ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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若大将対竜王 (リムルダール)

激しい戦いが終わりメルキドで一泊したブライアンたちは、次の日の朝早くには

ブライアンの兄ハヤヒデを、そして敵ではあったが尊敬に値する二匹の竜を

丁寧に葬り、祈りを捧げてから町を出た。キメラの翼を使いラダトームの

そばに戻ったが、やはり町や城には入らない。目指すべき場所は決まっている。

最終決戦の地、竜王の城だ。船での突入が不可能であるので、どうすれば

魔の島に上陸できるかわからなかったが、しかしブライアンは歩みを止めない。

 

 

「・・・ブライアンさん・・・あのやりきれない悲しい出来事の数々を乗り越え、

 ついに真の勇者って面構えになってやがる!僅かに残っていた甘ちゃんヅラが

 全くねえ。堂々とした、風格に満ち満ちたお姿だ!」

 

「ええ。このブライアンが竜王を倒せないのならもう誰にもできはしない・・・

 そう言い切れるほどにね。完全に『青年』になった・・・そんな気がするわ」

 

ブライアンはリムルダールの町を目指していた。かつて勇者ロトも魔の島へ

乗り込む際、最後の拠点としたのはその町であったという言い伝えがある。

偉大なる先祖の猿真似をするわけではないが、先へ進むヒントが隠されて

いるのではないか・・・そう思い、目的地を決めて旅を再開したのだ。

 

 

長い徒歩での旅の途中、ブライアンたちに襲いかかる魔物は僅かだった。

それでも行く手を阻もうとする愚かな魔物を、ブライアンは仲間の手を

借りずに一人で片づける。やがて再び広野には静寂が戻るのだ。

この静けさが、ブライアンにも共に旅をする二人にも、最後の戦いが

確実に、しかもすぐそばまで迫っていることを感じさせた。

 

 

 

「・・・久々だなぁ。ローラ姫もいたな、あのときは」

 

「しかしこの町にようやく着いたはいいですが、これからどうするんで?」

 

「そこだよな。大きな船はだめだけど小型のやつなら何とかならないかな?

 最悪は泳いでいく、だ。勇者ロトの父親は泳ぎ切ったって話だし、

 何も手段がないのだったらそうするしかないだろう。戦闘の訓練の

 合間に泳ぎの特訓もしないといけないのは少しハードだけど・・・」

 

「・・・ふふふ、ならその体力をつけるためにもたくさん食べなくちゃね」

 

 

三人は次から次へと出された料理を平らげていく。ちゃんと決められた料金は

支払っているので、料理を出す側もこれは作り甲斐があると大張り切りで

彼らに提供していた。肉も魚も野菜も、あっという間に皿が空になっていく。

 

「いや~・・・食べた食べた。せっかく訓練のための腹ごしらえだったのに

 もう動けないな。とりあえずは明日からでいいか」

 

「そうね。でも戦いの稽古はともかく泳ぎの訓練なんてほんとうにやるの?

 あなたは海の男だからそれなりにはできるでしょうけど私たちは・・・」

 

「・・・俺たちもやるぜ!こうなったら最後までお供してやりますぜ!

 今日は宿屋に戻って・・・・・・ん?」

 

 

突然、三人の目の前を塞ぐ二人の男が現れた。彼らは戦士のようだ。

ブライアンたちが何かを尋ねる前に彼らのほうから自己紹介を始めた。

 

「勇者ブライアンとその仲間たちよ、我々とここで出会えたのは幸運だ!

 私は『タイシン』。ビワと共に人里離れた地で修行を重ねてきた者だ!」

 

「オレは『チケット』。同志ビワ同様、ラダトーム王家に仕える気は毛頭ないが、

 この世界を救うことには命を捧げし者だ。しかしお前たちと先に合流すると

 言っていたビワの姿がないな。見たところ近くにもいないようだが・・・」

 

 

ブライアンは彼らにビワ、つまり自分の兄ハヤヒデの最期について話した。彼らは

それを聞くと悲痛な表情を浮かべたが、どこかでそれを覚悟していたようでもあった。

 

 

