ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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世界一の若大将 (竜王軍バトル①)

 

竜王の配下で最強とされる二匹のうちの一匹、キースドラゴンの『サーバートン』

相手にこれまで粘り強く戦いを進めてきたがついに体力差から劣勢に追い込まれ、

地面に倒れ立ち上がろうとしているところにとどめの一撃を放たんとばかりに

キースドラゴンが向かってきた。あと十秒もすれば到達するだろう。

 

「くっ・・・!なんとか落ち着いて攻撃を躱さないと。沈着冷静に!」

 

ブライアンのピンチに仲間たちは助けに行きたいが、彼らを監視している

ダースドラゴンの『ギャラント・フォックス』がそれを許さなかった。

猶予のないなか、なんとか間に合ってくれとビワが叫んだ。

 

 

「ブライア――ン!!お前の武器は何だ!その若さではないのか――っ!?

 失敗を恐れずにいまこの瞬間を生きる輝きを見せてくれ―――っ!!」

 

 

キースドラゴンが迫ってくる瞬間、ブライアンはその言葉にはっとさせられた。

これまで自分は相手と同じように落ち着きを持って戦ってきたつもりだったが、

それがすでに敵に呑まれている証だったのだ。実のところ冷静さを欠いていた。

敵の戦い方に付き合い、わざわざ相手優位の展開で戦闘をしてしまった。

 

「ああ・・・そうだ!確かにこの数百年と生きている大きな竜に

 最初から圧倒されていたんだ!ようやく目が覚めた―――っ!!」

 

「目が覚めただと――っ!?お前はもう永遠に眠るというのに!

 終わりだ!若き勇者よ!うしゃあ―――――っ!!」

 

最後の一撃・・・キースドラゴンがそのつもりで爪を振りかざした。

ブライアンの身体が貫かれる寸前、ついに日が暮れて炎だけが

明かりの役目を果たしていたところに、闇を切り裂く光が輝き渡った。

 

 

「・・・あ・・・あああ・・・!!この光は!」

 

「うむ!間に合ったようだ!あれを見ろ、二人とも!」

 

ビワが興奮のうちに指さした先では、キースドラゴンの攻撃を盾で完全に

防御しているブライアンの姿があった。ロトの紋章の形をしたアザが

腕だけにとどまらず彼の全身を光で満たしていた。

 

 

「・・・こ・・・こいつ・・・!!はっ!!」

 

さすがのキースドラゴンもついに隙を見せた。これまでずっと常に完璧な

戦い方と円熟した頭脳でブライアンを苦しめていた老獪な竜も、

とどめの一撃が無傷で凌がれたこと、そしてこの聖なる光に圧倒され

思考が一瞬止まってしまった。ブライアンは絶好の機会を逸さなかった。

 

「うおおおお――――ッ!ここだ―――っ!」

 

「・・・・・・!!」

 

炎の剣を全力で振りぬいた。避けられたら、とか耐えきられたら、などという

消極的な考え方はそもそもしない。常に最悪の目が出ると考え無難な

戦い方をするのはブライアンには似合わない。勢いのある若い力で

キースドラゴンを押し切るのがここでは最善だったのだ。

 

「ウガアア―――――――――ッ!!!」

 

威厳ある巨大な竜が腹部を縦に斬られた。しかし数百年も生きた猛者は倒れず、

 

「グウオオオオオオ――――ッ!!ブゥルルルルルルル」

 

「・・・なおも前進・・・!ならばぼくもそれに応えよう!」

 

すでに勝敗は決していた。しかしキースドラゴンの突撃をブライアンは

受けて立った。それが彼に対する最大限の礼儀であり敬意であった。

体当たりのような形で攻撃してきた竜の腹を今度は横に一閃した。

先ほどの傷と合わさって十字の斬りあととなり、ついにキースドラゴンも、

 

「・・・・・・がっ!!」

 

ブライアンに到達することなく仰向けに倒れた。これ以上動くのは無理だ。

 

「・・・よっしゃー!ブライアンさんの勝ちだ!」

 

