西部の町ガリクジュは、熱帯寄りの地である為ペンギンであるペンちゃんには居ずらい町かもしれない。
帰宅後、麗花と約束した時間よりもやや遅れてログインしたフィアは、ウエスタン映画のような町並みを眺めながらそんなことを考えていた。
待ち合わせ場所で昨日ぶりにペンちゃんと再会したフィアは、真っ先にその件について訊ねた。
「お、おう……そうだな、確かに私は暑いのが苦手だ。なにせペンギンだからな!」
「冒険、大丈夫?」
「フィアと一緒なら大丈夫さ! こんぐらいなんてこたぁない」
「ペンちゃん、強い。強いペンギン」
「ははは、そうだ。私は最強かつ至高のペンギンさ」
たとえ暑い場所であろうと問題無いと、頼もしく言い切ってみせるペンちゃんにフィアは尊敬の眼差しを贈る。
そんなフィアの視線に気を良くしたのか、ペンちゃんはスキルの獲得により以前よりもわかりやすくなった表情で高らかに笑った。
元気なペンギンである。いつも明るい彼女に、フィアもまた癒された。
そんな二人の元へ、呆れ顔を浮かべながら一人のエルフ少女が合流してきた。
「なにアホな会話しているんですか」
「あっ……」
レイカである。
真新しい装いに身を包む彼女は、背中に棺桶の形をした巨大な物体を担いでおり、フィアは一目見て彼女の変化に気づいた。
「レイカ、装備違う」
「ええ、見ての通り新調しましたわ! ペンちゃんさんに作ってもらったのです」
その身に纏うドレスは以前よりも丈が短くミニスカートぐらいの長さになっており、いかにも魔女っ子と言った具合の装いだった以前にも増して動きやすそうな印象を見受けられる。
色は闇のような黒を基調としているが、生地の各所からは細々とした粒が塗り込まれており、それが時折日差しに反応してアメジストの如き紫色の輝きを放っていた。
「ご覧なさい! 暗黒のドレスに散りばめられたキラキラの正体は、一つ一つが高純度の剛鉱石です。鎧装備よりも軽装でありながら、鎧に劣らない防御力も兼ね備えた一品です!」
「うん。とても綺麗」
喜々として新衣装を紹介するレイカの言葉に、フィアは相槌を打ちながら耳を傾ける。
ペンちゃんに作ってもらったというレイカのドレスは、程よい派手さが彼女の魅力を引き立てており、その姿を煌びやかに彩っていた。
名を付けるならまさに「魔法令嬢のドレス」、と言ったところか。
そんな彼女は今度は手持ちの新武器の紹介に入り、フィアの目の前で鉄製の物体を見せびらかした。
「私の新しい武器……魔法の杖ライフルワンド!」
「杖……?」
「どう見てもライフルだが、あれは杖だ。何の問題も無いな」
衣装一式と共に新調した魔法の杖――クラスは魔法使いである筈の彼女が持つそれは、物々しい一丁のライフルであった。
サブマシンガンよりも火力が高く、スナイパーライフルよりも取り回しの良い。見事なまでに立派なアサルトライフルである。HKOの世界で担いでいくよりも、サバゲーで担いでいく方が自然に思う造形であったが……製作を担当したペンちゃんが言うには分類上「魔法の杖」らしい。
「今時は、魔法少女だって銃とか剣とか使うしな。これぐらいのカスタマイズは普通さ」
「オホホ、実は密かに憧れていましたの」
「そうなんだ……」
煌びやかなドレスに物々しいアサルトライフル型魔法の杖。そのアンバランスさがフィアには気になったが、ペンちゃんとレイカいわくそう言った装備のカスタマイズもこの界隈では認められているようだ。
そんなこんなで新しい衣装と武器を紹介したレイカは、最後に自身が背負っている棺桶のような八角形の物体を解説した。
「最後は今背中に背負っている、一見棺桶のようにも見えます巨大な「ポルターシールド」です!」
「ぽるたーしーるど?」
彼女の言い放った横文字の装備名を、呂律の怪しい声で復唱しながらフィアが見やる。
後ろから見れば身の丈を覆い隠すほど大きな八角形は、「シールド」と呼称するからには敵の攻撃を防ぐ盾の役割を担っているのだろう。
