ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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俺は海の子 (メルキド)

勇者ロトは『上の世界』と呼ばれる別の世界から現れたと言われている。今はその世に

行く術がないため確かめることは不可能だが、当時はそれができたという文献もある。

大魔王ゾーマに対抗することができなかったアレフガルドのために、精霊ルビスが

別世界から勇者を遣わし、このアレフガルドを救ったのだ。救いは上からもたらされた。

 

しかし、上からのもののなかには光だけでなく闇もあった。それこそが竜王だ。

まだ上と下の境界が完全に閉じてしまう前に一つの卵がアレフガルドに落ちてきた。

彼の母はその命と引き換えに卵を産み力尽きたのであるが、親を失い己を知る者も

誰もいない世界に生を受けて彼が無意識のうちに最初にしたこと、それは

主を失った魔の島に向かうことだった。はじめは目立った動きを見せなかったが、

彼の内に秘められていた王としての血か、それとも魔の島の瘴気か・・・。

やがて密かに戦力を整え、機が熟したとみるやラダトームから光の玉を奪い

アレフガルドの、やがてはこの世界全ての王となるべく魔王となった。

 

彼は自らのことを『マンノウォー』(戦争に行った男)と名乗った。その名の通り、

アレフガルドの数百年続いた平和な時代を、この男が全て変えたのだ。

 

 

 

 

 

ドムドーラからまたしばらく砂漠を歩いた後にブライアンたちがたどり着いた

要塞都市メルキド。ただでさえラダトーム以上の防備であるのに、町の入口には

更にこの町の守りを完璧なものとする存在が鎮座していた。

 

「あいつが噂のゴーレムか!メルキドの住人が魔物に対抗するために用意した!」

 

「なんか俺たちのことも敵みたいな目で見てきやがるぜ。知能はないみてえだな」

 

竜王軍ですらこの町を攻め落とすことはできていない。それだけ巨大な煉瓦人形

ゴーレムが鉄壁の守りを誇っているということだ。しかし対処法はあった。

 

「マイラの村で手に入れたこの笛で・・・眠らせたら大丈夫っていうのか?

 オレは何も知らないというのにお前がそれを知っているというのは?」

 

「ああ。あのパフパフ屋の女が教えてくれた。メルキドから来た客がこぼしたから

 確かなことらしい。50ゴールド払ったかいがあったってもんだぜ、さあ!」

 

 

ブリザードはブライアンに笛を手渡す。『妖精の笛』と呼ばれる笛の音色は

そこらじゅうにある笛とは全く違う。神秘的な音がゴーレムを眠りに誘った。

 

「・・・見事な腕前だな。ブライアン、お前は歌うのも得意だしこの道で

 食っていけるんじゃないか?・・・まあその話はいまはいいとして、

 町に入るぞ。こいつはこのままにしていこう」

 

「そうね。壊しちゃったらこの町が危ないし、これでいいのね」

 

ゴーレムを破壊することはせずにメルキドの町へ入った。危険から

守られているため商業が盛んで、数多くの店が並んでいた。ブライアンたちが

この町を訪れた理由も、竜王城に向かう前に最後の品ぞろえをするためだった。

まずはいつものように宿に入り、部屋を人数分確保してからじっくり買い物だ。

 

「・・・しかし高いな。一人100ゴールドだと?ぼったくりじゃねえか」

 

「そのぶん安全は保障されてるってことだろ。安眠できる場所は少ないし。

 だけど確かに高いな。まあ仕方ないか。まずは武器と防具を・・・」

 

 

ブライアンが買い物に向かうため外に出た。ブリザードが後に続き、ビワも

更についていこうとしたが、そのビワをアマゾンが呼びとめた。

 

「・・・ちょっといいかしら。あなたに二人きりで言いたいことがあって・・・」

 

「ん・・・?あ、ああ。構わないが・・・ブリザード、先に行っていてくれ」

 

不思議に思いながらもビワは了承する。ブリザードはアマゾンの耳元で囁く。

 

「何だァ?ブライアンさん一筋みたいなふりをしながらビワの旦那に鞍替えか?

