私こと逸見エリカは、気が強くて生意気な性格をしていたらしい。間違ったことがあれば、それを強く指摘し、そのくせ自分が間違えたことは認めない。おまけに祖母がドイツ人であり、所謂クォーターという奴だ。髪は銀髪に近い色をし、日本人離れした肌色に瞳の色。そんな性格、そんな外見があるからか、私は大分浮いていた。それは家でも同じだった。
私には年の離れた一人の姉がいる。姉は秀才でスポーツも出来て、地元でもちょっとした有名人であった。そんな姉に両親はチヤホヤしていたが、性格は嫌味ったらしくて、いつも私を馬鹿にしていた。そのせいのあり、私は姉に嫉妬と嫌悪を抱いていた。私だって、学校でも優秀な成績を出してる。運動だって上手にできるのに…
私は、他人に私のことをもっと見てほしかった。認めてもらいたかった。
周りも私を避ける。
家族も避ける。
皆遠ざかる。
そんなのは嫌だった。"孤独"は……嫌
そして、出会ったのがあの人だった。私が嫌いな人。そう嫌いなのよ。
『君、迷子?』
『アンタだってそうでしょう』
初めて会った、あの日から。
『僕まお。よろしくリカちゃん!』
『リカじゃなくてエリカよ!!何度言わせんのよこのバカ!!』
人の名前は平気で間違える。
『これセミの抜け殻なんだ。リカちゃんのお人形にも着飾らてあげる!』
『きゃああああああ!!何すんのよこのバカァ!!』
会うたびに人を怒らせるいたずらをしてくる。
『おっ!!リカちゃん!!』
『ア、アンタ!?』
別段、家が近いわけでも、学校が同じなわけでもなかった。本当に狙ってくるように鉢合わせをするようなことが多かった。それは向こうから、はたまた私のほうから突っかかるような繰り返しをしてきた。本当に何を基準にして生きているのか、時々気になるくらいだ。下らなくて、意味不明でバカな男の子。
年齢も知らない。どこに住んでいるのかもわからない。
そんな友達なのかどうかもわからない不思議な関係がほんの少しだけ続いた。
『今日も、いないわね…』
でも、10歳を過ぎたあたりから急にバッタリと会うこともなくなった。それが悲しいなんて思うことはない。別にのことが好きでもなんでもなかったし、むしろ会わなくなって清々していたのだ。あのまおと一緒にいると、なんだか自分のペースを乱されて嫌だった。あんなバカみたいに大声で叫ぶことも、着ていたワンピースが泥だらけになって追い掛けっこなんてらしくないのだから。
『あ、やっぱり載ってるわ!』
ちょうどその頃だったか、私はあることに急速に興味を持ち始めていた。
"戦車道"
私の世界を大きく変えた武道だ。重厚な装甲を唸らせ、陸上を制覇していく姿に私は魅了された。そして、その代表たる流派が地元に君臨している事実を知って胸が熱くなった。
"西住流"
強きことを尊び、常に勝利を追求する戦車道だ。私はその教えに急速に惹かれていった。そして、それらの中である人の名前を見つけた。
"西住まほ"
戦車道の雑誌に何度も特集され、あの屈指の流派である西住流の後継者と目されるほどの選手であり、本場のドイツチームを打ち破った実力を持つ。凛々しく、常に冷静に対処する。たった一つしか年が違わないのに、その姿は遥か彼方にいるような存在だった。私は一瞬でその人に魅了され、虜になっていった。他人を認めきれない私が、初めて憧れた人だ。
それからの私は少しでも戦車道の腕を上げるべく、地元の戦車道のユースコースに入り、西住流に関することを勉強していった。そして、行く行くは西住流に入門し、西住まほに少しでも近づくために。
それらを打ち込むうちにあの