「・・・そうか。オレはあいつと共に生き、同じ日に死ぬことを望んでいたが・・・

 やはりこうなったか。あいつはこうなるのを遠回しに予告してからオレたちの

 もとを去っていったのだ。ロトの勇者、つまりお前に全てを伝授し、託すと」

 

「しかしお前がビワ・・・いや、ハヤヒデと言うべきか。兄弟だったとはな。

 我らよりもずっとお前を重視し、アレフガルドを救うために不可欠な男だと

 日頃から熱弁していた理由がわかった。そしてブライアン、私たちもお前を

 助けるためにここまで来たのだ」

 

兄の仲間だったということがわかり安心した。しかも助太刀を申し出ている。

ブライアンはここで改めて、自分の旅は多くの人間に支えられているのを実感した。

 

 

「それはありがたい話だぜ!じゃあ泳ぎでも教えてもらおうか・・・」

 

「・・・泳ぎ?ああ、さっきもそこの店でそんな話をしていたな、お前らは。

 その必要はない!なぜなら・・・魔の島に渡る神器が揃ったからだ!」

 

タイシンが力強く空に掲げたのは杖だった。もちろんただの杖ではない。

 

「これは『雨雲の杖』!ブライアンよ、お前の持つ太陽の石、そしてハヤヒデより

 託されたというロトのしるし、それらと共にこの町の南、『聖なるほこら』へ

 持っていくのだ。お前を待つ賢者がいる。いや、ここで説明するよりも

 もうそこへ向かったほうがいい。行くぞ!」

 

「・・・ちょ、ちょっと待って・・・今日はもう宿を決めてしまったんだ。

 明日の朝いちばんに出るからそれでいいかな。あなたたちの宿代も出すから」

 

「・・・・・・悠長な男だな。しかしある意味大物の証か?まあいいだろう。

 お前たちの様子を見ても・・・確かにそれだけ食った後ではな」

 

少し呆れたような様子ではあったが、二人は翌日の出発に同意した。

そして約束通り、まだ暗いうちに聖なるほこらへと向かうことになった。

その道中、魔物たちがその場所へ行かせないとばかりに襲ってきたが、

新たに旅に加わった二人はビワと並ぶ剣の腕前を発揮し、難なく

魔物たちを撃退していった。メルキドやドムドーラの辺りにいる敵の

レベルには劣る魔物たちではあったが、それでも彼らの強さは本物だ。

 

「おっ!この魔物の身体・・・集めて持って帰りゃあ大した金になるぜ!」

 

「・・・そいつはゴールドマンだ。私たちは金には興味が無い、好きにしろ。

 そんなことより・・・ブライアンよ、見えたぞ。あの神聖なるほこらに

 入ってくるのだ。私たちは皆ここで待っている」

 

 

ブライアンは雨雲の杖と太陽の石、そしてロトのしるしを持ちほこらへ入った。

するとラダトーム城にいた賢者たち同様、いったい何歳になるのか全く見当も

つかないような賢者がブライアンを迎え入れ、ロトのしるしを確認した。

 

「・・・フム、どうやら本物のようだ。これまで何人もの愚か者が自らを偽って

 この地に足を踏み入れたが・・・・・・ついにこの時がきたようだ。

 雨と太陽が合わさる時が!ロトの血をひく者よ、『虹のしずく』を授けよう!」

 

「虹のしずく・・・!聞いたことがある。そうか、こいつが魔の島へ

 渡るための切り札か!ありがとうございます、確かに受け取りました」

 

「ロトもその虹のしずくを用いて橋を架けたのだ。さあ行け、新たなる勇者よ」

 

 

ほこらを後にしたブライアン。彼の持つ虹のしずくに、ブリザードはもちろん、

タイシンとチケットも興奮を隠せない様子だった。虹のしずくの存在を

知っている者はそれなりにいても、現実にこの目で見た、という人間は

そうはいない。勇者ロトとその仲間、そしていま、ブライアンとこの場にいる

者だけがその比類なき特権に与ったのだ。

 

「ス、スゲェっ!これが神秘、これが神聖さか!ゴールドマンの金の残骸で

 大喜びしていたさっきまでの俺がバカみてえだぜ!」

 