 もしそうだったらとんだ尻軽女だぜ・・・」

 

「いいから早く行きなさい。もっとも、あなたの思っているような話じゃないけどね」

 

 

ブライアンとブリザードが出ていくのを見届けてからアマゾンは椅子に座った。

ビワは別に緊張する素振りもなく、サービスとして置かれている酒を用意していた。

 

「うーむ・・・要塞都市はいいとしてやはり海が見えないと景色はつまらないな。

 ところでどうしたんだ。オレに用があるなんて。どういうわけなんだ?」

 

「・・・・・・あなたに関して、かしらね。私は見てしまったのよ。あなたの腕!

 その紋章のようなアザ・・・ブライアンのものとそっくりだと思ってね」

 

ビワの顔色が変わった。酒瓶を一度手から放し、アマゾンのほうをじっと見た。

 

「あなたはブライアンのことを大事に思っている。一体あなたは・・・」

 

「・・・・・・フッ・・・そうか、案外ばれているものだな。しかしいつ?」

 

ここまで来て隠すつもりもないということか。とはいえ理由は気になったようだ。

 

「・・・あなたがドムドーラで拳を握っていたときたまたま目に入ったのよ。

 それに確証はなかったけど・・・最初からあなたはブライアンとどこか

 似ているなって思ってた。今だってそう。海が好きだとか・・・」

 

「なるほど。ならばいいだろう。お前にだけ先に話してみるのも」

 

ビワはもう一度酒に手を伸ばす。そして自らの真実を告白し始めた。

 

 

 

一方、ブライアンたちは町の中心にやって来ていた。目的は最高の剣『炎の剣』、

そして『水鏡の盾』。いずれも高額の品だったが、魔物たちを倒して得た金、

それに加えビワが投じた私財を足すことで購入資金は用意できた。

 

「・・・あの人には感謝してもしきれない。ぼくたちだけだったら剣と盾、

 どちらかは諦めなくてはならなかった。いつか必ず恩返しはしないと。

 だけどこの町は・・・海が見えないのが寂しいな」

 

ブライアンはさっそく炎の剣と水鏡の盾を合わせて一括で購入した。

アレフガルドで用意できる最高の装備が手に入った。

 

「竜王を倒したら売っちゃおうかな。航海のための資金にしよう。

 でもアレフガルドの外にも強力な魔物はいるのかな?だとすると・・・」

 

「ハハハ!ブライアンさんは相変わらず海の話ばっかりだなァ!確かに砂漠はもう

 こりごりですがね・・・久々に魚が食いたくなってきたな・・・」

 

二人は談笑しながら道具屋を目指していた。鍵や聖水の購入は検討中だった。

 

「鍵は俺がいくつか持ってますが・・・聖水はどうするんで?」

 

「いらないよ。それよりあの八百屋で新鮮な作物が欲しいな」

 

海の次は食い物か、と二人して笑っていた。だがその平和な時間は続かなかった。

 

 

「・・・・・・うわあああ―――っ!!魔物が!魔物が入ってきた―――っ!!!」

 

町の入口の方角から突然大きな音がした直後、町人たちの叫び声だ。

ブライアンたちはすぐにそちらへと急ぐ。ビワとアマゾンも合流した。

まだ魔物は町の中心までは来ていない。今なら大きな被害は防げる。

 

 

「おおっ・・・!!確かに魔物どもがいやがる!誰も死んでないのが救いか!」

 

「でもこの町には無敵のゴーレムがいたのに!だから魔物たちも近づけずに

 平和が守られていたのにどうしてかしら・・・・・・」

 

アマゾンは疑問を口にしていた途中で自らその答えを目にした。他の者たちも同じく

それを見た。あの眠らせるしかなかったゴーレムが無残にも粉々になっていた。

 

「そんな・・・!まさかぼくたちがゴーレムを眠らせたせいなのか!」

 

「いいや、それはないだろう。あれからだいぶ時間もたっている。これだけ

 寝ているようなやつだったら番人失格だろう。とっくに町は滅びている。

 だがひょっとするとオレたちのせいというのはありえるな。これまでどんな

 魔物もゴーレムに勝てなかったのにオレたちがやってきた今日になって

 ゴーレムをあれ程までに破壊したのだ。並外れて強力な魔物がいるな」

 

 

ブライアンとビワは顔を見合わせると大きく首を縦に振る。それだけで

互いの意思の確認ができた。町の外へと駆け出す。それを阻止しようとする

キメラの群れやリカントたちを息を合わせて撃退していく。

 

「ブリザード、アマゾン!お前たちは残って町の人たちを頼む!