"憧れの西住まほの隣に立ちたい"
それが私の向かうべき夢でもあり、目標だった。
あとはそれに一直線に向かっていくだけ。
小学6年になり、来年はいよいよ黒森峰女学園に入るために勉強に打ち込んでいった。無論、戦車道に関する勉強も怠ったりはしない。その中で、西住まほには双子の兄と私と同い年の妹がいることを知った。妹のことを詳しく知ることはできなかったが、姉と同じく西住流の教えを受け、優秀だというのを聞いた。自分の同い年でそんな妹がいると聞き、自然と自分を阻む壁、いや勝手にライバルという認識が浮かんだ。この妹を打ち負かすことができれば、きっと憧れの存在に近づくことができると。
そしてもう一人。双子の兄の方だ。最年少で戦車道の整備士ライセンスを取得し、黒森峰女学園の入試を本命である女子を差し置いて開校以来トップで合格しているという話だ。だが、別段興味が沸かなかった。西住流の生まれと言っても、男であるのなら戦車道をしているというわけでもないだろう。あの西住まほの双子ならば、それぐらいの優秀さでないといけない。見たことも会ってこともない人物に当時の私は勝手な理想を押し付けていた。それぐらいに西住まほをという存在を絶対視していた。
それから数カ月後、私は念願の黒森峰女学園中等部に入学を果たした。まるで、宮殿と見間違うような校舎。ドイツ風の入学式やオリエンテーションなどを経て、ついに選択科目の選考が来た。
『きゃーーーッ!!西住まほ隊長よ!!』
『西住隊長ーーー!!』
『まさに西住流の後継者ね!!』
一糸乱れぬ戦車の隊列。その先頭を走る戦車に乗っていた人物こそ、西住流の後継者であり、黒森峰女学園中等部戦車道を率いる人物『西住まほ』だった。
「す、すごい…」
たった現れただけで、これだけの黄色い声援が来る人物。周囲から見ている生徒たちの注目が半端ではなかった。西住まほ。ついにここまで来ることができた。
「来たのね。ついに…」
名門校"黒森峰女学園"は質実剛健であり、強い責任感を持ち、規律を律し、常に人の前に立っていく校風だ。そしてその流れを組むかのように戦車道も、常に勝利を掴みとる。その教えは黒森峰の創設から深く関わる西住流の教えから来ている。それは中等部でも同じことだ。
ついに来たのだ。
ここが…ここが私の憧れた―――
「ようこそ戦車道履修生の諸君!!俺たち整備班は君たちを大歓迎だ!!楽しい楽しい黒森峰の戦車道をやっていこう!!」
隊列を崩さない戦車隊の後ろを進む一台の
その声には聞き覚えがあった。そしてその顔には見覚えがあった。
嘘でしょ。嘘でしょ!?
信じられなかった。小さい頃に会ったあの男の子がいたのだ。ここはあんな馬鹿面でアホな奴がいていい場所じゃない。それを感じた私は、すぐに戦車道のエリアに移動し、戦車が鎮座している格納庫に真っ先に向かう。その中に黒を基調とした整備用の作業服を着こなす先程の人物を見つけた。
「な、なんでアンタがここいるのよ!!」
「ん?新入生かな…ああ!!君は確か逸見江リカちゃんじゃないか!?」
「だから!!逸見!エリカ!だって言ってんでしょ!!」
私の顔を見てすぐにお決まりのフレーズを口に出し、自身もいつものツッコミを出してしまう。コイツあの頃から何も変わってないじゃない。い、いけないわ。私はもうあの頃のようにコイツに振り回されていた
「こ、ここはアンタのようなバカがいていい場所じゃないのよ!!」
「いや~懐かしいな。そうか、"エリカ"ちゃんだったのか。なんで間違えてたんだろうな?」
コ、コイツッ!!私の話なんか聞いてやしない。本当にムカつくやつだわ!!
