魔法先生ネギま!悪の英雄章   作:超高校級の警備員

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 あんまりウケが良くなかったので消そうかと思いましたが、もうちょっとだけ様子見してみます。


第四話 はみ出し者

 新たなスタンド使い、水埜晴花の発見。これはとんでもない発見だ。まさか一般人にスタンドが発現するなんて、それも俺のスタンドによって。

 ジョジョの奇妙な冒険ではスタンドを発現するには遺伝か矢による発現が必須のはず。この世界に俺以外のスタンド使いがいないことを前提とすると、当然スタンドの矢もあるはずがない。ならば俺自身が生きたスタンドの矢のような役割もあるのか。

 

「それじゃこの問題、茶夏(チャカ)答えて見ろ」

「はい」

 

 理科の先生とは思えない筋肉をした先生。一応白衣を着ているが全く似合わない。てかこの人の見た目としゃべり方、誰かに似てるんだよな。

 

「かかったなアホが! 小腸で吸収された栄養分は肝臓から、血液で全身の細胞に送られる。また、肺で吸収された酸素も血液によって全身の細胞に送られる。細胞では、栄養分を酸素で水と二酸化炭素に分解してエネルギーを取り出す。このとき出た二酸化炭素は不要なので血液によって肺に運ばれ体外へ放出される。これが呼吸である」

 

 無駄にひっかけが大好きなめんどくさい先生の授業。確かにひっかけられた部分は記憶に残りやすいけど、俺授業出る日が少ないから頭に入りにくい。分身のノートにはその日出たひっかけとかも書かれてるけど、あんまり読んでない。

 

「それじゃ呼吸に関してはこのあたりにしておこう。次は血液と排出についてだ」

 

 三学期になって理科も復習の段階に入っている。普段授業を聞けてない俺にはありがたいが、別のことが気になって全く頭に入ってこない。

 ノートに軽く落書きする手を止めて窓の外を見る。いい感じに雲がかかっていい天気だ。

 ここから女子エリアまでの距離だと……うん、戦闘能力はなくなるけど可能だな。

 

灰の塔(タワーオブグレー)

 

 心の中で俺の生命のビジョンを出現させ、窓を透過して外に飛ばす。この教室内でスタンドが見える奴がいないのは確認済みだ。初日にしつこいぐらいに『灰の塔(タワーオブグレー)』を教室内に飛ばしたからな。見える奴がいたら絶対にうっとおしく感じて嫌な顔しただろうし。

 遠距離操作型の『灰の塔(タワーオブグレー)』なら本体の目が届かない場所でもスタンドの目で見ることができる。余計な寄り道はせずにまっすぐ目的地へ向かう。確か2年A組とか言ってたよな。まあ間違ってたら他を探せばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子エリアから女子エリアまでの距離、正直ちょっと舐めてたわ。昆虫が飛ぶには距離が長すぎて二度も休憩をはさんでしまった。遠距離になるとスタンドパワーも弱くなってしまうしな。さらに2年A組とわかっても、内部を知らないから探すのにも一苦労したぜ。

 やっと二年A組の水埜春花が座っている窓側まで辿り着いた。教室で内部から外に出たのとは逆に今度は外から壁を透過して水埜の前に姿を現す。

 

「え!」

『黙ってろ』

「どうしたんですか水埜さん?」

「いえ、なんでもありません」

 

 なんか今妙に若い男の声がしたのが気になるが、今はそれよりも優先することがある。

 

『質問は一切なしで黙って聞け。俺は長距離飛行で疲れてんだ、だからここで休ませてもらうぜ。後、スタンドを一匹だけ出せ。小さいの一匹程度なら誰にもバレないだろ。出せばスタンド同士で会話ができるはずだ』

 

 水埜は俺の言葉に従いカブトムシの雌を自分の服の袖の中に出現させた。俺以外のスタンド使いに会った事ないからわかんないけど、たぶんこれで念話ができるはず。

 

『止様、なぜここに?』

『昨日の今日だからな、ちょっと心配になってよ。何かスタンド関連で何か問題とかないか? 誰かにバレそうになったとか、時々暴走するとか』

『いいえ、今のところ暴走などなくコントロールできております。あれから一度もスタンドを出してないので誰にもバレていません』

『そうか、それならいい。だがスタンドのコントロール訓練はしておいた方がいい。特に群体型は慣れておかないと問題がある。とりあえず今日の夜にでも少しだけ見てやるよ』

『はっ、ありがとうございます!』

 

