魔法先生ネギま!悪の英雄章   作:超高校級の警備員

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第三話 内に秘めたる悪魔、その名はスタンド!

 こんなのおかしい。

 そう思わない日は一日たりともなかった。

 小さい頃から私の身近では不思議なことが多々起きる。それが私の日常風景だった。

 

「こんなの、おかしいよ」

 

 その日常が普通ではないと気づいたんだ。そう思った私はまず初めに親に言ったら、笑われた。それでもしつこく言うと、今度は怒られた。それもとびきり厳しく。

 親を頼れなかった私は次に友達を頼ることに。私は必死にこの麻帆良のおかしさを主張した。だけど、その反応は親よりも酷かった。

 

「変人」

 

 周りから変人のように扱われ、イジメのターゲットに。

 テレビで新発売とか新技術だとか言われている技術を凄いと言うのに、それを平然と超えるようなこの町の科学を普通と言う。

 テレビで二足歩行のロボットがやっと自力で立ち上がるようになったと言えば、この町では本物のように動く動物型のロボットがいる。

 私はそれが普通だと必死に思い込もうとしたけどダメ。テレビのニュースの日常とこの町の日常は違いすぎている。幼い私でもどちらが真の普通なのかわかってしまうほどに。

 

「……私はおかしくない。おかしいのは皆の方だ」

 

 認めてくれないことに腹が立った。それ以上に誰も味方してくれないことにムカついた。だけど私は怒らない。いや、怒らなくなったというのが正しい。

 私には周りを異常と思えるのとは他に、自分自身に異常を感じている。それは、私が認めてくれないことに怒りを爆発させた時の事。

 私の話を理由もなく頭ごなしにされて本気で怒ったとき、その相手が傷つく。心象的なことではない。物理的な話だ。

 親に否定されて怒った時は、ものすごい力で吹き飛ばしてしまった。友達に否定され馬鹿にされた時は、相手をかまいたちのように切り刻んでしまった。すべて事故と判断されたが、私は私がやったことを自覚している。

 町が異常なのと同時に私自身も異常だと知り私はいつしか自分の意見を主張するのをやめた。私が何もしなければ誰も傷つかない。だけど。

 

「こんな世界、なくなっちゃえばいいんだ」

 

 同時にこの力がもっと明瞭なものであればいいと思った。コントロールできないこの力がもっと明瞭でコントロールできる力なら、きっと私はもっと真実に近づける。

 人を傷つけるのが怖いんじゃない。人を傷つけることによって自分が傷つけられるのが怖い。

 確かに私は異常な力を持ってる。だけど使いこなすことができない。これでは到底武器にはならない。こんな考え方、きっと私は狂っているのだろう。狂っていなければ、生まれついての悪か。いまとなってはどうでもいい。所詮私には力もなければ頼れる人なんていない。

 そんな私は今日も麻帆良学園女子中等部でおとなしく女子中学生を演じ続けていた。誰とも深くかかわらず、ただ作業的に毎日を過ごす。だれも私の世界を理解できないのだから。

 

「……今日も麻帆良はいつも通りか」

 

 学園内でもめったに人が来ない場所で一人空を見上げつぶやく。他の生徒と登校時間が被らないためと、一人でいられる空間がほしかった。この孤独の空間だけが唯一私を理解してくれる。

 だけど、そんな空間に異物が混入した。

 この女子エリアにはいるはずのない男子生徒が一人。おそらく同学年くらいだろう。なぜこんな場所にいるかは知らないが妙にコソコソとして怪しい。だけど、向こうは私の存在に気づいてないらしく害もなさそうだからどうでもいいか。

 もう一度ボーっと空を見上げているとなぜが石が飛んできた。私のところまで届きそうはない。だけどあの男子生徒には当たりそう。

 

(まあ、別にいいか)

 

 目の前の男子生徒がけがをしてもどうでもいい。私は痛くない。そう思って無視しようとしたけど、無視できない出来事が起こった。

 石の存在に気づいた男子生徒が石を見ると石が空中で静止したのだ。さらにそれだけでなくその石が砕け散る。

 

「あ、あんた……一体何をしたの……?」

「……」

 

 あまりにも奇怪な出来事に思わず声が出てしまう。何が起こったのか。いくら異常があふれる麻帆良内でもあんな超常現象的出来事は見たことがない。……見たことがない? あれ?