「なんだまお!いきなり新入生ひっ捕まえるなんて、とんでもない女たらしだな!」
「まお、お前だけはそんなやつじゃないと思ってたのに!!!」
「いや、違う!この子は小さい頃からの知り合いでな」
「おいおいこんな可愛い子が幼馴染って言ってるわけかよこの西住流の坊っちゃんわよ!?」
な、何なの…あの煩い連中は。ひょっとして、こいつら全員が戦車道の整備士たちなの?黒森峰女学園戦車道の整備士たちは皆が困難な入学試験をパスした優秀な連中ばかりと聞いていたはず。
ちょっと待って…今、西住流の坊っちゃんって…
「そこの新入生」
短い言葉ながらも、凛々しい声が聞こえる。声の主の方に振り向き、思わず見入ってしまう。
「え…あ、に、西住、ま、まほさん!」
西住まほ。私が憧れ、追い求めていた人だ。間近で見れば見るほど、きれいでここにいる誰よりもオーラが違っている。いきなり現れてきたまほさんに私は身震いする。あの憧れの人がいきなり目の前に来たのだ。
「こいつは私の双子の兄だ。入りたての新入生がバカ呼ばわりする言われはないぞ」
「え…」
憧れであったまほさんからの最初の言葉は、怒気の籠もった言葉だった。
鋭い目つきで睨まれてしまい、体が縮こまってしまう。
「あ、あの…」
初めて間近で会ったまほさんとの出会いが最悪な形になってしまった。
「おいまほ。せっかく入ってきた新入生ビビらせてどうする。これからお前と一緒にやっていく仲間なんだから」
「む、そうか。すまなかった。だが、会って間のない人間にそう言う言葉をかけるのは関心しないな」
「え、いや。私の方も…すみませんでした」
あの男の言葉で、まほさんはの先程の表情が消えた。
「名前は?」
「い、逸見…エリカと言います」
「逸見か。中等部戦車道隊長の西住まほだ。これからよろしく頼む」
そう言って手を差し出してくれた。憧れの人にいきなり会うことができて嬉しいはずなのに、出会いの印象が悪かっただけに素直に喜べなかった。
「そしてコイツが私の双子の兄の西住まおだ。整備班の班長をしている。もし、文句等があるのなら、まず私を通してからにしてくれ」
「ああ言ってるけど別にまほに通さなくていいからな。文句ぐらい聞けるから」
ショックだった。よりにもよって私の憧れの人の兄がコイツだったことに。そして、それらに歯車をかけるかのように、妹の登場があった。
「今日から副隊長をしてもらうことになった。西住みほだ」
「よ…よろしくお願いします!に、西住みほですっ!!」
どうしてこうなった。戦車道に入隊して早々に、気に食わないことが同時に起きた。
あの噂の西住まほの妹である西住みほが、一年生にして副隊長に任命されたのだ。おどおどして、自信なさげで、西住流本家の威厳のかけらも感じさせないあの雰囲気。気に入らない。あんな腑抜けたようなやつに私が負けるようなことだけは絶対にいやだった。戦車道で実力がどれだけあるのか、見定めてやろうとした。だが……
「うそ…でしょ」
初の新入隊員同士の模擬戦において、西住みほ率いる部隊が圧勝した。圧倒的だった。周囲の状況を把握し、素人も多い中の隊員たちを上手く配分しての統率。当然といえば、当然かもしれない。みほも小さい頃から西住流の教えを受けているのだ。たかが数年初めた程度の私では手も足もでない。私は必死に勝ちたくて、ただがむしゃに戦車を動かしていた。
「ぅぅ…っ…」
私は自分が恥ずかしくなり、誰もいない格納庫で、自分が担当している戦車の中で嗚咽を抑えきれず泣いていた。
滑稽だった。実に滑稽だった。ユースに入って、少しばかり、指揮が出来たからと浮かれていたのに、入学して早々に打ちのめされた。すぐに気持ちを切り替えて次に進めばいい。そうやってここまで来たはずだった。でも、違う。今回は違う。根本から違う。こんなはずじゃないと必死に自分に言い聞かせる。早く格納庫から出て、寮に戻らないといけない。