しかしそれにしてもその体積の大きさは過剰に過ぎ、魔法使いである彼女では取り回しが悪すぎてまともに扱えないのではないかと疑問符がついた。
「使えるの、レイカ?」
「ご心配なく! 何せ私は魔法使いですから。とくとご覧なさい、【ポルターガイスト】」
ごく一般的な疑問であろうフィアの問いに対してレイカは待っていましたと言わんばかりの反応を返すと、ある魔法の呪文を唱えた。
その瞬間、彼女の背中から巨大な八角形が誰の手に振れられることなく取り外され、そのままフワフワと空中を漂った。
棺桶のような物体が、まるで意思を持っているかのように動き出したのだ。これにはフィアも驚き、同様に肩から見ていたリージアがおっかなびっくりとした様相でフィアの髪に隠れた。
そんな小動物の心を安心させるようにフィアは「大丈夫だよ」と声を掛けると、ちょこんと顔を出したリージアと共にレイカの新発想に注目した。
「浮いた」
「ふふふ……この間習得した新しい闇魔法「ポルターガイスト」を使うことによって、この私は通常の魔法使いでは装備できない「盾」を自在に操ることができるのです」
「ポルターガイストの効果は、いわゆる念力みたいなもんだ。ある程度の重さの物を浮かすことができて、訓練すれば暗黒卿みたいなこともできる。汎用性の高いレア魔法だな」
「あのアンドレなんたらと戦った後、スキルリストに加わっていたのです。ポイントは300も消費してしまいましたが、それに見合う価値はあるでしょう。おかげで夢が広がりましたわ」
物体を浮かせ、自在に自らの意思で遠隔操作することができる魔法「ポルターガイスト」。その説明を聞いて、確かに便利そうだとフィアは思った。
その魔法を使えば手が塞がっている時でも物を持ち運ぶことができるし、今のように手では持てない質量の物体も動かすことができる。
念力系の能力、という時点でもフィアはその強力さに覚えがあった。前世であるユウシの仲間にも、そういった系統の技能に長けた者がいたのだ。
「この「ポルターシールド」はその名の通り、「ポルターガイスト」での使用を前提としていて、取り回しの良さを度外視した強度全振りの設計がされています。戦いの時はこれをポルターガイストで操作することで、こうして両手に銃……じゃなくて杖を構えている時でも、四方の攻撃から身を守ることができますわ」
「すごい……」
「遠隔操作できる盾ってのは魅力だわな。良い着眼点だと思うぞ。私も久しぶりにカッチカチの装備が作れて楽しかったし」
手で持つことを考えなくて良い分、通常の盾では無理のある設計が可能となり、こういったRPG系のゲームでは防御力に乏しい印象が強い魔法使いでも一定の防御能力を得ることができた。
それは実に合理的な発想であり、フィア達よりもこのゲームに詳しいペンちゃんも同様に賞賛していた。
「この大陸のモンスターは、どいつもこいつも初級職にはきつい火力を持ってるからな。ダメージを受けないようにあえて防御を捨てて回避力に全振りする奴も多いんだが、お嬢さんみたいに盾で捌くのが賢いと思うぞ」
「シールドで身を守りながら、遠距離から撃ちまくる……これがサメの大群と戦っていた中で私が思いついた、フィクス大陸の対策ですわ!」
魔法を軸に戦う魔法使いというクラスだが、彼女らは火力が高い反面長期戦に不向きであり、複数対一の状況から発生する死角からの攻撃に弱いらしい。
その弱点を補う為に、レイカは自在に動かせる巨大な盾という発想に至ったのだろう。
何故棺桶の形なのか、そして何故杖を銃型にしたのかと言うと――おそらく、単に彼女の趣味なのだろうが。
「ふふ、もちろん接近戦に持ち込まれた時には鈍器としてぶつけることも出来ます。近距離と遠距離を兼ね備えて最強に見える、魔砲使いレイカの新しい戦闘スタイルですわ!」
「魔法使い……?」
「魔砲使いです! 目覚めたのですよ、GUN道に!」
「レイカ、かっこいい」
「何言ってんだ」
大きな胸を張りながら自らを魔法使い改め魔砲使いと自称する彼女の自信に満ち溢れた姿に、フィアはぱちぱちと拍手を鳴らしながら喝采を浴びせる。
