今回はいかにまほがああなってしまったの独白です。
いつからだったのだろうか。
私がまおを、兄ではなく違うもので見るようになったのは…
思い出せない。気づいた時、私は妙な胸の高鳴りがあり、気持ちが悪い時期があった。
それは数え切れないほど沢山あり、その度に私は気持ちが悪い思いをしてきた。
中等部の頃。
数人の隊員たちがまおのところに集まって、整備のレクチャーをしている時だ。
「おお、上手い上手い。ここはこうパッキンを締めるんだ」
「あ、ありがとうございます!!西住整備長!!」
まおが隊員の一人と共にエンジンのメンテナンスをするために、被せるように手を合わせて整備を行っているのを私がたまたま見かけた。
「……っ」
その時の私は言葉には言い表せないほどの感情が支配しようとしていた。
また、あの高鳴りだ。気持ち悪い感じがする。
収まれ……収まれ…………オサマレ
こんな気持ちが晴れぬまま、私はまおに先程の件の話をした。
「整備が大事だからと言っても、そう隊員たちとベタベタするようなことはするな。隊の士気に関わるから、金輪際は謹んでくれ」
「そんなベタベタしてないだろ。ただ整備のことを質問されたことを返してただけだぞ」
違うな。お前は必要以上に隊員に接近しすぎだ。
まおは、良くも悪くも優しい性格をしている。だから、隊員たちが下手に勘違いをしてまおに言い寄っているように私は見えた。
まおの隣は………私の場所なんだ。だから、誰かに…取られたくなかった。
そうだ。アイツは私と約束したんだ。私を見てくれる。ずっとそばにいてくれると。
この思いは、きっと双子として一種の兄弟愛的な何かだろうと思った。兄妹が一緒にいたいという気持ちは別に悪いことではない。現に私はみほのことが好きだ。小さい頃から一緒に戦車道を共にし、お互いを高めあってきた仲だ。かっこいいと言ってくれるみほのためにも、変な気分は捨てなければいけない。
だが、みほもいつまでも優しい性格ではダメだ。西住流は強い戦車道を体現する場所なのだ。上に立つものはそれに相応しい振舞いもしなければいけない。
だから、私は心を鬼にして、みほには厳しくしようと思った。だが――
「まほ。隊長とか立場があるだろうが、下手にみほに強く当たるようなことはやめろよな。みほもまだ中等部に入学したばかりなんだから。それにいきなり副隊長にもなって、アイツも緊張気味なんだからさ」
みほに対し少しばかり私の当たりが強いとまおから言われた時、ムッとしてしまった。
(私は別に当たるようなことはしていない。西住流の後継者としてみほを鍛えようとしただけだ。なのにお前はみほの味方をするのか……なんで)
生まれて始めて、みほに嫉妬してしまった。
だめだ。こんな感情は姉として最低だ。みほは大事な妹なんだ。
私もみほに悪いことをしたと感じ、みほの言う新しい試みをしてみることにした。
《チームによる勝利》…か。確かに戦車道は団体競技だ。チームの結束力なくして勝利することはできない。だが、それは西住流としては邪道な行為。お母様や西住流の上役たちの耳に入れば何を言われるかはわからない。
だが、私はそれに従うことにしてみた。なぜかはわからない。多分、みほのことを信じてみようと思ったのだろう。まおも喜んでいるし。
中等部での戦車道は……不思議と心地よかった。
沢山の仲間とふれあい、色んなことがあった。まおが色んな催しなどをやり、それに私が関心すると、エリカがツッコミ、みほが笑っていた。
そんな毎日だった。気がつくと、いつのまにかあの胸の高鳴りがなくなった。
きっと、あれは一時の病気的なものだったのだろう。
中等部は破格の三連覇を達し、西住流とは違う新しい何かが始まろうとしている。
高等部に上がれば、恐らく中等部と地続きになるだろう。
そう思っていた。思っていたのに…
まおがいなくなった。
マオガイナクナッタ
その間は、よく覚えていない。
私は怒りと憎しみ、そしてまおに置いていかれた悲しみの板挟みの生活をしていた。