「止まりさないよ…止まってよ…!!」
そう思って涙を拭うも、涙が止まらなかった。こんなみっともない姿は嫌だった。見られなれたくない。こんな弱い姿を誰にも見られたくはない。
「誰が泣いてるかと思ったら、エリカちゃんだったのか…」
ハッチが開かれて、覗き込むように見てきたのはあの男、西住まおだった。
「何かあったのか?ま、まさか入隊早々に椅子が硬くて痛かったのか!?」
「違うわよ!!このバカ!!」
何言ってくるのよこの男は。本当にずれたことばっかりしか言わない。もうほっといてよ。こんなみっともない姿、誰にも見られてたくない。
「どっかいきなさいよ。アンタにはわかりっこないんだから…」
「昼の新入生同士の試合のことで泣いてるのか?」
「っ!?」
泣いている原因を的確に言われ、思わず驚いてしまう。その言葉を聞いて、バッと立ち上がり、目の前の男に吐き捨てる。
「そうよ!!負けたことをうじうじ泣いてるのよ!!わかったなら一人にしてよ!ほっときなさいよ!!」
「泣いてる人間ほっとけるわけないだろ。安心しろ、ここにはもう俺と君しかいないから」
「だから、どっか行ってって言ってるでしょ!!」
何よ!づけづけと人の中に入って来ないで!この男だけには弱いところを見られたくなかった。
「いやもうエリカちゃんが泣きまくってるのは何度も見たことあるから大丈夫だ」
「何よそれ。慰めのつもりなの!?」
何なのよコイツ。何がしたいのよ。
「…勿論」
「その間は何よ」
でも、言う通り、昔の私はよくこの男の前で泣いていた。その度に助けられていた。こんなふざけたやり方ばかりで。
「ふっ」
「いきなり笑って何よ。気持ち悪い」
「ああごめん。昔こうして戦車の中で泣いてるやつがいたなって思い出してな」
「何?私もそいつと同じでみっともないって思ったわけ?」
「そんなことはない。そいつも、こうやって泣いて再び前をむこうとしてくれた」
「アンタの身の上話なんか興味ないわよ!」
そう言って戦車から出るなり、格納庫を後にしようと背を向ける。
「エリカちゃん!!ああやって、必死になっている姿のほうが。俺は好きだけどぞ!それだけ戦車道に真剣になってるのがよくわかる」
「っ…バカ!!やってもないアンタには一生わかりっこないわよ!!それとエリカちゃんなんて、みっともないから二度と呼ばないで!!」
その言葉とともに、私は逃げるように後にした。これ以上一緒にいると、自分がどんどんさらけ出されそうで嫌だった。
西住まお。やっぱりコイツはバカでしかないわ。慰めかたも下手くそ。全く関係ないことを口走る。何も成長していない。もう関わるのはよそう。もう昔とは違う。私はただひたすら向上し、まほさんと並ぶために頑張るのだから。
でも、それからしばらく経った頃だった。黒森峰女学園の戦車道といものを目の当たりにした。西住流の流派通り、圧倒的な火力で制圧し、蹂躙していく戦車道。それは黒森峰女学園でも同じと思っていた。だけど、中等部の戦車道は少しばかり違っていた。火力を重点に置いているのは間違いないが、チームによる連携攻撃を主としている作戦が多かった。つまりは『強さこそが勝利』ではなく『皆で一丸となってこそ勝利』である。それがここの戦車道だった。私は呆気に取られた、私が知っている西住流とは違う。そんな馴れ合いをするような場所でもない。それに歯車をかけるかのように、あの整備班がバカ騒ぎの如く、盛り上げていく。違う、ここは小学校の運動会じゃないのよ!!何よあの振ってる旗!掲揚台の旗じゃないの!!なんで格納庫の中でカレー作ってんのよ!隊長!!嬉しそうに食べないで下さい!待ちなさい!!練習試合初めたら、的屋なんてするのよ!!ここは祭会場じゃないのよ!!なんなのここは……