「きゃ―――っ!!やったわブライアン!」

 

ブリザードとアマゾンは勇者の勝利に興奮し喜びを全身で表現していた。

ビワもブライアンの勇姿を見届け、優しい笑みがこぼれた。

 

(・・・最後のキースドラゴンの粘り・・・。フム、ブライアンはやはり

 天運にも愛されている。もしロトの力を使うのがもっと早ければ

 敵に蓄積させたダメージが足りずに一転して窮地に陥っていただろう。

 一見遅いように思えたあのタイミングこそが唯一の機会だったとはな。

 さすがはブライアンだ。私の誇りの・・・・・・)

 

 

「・・・ぐっ・・・」

 

戦い終えたブライアンは片膝をつく。苦しい戦いであったことには変わらない。

倒れていたキースドラゴンがすぐそばにいた。しかしもう互いに攻撃はしない。

代わりにキースドラゴンはブライアンに語りかけてきたのだった。

 

「・・・あ・・・あの男が警戒するわけだ。あの男は私サーバートンから

 竜王の座を奪い蹴落とした強者だ。そのうえ『マンノ・ウォー』と名乗る

 最強の戦士でありながら・・・お前を恐れている理由がはっきりとわかった」

 

「・・・・・・もしあなたに全盛の力があれば勝っていたのはあなただ」

 

「フ・・・どうかな。それはいくら議論しても答えのない無駄な世界だ。

 だがあの男について話をするならば、やつはやつで『今よりもっとよい世界』を

 築くという目的はお前たちと変わらない。そういう意味では何もせずに

 ずっと日和見を続けていた私よりも立派な王と言えるのかもしれないな・・・。

 きっとお前とあの男の戦いは避けられぬのだろうが、それでも私には

 確信がある。お前たちの若く新しい力が必ずや世界を更によい仕方で導くと」

 

先代竜王ともいえるサーバートンの遺言にも似た言葉をブライアンは真剣に聞き、

受け取っている。去り行く老兵が最期に遺す言葉の一つ一つを。

 

 

「・・・フフ・・・そしてこれは一つ個人的な頼みなのだが・・・・・・」

 

今にも息絶えようとしているサーバートンとブライアンの会話は意外と長く続く。

サーバートンにとって、ここから先の言葉を伝えるまでは死ねないというところか。

しかしなかなか事切れない敵に、ブリザードは少し心配になってきた。

 

「・・・おいおい、大丈夫か?早くとどめをさしたほうが・・・」

 

「いや、やつにはもう何もできない。逆にブライアンはああして時間をとって

 回復したほうがいい。あいつもかなりの傷を負っているからな。とはいえ

 次はダースドラゴンとオレの対決だ。次の勝負はオレがやる!

 ブライアンはしばらく休ませ・・・・・・む?そういえば・・・」

 

ここでビワは大事なことに気がついた。監視役のはずのダースドラゴンがいない。

 

「・・・!?いつの間にいなくなった!?どこに消えたというのだ!」

 

辺りを見回しても赤い竜はいない。空を見上げてもどこにもいない。

突然どうして姿を消したのか。まさか逃げてしまったのだろうか。

だが、果たして竜王の最も信頼している竜がそんなことをするのか。

ビワは最悪の結末を察知し、それが現実になる前に走り出していた。

その向かう先はブライアンとサーバートンのいる場所だ。炎はもう消えていた。

 

 

「ビワの旦那、いったいどこへ!?あの赤い竜もどうしちまったんだ?」

 

「・・・あれ・・・何?この音は・・・あ、ああ!あれは!」

 

 

「ウゴオオオオ――――――!!まとめてくたばれ塵どもが――――ッ!!」

 

ブライアンたちの上空から大きな物体が彼らめがけて降ってきた。もちろん

正体はダースドラゴンのギャラント・フォックス。一対一の勝負のルールを無視し、

ブライアンの隙を突いて一瞬のうちにその命を奪い去ろうと舞い降りてきた。

はじめあまりにも高くにいたので、ビワたちが自分の頭上を確かめても

ダースドラゴンの姿を見ることができなかったのだ。

 

