現時点でのナザリックの第六階層の部分から、話は始まります。
ウルベルトから出た、【俺の家族】と言う予想外の言葉によってその場は一気に混乱していた。
もちろん、アインズもご多分に漏れず混乱して気が動転していたと言っていいだろう。
だが、それも僅かな間の事だった。
「……少し、落ち着いて話しましょうか、ウルベルトさん。
私としては、出来れば二人きりで話したいのですが……」
精神鎮静化によって、強制的に一気に混乱が収まったアインズがそう提案すれば、ウルベルトから返って来たのは胡乱な視線。
すぐに、軽く視線を巡らせ周囲を見渡したかと思うと、アルベドで止まりますます不機嫌になる。
その反応に、アインズも横目でスッとアルベドのいる方に視線を向ければ、それこそ鬼の形相をウルベルトに向けていた。
とは言え、すぐに周囲の視線に気付いたかのように視線だけは刺す様な鋭さと冷たさを残したまま、いつもの守護者統括の顔に戻っていたが。
確かに、こんな反応を返している相手がいる状態で、アインズと二人きりで話したくはないだろう。
下手に席を外している間に、ウルベルトが今も自分の背後に守り自らの【家族】と呼ぶ彼らが、うっかり嫉妬に狂ったナザリックの者たちにどんな危険な目にあわされるか判らないし、何か細工されてしまうかもしれない。
こちらの世界の人間は、ナザリックの者に比べてかなり脆弱だから、精神をあっさり支配されてしまう可能性だってあった。
それが判っていて、側を離れる選択をする筈がない。
むしろ、それを提案した時点でウルベルトから更に警戒されてしまった気がするので、慌てて訂正する。
「いえ、ウルベルトさんが心配だとおっしゃるなら、彼らも一緒で構いません。
ウルベルトさんが、【大切な家族】だと言い切る程ですし、込み入った話をする時は魔法で会話を遮断すればいいだけですからね。
私とウルベルトさん、そして彼らだけで落ち着いて話せる別の場所に移動して、お互いの状況を話し合うと言う事で良いですか?」
再度、内容を訂正した部分を加えアインズはウルベルトに提案する。
ここで、ウルベルトの機嫌を損ねてしまえば、せっかくナザリックに帰って来てくれたのにまた出ていってしまうかもしれない。
そんな事態だけは、どう考えても避けなければいけなかった。
だが、アインズのその提案にウルベルトが答える前に、異を唱えた者が居た。
先程から、ずっとウルベルトの事を鋭く刺す様な視線で睨み付けていたアルベドである。
「なりません、アインズ様!
幾ら、その方が本物のウルベルト様だとしても、そのような金品の為なら平気でナザリックを踏み荒らせるような愚かで下等な人間を【大切な家族】などとおっしゃっている時点で、嘗てのウルベルト様ではございません!
そのような方を相手に、どうしてこのナザリックの支配者たるアインズ様が、護衛も付けず二人きりで話し合いの場を持つ事を許容出来ましょう!