 私が探るようににらみつけると、その男子生徒も私をにらみつけてきた。その睨みは私のなんかよりずっと強くまるで人殺しも平気でしそうなほど怖い。

 

「ヒッ!」

 

 殺意のこもったその睨みに負けてしまった私はもっと知りたいという好奇心がありながらも逃走を選んだ。とても気になるけど、命には代えられない。 

 といっても別に殺されることなんてないだろう。そう思ったがあの睨みは恐ろしい。本当に一人二人くらい殺ったことあるんじゃないのか?

 

「待て!」

「ああッ!!」

 

 そんな軽いことを考えていると足に激痛が。足を見てみると転んだ程度では絶対にできないような傷跡が足首に。まるでナイフで斬られたかのように血がにじんでる。

 全く関係ないけど、この痛みがまるで今まですべての不幸と重なってるように感じてしまう。とんだ被害妄想だけど、理不尽な世の中で理不尽な痛みを負うことがどうしても結びついてくる。

 

「イタイ。なんで……? なんでいつも私だけがこんな目に? なにこれ……わかんない……」

「だ、大丈夫かい!?」

 

 男子生徒が私を心配するかのように近づいてくる。人殺しのように私を睨みつけていた男子生徒が私に近づいてくる。もしかして、私を殺すために私の足を攻撃したの!? そうよ、そうとしか考えられない。だからあんなに恐ろしい目で私を睨んだのよ!

 

「来ないで!」

「!!」

 

 男性生徒の動きが止まった。それと同時に久しぶりにあの感覚が蘇ってくる。幼少の頃周りを傷つけた時に内から湧き上がってきたあの力が。

 何年ぶりに使ったのだろうか。久しぶりに使ったからか力はあの時とは比べ物にならないくらい弱い。大人を吹き飛ばすくらいあったパワーが中学生男子一人飛ばせないなんて。

 一瞬動きを止めた男性生徒が再び私を見る。

 

「ひぃぃ!」

「うっ」

 

 今度は相手を切った。だけど、やっぱりパワーが全然低い。こんなのじゃ相手を怒らせるだけだ。また反撃を受けてしまう。

 ……また? なんで私はまたなんて思ってしまったのだろう? 私がこの力を使ったのは二回だけ。あれ? 二回? なんであろう、なんだかわからないけど前にも同じようなことがあった気がする。その時もおびえて今と同じような……あれ? そんな記憶ないのに、なんで覚えてる?

 

「あれ? 前にもこんなことがあったような……。あれ? あったっけ? どうしてかな。知らない。知らないけど……知ってる? いや、知らない。知らない知らない知らない知らない知らない。だってそんなのおかしいよ。普通じゃ考えられないよ。私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常」

 

 なんで知らないはずのことを覚えてるの!? そんな記憶はない。なのに、なんでこうも似たような場面を思い出すの? 深く考えれば考えるほどわからない。頭が、記憶が、自分がわからない。わからない、わからない、わからないよ―――――――ッ!!

 

「どうなってるのよ―――――ッ!!」

 

 あの男性生徒が怖い。自分の記憶が怖い。麻帆良の異常が怖い。力なく人の輪から外されるのが怖い。人の輪の中で自分を失うのが怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

「あ、あう、あぐぐぐぐ……。あ~~~!」

 

 頭が、体が、心が苦しい。すごくつらい。何が正しくて何が異常なのかわからない。私は正常だったの? それとも私一人がおかしいの? 何もわからない。唯一今わかるのは怖いということだけ。

 私の不思議な力が現在何かをしてることは何となくわかる。だけどあの男性生徒は平然と私に近づいてくる。その手には何か持ってる。何を持ってるかはもうわからない。だけど、もしもあれが私を殺すためのナイフとかだったら。きっとそうに違いない。

 

「こ、来ないで―――――ッ!」

「ぐっ」

 

 私がより一層拒絶すると男子生徒が苦い顔をした。なんだかわからないけどこれはチャンス。この不思議な力を漠然とした感覚だけどあの男子生徒に向けてみる。もしかしたらなんかなるかもしれない。

 

「うぐっ!」

 

 すると、さっきまで余裕な表情をしていた男性生徒の腕から血が流れる。やった! やったわ! 私の力が通じた! このまま私を恐怖させる対象を撃退。……いや、殺す。殺してしまえば、もう怖がる必要はなくなる!