だから、私はまおを全否定した。まおの存在を壊したかった。きっとそうすれば、私は私でいられるのだと。お前がいなくても、私はやれる。ちゃんとやれる。私は西住流の後継者なのだからできると。
でも実際はまおを見返したい気持ちがあったのだろう。
そうしなければ、アイツを振り向かせられないと思った。
「まお………」
気づくと私は、まおが使っているベッドで涙を流して眠っていた。
悪夢に魘される。今まで私を形成していたものが崩れ去っていく。
みほを助けないと。まおがいない今、守れるのは自分だけなのに。
でも体が動かない。誰も助けに来ない。誰も私を見てもくれない。きっとこのまま一人なのだろう。いやだ。まお。私を見てくれるって約束したんだ。ずっと一緒に―――
「まほ……」
まおが来てくれた。私のもとに再び現れてくれた。なぜ来たのか。なぜここがわかったのか。色んなことが押し寄せるが今の私にはこの言葉しかでなかった。
「全部お前が悪いんだ!!全部、全部お前が!!お前が私を、置いていくからぁ…だから…だから」
私はまおに当たり散らした。全部をまおのせいにして、侮蔑してもらいたかった。私を否定してもらいたかった。なのに……
「…全部、俺が悪い。それでいい。だから……もう自分を追い詰めるのはやめよう…まほ」
まおはどこまでも残酷なまでに優しく、どこまでも私を責めようとはしなかった。
その言葉を聞き、何かが壊れていくようなことがした。
(まおなら、きっと何もかも許してくれる)
私は最低にもまおの優しさに漬け込もうとした。
もう頭が何を考えて良いのかわからない。まおに抱きつき、涙が流れながら私は再び胸の高鳴りが始まった。だが今回は何かが違う。高鳴りだけだはない。体の奥が妙に熱かった。
わからない。何もかもがわからない。
もうどうでも良くなったてきた。
「お願いだ……私を―――抱いてくれ」
私の口から出てきたのだろう。
でも、ずっとまおとそうなりたいと心のどこかで願っていたのかもしれない
何かに溺れたい。何かが終わってほしかった。縋りたい。
まおにめちゃくちゃにされたかった。
そして――――まおをめちゃくちゃにしたかった。
こんな思いにさせたまおと一緒に堕ちて行きたかった。
そうだ…もう何もかもどうでもいい。まおがココにいる。
マオガメノマエニイルンダ。
私の中に私ではない歪んだ何かが、囁いているような気がした。
「お前ならいい。いや、お前がいいんだ……私はお前のことが──」
まおがいい。他の男なんかに絶対に触れられたくもない。
胸の高鳴りと共に、体が更に熱くなるのを――
「いい加減にしろまほ!!お前は、そんな弱い人間じゃないだろ!!」
まおが激しく私を揺さぶる。悲痛な声が私の頭の中に響いた。
「………わ、私は――」
まおの叫びと共に、私は強い罪悪感と自己嫌悪を苛まれた。
そうだ、私は何を考えているんだ。
こんなのは間違ってる。狂ってる。
アイツは私の双子の兄で、家族なのに……
頭ではわかってるのに。
違う。私が……こんなのは私なんかじゃない。
吐き気がする。気持ち悪い。体が急に寒くなるのを感じた。
でも――――
「はぁ……はぁ」
胸の高鳴りが止まなかった。
だが、その時にこの高鳴りが一体なんなのかなんとなく理解してしまった。
あの時、私がまおに何を言おうとしたのかを考えれば。
なんで私がまおの隣にいたいのか。なんで誰にもまおを取られたくなったのか。
まおを独占したい。まおに見ていてもらいたい。
きっとこの感情は、"あれ"なのだろう。
人間なら誰もが抱く感情。
好きな人を思うこの気持ち。
だがそれは、始めから叶うはずのない思いだった。
そう。私は…
私は…
私はまおに、恋をしているのだから……
例えそれが、間違っているものだとしても……私は
本当のまほはこんなに弱くはないんですけどね。
いつかある方に感想で書かれました。
《恋愛タグはいつになったら生かされるのか…》
それはまほのことでした。
あともう一人、まおに好意を抱いている人がいますが……
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