むしろそれを許容出来る僕など、このナザリックにはどこにもおりませんわ!」
こちらも、ウルベルトに対して警戒心を剥き出しの言葉を吐く。
そのアルベドの主張を聞いて、この場に居る他の階層守護者たちに視線を向けてみるが、ウルベルトに対して警戒している様子はほぼ見えない。
むしろ、ウルベルトが本物であると認めていながら、尚もそんな不敬な言葉を連ねるアルベドに対して微妙な反応を見せているように見えた。
アインズが視線を巡らせて見せた事で、漸く自分が周囲から訝しむような視線を向けられている事に気付いたのだろう。
彼女が、他の守護者たちに対して慌てて言い繕うとするよりも早く、別の場所から声が上がる。
「あー……モモンガさん、ここじゃ落ち着いて話せないから場所を変えると言うのは、俺もそれで別に構わない。
ただ、いきなり帰って来たばかりの俺と俺の家族を相手に、モモンガさんだけで話し合うって言うのは、確かにアルベドみたいに俺の事を気に食わない奴からすれば、凄く不安だと言うのは仕方がないと思うぞ。
正直言って、このナザリックの状況に関して言えば、色々と俺の方も理解が及んでいない部分があるって言うのが本音だから、モモンガさんとだけ話したい気持ちもあるけどさ。
それだと、かえって俺の家族たちの事も心配だし。
お互いに心配だって言うなら、参加するのは俺と俺の家族、モモンガさんと階層守護者たちって事にして、場所を変えて話し合う事にすれば、両方心配しなくて済むし丁度良いんじゃないか?」
今までの様子とは打って変わって、サクッとそんな提案をするウルベルトに、今度はアインズが胡乱な目を向ければ、彼は小さく首を竦めた。
「どうせ、俺の事はきちんと話さないと、後で色々と誤解した状況で変な話が広まる気がしたんだよ。
既に、この場で【フォーサイト】の皆の事を【俺の家族】って言ってるのを、この場に居る全員に聞かれているからさ。
そんな事になるなら、最初から階層守護者たちだけには話しておいた方が、アルベドの様子を見る限り色々と面倒な事にならないかと思ったんだけど……モモンガさんが反対なら、他にそいつらを納得させる良い方法があるって事なんだよな?」
そう言われてしまえば、アインズにはウルベルトの提案を否定する事は出来なかった。
確かに、今の状況では下手に誤解を生んでしまうよりも、ウルベルトが今までどんな状況だったのか、本人の言葉を聞かせた方が誤解されなくて済むかもしれない。
そんな判断から、場所を移動する事になったのだった。
******
転移門を使用して場所を、第九階層のラウンジに移動する事で一旦落ち着く事にした。
円形劇場から移動した事で、少しだけ身の危険を感じる事が少なくなったのだろう。
ウルベルトが【家族】と呼んだ【フォーサイト】の面々からも少しだけ緊張が消えた。
むしろ、この第九階層の絢爛豪華な造りを目にした事で、余りの素晴らしさに声を無くしていると言う方が正しいのかもしれないが。
間違いなく、感嘆の声が聞こえそうな彼らの表情を目にすれば、少しだけアインズの機嫌も上昇した。
色々と思う所がある者たちだが、ウルベルトがはっきりと【家族】と明言する以上、彼らとウルベルトの間には強い絆があるのは間違いないだろう。
そう考えれば、そんな彼らにこうしてナザリックの素晴らしさを見せ付けられるのは悪い気はしなかったのだ。
もちろん、このナザリックへ来る前にモモンの姿で質問した【金の為】と言う思考でこの場所を見ているようなら、それ相応の報いはくれてやるつもりだが。
つらつらと思考を巡らせつつ、ラウンジの中でも一番多く座れる席を選んで足を進めると、サクサク席を選んで腰を下ろす。
本当なら、ウルベルトさん達に席を進めるべきなのだろうが、アルベド達の視線が微妙な感じなので先に座ってしまう事にしたのだ。
アインズの差し向かいにウルベルトが座り、その横に【フォーサイト】の面々が座っていく。
そこで、一つの事にアインズは気付いた。
本来なら、ウルベルトの横に座る人物は、リーダー格であろう若い剣士が順当だろうに、実際に座ったのは神官の男だったのだ。
その配置の意味に、アインズは何となく当たりを付けながらも口には出さず、目線で守護者たちにも同じように席に着くように指示を出した。
但し、出来る限りデミウルゴスはウルベルトの視界に入った方が良いだろうと判断し、自分の横に座ったアルベドの横に座る様に指示を出したのだが。