 ぼくたちが防ぎきれない魔物が入ってくるかもしれない!」

 

「・・・わかった!こっちは俺たちに任せろ!気にせずに戦って来い!」

 

「よし、後ろはあの二人や町の兵に任せて行くぞ、ブライアン!」

 

 

ビワは魔物たちを次々と打ち倒していく。ビワの華麗で身軽い剣さばきにのみ

目がいってしまうところだが、その動きを支えているのは圧倒的な筋量と

底のないスタミナ。それらが全てバランスよく鍛え磨かれているのだ。

 

ブライアンも負けじと炎の剣で敵を斬り刻む。やがて町の入口の魔物を

ほとんど倒し終えたところで、二人は上空からの威圧感に気がつく。

そこには大きな竜が二匹浮遊しており、ずっと二人を眺めていたようだ。

ゴーレムを粉砕したのもおそらくこの二匹だろう。ゆっくりと地に降りてきた

竜たちとブライアン、ビワの二人が睨みあう。激突は確実だ。

 

 

「・・・ここにぼくたちがいることを知っていたのか。竜王の手下か!」

 

「いかにも。我らは竜王様よりロトの勇者を殺害するために遣わされた」

 

青い竜はすらすらと人間の言葉を使う。沼地の洞窟のドラゴン以上だった。

姿はそのドラゴンそっくりではあるが大きさは一回り大きく、その顔は

三百年は生きているような風貌だった。

 

「勇者よ!この私、キースドラゴンのなかでも力ある者『サーバートン』は

 お前と一対一のを申し込む!あのマンノ・ウォー・・・竜王が

 警戒する男とはどれほどのものか・・・確かめさせてもらうぞ!」

 

キースドラゴンは炎を吐いた。あっという間に草原が燃え盛り、気がつくと

ブライアンとキースドラゴンの背後を炎が囲み決闘場が完成していた。

 

「・・・・・・グゥルルル・・・・・・」

 

「なるほどな、そしてお前は決闘を邪魔させない見張りというわけか」

 

もう一匹の赤い竜がビワのそばで仁王立ち。これでは助けに入るのは無理だ。

 

「よし、それでいい。ダースドラゴン・・・本名を『ギャラント・フォックス』と

 いう者よ。では始めようか、伝説の勇者ロトの血をひく男よ!」

 

 

逃げ場のない炎のなか戦いの幕が開けた。沼地のドラゴンと同様、やはり

キースドラゴンも武器は火の息であるようだ。それを警戒しすぎると

尻尾や爪による打撃が襲ってくるのも同じだ。しかし違う点として、

このキースドラゴンにはドラゴンを遥かに凌ぐ知性がある。年季の

入った円熟さのようなものが感じ取れるのだ。

 

「ハッ!ハッ!ハア―――ッ!!!」

 

「・・・フン!確かに筋のいい動きだ・・・」

 

沼地の洞窟のドラゴンが自慢の火炎を無効化されて冷静さを失ったような

事態に陥ったりもしない。常に落ち着きを持ち、思い上がらずに相手を

見下したりはせずにブライアンとの戦いを焦ることなく進めている。

 

本来、ただの力比べであれば人間は遥か昔に魔族に屈していた。しかし人間が

勝利し生き残ってきたのは、他の生物には無い高い知性にあった。野生の

魔物たちがいかに巨大で怪力で、時には高度の魔法を使ってくるとしても

所詮は本能のままに動き欲望に忠実な怪物。対処は案外容易だ。

そこに人間の強みがあった。だが今回の敵にはその長所は通用しない。

作戦を立て、相手を見ながら戦うキースドラゴンに隙はないのだ。

 

 

「・・・フゥ――っ・・・・・・」

 

「そろそろ動きが鈍ってきたか・・・ぬんっ!!」

 