ゲームのシステムを自分好みに扱いながら、全力で趣味に走って楽しんでいる。そんな彼女の姿が、フィアの目には輝いて見えたのだ。
そんな二人の姿を「バカップルかな……まあ、フィアも喜んでるしいいか」と呟きながら、ペンちゃんが苦笑いを浮かべる。
そして彼女は、装備の製作者として一つ説明を付け加えた。
「形が棺桶みたいになっているのはもちろん単なる要望のデザインだっただけで、特に意味はない。一応中に物を入れることは出来るが、収納スペースとして使うならアイテムボックスで十分だし」
「この方がカッコいいから良いのです! 闇魔法で棺桶を操る美少女とか最高にイカすでしょう? さらにメイン武器が物々しいライフル型の杖とか、なんだかダークファンタジー的なヒロインみたいだと思いませんか!?」
「あんたその成りでヒロインに憧れてたのか。もろ悪役令嬢っぽい面してるくせに」
「はっ、遅れていますねペンちゃんさんは。最近のトレンドでは悪役令嬢女子が大人気なのですよ? この前読んだWEB小説サイトにはそう書いてありました!」
「ああ、そう……。なんか田中君と相性良さそうだなこの子」
二人は仲良しになれたようだ。すっかり打ち解けた様子のレイカとペンちゃんを見て、フィアは心から喜びを感じる。
そしてレイカが新装備を紹介し終えると、今度はペンちゃんがアイテムボックスから二つの製品を取り出してきた。
片方は先端に白い刃が光る一本の槍。
もう片方は、青く光る綺麗な石が括りつけられたペンダントだった。
「約束の品、作っておいたぞ」
「ん、ありがとう、ペンちゃん」
それは昨日のログイン前、シャーク・ウェーブが終了した後でペンちゃんと交わした約束事である。
あの時のイベントによって、フィアは装備を作る為の素材を手に入れたのだ。
その一つが「シャドー・シャークの友好牙」であり、「綺麗な石」という素材だった。
「シャドー・シャークの友好牙」は、その名称通りフィアが対話を行った、シャドー・シャークの牙だ。
彼らの故郷探しを手伝うと約束し、しばらくの間フィフスの管理する「生命の泉」で休ませてあげることによって史上初のサメとの和解を成し遂げたフィアは、友好の証として「ガーベラ」と名付けたシャドー・シャークから彼の牙を受け取ったのである。
いきなり自分の牙を折って差し出してきた時にはフィアも驚き彼の身を案じたが、異種対話のスキルを介して「牙はすぐに生えてくるから大丈夫」という意思が伝わってきた。そしてガーベラは戦いになった時は、どうかその牙を使って欲しいと、フィアの役に立ちたいという気持ちを健気に表現したのだ。
そんな彼の意思を汲むことにしたフィアはペンちゃんに相談し、牙を使って自身の武器であるシルバースピアを改造してもらうことにしたのである。
「名付けて【シャークスピア・ガーベラ】。まさか、ただのシルバースピアがレア度9の武器になるとはなぁ……我ながら、やりがいのある魔改造だったよ」
「凄く、強そう……大切にする」
「控えめに言って、かなり優秀な武器だな。っていうか、無職でも扱える武器の中じゃ最強クラスなんじゃないか? 完成した時は私もビビったよ」
依頼料としてシャーク・ウェーブの達成報酬を半分ほど消費する量の通貨「G」を惜しみなくペンちゃんに手渡したフィアは、ペンちゃんに鍛冶してもらった新たな武器「シャークスピア・ガーベラ」を受け取る。
柄の部分はカラーリングこそ海をイメージした青に変わっているものの、基本的にはシルバースピアと変わらない。
しかし十字型の刃となっている先端の部分にはガーベラの鋭利な牙が加工された状態で施されており、ウインドウ画面で見ればその攻撃力はもはや原型がわからなくなるほどに大幅な上昇を遂げていた。
魔改造とはペンちゃんの表現だが、この槍にはまさにその言葉が相応しいだろう。そしてそれをこともなげに実現してしまうペンちゃんの鍛冶師としての腕前の高さに、フィアは改めて敬意を表した。