私は、自分が今どこに通っているのかを今一度思い返した。
ここは黒森峰女学園。名門校のはずよ。なのに、これは一体なんだ。何かが可笑しい、何がどうなったらこうなるんだと。いや理由はわかってる。全てはあの男が初めたのは想像に難しくなかった。
調べるしかない。こんな頭が痛くなるような場所にいたら、高等部に上がっても思うと気持ちがついていけなかった。そのためには、いち早くあの西住まおという人間を改めて知る必要があるわね。なら、
「まぁ、あんな馬鹿げた行動起こすんだから、家でも苦労してるんじゃないの?」
「えへへ。お兄ちゃん家でもね、あんな感じなんだ」
そんなへらへら笑ってんじゃないわよ!褒めてるんじゃなくて、私はアンタの兄を馬鹿にしてんのよ!!なんなの、この妹は。いつもこんな感じにヘニャヘニャしてるのに、戦車にのると人が変わる。でも、違う、
「ねぇねぇエリカさん!この人形はねボコって言ってね!!」
「何よその人形…」
いつのまに私は、越えるべき壁でしかないはずだった
落ち着きなさい私。そう、これはみほを越えるために、そして憧れのまほさんに追いつくために、そしてあの胡散臭いバカを見返すために仲良くしてるのよ。
そう言い聞かせる。
気づけば、私はすでにこの中等部で2年という月日が流れていた。
いつの日だったか。アイツが偶にいる校舎の屋上にいるのを見つけた。その日はフェンスに寄り添って、海の方を眺めている。
「ふ~ん。あなたでもそうやって黄昏ることがあるんですね」
いつも、馬鹿面してくせに、今の顔の表情がなんとも言えない冷めた目をしていた。一応先輩でもあり、整備長をしているので敬語は使うも、どうも嫌味ないい方になってしまう。もともと敬語なんかいいとは言ってるけど。
「俺だって、こうして一人で落ち着きたい時だってあるよ」
そんな私の言葉に気づくこともなく。いつもとは違う雰囲気だった。何よ、気持ち悪いわね。
「海なんか見て何かあるんですか?」
「……どこまでも自由にいけるあの海が、俺は好きなんだ」
いつもとは違うトーンの声が聞こえた。自由?海?ホント何なのよ。そんなの…
「らしくない言葉ね。聞いてて気持ち悪くなってくるわ」
「ははは、そこまで言うか?」
そうよ。そんなロマンチストな言葉、アンタには似合わないわよ。いつもへらへら笑っているほうが、性に合ってるわ。
「そういえば、来年はいよいよ高等部ですね。そこに言っても、まだあんな馬鹿騒ぎを続けるんですか?」
「そうだな。それはまだ考え中だ。それに今はまほとみほのこともあるし」
考え中?どういう意味なのよ。まほさんも、高等部では隊長の椅子は確約されているし、あなたも整備長の椅子があるんでしょ。何を考える必要があるのよ。それに高等部は驚異の8連覇を果たしている。来年勝てば、私達が高等部に進学した際には10連覇を目指すことになる。それはもう黒森峰女学園戦車道に栄光を残せるものだ。どこに考える要素があるってのよ。まほさんとみほに何があるってのよ。
「俺はな。まほとみほに強くなって欲しいんだ。あの二人は本当はそういうものを持ってる」
「何言ってんのよ。隊長と副隊長は十分強いじゃない」
「俺が言ってるのは戦車道のことじゃない」
「あの二人は絶対的な存在。皆がそう思ってるわ」
「…その考えは早々に捨てたほうがいい。人に必要なのって信仰じゃなくて信頼だろ。せっかく、皆が一丸となって戦車道やってるのに、まほに対する評価は全く変わらない」
「何言ってるのよ。当たり前でしょ!!あの人は私達とは違うの!」
そうだ。私達のような凡人なんかとは違う。同じ立場なんかじゃ…
「エリカはまほのことを神か何かと勘違いしてないか?アイツはただ戦車道が上手ってだけで、他にも色々」
