災厄の大悪魔の異世界転移奇譚    作:水城大地

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漸く続きが出来ました……
しかも、色々と書いているうちに長くなってしまったので、まずは半分。




第三話

いきなり目の前で小さくなった事で、ウルベルトは周囲から困惑を向けられているのだが、本人は至って涼しい顔をしていた。

当人にしてみれば、本来あるべき状態に戻っただけにしか過ぎないのだから、そこまで特に気にする事ではないのだろう。

ただ、周囲からの視線は流石に鬱陶しいのか、ぴるぴると不機嫌そうに耳を揺らしている。

機嫌が悪い素振りを見せているが、多分本気で機嫌が悪い訳ではないのだろう。

もし、本当にウルベルトの機嫌が悪ければ、こんな風に話を聞いてくれさえしないのを、過去の経験でアインズは知っていた。

だからこそ、それがアインズは何も言わず、ただその様子を見守っているだけに留めている。

すると、それまで黙ったまま様子を窺っていた神官の男性が、スッとウルベルトに手を伸ばした。

 

「……あまり、皆さんの事を困らせてはいけませんよ、リュート?

皆さん、あなたの事を本当に心配しているのですから、ちゃんと事情を話してあげなくてはいけませんね。

どうして、そのままの状態のままにしてあるのか、彼らも事情を聞けば納得してくれる筈です。

……違いますか?」

 

静かな声で、聞き慣れない名前でウルベルトの事を呼びながらゆっくりと諭す様な神官の男性の言葉を聞いて、ウルベルトはバツの悪そうな顔をすると、小さく頬を掻いて視線を逸らした。

ウルベルトも、自分が色々とアインズたちに心配を掛けていた事は理解しているらしい。

だからこそ、こんな風に優しく諭されるような物言いをされてしまうと、反論出来なくなるようだった。

 

「……判ってるよ、ちゃんと話すから。

えーっと……ひとまず、自分のこの身体の状況を把握した所までは話したんだっけ。

それじゃあ、次の話は……どうしたもんかな。

俺が、こっちに来てから彼らと合流した一件を話すとしようか。

どうして、彼らの事を俺が家族って呼ぶのか気になるだろ?」

 

軽く頬を撫でていた手を、顎に滑らせながら言葉を選ぶ仕種で話を誘導しようとしたウルベルトに待ったをかけたものがいた。

それは、この場にいたものではない。

まるで天井から声が降って来るかのように、その声は部屋の中に響く。

 

『お待ちくださいませ、ウルベルト様。

その前に、まだウルベルト様の口からお話になられるべき案件がございます!

もし、ウルベルト様がそのボディにチェンジする条件をお忘れだとおっしゃるなら、私の口から申し上げさせていただきますが……その方が宜しいので?』

 

朗々と響く声には、いつもの様な自己主張の激しすぎる様な過剰な抑揚が無く、アインズは逆にその抑揚の無さが怒りを過分に含んでいる様に聞こえて、思わず目を見開いていた。

こんな風に、例え声だけだったとしても、パンドラズ・アクターが自分の怒りをあからさまに見せるのは、とても珍しい。

と言うか、あれで礼儀を重んじる筈のパンドラズ・アクターが、ウルベルトが帰還した事にすら祝辞を述べずにいる時点で、彼の怒りは相当のものだと思うべきなのだろう。

まだ、その辺りのパンドラズ・アクターの反応を知らない他の階層守護者たちは、ウルベルトに対する礼儀がなっていないと不快そうな様子を見せているが、当のウルベルトの方がどこか気まずげに視線を逸らしているので、これはパンドラズ・アクターの指摘の方が正しい事を示していると言っていい。

 

「……ウルベルトさん?」

 

だとすれば、ここできちんと話を聞き出しておかないと、別の問題が発生する可能性があると判断したアインズは、ウルベルトが誤魔化す前ににっこりと笑顔を浮かべて、静かに名前を呼んだ。

ウルベルトには、それだけでアインズが返答次第では【魔王降臨】になる事を察したのだろう。

ウロウロと視線を彷徨わせた後、がっくりと肩を落とす。

 