「あ・・・あ・・・」

 

「ブライア―――ン!逃げて――――っ!!!」

 

ダースドラゴンの卑劣な一撃が炸裂した。相棒であるはずのキースドラゴンを

原形を留めないほどに潰してしまった。その飛び散った血や肉が赤い竜の

残虐性と非道な精神を象徴していた。キースドラゴンは仲間の手により息絶えた。

 

「なんてやつ・・・!ブ、ブライアンさんは・・・!」

 

恐る恐るブライアンの姿を確認する。すると、かなり離れた場所で倒れていた。

 

「ブライアン!よかった、生きてる!でも・・・」

 

意識を失い、地に頭を打ったせいで頭部からの出血が目立っている。

だが生きている。ダースドラゴンの攻撃から辛うじて守られたのだ。

 

「そうか、ビワの旦那だ!あの人が!旦那!あんたって人・・・は・・・・・・」

 

ブリザードは言葉を失った。アマゾンも口を手で覆う。ビワは確かに

ブライアンを寸前で守った。しかしその代償は大きく・・・。

 

 

「あ・・・あんた・・・・・・左腕が・・・・・・!!」

 

 

ビワの左腕はなかった。彼はすぐに止血していたが、ダメージははかり知れない。

 

「なんてこと・・・!待ってて、私が覚えたベホイミで・・・!」

 

「・・・いや、ベホイミならオレも使える。それに腕の切断は・・・ベホイミでは

 治せない。そのベホイミはそこで倒れているブライアンに使ってやってくれ。

 一度安全な場所に戻ってブライアンを回復させろ!それまでオレが時間を稼ぐ!」

 

片腕になっても闘志は衰えず、白い剣士は一人ダースドラゴンと戦う気だ。

 

「そ・・・そんな!そんなことはダメだ!何なら俺も・・・」

 

「いや、お前たちは一旦退け!ブライアンを万全の状態に戻してから

 帰って来てくれたほうがオレたち全員の生き残る確率は上がる!頼む!」

 

「・・・・・・わかった。絶対死なないで!行きましょう、ブリザード!」

 

後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、ブリザードとアマゾンはブライアンを

担いだままなるべく遠く、安全な場所へ向かった。ビワは赤い竜を睨む。

 

 

「グヘァァァアアア・・・邪魔しおって・・・!全身食いちぎってやる・・・」

 

「・・・フン、お前ごとき腕一本で十分だ。逆にお前の丸焼きを食ってやる」

 

 

 

 

メルキドの町の入口に近い場所。ここならばダースドラゴンの攻撃が飛んでくる

心配もない。ゴーレムの残骸のそばでブライアンの回復が懸命に行われていた。

アマゾンは習得したばかりのベホイミ、ブリザードは薬草を用いてブライアンの

外傷を癒す。治癒を続けながらブライアンの意識が回復するのを待つ。

 

「・・・そういえばあんた、宿屋でビワの旦那と何を話していたんだ?」

 

「・・・・・・ちょっと気になることを確認したの。ベホイミに集中したいから

 あまり話しかけないでくれる?」

 

「おっ・・・そりゃ悪い。でもやっぱり・・・男と女の件は俺には話しづらいか?ヘヘ」

 

ブリザードのにやけた笑いに、アマゾンの怒りが爆発した。大きな声で、

 

 

「違うっ!!あの人は・・・ブライアンのお兄さんなのよ!本人が認めた!