「何よ偉そうに!!戦車道もやってもいないあなたには、隊長がどれだけ素晴らしいかわからないでしょ!!」
それでも、西住流に生まれた人間の言う言葉なの!?隊長はいつだって立派な人よ。そう、私達とは違う。
「お前が憧れているのは"西住流"の西住まほなのか?」
「当然でしょ!!だから私は…私は…」
言葉が続かなかった。上手く言えない。
「エリカ。別に今すぐじゃなくていい。まほのことを憧れじゃなくて、仲間として見てくれたら嬉しい。アイツもきっとそういうのを求めている」
その言葉が私にはよく理解できなかった。
「何よ…それ…」
人を憧れて何が悪い。憧れだった人のところに近づけて何が悪い。私の憧れだった人を腑抜けのような人柄に変えたのに何を言っている。いつもそばにいるくせに何を言っている。仲間とか言いながら、あの
どうして、どうしてあの
私には……
「俺はエリカのことすごい人間だと思ってる。だから、エリカは。エリカの信じた道を行けばいい。それだけの意思がお前にはあるよ」
「…うるさいわね!!」
知ったような口ぶりして、相変わらずで嫌だった。
「ふん。アンタも昔みたいに、我が道を行けばいいじゃない。そのほうが性に合ってるわ」
「……俺の道か。ありがとうエリカ」
「な、何よ急に…」
「いや、ただ言いたかっただけだ」
「ふん」
胸が熱かった。こんな気持ちが私は嫌だった。顔が赤くなる。
わからない。こんな気持ちは知らない。
でも、時々この気持が逆の時もあった。
まほさんたちと並んでいるまおを見ると、胸が痛くなってくる。
わからない。
そうだ、私は西住まおが嫌いなはずだ。だから、この胸の痛みは隊長の隣に立っているあの男に対しての嫉妬なのだろう。
きっとそうだと自分に何度もいい聞かせる。
だって、まほさんは私達を見ていない。いつも見ているのは。
『まお』
この人ばかりだった。いつも隊長の目はまおの方ばかり見ていた。
だから、振り向かせたかった。
だけど…
アイツがまほさんを変えた。黒森峰の戦車道を変えた。みほを変えた。
私も変えられた。
何もかも変えていった。
なのに、アイツはいきなりいなくなって、色々変えたくせにあとは知らん顔で
許せない。
アンタのせいで、黒森峰女学園戦車道はわけのわからないことになり、分裂した。
西住まほも西住みほも見る影もなくなってしまった。
私も、もうおかしくなりそうだった。
だから、アンタを……
アンタを…
一体あれから、どれだけ飛んだだろうか。見渡す限りに広がる青い海。宛もなく飛び、私の望んでいる連絡を今か今かと待っている。
『接近中の航空機に告げる。こちらは海上自衛隊…』
来た。私の待っている声が…
無線機からこちらに呼びかける声が聞こえる。相手は海上自衛隊の護衛艦の搭載機のようだ。"あさぎり"搭載と聞こえ、あの壮行会で映っていた艦の一つで間違いなかった。でも、私の求めている艦は"それ"じゃない。
「黒森峰女学園機甲科1年、逸見エリカです。計器に異常が出て、予定のコースから外れてしまいました。燃料も残り少ない状況です。救助を…お願いします」
-次回-
燃料もなく、墜落寸前の航空機から連絡の入った練習艦隊。
やむなく艦隊司令に緊急着艦の具申を命令する《くらま》艦長《梅津一佐》。
そして、降り立ってくるその主に海江田まおは…
感想等あれば、お待ちしております。
瑠璃色の道筋if作品ならどれが読みたいですか?
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まおが高等部に進学するifルート
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まおが養子に出されるifルート