水埜を地下図書館に向かわせて二日が経った。一応分身を通わせて不在を誤魔化してはいるがいつまでも続けられるものではない。なので俺はスタンドでショートカットをしつつ地下図書館へと侵入した。
水埜が地下に潜る前に食料などは持たせたが二日も想定はしていない。戻ってこないとなると侵入者用のトラップなどで死んだか。そう考えながら水埜の遺体を探す。流石に遺体なしで自然な死に方の偽装はできないし、かと言って行方不明も地下に遺体が残ってはまずい。一番楽なのは魔法使い共に殺されてあいつらが処理をしてくれることなんだけどな。
俺自身がある程度地下に降りる必要があるところで水埜を発見。虫の息だがまだ生きていた。しかし散らばってる蟲は水埜のスタンドだろう。と言うことは戦闘か何かがあった証拠。ここはいっそ見捨ててあいつらに処理を任せた方が楽か?
そう考えていると、俺に気づいた水埜が俺に向かって言った。
「止様……ついに見つけました。この島の秘密……深部に……屋外のような神秘的な空間……宮殿のような建物が……」
その報告を聞いて思わず「マジかよ……」とつぶやいてしまった。こいつそんな深部まで降りたのかよ。俺でも到達したことないぞ。
この精神状態からもしかしたら妄想って可能性も考えられるが、詳しい話を聞くために回収し俺の別宅に寝かせた。
一日分の食料と水で二日間潜り続けたことで
図書館島の地下にそれだけ広大な空間があると言うことは間違いなく重要拠点。
「はぅぅっ。止様に看病してもらえるなんて……感激です!」
目が覚めてからはずっとこの調子だ。それだけの働きはしてくれたからこのくらいのことはしてやっても良いんだけど……。ものごっついやりにくいわ。こいつの俺への高すぎる忠誠心ホンマ何なん?
まあええわ。考えたところで今更や。それなりに都合はええんやし。
ゴホン……これから水埜への監視の目が厳しくなるだろうことを差し引いても十二分にプラスと言えるだろう。
「不在中の出来事は分身がノートにまとめてあるから時間がある時に読んどけ」
水埜の分身が書いたノートを手渡す。ま、この様子じゃもう一日は休んでた方が良さそうだな。今の様子では分身との体調的な差が大きすぎる。風邪にする手もあるが、水野のクラスの雰囲気から察するにお見舞いに来るだろう。その方が水埜にとっても面倒だろう。
「とりあえずもうもう一日ゆっくりしとけ」
「わかりました。ありがとうございます」
水埜のおかげで多大な情報は手に入ったが、決定打になりえる程のものではない。むしろ瓦解させた後に重要になって来るレベルの情報だ。
そもそも漠然とした情報でしかなく、詳細な情報にする為にはどうしても知識と技術のある人物が情報の真偽を確かめなくてなならない。そしてそれができる手駒は自分自身しかない。だが決定打も持たない現状ではリスクとリターンが合わない。
ならば今は信憑性のある重要な情報として頭に入れておくに留めるのが得策か。まったく、水埜が入手した情報も案外役に立たなかったな。ま、頑張りは認めるがな。
「ちょっと外出て来る。誰か来ても居留守を使え」
「はい!」
俺は自室を出ていく。水埜がいない間のアリバイ作りをより完璧な状態にしておく。こういった小さな痕跡を消すことが犯行の秘訣だ。細部を完璧に埋めればいかなる状況でも安全に逃げられる。。
もちろん失敗などするハズはないが、イレギュラーというものはどうしても起こり得る。その時にいかに完璧に痕跡を消し逃走できるかがプロというものだ。失敗などいくらでもやり直せばいい。最終的に勝てばよかろうなのだ。
ふと窓から外を見ると外で騒いでる人がいつもよりかなり少ない。というか学生が少ない。
「そういやもう来週か、学期末テスト」
学期末テストとなれば真剣に勉強に取り組む熱心な学生が増える。エスカレーター式のうちの学校じゃあんまり関係ないがな。
そのため能天気な奴らが多いがそれでも点数が良いに越したことはないので真面目な優等生はもちろん、普段真面目じゃない奴もこの時期だけは勉強に集中する。まあ能天気を貫く馬鹿もかなり見受けられるがな。
「あいつ、大丈夫か?」
水埜がどちらかは知らねえが、今のコンディションだと勉強は全く捗らねえだろう。少し前から調べものをさせたりスタンドの訓練などさせてまともな時間を取ってないだろう。