「あー……この場にパンドラがいないから、油断してたぜ。

なぁ、モモンガさん。

パンドラは、どうしてこの場にいないんだ?」

 

本来なら、ウルベルトの状況が判明した時点でこの場に駆け付けていそうな、このボディの製作者であるパンドラズ・アクターの不在を、改めてウルベルトが確認してくる。

それに対して、アインズの答えは簡単なものだった。

 

「丁度、パンドラには私の影武者を別の場所で請け負って貰っています。

転移門を使えば、確かに一時的にこちらに戻って来る事そのものは可能ですが、いつ状況が変わって私の代わりに人前に姿を見せる必要があるのか判らないので、パンドラには向こうに詰めて貰いながらこちらの様子を見て貰っていました。

パンドラが召喚したシャドーデーモンが、この部屋に二体潜んでいます。

彼らを媒介に、【遠隔視の鏡】をナザリックの外から使用しているんです。」

 

追加説明の様に、パンドラの状況を教えられたウルベルトは、大きく溜息を吐きたくなった。

本気で、彼がこの場にいない事から油断していたと言っていい。

アインズの慎重な性格を考えれば、この場にパンドラズ・アクターの姿が無かったとしても、何らかの形でウルベルトの事を確認させている事は想像すべきだったのだ。

なにせ、パンドラズ・アクターがウルベルトの現在の身体の製作者である。

 

製作者である彼にしか、もしかしたら気付けない点も多々ある可能性だってあった。

 

この辺りの事を、姿を現す前に思い付かなかったのは、ウルベルトのミスだと言っていいだろう。

だが、「モモンガが忘れているならば」とウルベルトが隠そうとしていた事に、パンドラズ・アクターが気付いてしまったものは仕方がない。

この状況では、出来ればまだ気付かれたくなかったのだが、既に条件が分かっている相手がいる以上、それを隠すのは難しいだろう。

むしろ、この場で事情をきちんと話してしまった方が、下手な誤解を受けずに済むと判断したウルベルトは、天を仰ぎ見る様に顔を上げて小さく溜息を吐くと、仕方がないと言わんばかりに軽く肩を竦めて見せた。

 

「……いいよ、パンドラ。

全部俺の口から説明した方が、モモンガさんも当時の記憶をきちんと思い出すだろうし、そこから誤解されずに済むと思うからな。」

 

ガシガシと頭を掻き、そのまま頬を撫で下ろして顎に手を掛けると、行儀が悪いとは思いつつテーブルの上に移動してからアインズの事を正面から見上げた。

真剣な視線を向けてくるウルベルトに、アインズだけではなく周囲の視線が集中していく。

その事に、少しだけ不機嫌そうに耳をぴるぴると打ち震わせ、大きく深呼吸したかと思うとウルベルトはゆっくりと口を開いた。

 

「まず、モモンガさんが忘れているみたいだから、このゴーレムの請け負う役割を言わせて貰うとしましょうか。

こいつは、【死亡時の復活用の蘇生セーブポイントであり、最初の一回だけ経験値未使用の復活ポイントでもある俺達専用のお助けゴーレム】です。

もっとも、皆さんその機能を付ける際に行った課金額が半端なじゃなくて、【これを使うなら、ワールドエネミー以外は素直にデスぺナ食らう】とも言ってましたけどね。

その様子だと、思い出したみたいですね?」

 

それこそ、立て板に水の様に語られる言葉を耳にしていくうちに、当時の事を思い出したのだろう。

アインズが、思わず「あぁ、そう言えばそんな事もありましたね」と両手を打ち鳴らす様に、本当だと納得したのか守護者たちの視線が少しだけ理解の色を帯びた。

だが、それだと他にも疑問が残らない訳ではない。

そんな彼らの視線が、ウルベルトにまだ固定したままなのを理解しつつ、アインズも今の言葉で一つ気になっていた事を思い出した。

 

「そう言えば、そのゴーレムですけど……確か、私が皆さんから預かって管理していた筈です。

なのに、何故別の場所に飛ばされたであろうウルベルトさんが、その場所で使用出来たんでしょうか?」

 

