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「ハンター協会」絶大な力を持ち、その活動内容が多岐に渡るハンターと呼ばれる者達を束ねる民間団体であるそれは、単一国家を大きく上回る規模と信頼性を持つ巨大団体である。
しかしハンター協会というと、どうしても最前線で活躍する華やかなハンター達に目が行きがちである。だが、それだけの巨大団体を運営していくのには、縁の下の力持ち的な存在が必要だ。ハンター協会にもその手の存在が居た。
ハンター協会には主に事務業務を担当する事務局が存在する。その事務局のトップこと事務局長こそが、ハンター協会の縁の下の力持ちとして名高い人物である。名はレイ=エリントン。
かつて、誰もやりたがらないくて人が極端に少ないという事務局の危機を救ったのがレイだ。彼曰く自分は事務が性分らしい。
本人の言う通り、レイには事務への天賦の才があるらしい。驚く事なかれ、彼の事務仕事の速さは常人と3倍の差はある。
たかが事務されど事務。特にハンター協会のような世界的巨大団体におけるその役割の重要性は須らく自明だろう。
そんなレイは異例の速さで出世し、三十路にして事務局長にまで上り詰めた。ハンターらしくハンター協会は実力主義なのだ。
レイはその事務局長という立場から、特にハンター協会の重鎮達から重用されている。
この話はそんなハンター協会の縁の下の力持ちであるレイについてのお話である。
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ハンター協会に所属するプロハンター達は皆、何かしらの道におけるプロである。彼らは個人で絶大な力を有しており、その事に対する証左がハンターライセンスだ。
ハンターライセンスを持つだけで、ハンター専用の情報サイトを利用できるようになるほか、各種公共機関の殆どを無料で利用でき、一般人立ち入り禁止区域の8割以上に立ち入りを許されるようになる。その他の面でも一生不自由しないだけの信用を得ることが出来るなど、持つ者すなわちプロハンターに多くの恩恵を与える。
だがいくら力を有しているとはいえ、否有しているからこそ一部のプロハンターは度々問題を起こす。
そんな問題の事後処理も事務局の仕事だ。事務局長であるレイの下には特に酷い問題の事後処理が任される。
それだけではない。ハンター協会内の様々な問題の解決も事務局の仕事だ。元々そこまで仕事の範疇ではなかったのだが、レイが気付いた時には既にこうなっていた。
1999年冬ーハンター協会の事務局長室には珍しい来客が訪ねて来ていた。珍しい来客というのはビーンズだ。ハンター協会会長であるネテロの秘書を務めるビーンズの用件とは何か。
それについてレイ自身不思議に思いながら、切羽詰まった様子のビーンズを部屋に迎え入れた。
事務局長室の来客用イスに対面で座るビーンズとレイ。レイの差し出したお茶に口を付けると、ビーンズが口を開いた。
「突然の訪問申し訳ありませんレイさん。レイさんに頼みたい事があって来たのです」
どうやらビーンズはレイに頼み事があるようで。レイは頼まれるとどうしても断れない性格である。また仕事が増えてしまう事に対して溜息を吐きつつ、続きを促した。
「レイさんがお忙しいのは理解しているのですが、こちらも緊急でして。頼みというのは今年のハンター試験についてなんです。実は試験の最高責任者であるネテロ会長に緊急の用事がはいりまして、会長が試験を監督出来なくなったんです。そこでネテロ会長の代わりをレイさんに頼みたいのですが」
ビーンズの用件というのは、ハンター試験の責任者役をネテロ会長の代わりに務めて欲しいというモノだ。
ビーンズの言う通り、ネテロ会長はハンター試験の責任者である。主な役目として、最終試験の試験官も務める事も含まれている。
しかしいくら頼まれると断れない性格とはいえ、さすがのレイも無条件に仕事を受け入れたいたらパンクしてしまう。レイも最低限仕事は選ぶ事にしていた。
「ビーンズさんが訪ねて来るだなんて珍しいと思いましたが、そういう用件でしたか。しかし、それは私でないと駄目なのでしょうか。何分私も忙しいモノでして」
そんなレイの質問にビーンズは押され気味になりながらも、自分の正当性を訴えるかの様に答えた。
「それが……ハンター試験の責任者を務められる程の立場に居る人間で頼めるのがレイさん位でして……受けてくれると私としても、非常に助かるのですが」
レイもビーンズも押しに弱い性格だ。しかしビーンズよりも遥かにレイは押しに弱い性格であった。
ましてやこう殊勝にビーンズというマトモな人物に頼まれては断ることは出来ない。となればレイの答えは一つだろう。
「……分かりました。ハンター試験の責任者の代役ですね。ビーンズさんの頼みを受けます」
その後。ビーンズがレイに感謝しながら部屋を出た後、事務局長室で一人となったレイは溜息を吐いて心からの本音を吐露した。
「ああ……また仕事が増えたよ……。好きで就いた仕事とはいえ、いよいよ過労死しそうなんだけどハンター協会はこのうるさいご時世に労働基準法無視のブラック企業ですかおい」
しかしそんなレイの愚痴を聞く者は誰も居ない。そして何だかんだで今日もレイはハンター協会の為に身を粉にして働いた。
これがハンター協会の縁の下の力持ちと呼ばれる男の日常だ。物語はハンター試験を契機に大きく動いて行くー多分。
心優しい評価をお願いします。