 

「仕方ねえな。ワンランクリスクを積み上げるか」

 

 何かわけのわからないことを言い出したと思うと、男性生徒はまた平然とした様子で私の方へ近づいてくる。

 どうして? ついさっきまでうまくいってたのに、またうまくいかなくなった。

 

「なに? 何が起こってるの? 怖い……どっか行ってよ――――――!」

 

 もうダメだ。殺される。私が生き残るためには、この恐怖から逃れるためには殺すしかない。私のこの力であいつを殺すしかない! 

 私は明確な殺意を持ってこの力をコントロールしようとしてみた。目には見えないけど感じる、私の全力をもってあの男の心臓を貫く!

 

塔針(タワーニードル))

 

 私の力と何かがぶつかるのを感じる。そして私の力が負けたのも。

 頭と体の痛みがより一層増していく。ダメ、もう立っていられない。息をするのも苦しい。助けて、だれか助けて。

 

「あ、ああ、あああ、あああああああああああああああああああああああッ!」

 

 苦しみ、痛み、恐怖、困惑、あらゆるのもが一気に増幅され私を苦しめる。もうやだ、怖い、苦しい、もう殺して。こんなにつらくて苦しい世界でもう生きたくない。死んで楽になれるなら殺して。

 気絶できたらどれだけ楽だろう。だけど、気絶することも許されない。このまま倒れられたらどんなに楽だろう。だけど、倒れることも許されない。

 わかっている。この能力を止めれば少しは楽になる。だけど、自分の意思ではコントロールできない。私の中の何かが急速に減り代わりに痛みや苦痛が増えていく。

 

「こうなったら仕方ない。命があるだけありがたいと思ってくれよ。灰の塔(タワーオブグレー)! そいつを切り付けろ!」

 

 私の体が何かによって切り付けられていく。痛い。だけどこの苦しみよりはるかにマシ。それに、切り付けられるたびになんだか楽になっていく。体の中に何かが満たされていく。もうすぐ死ねるのかな? 私を苦しめてきたこの町と世界から解放される。短い人生だったけど、この瞬間は幸福に感じる。

 

「う、うぐぐ……」

「ここだッ!」

 

 もう視界が歪んでハッキリ見えないけど、男子生徒が一気に近づいてきた。手に持ってるのはナイフじゃない……紙? もう、なんでもいいや。

 男子生徒はその紙を私の額に張り付けるとその上からデコピン。すると、私の頭の中を悩ませていたものが一気に吹き飛んだ感覚がした。ああ、なんていい気分なの。倒れる私を受け止めてくれた彼の腕の体温を感じる。

 

「はあはあ。うぐ、うううう」

 

 頭はスッキリ。痛みや苦しみもさっきよりだいぶ楽になった。だけどその代わりなんだか胸が苦しい。さっきまでの苦しみと比べるとものすごく軽いけど、この息苦しさはなに?

 その息苦しさがついに頂点までたどり着くと。

 

「うううううううううう、がぁぁぁぁッ!」

「!!?」

 

 何かが一気に解放されたかのようにきれいさっぱり消えてしまった。頭の中の苦しみは消え、体中の痛みも軽くなり、息苦しさもなくなり万々歳。

 そのはずだけど、私の息苦しさに解放されると同時に私の中から何かが飛び出す。その正体は蟲。それも一匹や二匹ではなく100匹以上いる蟲。そんな大量の蟲が私の体中に纏わりついてる。アリ・蚊・ムカデ・カブトムシ・ハチ・蛾・ゴキブリまでさまざまな種類の蟲が。気持ち悪い!

 その蟲は私が掃うよりも前に私の体の中に溶け込んでいった。

 

「な、なに!? なにこれ!? なんなのこれ……!?」

 

 

 さっきまでの苦しみはもうない。その代わり新たな疑問が浮かぶ。あの大量の蟲はなに? なんで私の体の中に溶けたの!? 