「・・・お、おお・・・!まさかこれほどまでに・・・!ブライアンよ、

 我らは雨雲の杖を授け、お前に感謝してもらう気でいたのだが・・・

 もはや逆だ!このような素晴らしき、精霊ルビスの霊に満ちた雫を

 見せてくれたことに・・・心から感謝させてもらう!」

 

伝説は真実だった、と目を輝かせる男たちとは異なり、アマゾンはどこか冷めた目で

ブライアンをじーっと見ていた。ブライアンもそれに気がついた。

 

「・・・?どうしたんだ、何か言いたそうだな」

 

「あなた・・・その虹のしずくのこと、知っていたのね?あなたの遠い先祖が

 それを使って魔の島へ渡ったことも。それなのに泳ぎの練習だの、ロトの父親は

 半裸で泳ぎ切ったという話があるだの・・・。もしチケットさんたちが

 来なかったらどうするつもりだったのよ。雨雲の杖のこともすっかり

 忘れてリムルダールまで来ちゃったし、案外抜けてるのね」

 

「あはは・・・。返す言葉もないな。インパクトがあり過ぎたんだよ。

 泳いで渡ったとかいうそっちの伝説のほうが。悪かったよ」

 

 

一行は一度リムルダールへ戻り、英気を養ってから竜王城へ向かうことにした。

そして竜王のもとへ最後の戦いを挑む前日、その晩に議論が起きた。

五人は多すぎる、という問題のためだ。あまり大人数で向かうと

竜王軍に見つかって襲撃され城へたどり着く前に消耗しきってしまうからだ。

せいぜい三人が限界ではないかという結論まではよかったがそこからがまた大変で、

 

「・・・我らが行くべきだろう。我らは戦闘のプロ!ブライアンの力になれる」

 

「ああ。ハヤヒデの恨みもあるしな。その原因竜王を倒すのはオレたちだ!」

 

自分たちがブライアンと竜王討伐に向かう資格があると主張するタイシンとチケット。

それに対し、ブリザードとアマゾンも譲るつもりは全くないようだ。

 

「いいえ、違うわ!究極の死地、必要なのは連係と信頼!つまりずっと

 旅をしてきた私たちこそブライアンを支えることができるに決まってる!」

 

「それにハヤヒデの旦那の仇を討ちたいのは俺たちも同じだ!」

 

タイシンとチケットは剣技に優れ、竜王のもとに到達するまでの魔物を

一掃することにも役立つだろう。それに彼らは死を恐れていない。

ブライアンとの付き合いが短くとも、命惜しさに逃げたり裏切るような男たちではない。

一方のブリザードとアマゾンは彼らよりも物理的な攻撃力は低いが、ブリザードは

竜王軍すら使えない氷の呪文で敵を倒せる。アマゾンにも攻撃と回復、両方の

呪文がある。何より共に戦うことに慣れているので安心感がある。

 

ブライアンはどちらを選ぶのか・・・その最終的な答えはこうであった。

 

 

「一人で行く。竜王はぼく一人で倒す。皆はここに残ってくれ」

 

 

四人は信じられないといった様子で彼を見るが、ブライアンは本気だった。

彼らが邪魔というわけではない。ブライアンなりに考えた末の結論だった。

 

「竜王の手下がどこで見張っているかわからない。もしかしたらこの会話すら

 聞かれているかもしれない。だから三人でも多い。完全にやつらを欺き、

 出し抜くためには一人で行くのが一番なんだ。ローラ姫を救いに行くときも

 一人だったし、確かにあのときは敵が少なかった。だからこれでいい」

 

僅かに残っていた酒を飲み干し、一息入れてから更に彼は続けた。

 

「・・・それに、もうぼくのために死ぬ人間はいらない。ラルス王、

 ハヤヒデ兄さん・・・二人ともぼくの代わりに死んだからだ。

 これ以上増えたらぼくは竜王に勝てたとしても、もう生きていけない。

 だから頼む、このリムルダールでぼくの無事を祈るまでにしてくれ」

 

 

ブライアンが地につきそうなほどに頭を下げたのを見て、もはや誰も共に行くとは

言えなかった。朝となり、魔物たちの気配がないことを念入りに確かめてから

出発する彼を見送るしかできなかった。しかし、彼が出てから二十分ほど

過ぎてから、アマゾンが自分の荷物をまとめて町を出ていこうとした。

 

