ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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ラダトームの若大将 (沼地の洞窟①)

マイラの宿で久々によく眠ることができた。やはり野宿とは疲れの取れ方が全く違う。

朝から村人たちに声をかけ、連れ去られたローラ姫に関して聞き込みをした。

そこでブライアンは決定的な情報を手にした。

 

 

「・・・ここから南の洞窟のなかで美しい女性を見たと言う人がいました。

 しかし洞窟のなかは怪物だらけ。まさか美しい女性なんかいませんよね」

 

「確かリムルダールに抜けるための洞窟ですよね。たいまつを買っておかないと。

 有益な情報をありがとうございます。ではぼくはこれで・・・」

 

「おっと、そこに行こうっていうのならやめたほうがいいですよ。魔物たちの

 強さだけじゃなく最近は・・・・・・」

 

「いいえ、何があろうと行かなければならないのです。忠告には感謝します」

 

 

その後ブライアンは村の武器と鎧の店で鉄の斧と鉄の鎧を購入し、それまで

使っていた棍棒とはようやく別れることになった。使いやすさからか、または

彼の素質故か、棍棒でも十分戦えていたが性能ではなく耐久面で限界が来た。

どうせ買い換えるならばこの先の戦いに備えてこの村一番の武器を用意した。

 

薬草とたいまつも道具屋で買ったところで手持ちの金がなくなった。あとは

噂の洞窟まで行くだけだ。村を出て再び長い道のりの旅が始まった。

 

 

「これはすごいや!こんなことならさっさと買い換えていればよかったな」

 

 

魔法使いやゴーストを一撃で打ち倒し、多くの魔物たちに致命的なダメージを

与えていく。もはやこの辺りの魔物に敵なし、そのブライアンを襲った

次なる試練は意外なものだった。彼が洞窟のそばまで来てみると、その入口は

毒の沼地に囲まれていた。足を踏み入れるだけで体力を奪われるこの汚染された

沼地は魔物たちの侵攻による爪痕であり、危険な場所となっている。リムルダールへ

向かうための重要な通り道も以前より人の行き来が大きく減ってしまっていた。

 

しかし、ブライアンにとっての試練はこの毒の沼地ではなかった。またマイラの男が

彼に警告しようとしたのも、このことに関してではない。人の数こそ減ったが

全くいなくなってしまったわけではない洞窟の利用者はたいてい商人か職人だ。

生き残るための戦闘力はあるが戦いのスペシャリストではない。それを狙う

悪党たちの縄張りができてしまっていた。当然ブライアンの前にも・・・。

 

 

「・・・・・・なんだきみたち。ぼくに用か」

 

 

「へへへ・・・お前には用はねえ。お前の持ってる金とその剣や鎧のほうに

 用があるんだよ。だからそいつらを置いていきな」

 

「ひゃはは・・・甘ちゃんなツラしてやがる。その大事な顔がぼろぼろに

 なる前に大人しくオレたちに下着以外全部よこしな!」

 

「いや、下着もだ。ただの布切れでもはした金にはなるしな。

 しかしこいつの目・・・言うことを聞きそうにはねえな。やれ!」

 

 

ブライアンの前に立ちはだかった男は三人とも相当腕に自信があるようだ。

斧を持ったブライアン相手に一斉に襲い掛かってきた。はじめにブライアンの

もとに迫ったのは『ワシントン』という武闘家だった。俊足を飛ばして

真っ先に蹴りを放ってきたが、ブライアンはそれをかわして腹に拳を入れた。

 

 

「ぐえっ!!おごぇっ・・・・・・!!」

 

「ワ、ワシントン!てめえよくも・・・!次はこのオレ『コクオー』が相手だ!」

 

 

一発でダウンした仲間の仇を討つべくコクオーが銅の剣を振りかざしてくる。

しかし技術が足りない。これまでならばそれでもじゅうぶんだったのだろうが

ラダトームの勇者相手ではあっさりと受け止められ反撃に遭うのが当然だった。

 