《【シャークスピア・ガーベラ】。レア度9。ATK+210(要求ATK1)。
至高のエンペラーペンギンが魂を込めて完成させた傑作。シャドー・シャークが気を許した者にしか与えない友好の牙を素材とした刃は、対アンデッド系モンスターに真価を発揮し実体なき霊さえも貫き通す》
ウインドウ画面に映し出されたテキストを読めば、その性能にフィアは舌を巻く。
因みに改造前のシルバースピアのテキストは《【シルバースピア】。レア度1。ATK+20(要求ATK1)。新人冒険者が愛用する槍。取り回しが良く扱いやすい》という程度に書かれたものであったことから、この武器が改造前より十倍以上の攻撃力を誇っていることがわかるだろう。
しかし扱われた「シャドー・シャークの友好牙」という素材の希少価値を思えば、それさえも極めて妥当な強化幅であることをフィアはあまり認識していなかった。
今はただ、牙をくれたガーベラと槍を鍛えてくれたペンちゃんに感謝するばかりである。
ペンちゃんからオーナー権限を譲渡されたフィアは、手渡された新たな武器を背中にマウントする。
重さはシルバースピアの時とさほど変わらず、片手で振り回すこともできるだろう。低ステータスのフィアであっても、やはりアバターの筋力は現実の志亜よりも遥かに上である。
シルバースピアの時はほとんど……どころか、一度も武器として扱わなかったものだが、必要の時が訪れれば迷わず大切に扱おう。そう決意したフィアに、二つ目の品であるペンダントが差し出された。
「こっちも約束通り、ペンダントにしておいた。元々の形が良かったから、削ったりしなくて良かったよ。フィアもそれで良かっただろう?」
「うん。綺麗な石の、ペンダント……」
「ペンちゃんお手製のペンダント。すなわち!」
「ペンペン?」
「3点。ありきたりなネタですわね」
「水差すなよあんた……」
ペンダントの素材になったのは「綺麗な石」。その名の通り、単なる綺麗な石である。
よく手入れされた表面はサファイアのように煌き、つやつやした手触りはとてもその辺に落ちているようなものとは思えない。一目見た限りでは何かの宝石なのではないかと疑ったフィアだが、ペンちゃんのスキル「鑑定」によるところ、ただの変哲のない綺麗な石で間違いないようだ。
それ故に、装備してみたところで特に効果があるわけでもない。そんなただの石をペンダントにしてもらったのには、フィアなりの理由があった。
……というのもこの石はあの時、サメ達の襲撃に怯えていた幼子から貰ったものなのだ。
「フィアは子供、好きなのか?」
「うん、好きだよ。子供は元気で、輝いているから……」
「そうか……いいお母さんになりそうだな」
「そう言えばあの時の子供、性別はどっちだったんでしょうか? 男の子だったらまたド偉いフラグが立った気がしないでもないです」
「顔、ちょっと赤かったもんな」
「?」
『お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!』――あの時、シャーク・ウェーブを乗り切った後、フィアは幼子から掛けられたお礼の言葉を思い出す。
ガーベラ達を生命の泉に預けて船に戻った後、両親と対面できた幼子が満面の笑みでフィアにそう言ったのである。そして彼は、自分の宝物だという「綺麗な石」を渡してきたのだった。
初めは当たり前のことをしただけだからと遠慮していたものだが、フィアには幼子が向けてくる純粋な眼差しを裏切ることは出来なかった。受け取らなければこの子に悲しい思いをさせてしまうと思ったフィアは、彼をそっと抱きしめながらその宝物を受け取ることにしたのだ。
以後、微笑みながら石を眺めていたフィアの姿を見て、ペンちゃんが気を効かせて「槍を改造するついでに、その石もペンダントにしてやろうか?」と善意の提案をしてきた。
幼子からも許可を得たフィアがその善意に甘えることにしたのが、彼女にこのペンダントを作ってもらった経緯だった。
「ん……ふふ、リージアとお揃いだね」