そう……これは、アインズの言う通りだった。

最初こそ、全員が一人一つずつ持っていたものの、セーブ&復活ポイントとしての機能を持たせた時点で、それぞれ各自で保管している意味がなくなったのだ。

ワールドエネミーを相手に、自分が倒されたのとまったく同じ場所に復活しても、戦闘態勢を取れないままただ殺されに行く様なモノである。

それなら、後方で戦闘状況を把握して補助を入れてくれているだろうアインズが持つべきだという話になって、全員の分を預かっていたのだ。

アインズがいる後方からなら、復活して戦闘態勢を整えてから再度挑む事も、それほど難しくないだろうというのが全員一致の意見である。

 

なので、ある意味ではアインズの疑問はもっともな話だった。

 

本来、彼が保管管理している筈のこのゴーレムが、どうして封印されたウルベルトの本体の側で分離した精神を回収して復活したのか、疑問に思うのはむしろ当然の話だ。

同じ状況なら、ウルベルトも同じ疑問を抱いた所である。

だが、それに関してウルベルトには一つの過程が浮かんでいた事もあり、それを話してみる事にした。

 

「あー……まだ、これに関しては確証がある訳じゃ無いんだが……もしかしたら、俺の様にギルドを脱退している形になっている者は、ナザリックの中ではそのゴーレムを使用した復活等が出来ないのかもしれない。

だが、俺の様に本体が封印されるなどしていてどうしても使用不能の場合、復活ポイントであるゴーレムの方が器になるべく魂がある場所に移動したんじゃないかって考えれば、ある意味筋は通るだろ?

もし、俺のこの仮定があっていたとすれば、俺以外の他のギルメンにも同じ事が起きるかもしれない。

ユグドラシルにログインしようとしている最中に、何らかの形で死亡した為に正しい形でログインする事が出来ないまま、こちらの世界に流された仲間が俺以外にもいたとしたら……そいつにはその場で意識が入るべき器がこちらには存在していない可能性が高いからな。

その場合、俺の様に自分のゴーレムを引き寄せて、その中に入ってその場を凌ぐ位はしそうな気がするよ。」

 

つらつら、自分の仮定と推測を口にするウルベルトに、アルベドやデミウルゴスなどは何やら深く考え込んでいる様子だった。

アインズはアインズで、自分が管理しているゴーレムを纏めて収納していた箱を取り出そうとして、ハタと動きを止める。

どうやら、何かに気付いたらしい。

ギギィィィ……と、それこそまるで骨が軋む様な音を立てているんじゃないかと、そんな幻想を抱かせる重々しさでウルベルトの方に振り返ると、恐る恐ると言った感じで口を開いた。

 

「……今、それこそ何気なく仮定の中に混ぜられていたのでするっとスルーしかけたんですけど……ウルベルトさん、ご自分が死んだとかおっしゃいませんでしたか?

はは、そんなの、私の聞き間違いですよね?」

 

自分の言葉を否定する様に、軽く首を振りながらアインズはこちらに対して確認を取って来る。

それに対して、ウルベルトは困った様に首を竦めて見せた。

残念ながら、これに関しては否定してやれない。

ウルベルトにとって、問題なのはうっかり自分の口で答えを言ってしまっていた事であって、その内容自体を偽るつもりは欠片もないのだ。

だから、どこか期待を込めたアインズの視線をから少しだけ視線を逸らすと、口元に手を当てたまま真実を改めて口にした。

 

「……あー……その、申し訳ないんですが、間違いなく私は【リアル】で死亡してます。

正確に言うと、他人の手に掛かって殺されました。

何せ、私の最後のリアルの記憶が、ユグドラシルへログインする為の端末を身に着けた状態で、頭の真横に突き付けられた銃の撃鉄が上がる音なので、ほぼ間違いないでしょう。

モモンガさんに呼ばれたあの日、俺はユグドラシルに……ナザリックに来ようとした所を襲われたんです。

その辺りの事を含めて、続きを話しますね。」

 

すっかり、自分の事を話す覚悟が出来たのだろう。

次に彼の口から語られたのは、どうして彼が死んだのかという話だった。

 

********

 

一体、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?