「しょおおがねーなあああ~~~」
答案用紙でも盗んできてやるか。仕事の報酬ぐらいにはなるだろう。
そういうことで水埜のアリバイ作りのついでに窃盗の為に女子中等部に侵入する。こちらも学期末テストで出歩く学生はピリピリしている。
授業中の朝っぱらに侵入するのは普通は愚行だが、麻帆良においては夜中の方が魔法使いの目が厳しい。そのため人目が多いが一般人が混在し魔法使いの動きが幾ばくか制限される昼間の方が好ましい。
「この辺でいいか」
身を潜め『
「はい、学園長先生。生徒とも打ち解けていますし、授業内容も頑張っていますわ。とても10歳とは思えませんわ」
とある扉の前を通りかかったところで女の話し声が聞こえてた。話の内容から察するにあの英雄の息子についてのことみたいだ。
気になった俺はその扉、学園長室の中へ入って行った。
「この分なら指導教員の私としても一応合格点を出してもいいと思っていますが……」
「フォフォ、そうか。けっこうけっこう。では4月からは正式な教員として採用できるかのう」
このぬらりひょんみたいな爺が女教師と話していた。
「ご苦労じゃった、しずな君。おや? どこじゃ?」
「上ですわ学園長」
握手と見せかけて女教師の胸に顔を埋めるエロボケかます妖怪爺。
ハッ、あんなガキを正式な教員として採用とはな。くらだらねぇ話を聞いちまった。時間の無駄だったな。そう思い部屋から出ていこうとすしたが―――。
「―――ただしもう一つ」
「―――は?」
「彼にはもう一つ課題をクリアしてもらおうかの。才能ある立派な魔法使いの候補生として」
何やら興味深いことを話し出したので少し羽を止める。
『ふ~ん……』
この短い期間でその課題をどうやってクリアするつもりなのか。その課題とやらを訊いてちょっとだけ興味が湧いた。
だがそんなことに付き合ってやるつもりは一切ない。失敗して俺の前から消えてくれるならそれでもいい。俺が超えるべき壁は英雄の息子じゃなかったってだけの話だ。
学園内を飛び回りやっと職員室を見つけ侵入する。が、やっぱり日があるうちの職員室には魔法使いの教師共が多い。
『この状況で盗みは厳しいか』
仕方ない、作戦変更だ。今のうちに安全圏を用意して夜に再び盗みに入る。
そうなるとかなり時間が余るな。魔法使い共の朝から重要な魔法関係の話はしないし、放課後では流石に人が多くて見つかるリスクが高い。
授業は分身に任せてあるし今日はサボるか。部屋には水埜を寝かせてあるから外で時間を潰すか。
『分身と本物はどこで入れ替えようかな~』
夜、再び侵入し『
ばっちり把握済みだ。
『答案用紙答案用紙……あった』
『
目当ての物を盗み出したことだしさっさと退散するか。その帰り際、英雄の息子と水埜のクラス数名がどこかに行くのを目撃した。こんな夜中にどこに行く気だ?
少しばかりストーキングしてみると、どうやら図書館島に向かっているようだった。それも裏手の出入り口から。
『何をする気だ~~?」
英雄の息子が教員に正式採用される為の条件、期末で学年最下位を脱出させること。
水埜のクラスの成績をのぞき見した感じ全体的に中の下。学年トップクラスが3人に100位以内も少数いるが、学年最下位クラスも5人いる。ちょっとばかしカリキュラムを作って下を上げればブービーとの点数差から考えて最下位脱出はそこまで難しくないかもな。
ガキらしい短絡的な発想で頭が良くなる禁断の魔法でも使うかと思ったりもしたけどな。
『だが、碌でのないことをしようとしてるのは間違いないな』
こんな大切な時期に、最下位組を連れて図書館島なんかに忍び込む時点でお察しだ。
大方、何かしらのズルをしようとしてることには違いないな。どっちかと言うと生徒が自主的でガキが連れてこられたって感じだが、それを止められないならどの道教育者失格だ。
『どうせならそのまま死んでくれりゃいいんだけどな』
まっどうせ全員無事に帰ってくるんだろうけどな。
案の定3日程行方不明になったが、試験当日にはしっかりとテストを受けに現れたらしい。水埜の報告では遅刻し別室でテストを受けたらしい。
そしてクラス成績発表日、合計ミスのハプニングもあったが、水埜のクラスである2-A組がトップに躍り出た。一体どんなズルを……いや、水埜の話ではクラスの士気が異様に高くなっていたと訊いた。これも勝者ゆえの寵愛だろう。実際は何もしていない神輿になるだけでもな。
