瑠璃色の道筋   作:響鳴響鬼

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新年明けましておめでとうございます。
挨拶が遅れてしまいました。
新年最初の投稿はガルパンということで!


VOYAGE-4《航海の先は》

『だから私の名前は逸見(いつみ)エリカ!何度言わせればわかるのよ!!』

『わかってるって!逸見江(いつみえ)リカちゃん!』

 

初めて親しくなった男の子は、私の名前を冗談のように間違えてくれていた。何気ない家族とのショッピング中。ふとしたことで出会った男の子は、笑顔を絶やさずにそう呼んだ。

 

『なに人の名前微妙に間違えてんのよあんた!!』

『リカちゃんだろ?覚えたって!!』

『ムキーーーーー!!』

 

-本当に間抜けとしかいいようのないその雰囲気に当時の私は大層怒り狂っていた。なんせ、何度も言ってるのに私の名前を永遠に間違えるのだから-

 

『僕まお。よろしく』

『ふん。男のくせに女みたいな名前じゃない!変なの!!』

 

-それに対抗するかのように、その男の子の名前をバカにするように言ってやった。皮肉だ。全力で皮肉ってやった-

 

『ほうほう。リカちゃんは今迷子なのか』

『どうしたらそう聞こえるのよ!!アンタの頭どうなってんのよ!!って、アンタだって迷子でしょ!!』

『僕は迷子じゃない。皆が迷子なんだ』

『何よそれぇ!!アンタどんだけ捻くれてんのよ!!バカァ!』

『ふぐっ!』

 

-持っている人形を思いっきりその顔面にお見舞いしてやった。ホント、本当にあの頃の彼はバカにつきることだらけだった。そうだったはずなのに-

 

 

 

「……夢」

 

なぜ今ごろになってあんな昔の夢を見てしまったのか。そんなこと考えたところでもう意味ないはずなのに。

 

「ああ、もうっ!」

 

もう記憶の片隅にしまっていたことだったが、ふと思い出すことがある。それはエリカにとって大切な思い出なのか、葬り去りたい思い出なのかはわからない。今頃見たところで、当の本人はもう黒森峰にはいないのだから。

 

あの夏以来、西住まおは突然と黒森峰を去っていった。理由は一切わからない。ただ退学処分と話に聞くと西住家を勘当されたとも聞く。意味がわからなかった。まおがそこまでされる処分はなかったはずだ。成績もよく、多少なりに黒森峰の気質にそぐわないことはあれど、戦車整備も抜け目もなかった。それにあのまほやみほとかなり仲が良かったはず。それを陰ながら見たことのあるエリカからしたら信じられない話だった。そこらへんにいる兄妹仲よりいいのではというぐらい。正直自分の姉よりも親密さがあった。整備班の男子たちに聞いても答えられないと言われ、なぜ去ったのかみほに聞いても、わからないの一点張りであり、まほに至っては話すら聞いてくれないほどであり、更には睨まれる事態になってしまっている。それからはまおに関する話は一切していない。いや出来なかった。あれ以来、まほは明らかに変わってしまった。訓練は厳しくなり、本当にただがむしゃらに勝利のみを追求するものに変わっている。だがそれが黒森峰の、西住流の戦車道であるから誰も悪いとは言えない。そしてなぜそうなったのか。

 

「隊長……」

 

まほは何も言わない。誰にもそれを言おうともしない。恐らくみほにすら満足な会話はしていないのだろう。だが一つだけ確信できることがあった。まほやみほがおかしくなったのは、間違いなくまおが原因なのだろうと。だからこそ、一発ぶん殴って文句を言ってやりたかった。でも、それが出来ないのも知っているからエリカは歯がゆかった。何もわからないし、知らない。少なくとも自分はまおと……仲が良かったはず。でも、もういない人間に何を言っても無駄だ。

 

『西住流は王者の戦車道だ。どんな者が立ちはだかろうと、それを全て叩き潰す。それに付いてこれない者は容赦なく切り捨てる』

(私は隊長(まほさん)のためについていくと決めた。たとえあの人(まほさん)に"私達"が見えていなくても)

 

どんな理由であれ、ずっと憧れだったまほのためにやると決めたのだ。

 

