災厄の大悪魔の異世界転移奇譚    作:水城大地

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序章の視点はアインズ様からです




序章

___アインズは、この場をどう収めれば良いのか判らず、酷く困惑していた。

もちろん、今も間を置かず精神鎮静化が絶え間なく仕事するほどに、だ。

そんな風に、幾度もアインズに鎮静化が働く原因は、彼の視線の先にあった。

 

このナザリックへ、【金で雇われて無遠慮に侵入してきた愚か者】を護るように、そいつらの前で仁王立ちする懐かしい姿。

 

懐かしくて、色々なことを沢山話したくて仕方がないのに、今の【彼】は尋常じゃない怒りを全身に漲らせていて、とても話を聞いてくれそうにない。

そもそも、【今の彼の姿】を前にしたことで、アインズだってひどく混乱しているのだ。

話したい事と同じ位に、聞きたいことも沢山ある。

 

何故、【彼】はあんな姿になっているのだろう?

どうして、そんな奴らを庇うように自分と対峙するような姿勢を見せている?

それ以上に、そいつらと【彼】の関係はどういうものなのだ?

 

いくつもの疑問が、アインズの頭の中に浮かんでは消えていく。

 

だが、このまま手をこまねいている訳にはいかないだろう。

自分の対応次第で、【ナザリックのNPC達】が【彼】の事を傷付けるような結果になってしまうかもしれないし、逆に【ナザリックのNPC達】を【彼】が傷付けてしまうかもしれない。

どちらの事態も、アインズには許容できるものではなかった。

この場にいる、アウラや他の階層守護者たちも、ウルベルトが本人だと認識できるらしく、目を見開いて震えている。

漸く、戻ってきたアインズ以外の【至高の御方】の一人が、あのように敵意を剥き出しにしている姿を見てしまった事で、自分たちが知らない内に何か失態を犯してしまったのではないかと、そう考えているのだろう。

唯一、アルベドだけが険しい表情をしている事が気にかかるものの、多分あれはアインズが変更してしまった【モモンガを愛している】と言う部分が暴走しているのだろうと、今の彼女の感情的な様子を見ればすぐに判った。

何故そう言えるのかと言えば、【彼】が【モモンガさん】と自分の名前を呼ぶ度に、アルベドの表情が嫉妬と嫌悪で険しくなっているからだ。

 

もしかしたら、彼女の中ではこうして明確に侵入者に対して味方をしている時点で、【彼】を敵とみなしているのかもしれない。

 

だが……と、アインズは思う。

こうして【彼】が、侵入者を守る様に自分たちの前に立ち塞がっているのも、元を糺せば今回の作戦を実行して侵入者を招き入れた自分たち側に原因がある。

それに……目の前にいる侵入者たちは、最初に俺に対して確認を取る様にこう言ったじゃないか。

 

【あなたの名前は、本当にアインズ・ウール・ゴウン殿ですか?

俺達が聞いていた名前と、違うんですけど……いや……確かスケルトン種の最上級種族のオーバーロードで、魔法詠唱者のギルド長なら名前は違う筈だ……だとしたら別人、かな?】

 

その、探るようなどこか迷う様な口調の侵入者のリーダーの言葉を聞いた時に、もっと詳しくその話を聞くべきだったのだ。 

だが、それまでの侵入者たちの様子を見ていたアインズからすれば、何とか上手くこの場を取り繕って言い逃れしようとしている様にしか思えなかった。

元々彼らは、アルベドが考えた計画の為に【金】で引き寄せられた生贄だと言う認識しかなかったのも、こうなってしまった要因の一つだろう。

ここへ侵入した事へ、【許可があったとしたら?】と言い出した時も、とても信じられなくて【念のために】と話を聞きながら戯言だと頭の中では考えてどこで話を切るか、そちらの方ばかりを考えていた自覚もある。

向こうも、こちらが【彼】と言っていた人物と違うと警戒したが故に、出来るだけ【彼】の存在を隠そうと話を誤魔化していたのも癇に障った。

だからこそ、我慢出来なくなって話を打ち切って戦闘に入る事にしたのだ。

 

その結果が、この状況である。

 

乗り気ではなかった計画が、こんな事態を生むとは思っていなかったとしても、それを了承して実行したのはアインズだ。

だとしたら、目の前で怒りに身を震わせている【彼】を上手く宥め、NPCたちと軋轢を生まないように上手く調整する必要がある。

その為にも、先ずは目の前の【彼】に話を聞いて欲しかった。

 

「……お願いします、話を聞いてくれませんか、ウルベルトさん。」

 

ほとほと情けない声だと自分でも思いつつ、とにかく話を聞いて欲しくて宥める様に彼に対して声を掛けた。

すると、ギロリと視線を上げてアインズの事を睨み付けたウルベルトは、次の瞬間目を伏して大きく息を吐く。

ゆっくりと軽く首を振り、ピルルッと不機嫌そうに耳を揺らめかせ気を落ち着けると、少しだけ取り戻したらしい冷静さを持って口を開いた。

 

「……良いよ、モモンガさん。

どういう行き違いの結果、モモンガさんが【お父さんたち俺の大事な家族】を殺そうとしたのか、ちゃんと納得させてくれるつもりならね。」

 

ニヤリと口の端を上げたウルベルトの言葉に、アインズはもちろん周囲に居た誰もが思わず声を無くしていた。

 

≪……えっ……?

ウルベルトさんの【お父さんたち大事な家族】?

えっ?えっ?≫

 

かなり混乱しつつ、それでも言われた言葉の内容をしっかりと考える。

どうやら、これはウルベルトにとって本当に【地雷案件】だったと、漸くその事に気付いたアインズは、【どうしてこうなった!?】とますます頭を抱えたのだった。

 

******

 

さて……

ウルベルトにとって、何故【フォーサイト】の面々が【家族】と言う存在になったのか、それについて語るには時間を数か月前に遡る必要があるだろう。

 

何故なら、ウルベルトが何も知らないこの異世界に来て、初めて出会ったのが彼ら【フォーサイト】だからだ。

彼らは、初めてウルベルトと出会ってから数か月もの間ずっと、ウルベルトの正体を知ってなお離れる事無く寄り添い続けた【仲間】であり、その短くも深く濃い交わりこそが、【リアル】からこちらに転移する前に深手を負ったウルベルトの心を癒したのである。

 

それを語る為にも、数か月時間を遡ってみる事にしよう。

 




という訳で、次の話からはウルベルトさん視点に代わります。
最初の数話は、【フォーサイト】の面々は出てきません。
完全に、ウルベルトさん単独です。

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