ドラゴンクエストⅠ ラダトームの若大将   作:O江原K

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レッツゴー!若大将 (岩山の洞窟)

勇者『ロト』の称号。今となっては大魔王ゾーマを倒した伝説の男のことを指すが、

実は歴史上彼以外にもその功績を称えられロトと呼ばれた者たちはいた。

ではなぜ『ゾーマを倒した勇者』だけが特別なのか。その理由は二つあった。

 

まず一つ、彼以外の者たちは時代が古すぎた。ゾーマの支配が終わってからでさえ

すでに数百年が過ぎているのだ。そして二つ目、闇の魔王ゾーマがいかに史上最悪の

大魔王であったかということだ。その脅威はそれまでの何よりも世界を恐怖と絶望に

落としたので、それを倒した男こそ真の勇者ロトとされた。おそらくこの先

世にどんな魔王が君臨し、世界を救った勇者がいたとしてもロトとは呼ばれないだろう。

 

ブライアンたちの言う『ロト』も当然一般的なロトのことを指していて、

彼の遠い子孫であるブライアンに期待が集まっていたのも当然だった。

 

 

 

 

竜王討伐の命を受け旅立ったブライアンたちの前に突如現れた謎の男ビワ。

彼の言う特訓場に案内される道中、ブライアンについてきた元盗賊ブリザードと

ラダトームの町娘アマゾンは先を行く二人から離れたところで話をしていた。

その話題は、どうしてこの危険な旅に同行したのか、というものになっていた。

 

「俺は言うまでもねぇ。あのお方に惚れたからさ!いや、勘違いするなよ!

 あくまで人間としてだ。ブライアンさんこそ俺の王だ!そのブライアンさんが

 命をかけた冒険に出るんだ。運命を共にしたいと思うのは当然だぜ!」

 

「・・・私も似たようなところかしらね。町の中しかついていけない・・・

 そんなのはもういやだから。少しでもあいつの力になりたい、それだけよ。

 まあ・・・あいつに近づく変な虫を見張るっていうのもあるかしら。

 あいつのためにも、そしてローラ姫のためにもね」

 

共通するところは、やはりブライアンが好きだからだ。だからついていく。

 

「・・・じゃあ・・・あいつは何なんだ?ビワとかいう男は・・・?」

 

「さあ。全くわからないわ。敵ではないとしても味方なのかは怪しいわね」

 

 

ブライアンとビワは並んで歩いていたが、会話はほとんどなかった。しかしそろそろ

目的地だという辺りになってビワがブライアンに語りかけた。

 

「・・・ブライアンよ、後ろの足手まといどもとはどこで別れるつもりなんだ?

 やつらは何の役にも立ちはしない。それとも囮や肉壁として使うのか?」

 

その発言にはブライアンも怒りを覚え、むっとした表情で彼の顔も見ないで反論した。

 

「彼らは立派な戦力であり何よりぼくの友人だ。そういう言い方はやめてほしいな。

 それにぼくからすればあなたのほうが頼りにならない。何者かもわからないのだから」

 

ビワのほうはブライアンの言葉に対し不機嫌になったりはしなかった。

むしろ頷いて、ブライアンの言うことはもっともだという顔だった。

 

 

「うむ・・・そうだ、それでいい。結局お前は一人で戦わなければならないのだ。

 後ろの二人だけじゃない。このオレも、他の誰もあてにしてはいけない。

 そのための訓練をこれから始めるのだからな。念を押すぞ、一人で戦うのだ」

 

「まあ皆を危険には晒したくないしそれができるなら素晴らしいけれど

 四人いるんだったら四人で戦えばいいのでは・・・?」

 

「・・・だから勇者ロトのことを考えろと言っているのだ。ロトも確かに

 仲間たちと旅をし、ゾーマの城に突入した。しかし仲間は次々と倒れ、

 最後はゾーマと一対一の戦いとなったのだ。それにロトは勝利した!