「……デミウルゴス……」
その姿を見た事で、やはりウルベルトの心は揺らいだのだろう。
何とも言い難い表情で名前を呟くと、キュッと口を閉ざす。
そんなウルベルトの肩を、そっと叩いたのは隣の神官の男だった。
ハッとなって、ウルベルトが彼に顔を向ければ、とても慈愛の籠った視線でウルベルトの事を見詰めている。
それだけで、何が言いたいのか判ったらしいウルベルトは、もう一度デミウルゴスの方へと顔を向けると、少し躊躇しながらもゆっくりと口を開いた。
「あのな、デミウルゴス。
俺は、お前にも個人的に話したい事が一杯あるんだ。
だから……今の状況に関する一件の話し合いが全部終わって、落ち着いたら……お前さえ嫌じゃなければ、話をしたい。
その……駄目か?」
多分、他のNPCはともかく、デミウルゴスに対しては【置いて行った】と言う思いがあるのだろう。
だからこそ、思わず躊躇う様な様子を見せたのだろうと推測しつつ、アインズはデミウルゴスがどう反応するか様子を伺った。
デミウルゴスが、ナザリックを裏切る事はないとは思っているのだが、相手がウルベルトなら話が変わる可能性もある。
今のデミウルゴスが、一人で請け負ってる仕事の多さを考えれば、裏切られるような状況になればどれだけの損益をナザリックが被るか、それこそ恐ろしくて考えたくない。
そうは思っても、今のウルベルトの発言によってアルベドの警戒心が更に上がったように感じる為、どうしても違うと断言出来なかった。
デミウルゴスも、自分の返事一つで守護者たち_特にアルベドが黙っていないだろう事を察しているのか、困惑した表情を見せている。
そんな微妙な反応を見せていると、ウルベルトは苦笑しながら肩を竦めた。
「この際だから先に言っておくが、俺だってこのナザリックにこのまま帰ってきたいと、本気で思っているんだぞ?
ただ、そこに俺の大事な家族も一緒って言うのは、今の雰囲気だと【ちょっと無理そうだな】とは思っているけどな。
そう言う事情も含めて、全部話し合う為にこうして場を持っているんだろう?
まぁ……デミウルゴスがこの場で返事をし難いなら、その件に関しては話し合いが終わってからでもいいさ。
俺としては、彼らを含めた【大事な家族】の安全さえ問題なく確保出来れば、後の事はどうでも良い訳だし。」
さらりとウルベルトが言って退けたのは、自分が家族だと認識している彼ら以外への無関心さだった。
多分、彼自身も異形種化した事による精神の変質によって、【大切な家族】と認めた彼ら以外の人間に対して、元は同じ人間だったと思えなくなっているのかもしれない。
ウルベルトの口から出た言葉によって、今までウルベルトに対して敵意を向けていたアルベドは【何をいまさら】と言わんばかりに訝し気な線を向け、他の守護者たちは完全に人間の味方になってしまった訳ではないと、どこか安堵を滲ませている。
アルベドはさておき、他の守護者たちはウルベルトとアインズが対立する事なく、話し合いだけで済みそうな気配を感じたのかもしれない。
そんな事を頭の端で考えながら、アインズは漸く本題を切り出せそうな雰囲気になったと、心の中でホッと胸を撫で下ろしながらゆっくりと口を開いた。
「では、ウルベルトさんにお聞きします。
一体、何があってそんな姿になってしまっているのですか?
何となく感じるんですけど、弱体化もしてますよね?」
まずは一つ目と、そんな気配を漂わせながらアインズがウルベルトを真っすぐに見据えながら問えば、真っ向からその視線を受け止めたウルベルトはちょっとだけ困ったように頬を掻く。
そして、少しだけ視線を彷徨わせている様子から察するに、事情を説明するのが難しい案件なのかもしれない。
もしかしたら、今のウルベルトの姿は他にも影響を与える可能性があるのかと、アインズが纏う空気が次第に緊張を帯び始めた所で、観念したかのようにウルベルトはボソボソと話し始めた。
「あー……うん、いや……その……一応、原因は判っているんだよ。
ただ、どこから話したものかと思ってな。
そうだな……どうせなら俺がこっちで目を覚ました所から、全部話した方が良いか。
俺が、目を覚ましたのは……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
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……一体、なんなんだろうか?