 

「おりゃあっ!!・・・しかし棍棒じゃなくて斧に買い換えてよかった。

 あの棍棒じゃ粉々にされていたかもしれないな・・・」

 

「く・・・くそっ!こうなったら殺してやるぜ!それくらいの気持ちで

 やらなきゃてめえには勝てないようだ・・・!!」

 

 

最後の一人『ソブリン』。殺意を口にはしていたがこれまで彼らは人を

殺したことはない。あくまで物を奪うまでだったので、『殺す』と

言ってしまったことで逆に足の動きが鈍くなってしまった。先の二人には

先制を許したうえで反撃していたブライアンがついに自分から動いた。

ソブリンに体当たりをして、大きく突き飛ばした。こうしてブライアンを

襲った盗賊たちは三人とも地に倒れた。彼も一息ついたが、その瞬間を狙われた。

 

 

「・・・・・・ぐうっ!!い、いつの間に・・・・・・」

 

「へへへっ!安心するのが早いんだよこのおマヌケがっ!!私たちが全員で

 五人いるっていうことを知らなかったみたいだねクソイモ!」

 

 

ブライアンの左腕を背後からナイフで斬りつけたのは目つきの鋭い女だった。

そして彼女と共にやってきた男が、この一味のボスなのだろう。

 

 

「・・・ふう・・・よくやってくれたぜ『ローマン』。あとは俺に任せな。

 仲間が三人やられちまった以上今さら泣いて謝ったって無傷でてめえを

 家に帰してやるのは無理になった!覚悟しな坊や!」

 

 

男は呪文を唱えようとしている。この様子からするに攻撃呪文だろう。

ブライアンはもう少しで三つ目の呪文が習得できそうな感覚があった。

攻撃、回復に続き、戦闘を有利にできる呪文、城の魔術師から教えられて

いた、敵を眠らせる魔法『ラリホー』だ。これを完全に自分のものに出来ていれば

ここも楽に乗りきれていたのに・・・そう思っていた。

 

男が繰り出してくる呪文はおそらくギラだろう。魔物から何回かくらったことが

あるので威力はだいたいわかっていた。あえて回避せずに攻撃に出たが、なんと

その呪文は炎ではなく、真逆の氷の刃を放つものだった。意表を突かれた

ブライアンの負傷していないほうの腕を凍りつかせた。

 

 

「な・・・なんだこの呪文は!見たことも聞いたこともない・・・」

 

 

「ハハッ!そりゃあそうだ。失われた古代の呪文、しかもラダトームの連中すら

 いまだ復活させられていない氷の呪文、『ヒャド』なんだからな!まさに

 この俺『ブリザード』の名にふさわしい呪文だとは思わねえか坊ちゃん!

 さあ!その凍りついた腕を剣で落としてやるぜェ――――ッ!!」

 

 

ブリザードはブライアンの凍った腕に狙いを定めたかのように思わせて

襲ってきたが、実は罠で、ブライアンがそれを恐れて右腕を庇おうとした

態勢になったところを他の無防備な部位に攻撃を叩きこむ、そんな戦法だった。

ブリザードの持っている銅の剣では切れ味が悪く凍った右腕以外なら仮に

斬られたところで失いまではしないだろう。そもそも斬るというよりは

叩きつけるようなつもりで攻撃しなければならない。だからブライアンが

まずは右腕を守るのは当然だと信じ込みまずは左肩辺りを目標にした。

 

 

「くらいやがれ―――っ!ラダトームの坊ちゃん戦士め――――っ!!」

 

 

しかしブリザードの攻撃がブライアンの肉体に届くことはなかった。彼は

ナイフで斬られはしたがまだ動く左腕にいつの間にか斧を持ち換えており、

攻撃を止めてみせた。驚いたブリザードは動けなくなったかのように固まった。

 

 

「何だとォ!?こ、こいつ・・・!オレの狙いがわかってやがったのか・・・!