 ふぃ~要件も終わったし休憩休憩。もう少しして体力が回復したら本体の所に戻るか。ああ、来た道戻るの怠いな~。

 羽を休ませて水埜の机の上でだらける。持続力はまあまあ高い方だからもうしばらく本体から離れても大丈夫だろう。それにしてもさっきから英文を読み上げてる先公の声が気になる。無性に気になる。しかもちょっとムカつく。

 

『おい、水埜。頭の上乗るけどじっとしとけよ』

『え? あ、はい』

 

 机の上でだらけるのをやめにして水埜の頭の上へ飛んでいく。この位置なら先公の顔も見える。さて、ガキみたいな声した先公の顔は……。

 

『おい』

『はい!』

『なんでガキがここに居るんだ?』

『私もよくわからないのですが、昨日からこのクラスの担任になったんです』

 

 妙に若い声の先公だと思ったら、なんと昨日見た魔法使いのガキじゃねえか。なんでこんな場所に、と言うかなんで先生なんてやってんだよ。ガキに先生やらせるとか何考えてんだ。法律的にアウトだろ。

 

『まったく理解できん。年下のガキが中学生に何を教えんだよ』

『そうですよね! おかしいですよね!』

『当たり前だ』

 

 とは言ったものの、ガキの授業を聞いてる限りは一応教師の真似事はできてるようだ。まあどんなボンボンのガキか知らねえが人様の人生の一端を担うんだからそれくらいは当然だよな。

 それでもこのガキに教師が務まるなんてこれっぽっちも思わんがな。魔法使いってのは俺が見た限りどいつもこいつも責任ってもんを知らない。正義を名乗っておきながら都合が悪くなれば魔法で人の頭を平気でいじくる。人の頭をいじくるのがどれだけ危険な行為かわかってない。

 そして最も厄介なのは、自分たちを立派な魔法使いと言って他を見下している。魔法を知らない俺たちを陰から支えて助けていると勘違いしている。本当は悪質なマフィア並みの劣悪な支配以外の何物でもない。まあ全員がそういうわけじゃないのは知ってるがな。

 

『それじゃそろそろ帰るわ。くれぐれもバレるんじゃねえぞ』

『はい!』

 

 壁を透過して来た道を戻る。あの距離を再び飛ぶと思うとめんどくさいけど仕方ない。もう暇つぶし感覚では絶対に行かない。

 しかし、水埜のあの俺に対する忠誠心は一体何なのだろうか。出会って一日程度の相手に向ける好意ではない。

 だが、あの忠誠心は使える。少々不気味ではあるがこの運命を利用しないのはあまりにももったいない。天からの贈り物、ありがたく受け取らせてもらおう。

 

『次の授業は……ゲゲッ! 英語だと!? 眠れないやないか!』

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 そして夜。

 あらかじめ女子エリアに侵入して手ごろな場所に結界を張っておいた。あまり強い結界ではないが、そこがミソ。監視カメラの如き魔法使いたちに怪しまれず目を掻い潜るには逆に強すぎると危険だからな。そこに水埜を呼び出した。

 約束の時間よりだいぶ早く来た水埜はおびえる顔でやって来るや否や。

 

「申し訳ございませんでしたー!」

 

 いきなり俺に土下座をした。

 ちなみに俺は当然本体は来ずにスタンドだけ。危険は最小限に抑えるためだ。

 

『……おい、一体どうしたんだよ。いきなり土下座されても理由が見えてこないんだが』

「……グス、実は……」

 

 水埜の話を一言でまとめると、スタンドがあのガキにバレた。

 詳しく話を訊くと、ガキがくしゃみをした瞬間隣の女子生徒の服がはじけ飛び自分はペンタクスル・アントクイーンが防御したとか。

 

『それはおそらくスタンドの自動防御が発動したのだろう。スタンドは可能な限り本体を自動で守る。おそらくそのガキが何か魔法を暴発させたのが原因だろうな。その隣の生徒の服がはじけ飛んだのがその証拠だ』

 