何か……自分の顔に、何か冷たい雫が一定の間隔で落ちてくる。
それこそ、落ちてくる雫は小さいのだが、身が竦む様な冷たさを伴っていて。
あまりの冷たさに、思わず目を閉じていられなくなってパッと開けると、視界に入ったのは幾重にも連なる
それを、【彼】が氷柱だと認識出来たのは、偏に数年前まで彼が夢中になっていた【ユグドラシル】で、氷の洞窟の中にそれ一面で覆い尽くされたエリアがあったからだ。
ゲームの世界ではなく、自分の目で見るその幻想的な姿に思わず見入っていたのだが……再び天井から落ちてきた雫が顔に掛かった事で、ハッと我に返る。
これだけ、顔に掛かる冷たい雫を湛えた氷柱に覆い尽くされた天井がある場所で、何故か寒さを感じない事を不審に思った。
確かにそう思いはしたのだが、逆にそのお陰でこの氷柱が天井に連なる場所で凍える事なく動けるのだからと、【彼】は一旦それについて考える事を止める事にした。
それよりも、視界の端に見えていた細い通路のような所から、【ユグドラシル】では割と定番だったスケルトンが五体、ユラユラと身体を揺らしながら姿を見せたからである。
何故、【ユグドラシル】でならともかく、【リアル】に居る筈の自分がスケルトンと遭遇する?
それよりも、本当にここは【リアル】なのか?
いや……既に【ユグドラシル】は存在していない筈だ。
そう言い切れる理由は、ちゃんとウルベルトの中にある。
【ユグドラシル】が終了する一月前、ギルド長であるモモンガから【宜しければ最終日に集まりませんか?】と誘いを受けていたからだ。
その為に、ウルベルトは色々とアップデートなど準備していたのだが……結局、諸事情によって最終日にログインする事は出来なかった。
【ユグドラシル】のログイン画面を横目に、端末にそれ以上触れる事が出来ない状態で日付が変わるのを見ていたのだから、まず間違いない。
だとすれば、これは【夢】か?
それとも、死ぬ前に見ている走馬灯なのか?
そのどちらだとしても、この状況でそんな事を考えている余裕など、無い!
どうやら、向こうもこちらの事を認識したらしく、全員が一斉にこちらに向けて今まで以上の速度で近付いてくるのが見えた。
距離が離れているからはっきりとは断言できないが、自分が知るよりもかなり大きい特殊なスケルトンの個体を五体相手にするのは、かなり厳しいだろう。
周囲を見渡すが、どう見ても武器になる様なものは存在していない。
だとすれば、このまま自分は身一つでスケルトン五体と渡り合う必要がある訳で……
そう思った瞬間、【彼】は思わずそれを口にしていた。
「
すると、それに合わせるかのように【彼】の背後に浮かび上がる、十個の魔力の塊。
まるで狙い定めたかのように、その魔力の塊は特殊個体と思しきスケルトン五体へと向けて降り注ぎ……そのままスケルトンたちを全て消滅させていた。
その様子を、予想外の状況の連続にただ茫然としたまま視線で追う事しか出来ない。
あまりに突然な事に、咄嗟に【ユグドラシル】で慣れ親しんだ呪文を唱えていたのだが、まさかそれが本当に使えるとは思わなかったのだ。
だが、何も身を護る事が無い事に気付き、咄嗟に頭に浮かんだ呪文を声に出して口で唱えてみたら、その通りに呪文が発動すると共に、どうすれば良いのか使い方が頭の中に浮かんできたのである。
本当に、まるで息をするかのように自然に、魔法の使い方が順序立てて頭の中に浮かぶさまを感じつつ、馴染んでいたものを漸く取り戻したかのような感覚を感じていた。
そこまで来れば、もう迷う事はない。
どこか、頭の端で冷静さを取り戻した【彼】は、そのままスケルトンたちに向けて作り出した
「……何なんだよ、この状況は……」
一先ず、魔法によって自分を狙っていただろうスケルトンたちを倒したことで、身の危険を感じる状況でなくなったのは、何となく理解できる。
今、自分がいるこの場所には、他に何かが動いている気配はしなかったからだ。
一先ず、安全を確保出来たと安堵の息を吐いた【彼】は、改めて出来るだけ注意深く周囲を見渡す。
一体、何がどうなって自分がどこにいるのかも判らない状況なのだ。
少しでも情報を正しく得る事は、生き残るためにも必要だった。