 さっきまでよりは遥かに落ち着きを取り戻してはいるが、やっぱり私の頭から疑問が消えることはない。

 

「安心しろ」

 

 男子生徒が私に声をかけた。その声で視線を声のする上へと移す。その時、大きなクワガタが男子生徒の体の中に溶けていったように見えた。

 そんなことはどうでもいい。それより重要なことは今の私の気持ち。この男子生徒に抱かれ目線を合わせることで私は落ち着きを取り戻した。

 敵意に満ち溢れていた目からは敵意が失われ頼もしさを感じる。私の力をはねのけたその腕からは安心感を感じる。私の暴走を止めてくれたその行動からは人生初めての信頼を感じた。

 

「いろいろ疑問に思ってることがあると思うがまずは落ち着いて話を聞いてほしい」

 

 私はその言葉に黙ってうなずく。今はこの人の全てを信頼している。

 

「まずはいくつか確かめたいことがある。君の体に纏わりついていた蟲だが、俺の予想が正しければ君はそれを使役できるハズ。一度出してみてはもらえないか? やり方は簡単だ。予想が正しければそれは君の体の一部のようなもの。軽くイメージするだけで出現させられる。手を動かして物を掴んだり、足を動かして歩くようにできて当たり前と思うんだ」

 

 正直意味がわからなかったけど言われた通りにしてみる。私の体に纏わりついていたのは大量の蟲。それをもう一度体の外に出すように。すると彼の言った通り蟲は簡単に私の体の中から出てきた。

 

「そうだ、よくできた。いいぞ。フムフムなるほど」

 

 私の蟲をよく観察している。軽く触ってみたり、フーっと息を吹きかけてみたり、手で軽く撫でてみたり。気持ち悪い蟲だけどこれが私の一部と思うとなんだかちょっと恥ずかしい。

 

「あの、何かわかりましたか……?」

「ああ、だいたい予想通りってとこだ」

 

 彼は私から離れ真剣な眼差しで私を見る。

 決して私のタイプというわけではない。だけど、もっと近くにいてほしかった。ドキドキして心苦しかったけど、離れてしまったことに残念と感じる私がいる。

 

「今から俺が言うことは到底信じられないような現実離れしたことだがすべて真実。受け入れる覚悟はあるか?」

「今まで私の周りでは異常ばかり起こってきた。私自身が異常というのも小さい頃から知っていた。今更何も変わらない」

「いい度胸だ」

 

 彼は大きくうなずくと笑顔を見せてくれた。その笑顔が堪らなくうれしい。なんだろう、この気持ち。もっと笑いかけてほしい。そんな理解不能な感情が私自身を襲う。

 

「まずは君の身に起こったことから話そう。君が長年悩まされてきた事の原因は君の中に潜み寄生していた悪魔によるものだ」

「私に寄生していた……悪魔?」

「そうだ。本来その手の悪魔は人間に寄生しなくては生きていけない程弱い。だけど君の中に寄生していた悪魔はその中でも少し強い部類だったのだろう。もしくは君の素質が高くて強化されたのかもしれない」

 

 そう説明すると彼はおもむろに空を見上げる。とても忌々しそうに空に流れる雲を見上げてるように見える。が、私にはもっと別のものを見てる気がする。

 

「この麻帆良にはあるクソッたれな連中の都合のいいように巨大な結界が張られている。その結界は異常を正常と無理矢理認識させる。麻帆良内の一般人はそのせいで外の世界の人間と常識が大きく異なる。君レベルにもなればそれに気づいてたんじゃないか?」

 

 異常を正常と認識する。思い当たることは両手で数えきれないほどある。親に学友に周りの一般人に至るまですべてが異常を異常と感じていない。

 テレビの向こう側ではちょっとした喧噪で大事件。なのに麻帆良では毎日格闘サークル同士の喧嘩。それを暴力的に止める教師に止めた教師に感謝する警官。警察が笑ってられるものではない。

 図書館島なんて危険なアトラクション紛いのものもそうだ。既に迷子や危険な目にあったなんて話はザラにあるのに対策は何もされていない。みんなそれを嬉々としている。それもすべてその連中が原因だったんだ。犯人がわかったら無性に腹がたってきた。

 

「そのクソッたれな連中の話は長くなるから今は省略する。話を戻そう。ついさっきまで俺を攻撃したのは君の感情に呼応して君の悪魔が暴れて起こったこと。推測だが、君は今までに何度かそのクソッたれな連中と出会い記憶を消されている。それがさっきの暴走の根本の原因となっていたのだろう」

 

 何度も記憶を消されている? 私自身その連中の被害を受けていた? まったく想像がつかない。だけど、思い当たる節はある。この人を傷つけた時私の頭に浮かんだ私の知らない記憶の断片。それが消された本来の記憶。