『お兄ちゃん……』

(だから、みほ…アンタも早くあんな奴(まお)のことなんか忘れなさい。どんな理由があっても、私達を裏切ったんだから……)

 

だから早くみほにはまおのことなど忘れて、戦車道に集中して欲しかった。鉄の掟 鋼の心。それが西住流なのだから。

 

「作戦室にでも行って、作戦内容でも確認しようかしら」

 

朝食にしては少しばかり早いし、外で気晴らしにジョギングでも遅い時間。もうすぐ全国大会の準決勝も近い。作戦室にでも行って、練度を上げたほうがいいと。すぐに到着するなり、先客がいたことにエリカは驚いた。

 

「あれは……みほ」

 

先客はみほだった。パソコンで調べ物をしているのだろう。エリカが部屋に入ったことも気づいていないようだ。

 

「こんな朝早くから調べ物なんて。流石ですね副隊長」

「い、逸見さん!?」

 

ビクッとなりみほは慌てて表示しているディスプレイを消す。

 

「ど、どうしたの!?」

 

何か見られたくないものでもあったのか、普段おどおどばかりしているみほが更におどおどしているではないか。そんな様子を怪しいと感じたエリカはみほのほうに詰め寄っていく。

 

「はぁ?どうしたじゃないわよ。それよりも何をそんなに熱心に調べてるのかしら」

「ちょ、ちょっとプラウダとか調べてて、あの、私もう部屋に戻るから!!」

 

すぐに机に置いてある誰かが映った写真と本を手にとって逃げるように資料室から出ていく。作戦のことを調べているのなら、エリカが見ても問題ないはず。それを見せようとも話そうともしないということは。

 

「ふん、相変わらず嘘が下手ね」

 

みほが使っていたパソコンを操作し、何を調べていたのか履歴を確認するエリカ。元々パソコンがあまり得意ではないみほならおそらくそこまで手が回ってはいないだろうと踏んだのだ。どうにもここ最近のみほの様子が可笑しいのは前から思っていた。全国大会も順調に勝ち進んではいるが、どうもみほの気持ちが入っていない

 

「……海上防衛学校広報誌?一体何を調べてるのよ」

 

出てきたのは、作戦関連どころか戦車道すら全く関係のないことだった。防衛学校と言えば、自衛官候補生を育成する学校だったはず。ここ黒森峰でも陸上防衛学校に入学していく生徒も少なくはない。だが、みほが見ていたのは海上防衛学校。つまり海上自衛隊関連の資料だ。確かみほは海が嫌いなはず。父親が海の事故で亡くなったことを知っているエリカは疑問符が消えないでいた。いや、なぜ海自なのか。気になったエリカはマウスを操作し、みほが調べていたことを更に見る。

 

「海江田四郎……って誰よ?」

 

次に出てきたのは、海江田四郎と記載されている項目だった。当然そんな人物をエリカは知るはずもなく、項目をクリックして中身を確認する。

 

「海自始まって以来の英才と呼ばれた男。これが一体なんだって言うのよ……」

 

開かれた資料は海自のフリー百科事典であり、海江田四郎という人物は海上自衛官であり、潜水艦の艦長をしているという人物の情報が乗っている。どうやら最後は衝突事故を起こし、乗組員ごと行方不明となっているらしい。だがそれがなぜみほがその人物や海自のことを調べているのかもよくわからない。

 

「ん…これは」

 

"《速報》海自が誇る天才の孫現る…!?"

 

検索履歴を見ていると気になる内容のスレットが目に入った。先程の内容と照らし合わせるならば、おそらく海江田四郎の孫ということになる。興味がそそられたエリカはそのままクリックし、中身を見る。

 

"今年度行われる防衛学校最大の試練と言われている航海演習が始まる中、あの海自にいた天才『海江田四郎』の孫が現れた模様。出自はなぜか不明であり、防衛省による情報操作がされているのではと疑いが掛けられているが、噂ではあの西住流戦車道の者ではないかと言われている"

 

「まさか……いや、まさかね」

 

言葉では言っていても、頭ではそのいきつく答えが出てしまっている。そして、その人物が載っているであろう壮行会の動画を再生した。

 