 お前も必ずそうなるだろう!よってこの洞窟に今から一人で入るのだ!」

 

その洞窟の名は『岩山の洞窟』。沼地の洞窟とは違い人がほとんど訪れない。

魔物たちの数もこちらのほうが遥かに多い。もちろん、その強さのレベルも高い。

 

 

「さあ、この洞窟を攻略した証として最奥に眠る『戦士の指輪』を取って来い!

 それができなければお前は竜王に戦いを挑む資格も実力もないことになる!

 大人しくラダトームの町へ帰りのんびりと暮らしているといいだろう」

 

「・・・そう言われると頭に来るな。よーし、戦士の指輪、だな!」

 

 

ブライアンは一人洞窟へ入っていった。追いついたブリザードとアマゾンが

彼の後に続こうとしてもビワはそれを許さなかった。ブライアンが一人で

この試練を乗り越えてこそ意味があるのだ。

 

「でも・・・危険すぎる!もしものことがあったら・・・」

 

「もしものこと・・・?そんな心配は無用だな。ここで死ぬような男は

 遅かれ早かれどこかで魔物にやられるからだ。オレは絶対にやつが

 戦士の指輪を持ち帰ってくるのを信じている。お前たちも待っているんだ」

 

ビワはブライアンが自分たちの前に再び姿を現すという確信を持っていた。

一回り成長し、真の勇者に一歩近づいた状態でやってくると。

 

 

 

「・・・凄い数の魔物の気配だ。姿は見えないけれどわかる」

 

これまでにない魔物たちの多さ。魔物の巣も同然の場所なので当然ではあるが。

一斉に襲ってきた場合はどうするか、またどう歩けば体力の消費が少なくて済むか

ブライアンはいつもにも増してよく考えて先に進むことを要求されていた。

 

 

「・・・・・・シャアアアアァ―――――――ッ!!」

 

「おっ!出たな・・・でも殺気は・・・感じないな。向こうもぼくが怖いのか?」

 

ブライアンは自分に向かってきたゴーストをあえて無視した。するとあちらも

彼を追うようなことはせず、元々自分のいた場所に帰るだけだった。

ブライアンはこの魔物が弱いから無視したのではない。相手の敵意の有無だ。

たとえどんなに弱小な魔物であっても、敵意があるならば打ち倒すつもりだった。

 

 

(・・・これでいい。ビワの言う一人での戦いというやり方なら・・・。

 余計な戦闘は極力避けるべきだ。戦うかそうしないかをすぐに決断することで

 体力、それに魔力の温存になる。その判断力を身につけろというわけか)

 

ただ敵を打ち倒し続け経験を積ませるためにこの修行が用意されたわけではない。

まずは自分自身の力の効率的な使い方だ。いかに素晴らしい力を手に入れても

いざというとき気力が尽きてしまったら意味がないからだ。

 

「頭を使えってことか。さらにこの下も・・・教訓は同じか?」

 

洞窟に入ってしばらくは地上の魔物と大して変わらない、対処しやすい

魔物たちばかりであったので、ブライアンも『これは頭を使う訓練だ』と

勘違いした。この試練の本番は階段を降り、地下二階に足を踏み入れてからだった。

 

 

「・・・グッ・・・これは・・・きつい!」

 

 

いきなりドラキーマが大量に飛んでいるところに出くわしてしまう。

ギラを放ってくるものも飛びかかってくるものも逃げていくものもいる。

この魔物自体はそこまで強くないが、対処を誤ると数の暴力によって

倒されてしまうか、疲弊したところを他の力ある魔物に襲われてしまう。

同じようなタイプの魔物、メトロゴーストも体力や力は脅威ではないものの

攻撃をひらひらとかわしていくうえにやはりギラを唱えてくる。

 

「・・・なるほど、こういうことか。こんな洞窟でこれじゃあ・・・」

 

ビワが一人で戦うことを強いた理由の一つがわかった。竜王の影響など

ほとんどなさそうなこの洞窟ですらこうなのだ。竜王の城では更に激しい

攻撃が待ち構えているだろう。そんな場所にブリザードやアマゾンを

連れていくなんて真似はできない。たとえビワや城の兵士のような

実力者を同行させても竜王の待つ王座まで全員で辿り着けるわけがない。

途中で分断されるか最悪魔物の攻撃に倒れる者も出てくるだろう。

 