「チチッ」
綺麗な石が括り付けられたペンダントを早速首元に掛けたフィアは、その石に興味を示したリージアに微笑み掛けて頭を撫でる。
リージア――ゴールデンカーバンクルもまた、その額にはルビーのような宝石が輝いている。色は違えどペンダントの石もまた、フィアにとっては「宝石」と同じだった。
こんな自分でも誰かを助けられたこと、感謝してもらえたこと――たとえゲームの世界だとしても、幼子から受け取った気持ちはフィアにとって大切な宝物だったのだ。
「……心温まるな。なんかもう、今日は冒険出なくて良くね?」
「何言ってるんですかこのペンギンさんは。そんなこと言ってたら一生先に進めませんよ」
大切そうにペンダントを見つめるフィアとリージアの様子を見て、のほほんと目を細めたペンちゃんにレイカがツッコミを入れる。
確かに何と言うか、フィアの場合は自分達とは違うジャンルのプレイをしている気がするのは否めない。
闘争心だとか戦闘意欲だというものとは全く無縁の世界にいる彼女を見て、ペンちゃんは妙な悟りを開き掛けていた。
しかし、そこでただ一人フィアのふわふわした空気に流されないでいるレイカの存在は、このパーティの暫定リーダーに向いているのではないかとペンちゃんは思った。
自分と、今ここにいないへリアルの場合は終始フィアのペースに巻き込まれてしまうだろうから。
「さて、装備の新調も済みましたし早速町を発ちたいのですが……へリアルさんは今日来れないんですかね?」
「ああ、来るようなことは言ってたんだけどな。この時間でも来てないってことは、今日は来れないのかもなあの火頭は」
そのへリアル――現実の世界では彼女と同じ高校のクラスメイトであるペンちゃんは、今日はフィアのプレイを手伝う気満々だった彼女のことを思い出し、未だHKOにログインしていないことを不思議に思う。
そうペンちゃんが語ると、レイカが驚いたように問い掛けた。
「あら? ペンちゃんさんはあの方とリア友なんですか?」
「んー、まあ、そんなところだ。因みにこの前、フィアともリア友になったぞ」
「……は? 私聞いていませんよ?」
「あっ、やべっ……ワタシペンギン、ナカノヒト、イナイ」
「そもそもペンギンは喋りません。片言で誤魔化さないでください」
「むぅ……痛いところを突く」
彼女の問いに答えるあまり、ペンちゃんは思わず口を滑らせた。
自分が既に現実の世界でフィア――双葉志亜と会っていることを。
しかしレイカもまた彼女のリア友であり、親友である。しかし志亜からそのことをまだ聞かされていなかったらしいレイカは、一体いつの間に会っていたのかと今度はフィアに問い詰めた。
「フィアさん、まさか貴方、この私に内緒でオフ会を開いたのですか?」
「オフ会? あ……ごめんレイカ、水族館でペンちゃんと会ったこと、言ってなかった」
「そうですか……いいですよ、詳しくは今度聞きます。貴方のことですから、この私をハブにしたわけではないでしょうし……」
「……っ、そんなこと、しない! 志亜は麗花と一緒!」
「そ、そこまで必死に返さないでくださいっ」
「……ごめん」
「本当に、もう……時々退行するのですよね」
自分を除け者にしたのかと一瞬だけ疑った様子のレイカに、珍しく強い言葉で弁明するフィア。
そんなフィアの反応にそっぽを向きながらも、気悟られないようにホッと安心した表情を浮かべるレイカの顔を見て、ペンちゃんは「まるで浮気の誤解が解けたカップルみたいだな」と身も蓋もないことを思いながらへリアルの到着を待った。
しかしこの日、へリアルがHKOにログインすることは終ぞなかった。
彼女の都合が、どうしても合わなかったのである。
三人がログインし、ゲームの世界にいたこの頃――現実の紅井クレナの姿は、天布嶺市の上空にあった。
彼女はそこで、戦っていたのだ。
炎の剣を携え、紅蓮の翼を広げて。
――遥か彼方の世界から来訪した正体不明の侵入者と、彼女は激闘を繰り広げていた。
次回は本筋が少し進みます。