『いよいよ護衛艦での訓練を開始することとなるここ海上防衛学校では、学生たちを送り出す壮行会が執り行われています。日本の防衛を担うことになる若き自衛官の卵たちは海上防衛の要である護衛艦での演習は大きな意味を持っています』

 

ネットに流れている映像には、海自の制服に身を包み、護衛艦をバックに映る自衛官候補生の生徒たちの姿が映っていた。海上幕僚長や防衛大臣が激励の言葉を掛ける中、ずらりと並んだ候補生たちが流れるように映し出される。

 

「まお…さん?」

 

いた。最前列にいる制帽を被った男に目が入ったエリカ。映像はほんの一瞬だったが、あの顔は決して忘れない。再度巻き戻し、その場所で静止させ改めてその顔を確認する。

 

「何で!!」

 

それを見たエリカは激高と共に席を立つ。間違いない、あの顔はまおだ。あれから3年余りたち、動向も不明だったまおが、熊本を離れ横須賀にいる防衛学校へと進学していた。だとするなら、夏休み後にまおが消えてのも、入学準備云々があるのなら合点がいく。だからみほは海上自衛隊のことを色々調べていたのだろう。まおがそこに行っているのなら、少しでも情報がほしいとばかりに。だが、エリカからしたらそんなことはもはや問題ではない。久方ぶりに見たまおの顔を見て感情を爆発させる。

 

(なんなの!?あの人はあんなこと(海上自衛官)をするために黒森峰(ここ)を去ったっていうの!?あの西住流の家に生まれて、将来を約束された家を出てまで……私から………あの二人からいきなり離れて!!)

 

言いしれない怒りが沸き起こるエリカは、拳を強く握りしめるのだった。

 

 

 

海上自衛隊横須賀基地から出向して数日。海上防衛学校最大の山場ともいえる航海演習が始まった。横須賀基地から第一、第二練習隊がそれぞれ別れるように、所属艦である護衛艦《くらま》《あさぎり》《さわかぜ》は日本を一周するように横須賀基地を目指す航海を行う。

 

「前方に漂流物確認できず。航行に支障なしか…」

 

露天艦橋(ウィング)に設置されている双眼鏡で周囲を見渡していたのは、潜水艦に乗艦願いを出していたはずの海江田まおの姿があった。作業服を着込み、艦番号にKURAMAと刺繍され、飾緒を施された作業帽を被っている。

 

「犬吠埼沖……」

 

最初の目的地である小笠原諸島での演習を終え、現在は最初の海自基地がある大湊基地最初のこの海域はまおにとってある意味特別な場所と呼べるところだった。

 

潜水艦《やまなみ》がソ連(ロシア)原潜と衝突し、そのまま圧壊したのち全員が行方不明となる海自史上最悪の事故とされている。そしてその《やまなみ》の艦長を務めていたのが、ほかでもないまおの祖父である《海江田四郎》。最も、深町を始めこの衝突事故には不可解な部分が多く、本当に死んだのか疑いを持つものも少なくない。

 

「精が出るな海江田」

「麻生掌帆長」

 

声を掛けられたまおはすぐに振り向く。声の主は船務科所属であり掌帆長を務める麻生(あそう)(やすし)海曹長。つい半年前までは第一護衛隊群所属であるイージス護衛艦《みらい》に乗艦していた経歴をもっている自衛官。

 

特進科(幹部候補生)のお前は、もっと他にすることがあるだろうに。同じ科の二人は早々にCIC(戦闘指揮所)で研修を受けてるぞ」

「梅津艦長は最初に乗艦する際に、自分の目と肌で艦を知っていってくれと言いました。自分はただそれを実行しているだけです。それにCICよりここの方が艦に乗ってる感じがしますし」

 

露天艦橋(ウィング)から見える地平線に少しばかり視線を向ける。この光景を再びここで見られたことはまおにとっては嬉しい気持ちもあった。小学校の頃に父の常夫と二人で観艦式を見に行った際に乗艦したのがこのくらまだったからだ。

 

(父さん……)

 

本来ならば、まおはここから海を眺めることはできないはずだった。

 

「小暮に聞いた。あの"たつなみ"に乗艦する予定だったらしいな」

 