 問題なのはその後の話なのだ。スタンドがバレたショックでペンタクルス・アントクイーンを出現させたままそのガキを追いかけたと。結局逃げられてしまったがそのせいで蟲と自分が密接な関係ということがハッキリとバレてしまった。不幸中の幸いはそのガキと一人の女子生徒にしか見られてないということだな。

 

「本当に申し訳ございませんでした!」

『バレたことはもう仕方ない。だがその力の正体はバレてない、今後もしっかりと隠せ。あとはそのガキから何か訊かれても何も話すな』

 

 疑似スタンドはスタンドと違って悪魔と言う実態を持っている。いつかはバレると思ってはいたが思った以上に早かったな。

 

『だが他の魔法使いにバレては少々面倒だ、その先公への口止めだけはしっかりしておけ』

「はい、了解いたしました!」

 

 今日の事とはいえ既に時間が経っている、もしかしたらもう報告されてしまってるかもしれない。しばらくは水埜に監視の目が付いていないか灰の塔(タワーオブグレー)で確かめる必要があるな。しばらく働かなくていい収入があって本当によかった。

 

『それじゃ、スタンドの訓練を始めるか』

「はい!」

 

 涙をぬぐってやる気十分な顔になる水埜。スタンドは精神の力が非常に重要だから落ち込んだままじゃ困ると思っていたが、何とか持ち直したようだな。

 

『まずは水埜のスタンドの特徴を調べる。手始めになるべく多くの種類の蟲を出せ』

「はい」

 

 水埜の手のひらから多種多様の蟲が出現する。

 蝶やホタルなどの綺麗な昆虫、カブトムシやクワガタムシなどのカッコイイ甲虫、蚊やハエなどのうっとおしい虫、ムカデやスズメバチなどの危険な害虫などそれはもう様々。それも一匹ずつじゃないからかなり多い。

 

『数の微調整はできないようだな』

「す、すいません」

『気にする必要はない。そんなのは特に問題にしていない。それより他の蟲は出せないか? 例えば、空想の蟲とか』

「……ダメです、出せそうにありません」

 

 できればいいなと思って訊いてみたがやっぱりだめか。となると、水埜のスタンドは大量の蟲の形をした群体型。特殊能力はなさそうだ。

 

『では次にどの程度操作性があるかを調べてみよう。そこの木の葉っぱだけをスタンドで攻撃してみろ』

「はい、わかりました」

 

 水埜は自分のスタンドに木の葉っぱを攻撃するように指示を出す。しかし、大量の蟲たちは木の葉っぱを攻撃せずに俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

「え!? な、なにをしてるの! そっちじゃない!」

 

 水埜が静止させようにも素早い蟲は既に攻撃を開始している。だが、俺の灰の塔(タワーオブグレー)の素早さはスタープラチナでも捉え切れない。ただの蟲に後れを取る理由がどこにあろうか。全部返り討ちにしてやったわ。

 

『どうやらペンタクルス・アントクイーンは近くにいる生物を優先的に無差別に襲い掛かるようだな』

 

 再び地面に頭を擦り付けて深々と土下座をかます水埜。話が進まないからさっさと立ち上がらせる。

 

『今後どうなるかはわからんが、とりあえず現段階で水埜がコントロールできるのは攻撃のオンオフくらいのようだな』

「そ、そうですか……」

『しかしそれも考えようによっちゃ利点にもなる。群体型の最大の利点はその名の通り数にある。自動型なのならば射程距離も相当長いだろうし、水埜が倒れない限り蟲は敵を攻撃し続けるだろう。それも蟲の知能となれば大抵の相手には臆せず向かっていくだろうしな』

 

 それからいくつか調べていくうちに他にもいろいろわかった。

 まずは蟲の攻撃性は蟲の種類にもよる。ゴキブリやスズメバチなど攻撃性の高い蟲はすぐに俺に襲い掛かる。しかし、芋虫や蝶などの危険のない蟲はちゃんと葉っぱや花の方へ向かった。つまり、こいつらは蟲としてものを喰らうことに執着してるに過ぎない。スタンドでも所詮ただの蟲と言うことか。