 

あれから、暫く色々な可能性を考えてみたのだが、やはり最初に思い付いた【ゴーレムへのタブラの細工と死亡判定が混乱した結果】と言うのが、一番高い様な気がした。

そう判断して理由はいくつもあるが、その中でも一番大きな理由はもちろんある。

何故なら、この世界で意識を取り戻したウルベルトだが……リアルでは、あの時、()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

どう考えても、あの時のあの状態で生き残っている可能性は、ゼロだろうと断言出来る。

 

普通に考えれば、頭を吹き飛ばされて生きている方がおかしいのだから。

 

そう……あの時、ウルベルトは久し振りに【ユグドラシル】にログインするべく、アップデートを待ちながら使っていなかった端末などの準備をしている最中に襲撃を受けた。

襲撃してきた相手が、同じテロ組織に所属している筈の下っ端だったのは、数人顔を覚えているので間違いないだろう。

何やら思い込み激しい事を喚いていたが、どれも心当たりが無い事ばかりだった。

 

「……ったく!

どう考えたら、あんな馬鹿な勘違いの果てに、仮にも仲間の頭を吹き飛ばせるんだか……

まぁ、俺の事を拘束して殺すまでの一連の行動を指揮していたアイツは、俺が組織の仲間になって頭角を現した事で、組織からの評価が著しく下がってたって話を聞いた事があるし、な。

自分の地位を上げつつ、俺の事を排除する為の冤罪の根拠として、俺がユグドラシルに久し振りにログインするタイミングを選んだんだろうとは思うが……馬鹿な奴だ。」

 

自分が死ぬ直前の出来事を思い出し、ウルベルトは大きく溜息を吐く。

間違いなく、あれは完全なあの男の暴走であり完全な冤罪だった。

ウルベルトが、どうして久し振りにユグドラシルにログインしようとしていたのか、その理由すら上から全く何も知らされていない様な、末端の人間が嫉妬の果てに暴走した結果だと言っても良い。

 

「本当に……馬鹿な奴だよな、アイツ。

俺らの組織のボスが、俺と同じ様にそれなりに名の知られた【ユグドラシルプレイヤー】だったって事も、今回の俺のログインが既にギルドも仲間もいなくなった事で、自分自身はログインする意味を無くしていたボスから、【最後なんだから、お前はギルマスへの義理を果たしに是非行って来い】と勧められたもんだって事も知らないで、独り善がりの判断をしたんだからな。

むしろ、ボスからは【たっちさんに会えたら宣戦布告していいぞ】とすら言われてたのに、それを内通の証拠に挙げて鬼の首を取ったかの様に小躍りしてるなんて、本気で小物だよ。

まぁ……こうなった以上、俺が今更何を考えたとしても、意味がないんだけどな……」

 

あの時、俺の事を殺した奴の事を考えつつ、額に手を当てようとして……微妙に指先が眉間に届かない(長い爪なら届く)事に気付き、憮然とした気持ちになった。

この身体は、ディフォルメされている分もあちこちバランスがちぐはぐで、本来なら普通に手が届く部分に届かない事が多々ある。

これもその一つなのだが、正直言って不便極まりない状況だった。

 

これでは、自分で自分の身体を洗う事すらままならないだろう。

 

「……真面目に、早くなんとかしねーと、いろんな意味で精神的に死ぬぞ、これ。」

 

幾つか思い当たる、今の自分に出来ない事柄の数々を考えながら、ウルベルトはこの状況になる前の……リアルでの事を改めて思い出していた。

 

 

*******

 

ウルベルトの本名は、宇部隆斗(うべりゅうと)と言う。

貧困層出身だが、この時代では小卒と言うそれなりの立ち位置にいた事もあり、何とか生活していくだけの収入を得ていた彼が、テロ組織に身を置くようになったのにはそれなりに理由があった。

普段から、富裕層に対して不満を抱いていたウルベルトだが、ある切っ掛けが無ければそのまま不満を抱いたまま、その生活を維持する方を選んでいただろう。

幾ら反骨精神が強かろうが、自分一人ではこの富裕層の支配が揺るがない様に構築されてしまっている社会構造に対して、何も出来ない事を理解していたからだ。

そんなウルベルトが、どうしてテロ組織に身を置く様になったのかと言えば、実はそれほど難しい話ではない。

 