船務科に配属されたまおの幼馴染の小暮航平からここに来た経緯を聞いていた麻生掌帆長は話をふる。話を聞いたまおも少しばかり残念そうに答える。

 

「ええ、できることなら祖父と同じ潜水艦乗り(サブマリナー)になるために、深町二佐のところで学びたかったのですが」

「あの人は変わり者だって聞くからな。型破りというべきか」

 

乗艦する艦艇や所属する部隊は違えど、深町洋という人間は問わず有名なのであろう。最も、操艦技術に関しては確かな実力を持っているのは間違いない。

 

「だが、海江田海将補と長い付き合いのあるあの人のことだから、てっきり乗せるかと思ったが」

 

海江田四郎とは防衛学校から同期だった深町ならば、乗艦させるかと思っていたが、やはり情だけで動くわけにはいかないと思った麻生。

 

「"しこり"がある人間に潜水艦乗り(サブマリナー)は務まらない。それが乗艦を拒否された理由です」

「しこり?何か思いつめてることがあるってことか?」

「それはまだ自分にもわかりません」

 

あの日、深町艦長が横須賀を訪れた際に会話をすることができた唯一の日。非常識とは知りながらも、たつなみに乗艦したい気持ちがあったまおは深町に言うも、帰ってきた言葉は『乗艦拒否』だった。理由は口ではわからないと言いながらも、まほとみほのことを指しているのはわかっていた。何も言わずに勝手に出ていったのを深町に見抜かれていたのだ。深町は直感でまおがそのことを後悔している。だからしっかりそのことを解決してから改めて来いと。

 

「なぁに、まだ始まったばかりだ。あの人のところでなくても、来年の航海演習時に別の潜水艦を希望すればいいさ」

「はい。でも、今はこのくらまで学ばせていただきます。それに途方に暮れていた自分を拾ってくれた梅津艦長にも感謝していますし」

 

たつなみの乗艦を拒否され、正直乗る護衛艦がなく途方にくれていた際に事情を知ったくらまの艦長である梅津三郎一等海佐が後進の育成のためにと乗艦を許可してくれたのだ。梅津艦長もまもなく退官を控える身であり、イージス艦《みらい》の艦長を最後に第一線から引き、くらまの教官兼艦長として任官してきたのだ。その際に当時副長であった角松洋介二等海佐の推薦もあり麻生掌帆長を始め数名のみらいクルーが教官としてくらまに乗り込んでいる。

 

「なら尚更その活躍を期待しないといけないな。お前にも複雑な事情があるだろうが艦長もお前に期待しているから、しっかりな!」

「はい!ご期待に添えるように」

「その意気だ。きっと天国にいる海江田海将補(おじいさん)も喜んでいるだろう」

 

そう言って、露天艦橋(ウィング)を後にしていく麻生掌帆長。その後姿を見ていたまおは改めて海上へと目を向ける。

 

(その言葉は間違っています麻生掌帆長)

 

天国にいる。その言葉を聞いたまおはただ否定の言葉を浮かべる。

 

(海江田海将補は……天国にはいません。今もこの海のどこかに……)

 

その確信を、まおはすでに知っているのだから…

 




登場人物

名前:梅津 三郎
所属:第一護衛隊群《みらい》艦長→第一練習隊《くらま》艦長
階級:一等海佐
備考:退官を控える海上自衛官。かつてはイージス艦《みらい》の艦長を務めており、現在は《くらま》にて教官兼艦長として乗り込んでいる。「まぁよかろう」は口癖の温和な性格をしており、"昼行灯"とあだ名をつけられている。叩き上げであり、専守防衛を貫き、部下の命を第一に指揮をとる。海江田四郎のことを知っており、乗る艦のなかったまおを誘った人物でもある。

名前:麻生 保
所属:第一護衛隊群《みらい》船務科掌帆長→第一練習隊《くらま》船務科掌帆長
階級:海曹長
備考:「部下を信頼するに勝る、人心掌握術はない」を信条にする自衛官。思いやりのある性格であり、部下や候補生からの信頼は厚い。経験豊富な自衛官ということもあり、みらいの副長を務めている角松洋介二等海佐の推薦でくらまに転属した経緯を持つ。

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