始まってしばらくはほとんど動きのない戦いだったが、実はかなりの消耗戦だった。

それもキースドラゴンの計算内で、戦いが長引けば長引くほど体格と体力において

遥かに勝っている自らの勝利する確率が上がっていく。現に今ブライアンの

足が止まり、尻尾による攻撃をくらってしまいそうになっていた。

 

「避けられない・・・!ならば受けて立つ!」

 

回避が不可能と判断し、ブライアンは身を守る体勢に入った。絶対的な防具

ロトの鎧に加え、メルキドで購入した水鏡の盾が早速役に立った。

攻撃を受け、かなりの衝撃だったが致命傷ではない。すぐに立て直せた。

 

「ム・・・・・・フム、私も衰えたか?いや、それもロトの鎧の力なのか・・・。

 火の息の熱も軽減してしまうようだしやはり長期戦となりそうだな」

 

(・・・竜王でさえラダトーム城で攻撃の狙いが外れたとき動揺があった。

 この敵の精神力はやつ以上ということか!明らかに決着を狙った一撃が

 軽く流されても全く動じずに、すぐに次の行動を考えている・・・!)

 

 

ブライアンの持つ薬草の数には限りがあり、頼みの魔力も、この日はまだ

一日の疲れを癒す前であったので満タンとは言い難い。集中力を切らさないよう

己を鼓舞してはいたが、このまま戦いが続けば先に倒れるのはブライアンだ。

 

ならば彼が目覚めた『ロトの力』を解き放ち短期決戦に持ち込むという戦い方もある。

しかしブライアンはまだこの力をどれだけ持続させることができるか自分でも

わかっていない。比類のない強力な力であるぶん終わった後の消耗は激しく、

もしキースドラゴンを仕留めきれなかった場合は敗北が決まる。相手は表情を

変えないため、これまで積み重ねてきた攻撃が実は効いているのか、まだまだ

余力を残しているのかも読み取れず、慎重にならざるを得なかった。

そして互いに決定打を欠いたまま時間だけが過ぎてしまうのだった。

 

 

 

「・・・ビワの旦那よ、町のほうはもう落ち着いたぜ!魔物はほとんど始末した!」

 

「あ、あの大きな竜は・・・!しかもブライアンが戦っているの!?」

 

ブリザードとアマゾンがビワのもとにやってきた。二人から見てブライアンと

キースドラゴンの戦いは互角に思えた。しかしビワの見方は違う。

 

「いや・・・このままではそのうちブライアンが倒れるだろう。展開は

 明らかに敵のほうに向いている。だが・・・・・・」

 

ビワは視線をダースドラゴンのほうにやった。助太刀したくてもできない

理由を二人にそれだけで説明することができた。

 

 

(・・・悪魔の騎士と一対一を経験していてよかった。冷静に戦えている。

 勝負を早く終わらせたくて自滅するのはダメだ。このキースドラゴンの

 ようにじっくりと、堅実に戦いを進めることがぼくにもできている・・・)

 

確かにブライアンは難敵キースドラゴン相手に焦らずに冷静さを保ったまま

戦闘を進めることができていた。しかし体力の消耗は確実に襲ってきていた。

 

「・・・・・・!ちっ・・・・・・」

 

「剣で捌き損ねたな!?待っていたぞこの瞬間を!好機!!」

 

勝機を逃すまいとキースドラゴンが突っ込んできた。バランスを崩している

ブライアンはどうにかこの戦い最大の危機から逃れようと、

 

「・・・まずい!ラリホ―――ッ!!」

 

「そんな呪文は私には効かなーい!完全に隙ができたな!くらえ――い!」

 

「ウオ――――っ!ぐぅっ・・・・・!!」

 

太い尻尾がブライアンに命中し、四方を囲む炎の寸前まで吹き飛ばされた。

 

「むっ!あの体勢から直撃を免れるとは!さすがは勇者と呼ばれる者だ。

 あの男、竜王と同じく強運の持ち主のようだ。だが二度目はない!」

 

もう一度、今度はブライアンを完全に打ち倒そうと敵が勢いよく駆けてきた。

いまだ地面に倒れたままのブライアン、絶体絶命の窮地に立たされた。


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