 その攻撃力もスタンドパワーで多少上がってるとはいえ蟲の域を出ない。

 同じ群体型のハーヴェストやバッド・カンパニーには攻撃力は劣るだろう。間違いなく破壊力はEだろうな。しかしこうも単純な形を成しているならその数は圧倒的に勝るだろう。おそらくハーヴェストの倍の1000、もしかしたらもっと多いかもしれない。

 数と低い知性から生まれる凶暴性は相手を死に追いやるには間違いなく大きな脅威になるだろうな。

 

「私は、この力は、止様のお役に立てますでしょうか……?」

『ん?』

 

 不安そうな表情と声色で俺に問いかけてくる。こいつ、普段はツリ目で目つきが悪いがこうもしおらしくなると結構かわいいやないか……いや今そんな事思ってる場合ちゃうわ。

 

『本来のスタンドと違い一般人にも認識されてしまう疑似スタンドでは、汎用性の低い水埜のスタンドは使いにくいだろう』

「そう……ですか」

『しかし、役に立たないわけじゃない。そもそもスタンドとは誰かの役に立つための道具じゃない。自分の身を守る、運命に立ち向かうための力。それがたまたま誰かの役に立てるかもしれないということだけだ』

 

 こいつの心境はまるでわからんが、俺に対する忠誠心と今の言葉で推測はできる。ならば俺がする行動は一つ、それを利用することだ。

 

『水埜、俺にはどうしても成し遂げたいことがある。それは酷く困難な道で、辿り着いたところで意味があるかはわからない。ちっぽけな満足感を残して多くの人を不幸にするだけかもしれない』

「例えそうだとしても私は止様のお力になりたい。止様に出会えなければ、私は自分自身の価値をずっと見つけられないでいたでしょう。止様は、私の救世主なのです。止様の為なら自分の不幸も、他人の不幸も(いと)いません」

 

 水埜は灰の塔()に跪き忠誠の言葉を述べた。まさかこれほどの忠誠心とは、まさに妄信の極みと言えるだろう。しかし俺にとっては都合がいい。このままその妄信、利用させてもらおう!

 

「止様の望み、私にも教えてください。どんな願いであろうと必ずや力になりましょう」

『いいだろう、教えてやろう。俺の願いは勝利すること。この世の中には理不尽と言えるほど不公平な事柄があふれている。生まれの貧富の差、愛情の差、力の差。しかしそれらは不平不満を言っても始まらない事ばかり。完全な公平など世の中には訪れない。

 しかし、その中で俺が唯一許しがたい差がある。それは運命に愛された者だ。この世に神がいるのなら確実に神に愛された者、物語で主人公として勝利を約束された者。俺はそんな奴らに勝って証明したい、地を這いずる敗者も天上の勝者に勝てるということを。例えどんな手段を使ったとしてもッ!』

 

 長々と演説をかましたが別にそんな大層な理由で勝ちたいわけじゃない。ただ本当に本能的に勝ちたいと渇望してるだけだ。しかし、自分でもしゃべっているうちに納得してしまう。もしかしたらこの感情の理由はそこにあるのかもしれない。もっともらしい言葉を並べたが、それが俺の本心であるかは俺でもわからん。

 俺の演説に聞き入っていた水埜は突然大きな声をあげる。

 

「す、素晴らしいお考えです! 止様の望みにぜひ私の力もお使いください」

『地を這いずる敗者が天上の勝者に勝つには生半可なものではない。それこそ殺しなどさも当然のようにあるのだぞ? そもそも最低でも天上の勝者は負かして殺す』

「止様の栄光に必要であれば私は自分の親すら殺してみせます。先ほど申し上げた通り私は誰の不幸も厭いません。止様を除いて」

 

 自分の親すら殺すか、頼もしい覚悟だ。だがその覚悟が本物かどうかはまだまだわからんところだな。覚悟を示させるために本当に殺させるのも手ではあるが、それによって得られるメリットよりもデメリットの方が目立つ。そもそも一般人の水埜にそこまで求める必要もない。

 

『頼もしいじゃないか。それじゃおまえにも協力してもらおう。幸いなことに俺が最も勝ちたい天上の勝者はおまえのすぐ近くにいる』

「私の近くに止様の最大の敵が?」

『そうだ、おまえと俺の前に突如現れた若き天上の勝者、ネギ・スプリングフィールド!』

 