 腹が立ったどころではない。私の日常を間接的に壊した上に私自身をも害したその連中に殺意が湧いてきた。憎い、殺してやりたいほど憎い。

 怒りで何も考えられなくなった私は彼に片をゆすられて正気を取り戻す。ああ、そうだ。まだ話の途中だ。

 

「腹が立つのはわかるがそれは後にしてほしい。次はいよいよ君の身に起こった新たな出来事についてだ。君の中に潜む悪魔は所詮力を垂れ流す程度しか能の無い最下級悪魔。だが、その悪魔が俺の力に触れて全く異なるものへと変化したんだ」

 

 全く異なるものへの変化? 私は次の言葉を今か今かと待つ。

 

「君が使役するその蟲はもはや悪魔ではない。それは生命エネルギーが作り出すパワーのヴィジョン。傍に立つ者という意味から名付けて、『スタンド』」

 

 スタンド、それが私が新たに得た、彼によって授かった新たな力。私は左腕に集中してきている蟲を見た。これが私の生命エネルギーのパワー。

 

「スタンドは本体の精神力そのものであり、闘おうとする本能や身を守ろうとする気持ちに反応して動かされる。そしてスタンドはスタンドでしか触れることができない。が、君のスタンドは少し違うようだ。後者のルールが適用されていない。さしずめ悪魔と生命エネルギーの融合『疑似スタンド』と言ったところかな」

 

 彼は私にスタンドというものの説明を詳しく教えてくれた。正直に言うとすんなりと理解できない。異常と言える出来事は数多く見てきたし自分の身に降りかかったこともある。しかしそれらすべてと比較しても今起きてることは異常すぎる。

 受け入れはするが理解しがたい。とりあえずゆっくりと頭の中で消化させるしかない。幸いなことに全く理解不能と思うことはない。

 

「スタンドにもいくつか種類がある。君のは形状は間違いなく群体型。スタンドは一人一体だが、群体型はすべて合わせて一体。君が出現させてるのもほんの一部だろう」

 

 これでまだ一部? 私の中からあふれ出す蟲は今も出続けて余裕で100匹は超えてる。肌に触れてるのは左腕部分のみで他は服のうえか地面に降りている。いくら自分の一部でも蟲の形をしたものが服に入るのは嫌。その意思が通じてるのか蟲は服の中に入ろうとしない。

 その後も彼は説明を続ける。話を聞いていく中で私の驚きも少しづつ覚めていき冷静な考え方ができるようになっていった。

 この人は私を認めてくれた。今まで誰も認めてくれなかった私を。私が異常を正常と言ったり悪魔の力を見せるとみんな私から遠ざかる。私の存在はそれも含めてすべてなのに。だから私も他を拒絶した。どうせ私を正しく受け入れる人などいないのだから。もう拒絶されるのも怖くない。

 

「似た力を持つ俺は真に君を理解できる」

「私は……この力が忌々しいものだとずっと思ってました」

「忌々しい? 確かに特別は時として多くの呪いを生み出す。だが内なる特別の正体を知った時、呪いはいずれ祝福に変わる」

 

 だけど、この人にだけは拒絶されたくない。私の中で初めて拒絶された時。いや、それよりずっと大きな恐怖を感じた。もしくは、この人に人生初の安堵を感じたのか。私にもわからない。

 私は彼に何を求めているのか。恋? 愛情? 何か違う。愛したい? 愛してもらいたい? これも何か違う。そんな簡単に崩れさってしまうようなものではない。私はずっと求められたい。……主従。うん、なんだかすごくしっくりくる。

 

「私のすべてをあなたに捧げます」

 

 跪き神に祈るように彼に祈った。彼は、私にとっての救世主。彼のためなら何も怖くない。

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 今起こった出来事を話す前に言っておく。

 俺の中には俺が知りえるはずもない知識がいつからか詰め込まれている。いや、もしかしたら生まれた時からこれだけは知っていたのかもしれない。

 いつからか俺の頭の中には、見たことも読んだこともない漫画の知識が詰め込まれていたんだ。その漫画の名前は『ジョジョの奇妙な冒険』全63巻分しっかり頭に入っている。

 その中で出てきた一つ設定、スタンドと俺の能力が見た目も能力もかなり酷似していたからそこからとったんだ。

 何を言ってるのかわからないと思うが、安心してくれ、俺もわからん。こればっかりは頭がどうにかなりそうだ。

 