◆◇◆◇◆◇
学期末テストも終わり終了式に差し掛かった。あれから止様から指示なく寂しい日々が続く。終了式が終わったら何か命令してくださるかな~。
「おはようございます、水埜さん!」
元気に走る子供先生に挨拶され朝から気分を害される。止様が嫌いな人は私も嫌いだ。そもそも私はこの町全般がどうしようもなく嫌いだがな。
朝礼で子供先生が正式に麻帆良学園の英語科教員となったことと、3月から「3ーA」の担任になる予定が発表される。つまり今後も麻帆良に残り、私の担任になるということだ。本当に朝っぱらから気分は最悪だ。
「というわけで2ーAの皆さん、3年になってからもよろしくお願いしま――――す!!」
教壇で笑顔で頭を下げる子供先生。
「よろしくネギ先生――――っ!」
「先生こっち向いて、こっち――――っ!」
それに騒ぎ立てるクラスメイト。
「ほら見て~~~っ、学年トップのトロフィ~!」
「おお~~~っ! みんなネギ先生おかげだね―――っ!!」
「ネギ先生がいれば中間テストもトップ確実だ―――っ」
学年トップのトロフィを掲げて子供先生を賞賛する声々。完全に神輿に担ぎ上げられていな。そいういう意味ではクラスの団結力は高まったからおかげってのもあながち間違いじゃないかもな。
10歳のガキが教師とか労働基準法とかはもうツッコむ気も起きない。
「ハイ、先生ちょっと意見が――」
「はい鳴滝さん」
双子のちびっ子の片割れが手を上げ言う。
「先生は10歳なのに先生だなんて普通じゃないと思います」
おっ、そこにツッコむか!? 止様の話では認識阻害の結界の影響を受けているハズ。なのにそこを指摘できるというのはもしや―――。
もう片割れのちびっ子も立ち上がる。
「えーと」
「それで史伽と考えて案ですけど―――今日、これから全員で『学年トップおめでとうパーティー』やりませんか!?」
前言撤回。揃いも揃って認識阻害で頭パーだ。もしかしたら元々頭パーな奴らの集まりなのかもな、このクラス。前振りと脈略が全くない。
「おー! そりゃいいねえ!」
「やろーやろー。じゃ暇な人、寮の芝生に集合ー」
大喜びするクラスメイトを尻目に冷ややかに見る。このクラスの空気は全くついていけない。今ではついていこうとも思わないが。
「どーしたんですか、長谷川さん。寒気でも……?」
様子のおかしい長谷川に声をかける子供先生。
「いえ、別に……。―――ちょっとお腹が痛いので帰宅します」
「え……あ、ちょっ……」
見るからに仮病で席を立つ。長谷川のそういうところは少―――しだけ評価している。 私と同じ麻帆良の常識と普通がかけ離れていることに気づいてる側だ。かと言って別に仲良くなりたい相手でもない。うっとおしくないというだけで好ましく感じてるだけだ。
「ああ、千雨さんですか。いつもああですから放っといていいですから、ネギ先生」
「それより寮行ってパーティ始めよ、ネギ君」
去った長谷川を心配そうに眺める子供先生。私にとっちゃどうでもいいことだらけだ。
――私も帰るか。
そう思って席を立つと、クラスの中でも一番うっとおしい奴が声をかけてきた。
「水埜さんは来るネ?」
超鈴音。なぜか入学当初から時々わざわざ声をかけてくるうっとおしい奴。どれだけ無視しても冷たい対応をしても突っかかって来るのをやめない。成績はダントツに良いが、なぜ私にしつこく声をかけて来るのかは謎だ。
「―――いかない」
「そんなこと言わないで来てアルネ」
いちいち手を引っ張るな。なんで私に関わろうとするんだ? 他のクラスの奴は仲良くする気ないとわかったら離れたぞ。
「私はできれば水埜さんにも来てほしいネ。気に入らなければそのまま帰ってくれてもかまわないアル。だからネ?」
「―――ハ~~~。わかったよ。義理で行ってやる」
可愛い子ぶって小首を傾け言う。本当になんだコイツは。
「私の店の新作料理も披露するから楽しみにして欲しいネ!」
私が了承するとやっと視界から消えてくれた。顔さえ出せば文句はないだろ。ちょっと顔出したら即帰ろう。
ノロノロと遅れて行くと、ちょうど子供先生がウサギのコスプレした変態を連れてやって来た。誰だあれ?