「そして限られた魔力を効果的に使うには・・・薬草は生命線だ」

 

先の見えない長丁場、ホイミを使ってはいけない。面倒でも回復は薬草を使うべきだ。

魔物たちにラリホーの呪文を使うために魔力は温存する必要がある。先ほどの

弱い魔物の大群も眠らせてしまえばどうということはない。倒すにしても

その場を去るにしてもラリホーが効くのであれば積極的に唱えていくのがいい。

 

「・・・そもそもドラキーもゴーストもあまり好戦的ではないし倒すのも

 あまり気が進まなかったからなぁ。それにここで温存できれば・・・」

 

邪悪な魔道士が現れたとしても、全力で戦うことができる。危険な相手ではあるが、

先制攻撃をくらわせ、怯んだところを一気に押し切る戦法で完封した。

 

「タァ―――――――ッ!!」

 

「・・・・・・グ・・・」

 

魔道士はラリホーを使う。少しでも気持ちを緩めてしまうと眠らされてしまい

助けが来るはずもない洞窟の奥深くで嬲り殺しにされるだろう。自分の

武器でもあるが敵の武器でもある、危険な魔法であるのだ。

 

「もっと強い敵がラリホーを使えたらまずいかもな・・・となると・・・」

 

ブライアンが新たに覚えた呪文、『マホトーン』。敵の呪文を封じ込める。

このマホトーンの使用も相手によっては考えなくてはいけなくなる。

そこまでいくと、やはりホイミを唱えるほどの余裕はないという結論になった。

 

 

「おっ・・・あの宝箱は・・・!」

 

中身はビワの言う戦士の指輪だろうか。ついに目的の場所までたどり着いたか。

そう思って気を緩めたのがまずかったのか、宝箱に手を伸ばしたブライアンの手に

ドロルという化物が噛みついてきた。その鋭い痛みに顔が歪む。

 

「ぐあっ・・・!この!」

 

剣で真っ二つにした。次第にブライアンに食らいついていた牙にも力が

なくなっていき、顔ごと地面に落ちていった。しかし安心するのは早く、

 

「この瞬間を待っておったのだ―――っ!ギラ―――!!」 「死ね―――!!」

 

先ほどとは別の魔道士たちがやってきてブライアンにギラを唱えた。

 

「!!うぐっ・・・!しかもこいつらにはラリホーが・・・!」

 

魔道士たちが次なる呪文の詠唱に入ろうとしている。ここで眠ってしまったら終わりだ。

 

 

『勇者ロトの力に目覚めろ。ロトのことを考えるのだ』

 

 

「・・・うおおおおおっ!おりゃ――――っ!!」

 

命の危機がやってきたそのとき、白ずくめの剣士ビワの言葉が脳裏に浮かんだ。

勇者ロト・・・竜王と戦った夜のこと・・・それを思うと、再び腕のアザが

光ったように見えた。そして身体がそれまでよりずっと軽く動く。

気がつくと彼の周りには魔道士やドロルの残骸が転がっていた。

 

 

「・・・・・・これか・・・。あのときと同じ感覚だ。でもまだ自分のものに

 なったとは言い難いな・・・。まだまだ修行しなきゃいけないか」

 

ブライアンは宝箱を開けた。すると中に入っていたのは指輪ではなく首飾りだった。

 

「なんだこれ?指輪じゃないのか。もう少し探索するか」

 

 

それからしばらく洞窟探検を続けるブライアンに、もう魔物が襲ってくることは

なかった。彼が一瞬のうちに魔物の大群を葬った瞬間を見ていた魔物は当然として、

そうでなくとも本人もまだ完全には習得できていない不思議な力が弱い魔物を

近づけないのか、彼は悠然と指輪を探し出すことができた。そして来た道を戻った。

 

 

「・・・むっ!戻ったかブライアン!その様子を見る限り戦闘のコツはそれなりに

 掴んだようだが・・・ロトの力を使いこなすにはまだ至らなかったな?」

 

「驚いた・・・全部あなたの言う通りだ。まあもう少しってところかな・・・」

 

「収穫があっただけいいだろう。で・・・例の物は」

 

 

洞窟から出てきて早速ブライアンはビワに戦士の指輪を見せた。それといっしょに

謎の首飾りもビワの目の前に出した。

 

「おお、合格だ!指輪は記念に持っているといい。そっちの首飾りはなんだ・・・?