 そしてここからが今起こったことだ。

 今俺の目の前で発現したヴィジョン。もしかしたらと思いいろいろ調べてみると、予想の範囲ではあるがスタンドである可能性が高い。

 俺のスタンドパワーが体内に入り込み、寄生していた悪魔と本人の生命エネルギーを融合させてしまったのではないかと。そして活性剤となったスタンドパワーの影響を受けて疑似スタンドとして生まれ変わった。そう俺は予想を立てている。

 本当に奇妙な出来事だが今のところ一番納得できる答えではなかろうか。

 

 このまま放置しようかとも考えたが彼女も魔法使いの被害者。初めて出会ったスタンド使い同士として少しばかり手助けしてやることに決めた。

 俺は彼女の身に起こったことの大まかな予想を教える。所詮予想だが自分のせいではないとわかるだけで精神的にかなり楽になれるだろう。そう思って安心するまで声をかけ続けたら。

 

「私のすべてをあなたに捧げます」

 

 頭大丈夫かこの女。なに初対面の人に対してすべてをを捧げますとか言っちゃってんの? わけがわからん。

 これも麻帆良の結界のせいか? もう一度符を使った方がいいのか? ……クソ、もうない!

 

「……そうだ、まだ名乗ってなかったな。俺は日鳥止。麻帆良学園男子中等部二年だ」

「女子中等部二年、水埜晴花(みずのはるか)です。(とまる)様」

 

 相変わらず跪いた姿勢のまま動かない。その瞳には無駄に強い意志がうかがえる。なんでそんなに強い意志を宿してるんだよこいつは!?

 しかし、俺にすべてを捧げるか。言われて悪い気はしない。むしろ優越感で気持ちいい……。どうせそのうち戻るだろうし、今はこのままでいいか。

 

水埜晴花(みずのはるか)。この力についてはだいたいはわかってもらえたか?」

「はい」

「それはよかった。スタンドは素晴らしい力であると同時だが、世界の常識から大きく外れる。世間一般で言うところの超能力。無駄に敵を増やすのは俺も君も好ましくないだろ? わかるか?」

「はい、わかります。この力は今まで通り隠します」

「よろしい。もちろん必要ならば使えばいい。だが、時と場合だけは考えてくれ。スタンドは本来スタンド使いにしか見えぬものなのだが、君のは疑似スタンドゆえに見えてしまう。まあ、公衆の面前で堂々と使ったりしなければそれでいい」

 

 どうせ俺とコイツ以外のスタンド使いなど存在しない。もしもこいつのスタンドの存在がバレても情報さえ漏らさなければ俺のスタンドの優位性はなくならない。危なければ殺して口封じすればいい。どちらにせよ俺がスタンド使いということ以外は俺について何も教えてはいない。

 

「さて、水埜晴花(みずのはるか)。この俺が君のスタンドの名前をつけてやろう」

「止様が私のスタンドの名前を」

 

 俺はポケットからあるものを取り出し水埜晴花(みずのはるか)に見せた。

 

「運命のカード、タロットだ」

 

 なんでタロットカードを持ってるかって? 女子エリアで見つかった時に占い師ですよごまかすためさ。女子は占いが大好きだからな。

 今までもこれで数回逃げ切ってる。絶対的中する稀に現れる占い師として密かに噂になったこともある。占いが当たったかは知らんが。

 

「絵を見ずに無造作に一枚引いて決める。これは君の運命の暗示でもあり、スタンドの能力の暗示でもある」

 

 水埜晴花(みずのはるか)はタロットの束の一番下を取った。

 

「ペンタクルスのクイーン」

 

 56枚の小アルカナの金貨(ペンタクルス)を現す14枚の一枚。主に金銭と利益を象徴する。クイーンの意味は『寛大』『自由』『繁栄』。確か『良い母親』などの意味もあったな。

 

「名付けよう! 君のスタンドは『ペンタクルス・アントクイーン』!」

 

 この世でたった一人のスタンド使いが、この世で初めて生まれた偽りのスタンドの誕生を祝福しよう。

 下等な悪魔は我が偉大な力に触れ、人の生命に触れ、形を成し名を与えられた。それが呪いのまま終わるか、祝福へと変わるかは俺にはわからん。ただ一つ確かなのは、彼女はもう運命に対して無関係は決め込むことはできなくなったことだけ。

 少し前、彼女というスタンド使いの誕生を祝福するかのようにどこかの教室でクラッカーの音が聞こえた気がした。




 

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