 

「さーて、もういいかな。ブライアンに見つからないくらいの時間は過ぎたし、

 こっそり後をつけちゃおっと。やっぱり待ってるなんてできないわ」

 

いっしょには行かない。しかしその後ろをついて行かないとは言っていない。

アマゾンは最初からそのつもりだったようだ。ところが、そう考えていたのは

彼女だけではなかった。男たちもまた、準備は万端だった。

 

「ウム、私も同意見だ。二人ずつ二組で時間をずらしていけば敵にも見つかるまい。

 それに見張りはだいだい下等な魔物が務めているのが常。ならば私の『トヘロス』、

 弱き魔物を近寄らせない魔法が身を隠してくれるだろう」

 

「虹のしずくがどのように橋を架けるのか・・・オレたちだって見てみたいしな。

 少し離れた場所からでもじゅうぶんにこの目で確かめられるはずだからな」

 

タイシンとチケットが先に町を出ていく。ブリザードも持ち物をまとめ、

 

「ここまできて最後の最後に留守番なんてできねえよな。それに竜王のクソ野郎は

 どこから仕掛けてきやがるかわかったもんじゃねえ。ブライアンさんに

 気づかれないように俺たちが陰から助けてやるんだ!」

 

二人もリムルダールを後にし、ブライアンを追い決戦の地へ旅立った。

 

 

 

 

(・・・・・・静かだ。魔物はほとんどいない)

 

ブライアンの一人での冒険。虹のしずくをリムルダールの西、最果ての岬で

天にかざすと、魔の島へ渡るための橋が完成した。そこが一番の盛り上がりで、

後は敵の本拠地なのだからと警戒していても魔物は全然襲ってこない。

毒の沼地もロトの鎧のおかげで苦にせず進める。障害は全くなかった。

 

(嵐の前の静けさか。それに本番はやつの城に入ってからだ。集中するぞ!)

 

汗を拭いながら、仇敵の待つ竜王城へ確実に近づいていく。ずっとラダトームから

見えてはいたが決して届かなかったその城についに突入しようとしているのだ。

竜王の島へ上陸したことで、ブライアンは逆にラダトームを懐かしむことになった。

 

そのラダトームはちょうどいま・・・揺れていた。

 

 

「くそォ~~・・・竜王のやつめ~~~っ」

 

「バカ王子・・・い、いやラルス17世さま!いまだ民にはこのことは隠された

 ままです。しかしいずれは知れ渡ることとなるでしょう。ご決断を!」

 

ラルスの名を襲名したチトセ王が苦々しい顔で困り果てていた。まさか自分の

治世が始まりこんなに早く厳しい局面を迎えるとは思ってもみなかったからだ。

 

「こいつは難しいぞ。だって軍を城から出しちゃったらその隙にあいつら

 襲ってくるに決まっているじゃないか。でもこのままってわけには

 いかねえしなァ~・・・若大将、何やってんだよ畜生~~~っ・・・。

 あいつがもう竜王を倒してたらこんなことにはならなかったのになァ~・・・」

 

 

 

ラダトームと海を挟んだ竜王城。一人の女性が竜王の前に立っていた。

手や足の自由を奪われてはいないが、彼女は明らかに囚われの身だった。

 

「ふふふ・・・お前たちがどう足掻こうと結局お前はわたしのもとに

 やってくる運命だったのだ・・・ローラよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「なーに、そんな顔をするな、安心しろ。今すぐどうにかしようと

 いうのではない。お前の希望が目の前で消え去り、お前の意志で

 わたしと共に永遠に生きることを選ばせてやろうというのだ」

 

ラダトームからまたしても攫われ、今度は竜王のもとに連れてこられた

ローラ姫。竜王の発する邪悪な気の前に立っているのがやっとだった。

それでも彼女に諦めや屈服、悲痛の色は全くない。竜王の言う希望、

つまりブライアンがこの魔王を打ち砕いて全てを終わらせることを

信じているからだ。

 

(ブライアンさま・・・・・・!)

 

 

 

ブライアン自身は静寂のなかで竜王の城へ向かっていたが、彼の後ろを密かに

つけている四人、それにラダトーム城に竜王城・・・彼の周りはとても

騒がしく、激動していた。


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