それこそありきたりな話かもしれないが、仕事に向かう最中にテロ行為に巻き込まれた揚げ句、彼らの仲間として警察に勘違いされて捕まりそうになった所を、仲間を助けに来たテロ組織の人間達によって再度爆破テロを起こしそれを目晦ましに一緒に助けられたからである。

 

あの時、爆破テロを目晦ましに彼らに連れ去られたウルベルトは、テロを捕まえるべく現場に来ていた警察の中に、何処かで見知った顔がいた様な気もした。

だが……ウルベルトが住んでいる様なエリアに降りてくる可能性は低いので、違うだろうと思っている。

もし、ウルベルトの見間違いでなかったとしても、そいつが自分の事をテロ組織の人間ではないと、証言してくれる可能性は低いからだ。

むしろ、普段からのギルドでの対立する際の言動から、やはりそちら側の人間になったかと思うだけだろうと、サクッと頭の中から存在を消していた。

元々、そいつの事を頼るつもりはない。

ここの所、仕事の多忙さでユグドラシルにログイン出来ずにいたのだが、それすらテロ行為に勤しんでいたからと邪推される可能性もある。

多分、会社もテロ組織の人間ではないと疑われた上に爆破テロに巻き込まれて生死不明となった時点で、サクッと首になっているだろう。

 

普段は、貧困層の社員などそれこそ過労死寸前になろうと平気で使い潰そうとするが、犯罪者の可能性が出ただけで簡単に切り捨てるのが、会社側の流儀だったから。

 

会社とは無関係の存在にしてしまえば、後からテロ組織の人間だったと判明しても、既に無関係だと言う事を主張出来るからだ。

更に付け加えるなら、実際に犯罪者ではなかったとしても、生死不明の状況になった時点で会社は給料を無駄に払う事が無い様に、その社員の首を切るのだ。

生きているか死んでいるか、現時点ではっきりと判らない状態なら、当然出社して来る事もなく無断欠勤になるのがはっきりしている社員など、会社側に籍を残しておく理由などない。

 

そんな風に、テロに巻き込まれて生死不明のテロリストの可能性がある人間として、警察などから目を付けられてしまった時点で、ウルベルトはもう二度とユグドラシルにはログイン出来ないだろう。

 

少なくとも、ウルベルトとしてナザリックに顔を出す事は、二度と出来ない。

警察から、運営に連絡が行ってログインチェックをされている可能性があるからだ。

そんな真似をしたら、ギルメンたちもテロの関係者ではないかと疑われるからだ。

あの、優しい大切な親友であるギルド長に、そんな疑いを掛ける行為をする事は、ウルベルトには出来なかった。

 

せめてもの慰めは、仕事に忙殺されてログイン出来なくなる前に、自分の最強装備を彼に預けておいた事だろうか。

 

あの時は、あまりの多忙さにうっかり操作ミスから自分の最強装備を失う可能性を恐れて預けただけだったが、あれはあれで良かったのだ。

仲間がいつでも戻って来れる様に、色々と頑張ってギルドを維持している彼には悪いとは思う。

だが、そうやって彼にあの装備を預けておいた事によって、彼に対して生前に形見分けの様なものが出来たと、ウルベルト自身はそう思う事にした。

 

「もし……もしも、だけどさ……もう一度、俺がログイン出来るような機会があったら……全部ちゃんと謝るから。

だから、それで許してくれよ、モモンガさん。」

 

偶々、どこか故障しているのか調子が悪いので馴染みの店に修理に出そうと、仕事に行く際に持参していたゲーム用の端末を撫でながら、ウルベルトはそうひとりごちていた。

 

*******

 

 




全部で、一万九千字近くなったので、区切りの良い所で一旦切ります。
前書きの通り、時間が掛かった上にかなり長くなってしまいました。
後半部分は、明日の昼頃の投稿予定で、リアル部分の続きから始まる事になります。

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