「遅いよ先生――」
「あれ―――? 誰そのカワイイ子は」
コスプレ女の登場に視線はそっちに集まって私には気づいていないようだ。下手に絡まれたくなかったからちょうどよかった。偉いぞコスプレ女。
「ちょっとネギ、この子もしかして」
神楽坂がコスプレ女について何か気づいたようだ。知り合いか?
「ちょっと先生! や、やっぱり返してよメガネ!」
「あっ……」
コスプレ女が子供先生からメガネを取り返すと、タイミング悪く子供先生がくしゃみをし、コスプレ女のバニー服が一瞬で花びらへとはじけ飛んだ。またやりやがったなエロガキ教師。つかあのコスプレ痴女、長谷川じゃね?
「……ってアレ? あんんた長谷川じゃ……?」
「ち、ちがっ」
「ホントだ! 千雨ちゃんだ―――っ」
「違うっ!! 長谷川なんて女は知らね――っ。一切関係ないってば―――――」
「千雨ちゃんヘンタイ―――」
長谷川のコスプレ趣味のおかげで一騒ぎ起きて好都合だ。
とりあえず義理は果たした。ここで帰っても文句を言われる筋合いはない。
「あ―――っ、水埜さんも来てくれたんだ!!」
「ゲッっ!!」
長谷川の変態露出が思いのほか早く鎮静化したため私の方へ注目が向いてしまった。
落ち着け、逆に考えるんだ。騒ぎが収まって私の方へ注目が向いたのなら、逆にもう一波乱起こればいい。その原因をちょいと用意してやればいい。
『ペンタクルス・アントクイーン』のゴキブリを数匹クラスの輪の中に飛ばしてやった。突然の最も不快な害虫の乱入に阿鼻叫喚。このどさくさに紛れて去らせてもらう。
「べーだ」
去り際に混乱するクラスメイトにあっかんべーしてやった。
◆◇◆◇◆◇
春休みに入ってやっとしばらくはクラスの馬鹿共と顔を合わせなくてもよくなった。あの不快な喧騒を耳にしなくてよいと安堵するが、日のあるうちに外を歩けばクラスメイトと子供先生の騒ぎが耳に入る。
寮に籠って耳を閉ざしていればいいのだが、『ペンタクルス・アントクイーン』の能力向上の一環として図書室で蟲について調べなくてはならないため、どうしても数日に一度は図書館まで足を運ばなければならない。その時にはどうしても耳に入るし、なぜかクラスの誰かと顔を合わせてしまう。運が悪いと子供先生や神楽坂辺りとバッタリしてしまうことすら。
日が落ちると外に出てスタンド操作の訓練に入る。この春休みの間に『ペンタクルス・アントクイーン』を完璧に制御できるようにするのが宿題。
あの日から能力を磨けと言われたきり止様からの連絡がない。それがたまらなく寂しい。ああ、願わくば一言お声をお聞かせください。
満月の光に照らされた桜通りを歩き愛しのあの御方を考えていると、何かの気配を感じた。
感じた視線の先。そこには真っ黒なボロ布に包まれた小さな女が一人。
「27番、水埜晴花か……。悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ」
そいつは私に襲い掛かって来る。が、奴が私に今にも噛みつこうとする必殺の距離に近づいた瞬間、罠に飛び込んだ奴に大量の攻撃性の高い蟲で反撃してやった。
自分が絶対的優位と勘違いし罠に飛び込んだ。最も無防備になる瞬間への『ペンタクルス・アントクイーン』はガードすらできまい。
おっと逃がすかよ。離れようとする奴の腕を掴み、腕伝いに多種な毒蟲を送り付けてやる。その中でとっておきは火蟻というアルカロイド系の毒と強力な針を持つ凶暴なアリだ。
「うぐっ!!?」
残念ながら刺されても死ぬことは稀だが激しい痛みや痒みを伴う。数分もすれば呼吸困難や動悸、意識障害を引き起こせる。スタンド能力で生み出した蟲だから本物とはいかないが、勉強によってかなり本物に近い毒性を再現できてるはずだ。
他の毒蟲もそこそこ効果はあるだろう。火蟻に一番集中したから他の毒蟲の毒性再現は甘いだろうけど。
「あまり手荒な真似はするつもりはなかったのだがな……!」
女は止様には遠く及ばない殺気を感じ取り手を離す。
薬品のような小瓶を投げ短い詠唱と共に氷が襲い掛かる。初めて見るがおそらく今のは魔法。こいつ……やっぱり魔法使いか……!!
