくりと聞こう。

 そして竜王の秘密や魔族の弱点、知っている事柄を話してもらうぞ」

 

 

宴の会場が騒然とし始めた。事情のわからない外部の来賓はなおさらだ。

どういうことなのかと兵士や城の関係者たちに尋ね始めた。特徴的な

シルクハットを被ったとある年配の紳士もその一人だった。

 

「これは何が起きている?どうして祝いの最中に・・・」

 

「申し訳ありません。ですがあの者は我らを欺き竜王めの仲間だったのです。

 一刻も早く拘束し拷問を加え逆に情報を得ることにしなければなりません」

 

事情を説明すると、紳士は頷いたものの顎に手を当てて難しい顔をしていた。

 

 

「・・・・・・それは困る。わたしの忠実な下僕が捕らえられるのは・・・」

 

「・・・?何をおっしゃられて・・・・・・」

 

 

兵士はわけもわからないまま、首を斬り落とされ絶命していた。

武器によるものではない。手刀で太い首を切れ味鋭く落としたのだ。

 

「わ―――――っ!!」 「キャアアぁぁァァア―――――ッ!!」

 

それまでの騒がしさは性質を変え、悲鳴や絶叫がこだました。

 

「・・・なんだきさまは――――っ!?何をした――――っ!」

 

老いた男性はシルクハットを放り投げると不気味に笑い始めた。すると

肌の色が人外であることを示す真っ青なものとなった。おぞましい変貌を

人々は恐れおののきながら見ているしかできなかった。やがてそれが

二足で立ってはいるが完全に人間とは離れた姿となったときブライアンが、

 

「お前は誰だ!」

 

誰もが言葉すら発することができないなか謎の存在に向かって叫ぶ。すると・・・。

 

 

「わたしは竜王。お前たちの希望を奪い去るためにやってきた」


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