すると、ここはどこか薄暗い洞窟の中らしいことが解った。
自分の横になっていた地面は、凸凹で凍った岩盤に覆われているか、長く伸びた氷柱によって天井と繋がって柱となっている。
良く見れば、天井の氷柱も洞窟の高低差によって高さが段々になっていたし、形もまばらで幾つか折れただろうそれが、地面を貫いているのを見付けた。
地面が凍っているのも、氷柱から滴り落ちた雫に塗れた岩盤が低温のこの場所で凍り付いたからだろう。
目を覚ました時は、視界一杯に広がる氷柱の天井の幻想的な光景に目を奪われ、その事にしか気が回らなかったが……落ち着いたからこそ、この状況が普通ではあり得ない事に、漸く気付く。
何故なら……今でも天井からポタポタと定期的に滴り落ちる雫の……水の冷たさを感じるのだ。
そこで、一つ思い出す。
最初、自分がこの場で目を覚ました理由も、氷柱から一定の間隔で滴り落ちて顔に降り掛かる雫が、余りに冷たくて我慢出来なくなったからだ、と。
一体、何がどうなってここに自分がいるのか、全く解らない。
そもそも……何で目を覚ました最初の段階で、この異常な状況に動揺しなかった?
普通だったら、自分が見知らぬ場所に居る状況に気付いたら、もっと動揺して混乱している筈だろう?
それなのに、自分はまるでそれが異常ではない事の様に、当たり前のような対応してしまっている。
なぜ、大した混乱も起こす事ないまま、自分はそんな風に冷静に対応できたのだろう?
何もかも解らないなりに、何故か【このまま、この場に留まるのは駄目だ】と、漠然とした予感がした。
もちろん、その予感に対して確証がある訳じゃない。
だが……先程の様に、スケルトンたちが姿を見せ、それが大群だったとしたら……今の自分では対応しきれるか判らない以上、安全の確保は最優先だった。
自分が居る場所は、どうやら幾つもの細い通路のような洞窟と繋がる広間のような場所だったらしい。
軽く見渡せば、自分の右側に三つ、左側に四つの分かれ道が見える。
先程、スケルトンたちが来たのは左側の四つの分かれ道を正面から捉えて一番右側だった。
だとしたら、あの道は選択から除外するべきだろう。
残りは、全部で六本。
だが、何となく左側の通路はあまり行きたいとは思えなかった。
そんな時……ふと、右側に伸びる三つの分かれ道の一つを見た時に、何か意識が惹かれるものを感じて。
どうせ、何も解らないのならば……今、自分が置かれている状況を変える為にも、意識が惹かれる感覚に従って動いてみる方がいい。
そう判断した【彼】は、そのまま己の直感が赴くまま、ゆっくりと自分が惹かれる方へ足を向けた。
【彼】が選んだのは、右側に分かれる三つの道を正面から見て、一番右側の道だ。
出来るだけ、周囲を警戒しつつ移動していくと、どこかから差し込む光の中で、キラキラと輝くものがあった。
キラキラ、キラキラ……
どこか、この洞窟にも地上に繋がる隙間が天井にあるのだろう。
そこから差し込む光を吸収し、キラキラと周囲を明るく照らすように乱反射しているそれは、透明度が高い水晶か氷なのだろうか?
この寒さを考えれば、多分氷の方が正解なのだろう。
もちろん、実際はどうなのか良く判らないが、それがひどく気になって仕方がない。
少しだけ、ソレに近寄ってみる。
特に、何の変化も起きなかった。
【それならば】と、もう少しだけ近寄ってみる。
すると、近づいた事で奥まで見えるようになったのか、ソレの中にぼんやりと人影が見える事に気付いて……思わず駆け寄っていた。
そこに浮かぶ人影に、嫌と言うほど見覚えがあったからだ。
だが、光を受けて乱反射しているのは透明度の高い表層部分だけらしく、間近に立っても中までは良く見えない。
そこで、その全身が良く見える位置までゆっくりと後ろに下がると、天井から差し込む光では安定しない状況を安定させる為に、迷わず
放たれることなく、手元に留めたそれに照らし出され、氷塊の様なものの中に浮かぶ姿を確認した【彼】は、予想通りの姿に目を奪われていた。
そこにあったのは、己の、【ユグドラシル】における【アインズ・ウール・ゴウン】の【悪の
「……はは、何だよ、これは……
一昔以上前の、巨大怪獣映画の悪役怪獣扱いかよ!