 昼間に頑張って職員室で調べた結果わかったガキの名前。なぜ10歳のガキが麻帆良学園で先生をしているのかはわからなかったがそれはまたゆっくりと調べればいい。

 それにしてもスプリングフィールドか。なんかどっかで聞いたことあるような名だな。

 

「ッ! ならば私が、一度スタンドを見られたからと言っても生徒になら油断します。私がネギ先生を殺してみせます!」

『ダメだ』

 

 強い忠誠と意思の籠った視線を俺に向ける。だがな、そうじゃないんだ。俺がおまえに求めるのはもっと安全で残酷な方法だ。

 

『俺の手、もしくは俺の采配で勝つことに意味がある。ネギ・スプリングフィールドには俺の手の上で敗北を与え死んでもらう。勝手な行動は起こすな』

 

 確かに現段階でネギ・スプリングフィールドを殺すのは麻帆良内だとしても簡単。水埜なら生徒という立場を利用して懐からの不意打ちをかませる。俺なら証拠も残さず始末できる。しかし、失敗のリスクが大きい。

 水埜は俺の素顔もスタンドについても知りすぎてしまっている。負けて捉えられてしまった場合漏れる情報が大きすぎる。しかも殆ど一般人と変わらないため直前で躊躇したりそもそも勝てるかも怪しい。

 俺の場合は躊躇こそしないが今までの経験上こういうことをすれば必ず負ける。俺が動くときは相当慎重にならなくてはならない。

 

『とりあえず水埜は情報を漏らさないようにだけ注意していろ。あとは適度にスタンドの訓練をしながら日常に戻れ』

「は、はい」

『水埜、確かに今はおまえの力を必要としていない。だが必ずおまえの協力を必要とする時が来るだろう。その時は力を貸してほしい』

「もちろんです!」

 

 水埜の機嫌が直ったのでスタンドの訓練を続きを行う。しかし精密性のない群体型のスタンドではできる訓練も限られるのであまりはかどりはしなかった。

 麻帆良学園は全寮制なのであまり怪しまれないように早めに水埜を寮に返した。さてと、これからどうするかな。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 ―――水埜とネギの出来事―――

 

 

 

 朝の授業後、水埜は夜の止とのスタンド訓練が待ち遠しくて珍しくウキウキした様子で帰ろうとしていた。

 

(止様とスタンド訓練。それも二人っきりで……うふふふ♪)

「どうしたアルか晴花珍しくご機嫌ネ」

「……超」

 

 ご機嫌だった水埜の顔が一瞬で不満顔へと変貌する。

 

「……なに?」

「いや、別に用があったというわけじゃないアルけど……えっと……ゴメン」

「……あっそ」

 

 目つきが歩く不愛想でクラスメイトと馴染もうとしない水埜によく話しかけてくるのが超鈴音。テンションが高い2ーAでも人を拒絶するオーラを発して孤立気味の水埜に用もなく話しかけるのは彼女くらいである。

 水埜からすれば馴染む気がサラサラないので好意的であろうとしつこく話しかけてくる超のことを少しうざく感じている。

 時計を3秒ほど見て水埜は席を立って教室を出る。

 

「……は~」

 

 教室を出てどこかに行こうというわけではない。ただ教室にいるのが苦痛になったから人気の少ない廊下をぶらぶらしようと思って出ただけ。

 行く当てもないので薄暗くて人のいない図書館で次の授業まで休むことにした。

 

(あ~あ、このまま次の授業さぼっちゃおうかな~……)

 

 再びご機嫌な様子で一人でのびのびしていると、突然図書館のドアが開く音が聞こえてくる。さらに鍵まで閉めた音まで。確実に面倒ごとが起きたと感づいた水埜は、

 

(……まあいっか)

 

 隠れるでもなくただただ何もせずのんびりすることに。幸い向こうもこちらの存在に気づいていない。予定通り静かにこの場所に残ることに。

 

「あ、ありがとうございます」

「いえ……鍵をかけたのでしばらくは大丈夫だと……」

(この声は、うわっあの子供先生かよ)

 

 面倒ごとが安息の時間に飛び込んできたと嫌そうな顔をする水埜。絶対にかかわるもんかと机に突っ伏して目を閉じる。

 

「わ―――――!」

「きゃあっ」

 

 バラバラバラ!