 勘のいい野郎だが・・・それでも普通は出来ねえ!万が一その腕が

 なくなっちまったらどうするんだよ!ま・・・まともじゃねぇ!」

 

 

「ぼくはまともさ。ただ、覚悟を決めているだけだ。もし読みが外れて

 片腕を失ったらそれはそれで仕方ないってね。でもそう決めないと

 きみに敗れていたはずだ。ぼくはこんなところで立ち止まってはいられない!」

 

 

ブライアンはブリザードの足に蹴りを入れた。重い一撃にブリザードの足の骨は

折れ、彼はひっくり返って悶絶した。その彼を斧を持ちながら見下ろす

ブライアンの姿を見て、ひとり無事なローマンが再び奇襲を仕掛ける。

 

「それ以上手出しはさせないよ・・・いやぁ―――――ッ!!」

 

しかしブライアンは彼女の腕を掴み、持っていたナイフは地面に落ちた。

 

「・・・・・・同じ手は二度とくらわない。よく見れば君の動きは無駄が多すぎだ」

 

「ちっ・・・!!こいつバケモノじゃないの・・・!こんなやつがまだ

 アレフガルドにいたなんて・・・・・・!」

 

 

ブライアンは凍っていた腕に加減してギラを唱え、荒い方法ではあったが

解凍に成功した。両腕の負傷は薬草で癒そうと傷口に押し当てた。

悠然と傷を治すブライアンをブリザードたちはただ見ているしかできなかったが、

次の瞬間、なんと倒れていた彼らに対しブライアンはホイミを唱え始めた。

身動きできなかった彼らが立つことこそまだできないが起き上がり始めていた。

 

 

「・・・なぜだ!?俺たちにとどめを刺すどころか回復しやがるとは・・・」

 

 

「ぼくの戦いの技術はあくまで魔物たちを倒すためのもの。人間を傷つけるのは

 だめだ。本来ならここまで痛めつけることもしたくなかったけど仕方なかった。

 だからこの回復呪文はせめてもの罪滅ぼしだ。これで許してくれ」

 

 

謝罪までするブライアンに対しブリザードは理解が追いついていない。

 

「・・・そうか、俺たちを生かしたままラダトームに連れて帰って牢に

 ぶち込むつもりか!オレたちの余罪は数え切れねえからな、きっと

 てめえはかなりの金が手に入るはずだぜ・・・・・・」

 

ブライアンはブリザードの手を取り、立ち上がらせた。そして彼の目を見て言う。

 

 

「・・・・・・なんとなく、だけどきみたちの姿をどこかで見たことがある。

 みんなラダトームの生まれなんだろう?そしてみんな家族がいない」

 

 

「・・・よくわかったじゃねえか・・・まさか予言者か!?」

 

 

「予言者じゃないさ。きみたちと同じ親を失った孤児だ。ぼくは運よく王様に

 救われたけれどきみたちはそうじゃなかった。だからもし何かが

 違えばきっとぼくも同じことをしなきゃ生きていけなかったかもしれない」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「そう思うと・・・他人には思えなかった。そんなきみたちを牢屋に渡す、

 まして殺すなんてできるわけがない。いまはあまりお金を持っていないし

 この装備をあげるわけにはいかないけどその洞窟に用があるんだ。

 これ以上何もせずに通してくれたら必ず礼はする。信じてくれ」

 

 

ブライアンは深々と頭を下げる。ブリザードはこの紳士的な態度に心を打たれた。

他の四人に下がっているように言うと、ブライアンと共に洞窟に入ろうとする。

 

 

「・・・あんたみたいなやつが王になりゃあきっともっと世界はよくなるぜ。

 俺は決めた!あんたについていく!さあ早く行こうぜ、洞窟へ!」

 

 

強引に引っ張られるようにしてブライアンは洞窟へ連れられて行く。

気がつかないうちに彼は生涯の親友となる男を得ていた。


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