だが! その程度の魔法なんて『ペンタクルス・アントクイーン』で簡単に防げるんだよ!
「くっ――驚いたぞ。ただの蟲ではないな?」
魔女のとんがり帽子が取れて女の素顔が良く見える。どっかで見たことある顔だ。誰だっけ? まあ麻帆良は魔法使いの巣窟らしいし、見知った顔が実は魔法使いだったとかあるだろう。
それよりもスタンドを見られたこいつを見逃していいのか? 私の『ペンタクルス・アントクイーン』の姿は蟲の集合体。ぶっちゃけ蟲を操る魔法とでも言ってもバレない。だからといってスタンドを魔法使いのクソ野郎に見られたのには違いない。―――殺しておくか?
「何者だ、貴様?」
答える代わりに親指だけ下に向けるジェスチャーで返す。それと同時に毒性の羽虫を大量に飛ばす。
その中で半分以上を占めるのはオオスズメバチ。日本で最も強力な毒を持つ蜂で二度刺されればアナフィラキシーショックを引き起こしショック死させることもある。
集まり大音量となった危険な羽音が女と私を取り囲む。ここで殺す、絶対に逃がさない。
女は薬品を使った氷の魔法で蟲を散らそうとするが、止様に与えられたスタンドという力の性質は魔法と相性がいい。その程度じゃ蟲一匹も殺せないぜ。
「これは流石に多すぎるな。さらに魔法を弾くか……。少々まずいか」
大量の蟲に阻まれて逃走できず、魔法で蟲を潰すこともできない。ならば打開策は私を直接狙うしかないだろう。いくら魔法で殺せなくても所詮は蟲。力業で突破するのは簡単だ。それこそが私の狙い―――。
そうなれば何としても捕まえてさっきと同じように毒蟲を仕掛ける。だが今度は火蟻のような生易しいものじゃない。ギネスに認定される程の強力な毒を持つ蜘蛛、クロドクシボクモを噛ませる。一匹で80人を殺せる毒は成人男性をも25分で死に至らしめる。
――私の勝利は出来上がってる。後は得物が罠に飛び込むだけ。
もっとも、もっと派手な魔法が来ると警戒していたがどうやらそういうタイプじゃなさそうだ。このまま息の根を止められれば簡単に済むんだけどな。
「さあ、どうする?」
――さあ、来い……!!
「ふふ……これで勝ったつもりなのか?」
だがそこへ何かが女魔法使いの隣に降り立ち、蟲の包囲網から女魔法使いを脱出させてしまった! クソッ、仲間か!? 仕方ない、二人纏めて殺すか。
「茶々丸……」
ロボット……? 確かあいつはクラスにいたロボ。あいつも魔法使い……ってのは流石に違うか。現代の魔法使いはロボットがついてるってわけか。
そのロボットが素早く私の眼前に降りて来た!
「申し訳ありません、水埜さん」
大量の蟲で攻撃するがやっぱりロボットには蟲は効かない。
ロボットは軽めに強く私を小突いてきた。ロボなりに手加減してるっぽいが普通に痛い。ロボに蟲は効かない。だがそれで大人しく負けを認めるかよ―――!!
「『ペンタクルス・アントクイーン』ッッ!!」
一点集中で大量の甲虫の噴出で物量の力業でロボを弾き飛ばしてやった! だがロボットは平然とした様子で女魔法使いのもとへ戻って行った。ダメージはいかチクショウ。
「ハァ……ハァ……よくもやってくれたな、水埜晴花。お、覚えておけ……」
だが女魔法使いには毒蟲の毒がしっかり体に廻っているようだ。顔色も悪く息も荒い。意識も正常ではなさそうだな。
二人は高台から飛び降り姿を消してしまった。スタンドを使ったのに逃がしてしまった。追いかけてトドメを刺したいが追い付けないだろう。そもそもロボットを殺す手段が私にはない。黙って見逃す以外の選択肢を取れない。
だが今考えれば殺すのは少し悪手だったようにも思える。こんな道中で殺せば死体の処理に困る。
断片的とはいえ私のスタンドの情報を与え逃がしてしまったが結果的にこれでよかったかも。
しかしこうなると私は魔法使い共から目を付けられることになる。そうなればますます止様と会える時間がなくなる。そう考えるとかなりムカついてきた。せめて『ペンタクルス・アントクイーン』の毒の痛みだけでもたっぷり味わえクソが。