 

 本の山が崩れるような音が静かな図書館に鳴り響く。

 

(無視無視)

 

 ドサドサドサー!

 

 再び本が崩れる音が鳴り響く。それも水埜は無視して目を閉じる。

 

 バキィッ!!

 

「何をやっとるか――――ッ!!」

「わ―――――っ!」

「ギャ――——!?」

 

 今度はドアが強い力でブチ破られる音が。流石にこの音は無視できなかった水埜は飛び起きる。そして目を開けた先には扉の片方が自分に向かって飛んできていた。

 

「え? あっ! ええっ!!?」

 

 とっさにその場でしゃがんで両腕で頭を守る。逃げればよかったもののとっさのことで身を守ることを選択してしまう。手で防いだくらいでは怪我は免れない。だが、水埜が怪我を負うことはなかった。

 

「……ん? あっ」

 

 なぜなら大量の蟲が水埜の盾となって飛んできた扉の破片を防いでくれたから。

 自分の身が助かったと安堵すると同時にこれはまずいとすぐさまスタンドを自分の中に戻した。

 幸いなことに図書館内は薄暗く蟲は黒色だったためバレずに済んだ。

 

「あ、水埜まで! ゴ、ゴメン! 怪我はない!?」

「ないけどもうちょっとで大けがだったわ!」

 

 若干キレ気味で怒鳴る水埜。それに対して申し訳なさそうな表情をするアスナ。

 好きじゃないクラスメイトと先生が来たことで騒がしくなった図書館から出ようと二人のいる出入り口の方へ向かう。

 

「あの、水埜さん、これは……」

「説明はいらない。知りたくもないわ」

 

 ネギがあたふたとして何とかごまかそうとするのを一掃して図書館を出て行こうとする水埜。しかしネギの目の前あたりでピタッと足を止めた。

 

「スンスン、何この甘い匂い?」

「甘い匂い? そんなのしないけど……?」

 

 ネギの近くで水埜は何やら甘い匂いを感じ取るが、アスナは水埜の言う甘い匂いを感じていない。それがネギの息から漏れる惚れ薬の匂いと気づく者は誰もいない。

 水埜はこの長時間嗅いでいると気分が悪くなりそうな甘い匂いの出所が気になって立ち止まった。だがアスナとネギが暴れまわって舞った埃くらいしかわからない。

 

「ハ……ハ……ハックション!!」

 

 ズバアッ!

 

 ネギのくしゃみと共にあたりに強い風が吹きアスナの服が吹き飛んだ。

 

「ひゃぁっ」

「ご、ごめんなさ……い……」

「あ、あんたま……た……」

 

 ネギはアスナの服をまた弾き飛ばしてしまったこと、アスナはネギがまた自分の服を吹き飛ばしたことを言おうとしたが、それよりも異質なものに目を奪われた。

 

「あ、ああ……」

 

 水埜の体を守るように覆う大量の蟲。カブトムシやテントウムシコガネムシはまだしも、クモやゴキブリやムカデなど女性ならすぐさま大きな悲鳴を上げずにはいられないような昆虫まで多種多様で大量の蟲が水埜の体を覆う。そしてその蟲は数秒すると水埜の体の中にすっと溶け込んでいく。

 水埜自身何が起きたかよくわかっていない。しかしこれだけはハッキリしている。自分の主とも言える人物から与えられた力、隠して決して人に見られてはいけないと約束した力、それをこの子供先生が何かをしてばらしてしまった。

 驚きと困惑によって白紙になっていた水埜の感情が怒りに塗りつぶされていく。

 

「よくも……」

「え?」

「よくも私の力を―――――ッ!!」

 

 ペンタクルス・アントクイーンを発動させてネギへを襲わせる水埜。大量の蟲の恐怖にネギはその場から逃げ出した。水埜もペンタクルス・アントクイーンと共にネギをしばらく追いかけまわした。

 しかし魔法使いの身体能力を持つネギを相手にただの女子中学生が撒かれるのはそう時間はかからなかった。ネギを見失った水埜はやっと我に返り、誰にも目撃されてないことを確認すると止との約束を僅か一日で破ってしまった罪悪感を抱えながらトボトボと教室に戻る。


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