 まあいい、それもお前のものだ。両方身につけてみてもいいのでは?」

 

首飾りに関してはビワもわかっていないようだ。ブライアンが両方とも手にした。

しかし彼は指輪にも首飾りにも興味はなさそうだ。装備しようとはしない。

 

「生憎だけどぼくはこんなものを身につけるキザな趣味はないんでね。

 あなたもいらないというのならどこかの店で売って旅の資金の足しにするよ」

 

 

まとめて薬草の入った袋に放り込もうとする。するとアマゾンが彼に近づいた。

 

「・・・いらないなら・・・私に・・・その指輪のほうはもらえる?」

 

「ん?ああ、いいよ。しかし物好きだな。あまりいい見た目してないぞ、こいつは」

 

ブライアンの言うように、戦士の指輪というだけあり女性が好むような

指輪ではない。それでもアマゾンは彼からそれを受け取ると、すぐに自らの

左手の薬指につけて、愛おしそうに眺めているのだった。

 

「そんなに気に入ったのか?よかった。その指輪も喜ぶだろう」

 

ブリザードは彼らのやり取りを見ていた。アマゾンがその指輪を欲したのは

どうしてなのかわかっていた。戦士の指輪そのものが理由ではない。

誰から受け取るかが大事だったのだ。

 

(ブライアンさん・・・!どうしてわからねえかなァ・・・!だがこいつもなかなか

 いい女ではあるがラダトームにはローラ姫が・・・。あまり俺が口出ししない

 ほうがいいか。この人はほんとうにこういうところ鈍いからな・・・ん?)

 

ブリザードはブライアンがまだ持っていた首飾りが目に入った。少し距離がある

場所からでもその首飾りはなかなかの品だということが見て取れる。

 

「なら俺も・・・そっちの首飾りをいただきます!ブライアンさんが命を賭して

 手に入れた勲章、売っちまうのは惜しい!俺が生涯身につけて・・・」

 

ブライアンから受け取るとすぐに首にかけようとした。しかしその直前で、

 

 

「・・・あっ!?こ、これは!?うわわっ!!」

 

 

大声を発して首輪を放り投げる。そしてそのまま腰砕けのように地面に座り込んだ。

いきなりどうしたんだと他の三人が彼の顔を覗き込むが、ブリザードは大声で、

 

「あ・・・危ねえところだった!ブライアンさん、あんたが持ってきたそいつは・・・

 『死の首飾り』だ!あとほんのちょっとでかけちまうところだったぜ!」

 

「死の首飾り・・・?何だそれ。確かに嫌な響きだ。呪われてそうだ」

 

「ああ・・・昔の巻き物で見たに過ぎねえが、身につけたが最後、その首を

 しめつけて窒息するまで外れねえんだと!まさに死の首飾りなんだ!

 確かなことはわからないが・・・俺は試してみたくなんかないぜ!」

 

「・・・オレも嫌だな。そんなことに命を賭けるくらいだったらもっと他に命の

 使い道はあるからな。しかし素材だけは無駄に高級だ。やはり売ってしまおう。

 きっと高値で買い取ってもらえるだろうからな。ははは、しかし危なかったな」

 

 

ビワは笑い始めたが、彼に装備するように勧められたブライアン、そしてまさに

首にかける寸前だったブリザードは冷や汗ばかりが流れ出た。一方でアマゾンは

いまだに指輪を見ながらうっとりとしていた。岩山の洞窟の入り口、他に人の気配など

ないその場所で、それぞれが全く異なった感情を露わにしていた。


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