 まだ幼いとき・・・ブライアンは死んだと思っているけれど、魔物の

 襲撃から生き残った、正真正銘、ブライアンと血の繋がった兄弟なの!」

 

 

衝撃の事実を明かした。時が来るまで秘密にしておくように言われたが、

感情に任せて暴露してしまった。ブリザードは固まっている。

 

「・・・言われてみれば海が好きというところもよく食うところも・・・

 似ているところは結構あるが顔なんか全然似てねえのに・・・」

 

「あの人の腕にはブライアンと同じアザがあった。それで気がついたのよ」

 

 

ブライアンがまだほんとうに幼いある日、一家は魔物の襲撃に遭い、

ブライアン以外の全ての人間は死亡したとされていた。しかし彼の兄は

海に飛び込んでおり、どうにか生き長らえていたのだ。城に保護されたという

ブライアンに会いに行こうとしたが、なんと認めてもらえず、再会を許されなかった。

 

「・・・なんでだよ!そんな動かぬ証拠があるっていうのに・・・!」

 

「あの人は言っていたわ。死んだことになっていたのがまずかったってね。

 それにあの当時はロトの子孫を名乗る詐欺師どもがたまたま多いときだった。

 私も子どものころのことだから何となく覚えてるけど、結構捕まっていたわ」

 

「そういえばあったな・・・一時だけだったが。そうか、旦那がラダトームを

 忌み嫌い、しかしそれでも捨てきれずにブライアンさんに王国復活を

 期待していた理由になるぜ。故郷だもんな・・・」

 

謎だらけだったビワという男の正体が明らかになった。魔物によって家族を奪われた

兄弟のその後の明暗は別れたが、いまこうして再び共に歩んでいる・・・その事実を

ブライアンにどう言ったものか、と二人は悩んでいたが、いらぬ悩みだった。

 

 

「・・・・・・そうか・・・ハヤヒデ兄さんが!」

 

「わっ!ブ、ブライアンさん!お目覚めで!そして聞いていたんで?」

 

「ああ。意識はなかったけどぼんやりときみたちの会話が聞こえていた」

 

傷も全快していた。以前よりも回復に必要な時間が短いのはロトの鎧の

効果なのか、ブライアンが戦いの日々によって成長したからか。

痛みや疲れは抜けていないがもう一度戦闘に戻るには十分だった。

 

「うん、あるある。寝てるのに話し声や歌声は何となく入ってくることって。

 まあそれはいいとして・・・ハヤヒデ兄さん、とか言ったわね。

 『ハヤヒデ』っていうのが・・・あの人のほんとうの名前なのね」

 

「そうだ。あれは十年以上も昔のことで・・・まったく気がつかなかった。

 こうしてはいられない!行こう!」

 

ブライアンは兄ハヤヒデとの『真の再会』のため勢いよく立ち上がった。

そしていまも自分のために一人でダースドラゴンを相手してくれている兄を

すぐに助け、それからじっくりと話をしたい。彼は先頭に立ち走った。

 

 

「だけどよ、それならそうともっと早く言ってくれたらよかったのにな」

 

皆で戦いの場に急行しながらも、ブリザードはふとした疑問が抑えられなかった。

その言葉を聞くと、アマゾンの表情が沈んでいった。これは彼女がすでに

ハヤヒデ相手に質問していたことだったからだ。

 

「・・・あの人は・・・今日みたいな日が来るのをきっと予測していた。

 自分がブライアンのために犠牲になるときがやってくることを。そのとき

 余計な悲しみを抱かせないために正体不明の剣士のまま死のうと・・・」

 

きっと自分が同じ立場だったとしたらやはり同じように行動しただろう。

せっかく死んでいたと思っていた唯一の肉親と再び会えたというのに

またしても別れを味わうことになる・・・そんなことはあってはならない。

 

 

「・・・だけどそんな事態にはならない・・・いや、させない!」

 

ブライアンの強い意志のこもった一言に、後に続く二人も大きくうなづいた。

そして戻ってきた。まずは片腕を失ったハヤヒデと交代しなければならない。

 

 

「・・・兄さん!ハヤヒデ兄さんっ!!」

 

「旦那!よく凌いでくれたぜ!あとはブライアンさん・・・に・・・・・・」

 

 

 

ブライアンたちの目に映ったもの・・・それは、邪悪な気に満ちたドラゴンに

胴体を貫かれて宙に浮き、ぐったりとうなだれているハヤヒデだった。


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