そりゃ、俺は【悪の
余りにもあんまりな扱いを受けている、己の【ユグドラシル】でのアバターの状態を目の当たりにした事で、とうとう我慢出来ずに叫び声を上げていた。
そのまま、己にとって何よりも思い入れのあるアバターを封じ込めているだろう、氷塊のようなモノのもとへ駆け寄ると、ダンッと思い切り握り締めた拳で殴り付け。
そこで、ふと……ある事に気付いた。
封じ込めているそれを殴る己の手が、どう考えても異様に小さいのだ。
小さいと言うより、どう見ても大人の手だとするならバランスがおかしい。
自分の視界に入る腕は、小さく細く……その癖、人のものではないのだ。
それは、まるで目の前のアバターを弄って小さく変化させたみたいな、それ。
慌てて、氷塊のようなものに反射するだろう己の姿を見た途端に、ピシッと音を立てて固まり。
次の瞬間、思わず先程よりも大きな絶叫を上げていた。
「なんじゃ、こりゃぁぁ!!」
一昔以上前の、人気ドラマの有名なシーンのような叫び声を上げた【彼】―ウルベルトの視界に入った己の今の姿。
それは、頭を大きく手足や身体を小さく子供の様にディフォルメした、所謂【ねんどろいどバージョン】と呼ばれるだろう姿の、ウルベルト・アレイン・オードルだったからだった。
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「__正直、自分の巨大な姿の氷漬けって言う、まるで大昔の怪獣映画を見せられている気持になっていたら、実は自分の方が小さくなっていたと気付いた時は本当に驚いたんだぞ。
まさか、そんな状況だとは全く思っていなかったから、ごく普通に自分は別世界に転移させられたもんだと思い掛けていたからな。」
そうけらけらと笑うウルベルトを前に、アインズは笑い話じゃないと本当に思う。
これは、他の守護者たちも同じ様に思っているんじゃないだろうか?
特に、ウルベルトによって創造されたデミウルゴスからすれば、そんな状況が自分の身に振り掛かってなお笑って居られるウルベルトに対して、何とも言えない気持ちになっていないか逆に心配になる。
それに対して、ウルベルトの横に座っている【フォーサイト】の面々は平然とした様子でメイドたちから出されたお茶を飲みつつ、どこか仕方がないなぁと言う雰囲気を漂わせていた。
多分、彼らは既にこの話を聞かされていたのだろう。
だから、アインズたちの様に慌てたり心配したりせずに話を聞いていられるのだ。
その事に、少しだけ嫉妬する気持ちが湧くのを抑えながら、アインズはウルベルトに話の続きを促したのだった。
すいません、【宝物殿シリーズ】を見ていらっしゃる方なら気付くでしょうが、作中に出てくるウルベルトさんが回想している部分は、最初の数話だけ【宝物殿シリーズ】のウルベルト視点をベースにして話を構成しています。
どうしても、このウルベルトさんもねんどろいどゴーレムサイズにしたかったので。
と言うか、【ねんどろいどゴーレムなウルベルトさん】のネタから派生した別の話なので、加筆修正をかなり加えてありますけど。
もちろん、同じ【ねんどろいどゴーレムなウルベルトさん】なので一部台詞等はそのままにしてありますが、その姿に至るまでの【リアル】は原作に沿わせた設定に変更したので、彼の死因や精神状態、彼の本体があった場所とかを含めて状況は変わってます。
それにしても……昨日の更新の予定を変更して、冒頭文末部分にナザリックの現時点の部分を加筆したら、そこだけでざっくり見て五千字越えしていた事に気付いて、ちょっと唖然としています。